第65話 : 針夫人の織機と、魂の金継ぎ
『修復とは、単に傷口を縫い合わせることじゃない。それは魂の経絡を編み直す行為だ。まず腐り果てた運命を解体し、煮え滾る黄金を強引に注ぎ込まなければならない。その過程は凌遅にも等しいが、そうした高熱の重鋳を経て刻まれた亀裂こそが、「新生」と呼ばれるに値するのさ』
——『金繕工藝:苦痛の転換について』、針夫人私的手札・第一章より
針夫人が執刀するその場所は、修道院の最深部に位置していた。
一塊の黒曜石から削り出された**「祭壇織機」**。その表面には律法の流れを導く深邃な凹溝が走り、天井からは数千本もの真鍮の糸が、魂を狩る蜘蛛の巣のごとく垂れ下がっている。
小花は織機の幾何学的な中心に吊り下げられていた。四肢の関節は数本の骨釘で打ち抜かれ、固定されている。垂れ下がる導管は白磁の羽鱗の隙間に吸い付き、緩慢な動作で「湛藍の霊血」と「油圧の黄金」を彼女の体内へと流し込んでいた。
彼女は依然として、深い休眠という名の死寂の中にあった。屈辱的な姿勢で固定されていながら、その面甲は澱んだ死水のように無機質で、ただ頭上の蛍石の冷光を麻痺したように映し出すばかりだった。
「どういう意——」
翰文が問いを口にするより早く、針夫人の指先の真鍮指貫が小花の傷口を狙い定めた。
キィィィィンという鋭い焦響と共に、煮え滾る液状黄金が「微律金織液」と混ざり合い、断裂した骨格と引き裂かれた筋肉の中へと強引に注入された。
「が、ああああぁぁぁーーッ!!!」
翰文は突如として悲鳴を上げ、その場に膝を突いた。
「あんたは自らあの子の『世話役』を自称したんだろう? ならば今、その職務を果たし、あの子の流光導管になりな」
針夫人の声は瓷器の砕けるような清冷さを伴い、翰文の耳元で反響した。
「あの子の魂を焼き切らんばかりの、余剰な律法エネルギーの残渣——そいつを引き受けるのは、あんたの役目だよ」
執刀されているのは小花であるはずなのに、針夫人はあの忌々しい義足と彼女を神経連結させていたのだ。
煮え滾る金液が彼女の神経を焼くたび、翰文は自らの両脚、喉、そして全身の骨の髄にまで、ドロドロに溶けた鉄水を流し込まれる感覚に襲われた。
昏睡の中で激しく痙攣し、声なき悲鳴を上げる小花。そして自らもまた、連坐の囚人のごとく「修復」の代価を強制的に分かち合わされていた。
その連結は極めて歪で暴力的なものだった。神経繭の中では双方向の温かな流動だったそれが、今は一方向にのみ開かれた放水路と化している。
翰文の脊椎の末端には、吐き気を催すほどの焦燥感が残っていた。強引に引き剥がされた結合双生児のような、卑屈な残響。
空気の臭いを通じて、彼は白磁の器の深淵で崩落していく「静寂」の音を聴いているかのようだった。断端からは幻肢痛が絶え間なく沸き上がり、針の先で骨髄を幾度も抉られるような痛みに、翰文は指の関節を白くさせて耐えるしかなかった。
彼は見上げた。放浪者たちから「磁器観音」と崇められる堕落した精霊——針夫人を。
ドレスの裾からは八本の鋭利な機械節足が伸び、彼女を巨大な銀白の蜘蛛のごとく半空に吊り上げている。素焼きの粘土(高嶺土)のように蒼白な彼女の顔には、微細なひび割れが走り、液状の金がそれを埋め尽くしていた。漆黒に湿り、赤光を宿したその瞳は、さながら火の入ったばかりの窯口。彼女は織機の上の「布地」を、冷淡に見下ろしていた。
「紡績を始めるよ。今度は、この子の運命の経緯を直接編み上げてやろうじゃないか。亀裂は癒える。――変化することさえ、許されなくなるのだからね」
針夫人の声は磁器が割れるように高く、優雅で、緩慢だった。
彼女の指先が最初に弾いたのは、大気から抽出された、透明に近い律法の残響。この「修復」という名の儀式は、翰文の眼には優雅な解剖芸術のパフォーマンスにしか映らなかった。
彼女は無骨な鋸など使わない。真鍮指貫の先から十本の極細な「律能銀針」を射出する。糸が大気を切り裂く鋭いジジジ……という摩擦音。
第一の核心が、小花の喉の奥にあるソケットへと強引に押し込まれた。
ズゥゥゥンという重苦しい唸り。核心に数百年眠っていた旧律が、小花の神経系と暴虐な拒絶反応を起こした。彼女の身体が弓なりに反り返る。喉は痙攣し、胸腔は震えているというのに、音は一切漏れない。
その死寂は忍耐などではなく、単に針夫人が「悲鳴」へと通じるケーブルを断ち切っているからに他ならなかった。
「抑えなさい」針夫人が冷たく鼻を鳴らす。
直後、山が崩れるような激痛が、何の前触れもなく翰文の体内へと注ぎ込まれた。脳漿が一瞬で沸騰したかのような錯覚。視界には無数の金色の律法花火が咲き乱れた。意志は熱に焼かれ、汗が泥のように溢れ出し、視界を濁らせる。一筋の鮮血が、鼻腔から静かに伝い落ちた。
「静かに」
彼女の十指が連動し、銀針が正確に小花の脊椎を貫く。薬草の苦味を帯びた緑色の「安魂霧」が注入された。
続いて、第二の核心の植え込み。
今度の律能の爆発は肉体に留まらず、精神への蹂躙へと変貌した。翰文の脳の深部で、**「残り火」**が真っ赤に焼けた鉄水を浴びせられたような焦熱を放つ。焦げた羽と鉄錆の臭いが嗅覚神経にまとわりつき、そいつの高慢で偏見に満ちた認識が、焼けた釘となって彼の脳髄に打ち込まれた。
(――見ろ。この卑劣な仕立て仕事のザマを……)
(――古き神霊の天然のリードを、欠落した容器に詰め込んでおるわ……)
(――冒涜の悪臭に満ちておるが……しかし……)
「残り火」は翰文に見せつけた。針夫人の銀針が、いかに繊細に断裂した神経束を接合し、同時に、損なわれた回路に消えない「楔」を刻み込んでいくかを。
崩落する図書室の中にいるような感覚。無数の欠けた断片と、小花が上げるはずだった痛覚の残滓が意識の縁で交錯する。記憶の一頁を背表紙に釘打つたびに、その頁までもが貫通し、損なわれていく。
最後の核心が体内に収まった時、祭壇の上の小花は、極致の静止に陥った。
手術は、丸二時間に及んだ。それは果てしない刑罰のようでもあった。
白磁の破片と金色の油圧流体が辺りに飛び散っている。翰文が神経連結で感じ取れたのは、ただ、空虚のみ。かつての連結には、雑音があり、泣き言があり、愛おしい熱があった。
だが今、そこに静かに横たわる小花の金色の亀裂は、ライトを浴びて神々しく輝いている。
何かが、変わってしまった。
あの不恰好で、甘えるように鼻先を擦り寄せてきた生気は消え失せ、代わりに宿ったのは、人を不安にさせるような神性と死寂だった。
「最終工程だよ。金継ぎを施す」
針夫人は精密な細管を操り、解体された小花の左脚の上へと移動させた。新しい生体フレームと神経繊維がボロ布のようにぶら下がり、白磁の羽鱗は剥げ落ちている。
細管が傾き、沸騰する**「凝律金液」**が、黄金の溶岩のごとく流し込まれた。
ジュウゥゥ……という肉の焼ける凄惨な嘶きと共に、高温の煙が祭壇を白い霧で包み込んだ。黄金が冷却される際、古の神殿の焚香にも似た、奇妙な芳香が鼻を突く。
翰文の身体はその焦燥感に激しく震えた。視ているのではない、感じているのだ。高熱は導線を伝って彼の大脳皮質を這い上がり、そこに虚構の火傷を刻み込んでいった。彼は小花の身代わりとなり、魂を炭化させるほどの苦痛の一部を引き受けていた。
液体は瞬時に凝固した。
無残だった左脚は、太く、眩い金色の線によって繋ぎ直された。その亀裂はもはや醜い傷痕ではなく、神聖な**「金継ぎ」**の紋様へと転化していた。
これこそが針夫人の審美。欠落を受け入れ、苦痛を転換し、最も高価な律法金を用いて、不完全を不朽の力へと鍛え上げる。
最後の一滴が固まり、小花の身体の裂け目は黄金で縫い潰された。金継ぎの紋様は白磁の装甲の上を、神聖な経絡のごとく、あるいは遺体を包む包帯のごとく這い回っている。
彼女は完璧で、高価で、壊れやすく見えた。――だが、甘えるようなあの生気は、黄金と共に埋め立てられてしまったのだ。
**「|霊樞刺繡《スピリット・メリディアン・エンブロイダリー》」**の終結。
翰文は冷汗にまみれ、水から引き揚げられたばかりの魚のように床に這いつくばっていた。荒い呼吸を繰り返し、彼は難儀に顔を上げた。祭壇織機の上で、新しく生まれ変わった「作品」を見つめる。
蛍石の光がゆっくりと減衰し、修道院は死寂に帰した。喉の奥に収まった三つの核心が、重く力強い低周波の共鳴を刻んでいる。彼女の左脚は新生の金光を放ち、破滅的なまでの病的美学を体現していた。
針夫人は銀針を引き込み、機械節足をカタカタと鳴らして床へ降り立つと、翰文と小花の連結を無造作に遮断した。
「完璧だね」彼女は振り返った。漆黒の眼の奥で赤い光輪が明滅する。「もはや啜り泣く欠陥品じゃない。より長く、より速く駆け、強大な兵器となるだろうよ」
翰文はよろめきながら立ち上がった。手術後の虚脱感で一歩が世紀を越えるほどに重い。彼は小花の頭の傍らへ歩み寄り、焦点の合わない彼女の感官核心を見つめた。
彼は手を伸ばし、刃のような磁器の羽を避けて、冷たい面甲にそっと掌を当てた。
かつて、自分が近づくだけで喜びに鼻を鳴らしたこの面甲は、今や冷え切ったセラミックの質感しか返してこなかった。
金継ぎを施された完璧な身軀を注視しながら、翰文の心には骨の髄まで冷えるような寒気が宿っていた。今の彼は、声を失った唖も同然だった。
無小姐がいつの間にか彼の背後に立っていた。彼女は金光を放つ小花を長く見つめた後、ゆっくりと、優しく、翰文の手の上に自分の手を重ねた。
彼女の掌は冷たかったが、この凍てついた修道院において、唯一「真実」と呼べる温もりだった。
翰文は、小花の傷を洗った後の、黄金色に濁った水鏡を見下ろした。水面に映る自分は、あまりに無力で彷徨える男の姿をしていた。
支払った代価はあまりに重く、祭壇に横たわるこれが小花なのか、それとも名もなき「何か」なのか、彼には判別がつかなかった。
「……反吐が出るね」
砂利を噛んだような、金属的な掠れ声が、修道院内の神聖で独善的な空気を粗暴に引き裂いた。
翰文が振り返ると、入り口に薇が寄りかかっていた。
彼女はメンテナンス・ポッドから放り出されたばかりのようで、全身から湿った消毒液と、鼻を突く機械油、そして防腐剤の臭いを漂わせていた。それはここを満たす高級な焚香とは、決定的に相容れない不純な臭いだった。
彼女は標的でもある重火銃「送葬者」を弄び、銃口を無造作に地面へ向けていた。火のついていない煙草をくわえ、緑の瞳は翰文を越えて、織機の上の金ピカの小花を射貫いていた。
その瞳に宿っているのは、剥き出しの嫌悪。
「クソ婆あ、また生きてるもんを死体安置所の花瓶に変えやがったね」
薇は煙草を吐き捨てた。黒ずんだ唾液が純白の床に落ち、鮮明な汚れを残す。
「亀裂を黄金で塗り潰したかい? ハッ、今のあいつは金持ちの墓に飾ってある副葬品と変わらないよ。見た目だけは立派だがね、生気がこれっぽっちも感じられない」
指貫を拭いていた針夫人の手が、僅かに止まった。
彼女は振り返りもせず、野蛮人への蔑みを口調に含ませた。
「死体の欠片を継ぎ接ぎする野犬には、完成された芸術など理解できまい。野丫頭(おてんば娘)。あんたの造るような、ネジと釘で強引にねじ曲げたガラクタこそが冒涜だよ」
「そうかもね」
薇は肩をすくめ、僅かに硬い足取りで歩み寄ってきた。
彼女は翰文の傍らを通り過ぎる際、慰めの言葉など一言もかけず、ただその冷たい手で翰文の背中を、地面に沈み込ませるほどの力で叩いた。
「だがね、ガラクタの方がいくらか自由だよ」
彼女は小花の前まで来ると、銃身で値千金の金継ぎ白磁をコン、コンと叩いた。澄んだ音が響く。
小花は依然として、彫像のように動かない。
「見なよ」薇は翰文に向き直り、ニヤリと笑った。その白い歯の隙間には、廃土の狩人特有の荒涼とした響きが宿っていた。「これが『完璧』の代償だよ、考古学者」
「あんたは『銃』を手に入れた。だが、そいつがもう一度あんたの胸に鼻先を擦り寄せて甘えてくるなんて、期待するんじゃないよ」
言い捨てると、彼女は背を向けて去っていった。僅かにぎこちない、しかし颯爽とした背中。
その声だけが、空中に冷たく残された。
「警告したはずだよ。あいつの求める『値』は、あんたが一番失いたくないものだってね。……ケッ、ここの香水の匂いは反吐が出るよ」




