第6話 : 廃鉄、骨、そして眠れない二人の亡霊《ゴースト》
『北の大地において、「廃棄」されたものを信じるな。屋根が残っているなら、その下には眠りを妨げられたくない何かが埋まっている。もし屋根がないなら――お前自身が、誰かの眠りを妨げることになる』
——『拾荒者生存ガイド:なぜ壁際で寝てはいけないのか』
いわゆる「監視塔」とは、要するに時間が咀嚼し、吐き出した石と鉄屑の残骸のことだ。
鉛を流し込まれたような重い脚を引きずり、あの死人の戦士が示した地点に辿り着いた時、李翰文が抱いた感想は、空に向かって中指を立てたいという衝動だけだった。
城壁はない。門もない。完全な屋根さえ存在しない。
あるのは、巨人の肋骨のように地面に斜めに突き刺さった数本の金属柱だけ。それらが、崩落寸前の半円を描いている。中央には半分崩れた石塔が、虫歯で空洞になった奥歯のように、寒風の中でポツンと立っていた。
「ここが……今夜を生き延びられる場所だと?」
翰文は荒い息を吐く。肺に吸い込んだのは空気ではない。粗い砂礫を直接嚥下しているような不快感だ。
背中の女を、石塔内部の比較的乾燥した石板の上に降ろす。
四方は隙間だらけだが、あの巨大な金属の肋骨が見えない力場を形成しているのか、骨を凍らせる風の直撃だけは防いでくれているようだ。
彼はその場に崩れ落ちた。氷のように冷たい石壁に背中を預け、一塊の泥のように癱瘓する。
アドレナリンが引いた後の、容赦ない副作用が到来した。
痛い。全身が悲鳴を上げている。
折れた肋骨が抗議し、磨り減った踵が燃えている。脳内の忌々しい「寄生虫」は一時的に沈黙しているが、回路が焦げ付いたような後味が鼻腔にこびりつき、抜けない棘となって神経を逆撫でする。
「……寒い……」
石板の上の女が体を丸め、夢と現の狭間で呻く。
顔色は紙のように白く、唇は死人のような紫色を呈している。金色の血は止まっていたが、傷口周辺の皮膚は灰色の陶磁器がひび割れたような紋様を浮かび上がらせていた。
翰文は微かに吐息した。
「お嬢さん、俺も寒いんだよ。この皮鎧なんて漁網みたいに穴だらけだし、銀行には七千元の靴の代金も借りたままだ」
口では不平を垂れ流しながらも、身体は誠実に動いていた。
彼は考古学者であり、サバイバルの専門家ではない。だが、この極寒地獄で凍死したくなければ、脳を回すしかない。
石塔の瓦礫を漁る。
ゴミの山だ。錆びついた缶詰、折れた矢尻、そして正体不明の生物の風化した糞便。
不意に、指先が石炭のように黒い石塊に触れた。
瞬間、静電気に噛まれたような鋭い刺激が走る。
脳内で焦げ臭さが微かに漂ったが、今回は激痛ではない。搾り取られた後のような空虚感が、指先から伝染してきただけだ。
寄生虫が、その石の「本質」を、嘲笑を含んだ直感へと翻訳する。
『それは死んでいる』
『かつては灼熱の心臓だった。機関を駆動し、営舎を暖める熱源だった。だが今は、中の「律」が枯渇している』
『最後の残り香を漂わせる……ただの産業廃棄物だ』
「ゴミでもリサイクルはできる。何もないよりマシだ」
翰文はその黒い石をかき集め、乾燥した苔と、油脂を多く含んでいそうな灌木の枝を隙間にねじ込んだ。
あのボロいナイフを取り出し、「凝律石」に向けて力任せに叩きつける。
硬質な破砕音と共に、火花が四散した。
石に残存していた微量なエネルギーが物理衝撃で励起され、幸運にも枯れ枝に引火する。
オレンジ色の炎が、小さな舌を出した。
頼りない明かりだが、この漆黒の異界の夜において、それは神の奇跡に等しい輝きだった。
熱流は救済であり、同時に刑罰でもあった。
久々の高温が凍りついた翰文の肉体に強引に侵入し、壊死しかけていた触覚を暴力的に叩き起こす。
心地よい温もりなどではない。急激な血管拡張に伴い、四肢の末端が無数のヒアリに一斉に噛みつかれたような、耐え難い酸味を伴う痺れに襲われる。
自分が冷たい死肉の範疇を脱し、解凍され、滴り、痛覚を取り戻して、再び鮮度のある肉体へと戻っていく感覚。
彼はゆっくりと、女を焚き火のそばへ移動させた。
炎が彼女の顔を照らす。泥と血に塗れた無惨な状態であっても、その造作は理不尽なほどに精緻だった。
尖った耳、高い頬骨、頬にかかる乱れた黒髪。昏睡していてもなお、世界を拒絶するような孤高の気質が漂っている。
翰文の視線が、彼女の首元に止まった。
細い革紐が掛かっている。先ほどまでは皮衣に隠れていたが、襟元が緩んだことで、親指大のペンダントが露わになっていた。
半透明の青い結晶体だ。ねじれた羽根のようにも、凍結された風の一片のようにも見える。
職業病――あるいは単なる手癖の悪さ――から、翰文は何気なくその結晶に指を伸ばした。
警告はなかった。
魂を根底から揺さぶる轟音が、直接脳内で炸裂した。
激痛は閃光弾となって頭蓋を内側から焼き尽くす。翰文は悲鳴を上げ、後ろにのけぞり、頭を抱えて地面を転げ回った。
それは「視る」という受動的な行為ではない。脳が大質量の情報塊と正面衝突したのだ。
ペンダントに封じ込められた情報量はあまりに膨大で、強烈な排他性を帯びていた。ラッシュアワーの全車両を、狭い一方通行の路地に無理やりねじ込み、衝突させたような暴力的な圧縮。
『風は痕跡を留めず……』
それは歌声ではない。風に引き裂かれる直前の、数千万の魂の共鳴だ。
歌詞はない。鼓膜を粉砕する高周波の悲鳴が脳髄に注ぎ込まれ、翰文の意識を太古の崩壊の記憶へと引きずり込む。
**眼裏**に広がる地獄絵図。
物理法則を無視した壮麗な浮遊巨城が、雲海の上で音もなく解体されていく。無数の白亜の尖塔が流星群となり、長い煙の尾を引いて大地へと墜落する。
断崖の縁に、孤独な人影が佇んでいる。
その肩甲骨から、目が眩むほどの光が爆発した。純粋な星光で編まれた一対の翼が皮膚を破って展開し、その一瞬、天空を覆い尽くす。
だが次の刹那。
天地を戦慄させる清冽な断裂音と共に、その光の翼は見えざる暴虐によって根元から引き抜かれ、背骨ごと無慈悲に引き裂かれた。
痛いッ!
翰文は自分の背中もまた、生きたまま引き裂かれたような錯覚に襲われた。
金色の血液が灼熱の溶岩となって蒼穹に噴き出し、雲層を惨劇の夕焼け色に染め上げる。
『汝の名は禁忌なり。汝の名は鍵なり』
審判が下された。
続いて、墜落。重力が貪欲な野獣となって足首に食らいつき、底なしの深淵へと彼を引きずり込む。
「ハァ……ハァ……クソッ……死ぬかと……」
翰文は地面に大の字になり、酸素を貪っていた。鼻血と涙で顔はぐしゃぐしゃだ。
今の一瞬、自分の頭が叩き割られたスイカのように爆散すると本気で信じ込んだ。
彼は恐怖に引きつった目で、あの青いペンダントを凝視した。
その物体は微かに発光を続けている。いや、単に光っているだけではない。周囲の空間が陽炎のように歪み、耳鳴りのような高周波の金切り声を上げている。
脳内の「寄生虫」は、今回は貪欲なシグナルを出さなかった。むしろ、震えている。
伝わってきたのは解析情報ではない。上位存在に見下ろされた時に抱く、根源的な戦慄だ。
『触れるな。絶対に触れるな』
『それは石ではない。極限まで圧縮された暴風の眼だ』
『中にあるのは権力……空を統べるための王権だ』
『今の凡人の脳みそで、もう一度アレを覗いてみろ。過負荷の電球のように――パンッ。焼き切れて終わりだ』
「……王権……遺物?」
翰文は朦朧とした意識で鼻血を拭い、昏睡する女を見た。眼差しが変わる。
こいつは、ただの遭難した兵士じゃない。
トラブルだ。とてつもなく巨大で、自律歩行し、いつでも起爆可能なトラブルの塊だ。
お宝を拾った? 違う、爆弾を拾ったんだ。このクソったれな世界では、宝と爆弾は往々にして同義語だが。
その時、女が動いた。
焚き火の熱に喚起されたのか、それとも先ほどのペンダントの波動に共振したのか。瞼が微かに震え、ゆっくりと開かれる。
琥珀色の瞳に焦点はない。二つの深い古井戸のように空虚だ。彼女は首を巡らせ、視線を翰文に固定した。
感謝も、恐怖もない。あるのは極度の疲労と、研ぎ澄まされた警戒心だけ。
「……水」
枯れた声で、一文字だけを紡ぐ。
翰文は一瞬呆気にとられたが、瓦礫の中から拾った比較的清潔な金属兜(元の持ち主が誰かなんて知ったことか)を手に取り、彼女に差し出した。
中には、林から運んできたあの青い渓流の水が入っている。
彼女は貪るように飲んだ。水が口端から溢れ、青いペンダントに滴り落ちる。飲み干すと、彼女は長く息を吐き、瞳に僅かな理性の光が戻った。
二人は無言で見つめ合った。
空気は静止し、枯れ枝が爆ぜる音だけが響く。
「……名前」
耐えきれずに翰文が口を開いた。自分を指差し、次に彼女を指差す。「俺は李翰文。あんたは?」
女は彼を凝視し、瞳を揺らした。何かを言おうとして、唇を開く。
翰文は期待して身を乗り出した。
「……」
だが、音は出なかった。
唇は動き、喉も振動している。なのに、音節だけが消滅している。見えない手が彼女の声帯を強く締め上げているかのように。
表情が苦痛に歪む。眉間が刻まれ、両手で胸元のペンダントを死に物狂いで握りしめ、指の関節が白く浮き出る。
電流ノイズがジジジと脳内を走った。
焦げ臭さが変質し、カビの生えた苦い薬を噛み潰したような味が広がる。
翰文は無意識に自分の首を押さえた――そこには、見えない鎖で絞め上げられるような幻痛があった。
寄生虫が、彼女の今のあがきを残酷な直感へと翻訳する。
『病気だと思うな。これは刑罰だ』
『律法が彼女の名前を剥奪した』
『口にしようとすれば、その見えざる鎖が即座に彼女の首をへし折るだろう』
翰文の心臓が冷えた。
「分かった、ストップ」
彼は慌てて手を振り、彼女の自傷的な試みを制止した。「言いたくないならいい。無理強いはしない」
女は動きを止め、肩で息をする。眼底に暗い影が走った。
彼女は震える指を伸ばし、埃の積もった石板の上に、ゆっくりと記号を描いた。
円形。その中央を断ち切る一本の横線。「進入禁止」の標識にも見えるし、抹消されたゼロのようにも見える。
「……無……」
彼女は辛うじて、その一文字を吐き出した。
「無? ないってことか?」翰文はその記号を見つめ、苦笑した。「オーケー。ミス・ナッシング。あるいは鳥人のお嬢さん。好きな方を選んでくれ」
彼は火に薪をくべた。炎が彼の泥と血にまみれた顔を照らし出し、その表情をより一層、獰猛かつ疲弊したものに見せている。
「俺は李翰文。あんたが絶対に聞いたこともない場所から来た。そこじゃ、木に食われる心配もなければ、名前を言っただけで死ぬ心配もない」
彼は語る。その口調には濃密な自嘲が滲んでいた。
「心配事といえば、家賃と、論文と、あとはクソったれなクレジットカードの請求書くらいなもんだ」
女は静かに聞いていた。
「家賃」や「論文」といった単語の意味は理解できていないはずだ。
だが、彼の口調に含まれる「ある成分」は聴き取ったようだ。
それは孤独だ。異郷人が、別の異郷人から嗅ぎ取った、同類の匂い。
彼女は一瞬躊躇い、そして身体を僅かに焚き火の方へ――あるいは翰文の方へ――寄せた。
極めて微細な動作。
だが、敵意と寒気が支配するこの廃墟の夜において、その動作は「休戦」を、そして「信頼の萌芽」を意味していた。
翰文はそれ以上語らなかった。
代わりに、石塔の天井に空いた穴を見上げた。
二つの月が依然として空に張り付き、冷淡にこの廃土を見下ろしている。
そして石塔の外、深い闇の中では、あのボロボロの鎧を纏った黒矛の戦士が、亡霊のように静止していた。
近づくことも、立ち去ることもない。墓守の石像のように、地獄から這い出してきた二人の不運な魂のために、夜の風を遮っている。
今夜は、とりあえず安全だ。
だが、それは今夜だけの話だ。




