第58話 : 泥濘の擬態と、風の残響
『獲物だけが求愛のために鮮やかな羽を必要とするのさ。狩人はただ、影に溶け込むことだけを求める。もし野獣が自らその輝きを消し始めたなら、そいつは恐怖を覚えたか、あるいは殺戮を覚えたかのどちらかだ。——たいていは、その両方だがね』
——『廢土生物行為學』:擬態と保護色に関する章、56ページより
修道院での日々は、窒息しそうなほどの静寂の中で三日が過ぎ去った。
この三日間、時間はまるで粘りつく液体のように緩慢に流れ、最も大きな音といえば通気管を流れるブゥゥンという気流の唸りと、時折遠くの閉鎖ガレージから聞こえてくる、耳を刺すような金属の修復音だけだった。
李翰文は温室の薄暗い隅に座っていた。ここは本来、針夫人が稀少な薬草を育てるための「無菌区」だったが、今は負傷者の臨時収容所と化している。彼の手には、針夫人特製の、焼けた銅線と苦い薬草を混ぜ合わせたような臭いのする流動食が握られていた。
その液体は食欲を削ぐ灰緑色をしており、表面には溶けきっていない楕円形の粒がいくつか浮いている。
彼はそれを一口、飲み込んでみた。
喉を通った瞬間、食道の奥に無数の砕けたガラスを丸呑みしたかのような裂傷の激痛が走った。鋭い痛みが迷走神経を伝って脳天を直撃し、彼は思わず椅子の扶手をきつく握りしめた。指の関節は白く浮き上がり、額からは瞬時に冷や汗が滑り落ちる。
これは三日前のあの「駭入咆哮」が遺した記念品だ。
彼の声帯は小花のように焼き切れてはいなかったが、激しい充血により廃止寸前の状態にあった。気管の内壁は微細な裂傷に覆われ、呼吸をするたびに喉の奥からヒュー、ヒューという漏風音が漏れる。それはまるで、長年手入れを怠ったボロい機械のようだった。
その時、脳内の深部で、ゴムの焼けたような幻嗅がジリジリと音を立てた。
「残り火」の信号だ。この傲慢な居候は、悪意たっぷりの嘲笑を翰文の意識へと投影してきた。
――穴の開いた、空気の漏れ続ける錆びた古いふいご。
その壊れたふいごは、翰文の呼吸に合わせて不恰好に開閉し、力ない排気音を漏らしている。明らかに「残り火」は今の彼のひどい破れ声を愉しんでおり、ご丁寧にもこんな注釈まで付け加えてきた。
(……騒音汚染源め……)
翰文には、この悪質な店借人とやり合う気力も余裕もなかった。彼は器を置き、微かに震える自らの掌を見つめた。
三日が経過してもなお、指先には拭い去れない「幻触」が残っている。神経触手を握り、数千匹の蟲に同時に肌を貪り食われたあの幻痛が、ふとした瞬間に脊椎を駆け抜け、無意識に身体を震わせるのだ。無数の小さな口に引き裂かれる感覚が、彼の神経の記憶に深く刻み込まれてしまっていた。
「……お薬よ」
蒼白で細い手が差し出された。その手には青い高圧スプレーが握られていた。
無小姐だ。
ここ数日、彼女は口数が少なくなった。足音を完全に消して歩くことさえ覚えたようだ。彼女は洗濯されたものの、まだ薄っすらと油染みの残る古いドレスを纏い、幽霊のように静かに翰文の傍らを彷徨い、この負傷した相棒の世話を焼いていた。
翰文が口を開くと、彼女は冷たい薬霧を彼の赤く腫れた喉へと噴射した。一瞬の麻痺感は砂漠の甘露にも勝り、彼はようやく長い溜息を吐き出すことができた。
彼は立ち上がり、感謝の印に無小姐の肩を軽く叩くと、重い足取りでガレージへと向かった。
今日は、針夫人が約束した「修復完了日」だった。
あの貴婦人の、機械美学に対する偏執的なまでの潔癖さを考えれば、翰文は、新品同様に磨き上げられ、聖獣のように純白に輝く小花の姿を予想していた。あるいは、高価な防錆香水の一吹きさえされているかもしれない、と。
しかし、翰文が重厚なガレージの扉を押し開き、ウインチの唸る音と共に中へ踏み込んだ瞬間、目の前の光景に彼は絶句した。
小花は確かに修復されていた。
頸部のあの凄まじい裂傷は癒え、手術の痕跡を示す一本の細い金の紋様が残るのみとなっていた。だが、恥辱と制御の象徴である真鍮の項圈は依然として首に固着しており、刻まれた赤い旧律ルーンが影の中で呼吸するように警告の光を放っている。
だが、彼女は専用のメンテナンス・ドックにはいなかった。
彼女はガレージの最も暗く、湿った隅にうずくまっていた。そこは、機械の洗浄で出た黒い油泥と工業廃水が溜まる排水溝のすぐ隣だった。
泥水の中に重い何かが落ちる、ベチャリ、ベチャリという奇妙な音が響く。
本来ならば高潔で清潔であるはずの白磁の駭鳥が、今や鋼鉄をも容易く引き裂くその爪で、排水溝の黒泥を不器用に、しかし執拗に掻き出していたのだ。
野獣が泥遊びをするような無造作なものではない。そこには、見る者の胸を締め付けるような「精密さ」があった。
彼女は、鼻を突く機械油の臭いと腐敗臭を放つ汚泥を、自らの身体の最も光を反射する部位――広い胸甲、腿の外側の滑らかな装甲、そして面甲の鋭いエッジ部分に、慎重に塗りつけていた。
彼女は意図的に、自らの「輪郭」を消し去ろうとしていたのだ。
本来は玉のように滑らかだった白釉の装甲が完全に覆われ、もはや精巧な芸術品ではなく、沼地の泥の中から掘り出されたばかりの無価値な廃石に見えるようになるまで、その行為は続いた。
翰文は反射的に駆け寄り、それを止めようとした。
「小花! 何をしてるんだ! それは夫人が一番……」
脳内の「残り火」が突如として鋭いノイズを発し、冷徹で強硬な意念を放って翰文の動きを制止した。
血生臭さと火薬の煙、そして湿った土の臭いが混ざり合った濃厚な「戦壕の匂い」と共に、一つのイメージが翰文の脳に直接焼き付けられた。
――戦場の最前線で、ボロボロのギリースーツを纏い、顔に煤と泥を塗りたくって草むらに潜む、震えながらも凶暴な眼光を放つ新兵の姿。
生き延びるために、彼らはあらゆる「人間らしさ」を消し去り、環境の一部へと同化したのだ。
「残り火」は感情を排した、しかし精緻極まる分析を植え付けてきた。その一文字一文字がメスのように、小花のトラウマを解剖していく。
(――悪戯でもなければ、狂気でもない。唯一の答えは「恐怖の進化」だ)
(――あいつの認識において、白は「標的」と同義だ。白が蟲を呼び寄せ、白が傷と痛みを招いた)
(――あいつは「保護色」を作っている。世界に向かって告げているのだ。「私は汚い、私はゴミだ、だから私を食べるな、私に近づくな」とな)
汚れることは合理的だ。汚れることこそが、安全なのだ。
翰文の伸ばした手は、宙で止まった。
彼は小花が最後の一枚の腿甲を塗り終え、満足げに低い「グルル……」という声を漏らして隅へと縮こまり、排水溝の影に完全に同化する様を見守った。
精緻な真鍮の項圈だけが、黒泥の中で時折鈍い金光を放ち、それが余計に刺々しく、皮肉に見えた。
翰文の指が微かに震え、そして力なく垂れ下がった。
彼は何も言わず、ホースを手に取ることもなかった。
ただ黙って小花の傍らへ歩み寄ると、機械油と腐敗の刺激臭に満ちたその身体を厭うことなく、汚れきった地面に腰を下ろし、泥まみれの彼女の腿に背を預けた。
冷たい汚泥がズボンに染み込んできたが、彼は微塵も気にしなかった。
小花はビクリと身を竦ませ、巨躯を微かに震わせた。だが、翰文がいつものように「お風呂」を強要せず、ただ隣に座ったことに気づくと、ようやく安堵したように、その重い頭を翰文の膝の上へと静かに預けてきた。
彼女の面甲も泥だらけだったが、感知用のスリットからは幽かな青い光が漏れていた。それは泥沼に浮かぶ鬼火のようだった。
「……あの子、隠れることを学んでいるのね」
頭上から、消え入りそうな声がした。
翰文が顔を上げると、小花の高く盛り上がった背――今は泥の山だが――の上に、無小姐が座っていた。
彼女もまた、汚れを気にしてはいなかった。純白だったドレスの裾は油に塗れていたが、彼女はそれを構う様子もなく、野生児のように泥の獣の背で胡坐をかき、裸足の足首にも黒い泥を付着させていた。
彼女は手に持った白磁の笛を、そっと唇に当てた。
この三日間、彼女はずっと小花に寄り添い、この隅っこで共に隠れ続けていたのだ。
彼女が静かに息を吹き込むと、風の音を模した極低周波のシュゥゥ……という音が漏れた。
それは鋭い笛の音ではなく、空っぽの谷を抜ける気流の反響のようだった。
その調べに合わせ、小花の強張っていた筋肉がゆっくりと弛緩していく。彼女はこの音を好んでいるようだった。掘り起こされる前、深い土の中に埋もれていた頃の、あの平穏と安全を思い出させてくれるから。
「……私たちは皆、練習しているの」無小姐は瞳を曇らせながらも、確かな語気で囁いた。「声を立てない方法を。……静かに、生きていく方法を」
「なんとも感動的な光景だね」
冷酷で、嘲弄に満ちた声がその平穏を切り裂いた。
針夫人がいつの間にかガレージの入り口に立っていた。一点の曇りもない深紅のシルクドレスを纏い、相変わらず飲み干されることのない紅茶を手にしている。
彼女の漆黒の瞳が泥まみれの小花を捉え、その奥に極限の嫌悪が過ぎった。最高級の宝石が家畜の糞尿の中に落ちたのを見た時のような、そんな眼差しだった。
翰文は慌てて立ち上がり、弁明しようとしたが、喉からはガッ、ガッという掠れた音しか出ない。「夫人、これは……」
「黙りな。目は付いているよ」
針夫人は冷たく言葉を遮った。その口調には僅かな苛立ちが混じっていた。「泥の中で転げ回る豚になりたいっていうのかい? 好きにしな。どうせあそこへ行けば、この泥なんて風に綺麗に削ぎ落とされるんだからね」
彼女は怒ることも、小花を洗えと命じることもしなかった。
恐らくこの構造師の目には、核心的な機能さえ正常であれば、外見の不潔さは一種の「実戦テスト」に過ぎないのだろう。あるいは、今の小花にとって、この泥の層はいかなる白磁の装甲よりもその心智を守る防壁になるのだと理解しているのかもしれない。
針夫人は無駄な言葉を重ねず、手袋をはめた指を宙で弾いた。
ガレージ内の塵が磁場に引かれるように急速に集まり、整列し、虚空に一つの険しい立体地形図を構築した。
無数の細長い石柱が墓標のように大地に突き刺さり、その間を気流を示す赤い線が狂ったように乱れ飛んでいる。
「よく見ておきな」
針夫人はホログラムを指差し、判決を下すかのような平穏な声で告げた。
「ここは**『舊風塔群』**。……あんたたちの言葉で言えば、『風の墓場』だね」
「声帯を直したからといって、勝手に吠えていいわけじゃないよ」
針夫人の視線が小花の真鍮の項圈へ移った。「制限器が付いている限り、感情が臨界値を超えるか、あるいは咆哮を放とうとすれば、内側の探針があいつを一瞬でショック状態に陥らせる。……蛮力を使うことは考えないことだね。今度は『聴く』ことを覚えてもらうよ」
「何を……聴くんだ?」翰文は砂紙で擦ったような、酷い鴉声で訊ねた。
「風の死体を、さ」
針夫人は背を向けた。シルクの裾が床を擦り、サササと音を立てる。
彼女はガレージの外の灰色の空を見つめ、声を沈めた。
「あそこの風塔は、旧律時代に大気を調律するために使われていた巨大な楽器だ。数百年前に壊れ、内部の共鳴腔はねじ曲がり、今では誤った周波数を吐き出し続けている。あの音はただの風の音じゃない。あんたたちの神経をヤスリのように直接削り取る『悪意ある雑訊』だ」
彼女は振り返り、漆黒の眼の奥で赤い光を明滅させた。警告の合図だ。
「あんたたちの任務は単純だよ。あの騒音の地獄へ潜り、まだ『歌っている』完品の共鳴器を三つ見つけ、その核心を抜き取って持ち帰りな。それこそが、小花の音律核心を再構築するために不可欠な素材なんだから」
「あそこの風音は神経の脆い人間を狂わせる。聴覚の幻覚さえ見せるだろうね。……笛をしっかり持っておきな、無小姐。羅針盤さえ使い物にならないあのノイズの中じゃ、あんたの風律だけが唯一の導き(ナビ)なんだから」
「さあ、行きな。あたしの床に泥をつけて歩くんじゃないよ」
針夫人の姿は影の中へと消え、空気中には微かな紅茶の香りと、宙に浮く塵の地図だけが残された。
翰文は赤い気流に覆われ、無数の渦が巻く危険地帯を見つめた。それから、泥を纏い、盗み見るような目で自分を観察しているこの巨大なダチョウを見た。
「行くぞ、小花」
翰文は彼女の、機械油と汚泥にまみれた冷たくザラついた面甲を叩いた。彼は苦笑しながら自分と彼女を指差し、ボロい声で言った。
「俺たちよりもっと酷い、断末魔でも聴きに行こうじゃないか」
小花は理解したように、喉の奥で「グルル……」と低く鳴いた。彼女はゆっくりと立ち上がり、黒い泥が脚部装甲を伝って滴り落ち、床に一輪、また一輪と「黒い花」を咲かせていった。




