第53話 : 鉄錆の花冠と、はじめての陣痛
『赤ん坊に銃を持たせたからといって、そいつが戦士になるわけじゃない。たいていの場合、そいつはまず自分の足指を撃ち抜くのさ。新しい義肢との関係もそれと同じだ。——武器になる前に、そいつらはまず「荷物」でしかないんだよ』
——『荒野生存法則』修正版前言、適応期について
早朝の温室には、乾燥した機械油の臭いと高価なハーブティーの香りが混ざり合って漂っていた。
それは、どこか不気味な雰囲気の朝食会だった。
今回はメスも拘束バンドも姿を消している。李翰文は初めて、針夫人の専用ティーテーブルの傍らに「座ること」を許されていた。もっとも、それは彼が現在、唯一の「駅の座標保持者」であるからに過ぎないが。
対面に座る針夫人は、優雅な手つきで錬金肉のステーキを切り分けていた。右手の黒いベルベットの手袋は嵌められたままだ。それは、先日の失態に対する彼女なりの無言の妥協だった。
「これが明細だよ」
彼女は顔も上げず、指先を軽く振った。翰文の前に、霊光を放つリストのホログラムが滑り込んできた。
文字は冷徹な発光ブルー。これからの物資配給が記されている。
翰文はそのリストを凝視し、深く息を吸うと、パートナーとしての権利を行使することに決めた。
「……あの、夫人」翰文の声は少し乾いていた。「ここに、無小姐のための『高階濾肺剤』を一組追加してもらえませんか? 外の空気は、風民には毒が強すぎます」
針夫人のナイフが止まった。
彼女は黒から赤へと変色する電子義眼を上げ、冷ややかに翰文を舐めるように見た後、隣で気配を消している無小姐へと視線を移した。ペンダントを失った彼女は、色を失った透明な小鳥のようで、呼吸一つにも細心の注意を払っているようだった。
「……ふん」
針夫人が虚空で指を動かした。リストに一行が加わる。:高階風律フィルター x 3セット(記帳:複利二倍)。
「追加したよ」
翰文が安堵しかけたその時、針夫人は突然カトラリーを置き、ポケットから何かを取り出して無造作に放り投げてきた。
チィィンという澄んだ音を立ててテーブルの上を滑り、無小姐の目の前で止まったそれ。
それは、白磁でできた一枚の羽だった。縁は刃のように鋭く、中央は透かし彫りになっている――精緻な「骨笛」だった。
「……これは?」翰文が問う。
「**『白瓷哨翎』**さ」
針夫人は心底どうでもよさそうに口元を拭った。「昨夜、あの子から『錠前』を取り上げたからね。代わりにこれを持たせておかないと、道中で暴走してあたしの完璧な作品に傷をつけられても困るだろう?」
無小姐がおずおずと手を伸ばした。
彼女には感じられたのだ。この笛の中に流れる気配――それは彼女の体内の風の律に近い、安定した周波数だった。彼女はそれをひったくるように掴み、掌の中で固く握りしめた。命綱を掴むかのように、蒼白な指の関節が白く浮き上がっている。
「前の首飾りは『塞き止める』ものだった。この笛は『逃がす(バイパス)』ためのものさ」
針夫人は冷たく解説した。「体内の律が爆発しそうになったら、そいつを吹きな。……それに、そいつはあの龍の端材で作ってある。もしこの間抜けな坊やが野獣を制御できなくなったら、その笛で強制的に黙らせることができるよ」
朝食の後、三人は工場へと向かった。
眼前の光景に、翰文は再び衝撃を受けた。
予想していた「改造された鶏」の姿はどこにもなかった。
代わりにそこに伏していたのは、神聖な気配を放つ一頭の**「白い巨獣」**。
針夫人は、人間の設計思想や製造ロジックを完全に放棄していたのだ。
前方には巨大な、翼を持たない白釉の駭鳥。全身を幾重にも重なる玉のように滑らかな「白磁の羽」が覆い、二本の太い後肢がそれを支えている。精緻な白磁の彫像のように静止しているが、腿の関節を流れる金色の紋様だけが、それが生き物であることを証明していた。
「……これ、本当に走れるのか?」翰文はドアハンドルも窓も見当たらない滑らかな外殻を見つめ、不安に駆られた。
「あんたの狭くて無知な頭でこいつを測るんじゃないよ」
背後から現れた針夫人の声には蔑みが混じっていた。「車輪なんてのは死体運搬車にでも使わせておきな。この子に必要なのは、岩を砕く鋭い鉤爪さ」
彼女は巨獣を指差した。
「上がりな。……子供のあやし方を覚えているのならね」
巨大な白磁の鳥は、物体の接近を察知したのか、警戒するように首を巡らせた。眼の位置さえ判別できない滑らかな面甲を翰文に向け、喉の奥から困惑したような「グルル……」という唸り声を漏らす。
翰文がその威圧感に気圧され、どこから手を付けたものかと躊躇していると、傍らを白い影が通り過ぎた。
無小姐だ。
彼女は掌の磁器の笛を握りしめ、目の前の巨獣と奇妙な共感を抱いているようだった。――彼女たちは共に、何かを失った欠落者。一方は瞳を、一方は翼を。
翰文が驚いて見守る中、無小姐は自ら歩み寄り、爪先立ちになって、蒼白な指先で巨獣の冷たい面甲にそっと触れた。
「……怖くないわ」彼女は自分を、そして野獣をなだめるように囁いた。
低周波のブゥゥンという唸り。巨獣は微かに震えたが、攻撃はしなかった。それどころか、温順に頭を下げ、滑らかな嘴で無小姐の掌を優しく擦った。
どうやら「折れた翼の小鳥」と「盲目の駭鳥」は、意外にも馬が合うらしい。
針夫人の指導の下、翰文は側面の隠しストレージを開いて荷物を詰め込み、ボロい帆布のバックパックを後部の不釣り合いな真鍮ラックへと固定した。
続いて背部の装甲がスライドし、生体ゲルが満たされた神経鞍が露わになった。
翰文が跨り、垂れ下がった「金色の神経束」を握りしめる。
ジィィィという鋭い音と共に、警告も緩衝もなく、強烈な不快感が一気に翰文の脳を直撃した。
「う……ッ!」翰文は苦悶に身を折り曲げた。胃がひっくり返るような感覚に、その場で吐きそうになる。
それは怪我の痛みとは違う。五感が強引に拡張される際の、衝撃的な膨張感。空気中の一粒一粒の放射性塵が磁器の羽に当たる刺痛を、地底深くを流れる微かな振動を、彼は自分のことのように感じ取っていた。
だがそれ以上に恐ろしいのは、この龍の深層にある底知れぬ「不適応感」だった。
(痛い……空気が痛い……)
(出たくない……外には火がある……)
これが、この龍の感覚。律法が崩壊したこの世界で、呼吸の一つ一つが強酸を吸い込むような拷問なのだ。その幼児のような恐怖と泣き喚きが、フィルターを通さず翰文の意識の海へ流れ込んできた。
翰文の理性がそのノイズに飲み込まれそうになった、その時——。
脳の深淵で、不機嫌そうに沈黙していたあの死灰が、唐突に苛立たしげなジジジという音を立てた。
焼けた羽の濃厚な臭いと共に、脳内の店借人――**「残り火」**が目覚めたのだ。
そいつは強力な火壁を築くでもなく、誇り高き栄光を示すでもない。ただ近所の工事の音で叩き起こされた神経質な老人のように、翰文の脳内でヒステリックな雑音を撒き散らした。
(うるさい……器よ……この愚鈍な獣を黙らせろ……恐怖が……こちらまで焼いてくる……)
「残り火」は苦痛を分かち合うどころか、外から流れ込む恐怖に「怯え」と「嫌悪」を抱いていた。
自衛のために——「残り火」は渋々力を絞り出し、一種の「消音波」のような律動を放った。それは保護というより、単なる「着信拒否」だった。外がうるさいからと怒りに任せて窓を閉め、厚手の防音カーテンを引き絞るかのような拒絶。
その「聞きたくない、見たくない」という拒絶の力のおかげで、鋭かった刺痛はようやくぼやけ、厚いガラス越しの鈍い響きへと変わっていった。
「はぁ……はぁ……」翰文は荒い息をつき、額に青筋を浮かべた。泣きじゃくる子供と、発狂する老人を同時に宥めなければならないのだ。
彼は目を閉じ、残る吐き気を堪えながら、脳内でかつて教わった卑南族のわらべ歌を口ずさんだ。
「Muakai……Muakai……(小さなお花さん……)」
「白い新しいお洋服を着て……痛いの痛いの、飛んでいけ……」
歌声に宥められ、巨獣はようやくゆっくりと立ち上がった。油圧システムが作動し、重い溜息のような排気音を漏らす。
「これから……お前のことは、小花と呼ぼう」翰文は力なく言った。
修道院の重厚な防爆シャッターが轟音と共にせり上がり、外の廃土の風砂が野獣のように咆哮を上げて流れ込んできた。
颯爽と駆け出すはずだった小花だったが、外の猛烈な黄砂を目にした瞬間、ぴたりと硬直した。
何か恐ろしいものを見たかのように二本の脚を地面に釘付けにし、全身の磁器の羽を逆立て、ガシャガシャと音を立てながら必死に後退しようとする。
(怖い! ……嫌だ!!)
温室へ逃げ帰りたい。安全な「鉄肺」の中へ、あの温かな小部屋へ隠れたい。
(……チッ……)
翰文の脳内で、焦げた臭いと共に再び嫌悪感に満ちた声が響いた。自分自身の外の世界に対する恐怖も混ざり合っている。
(こんなボロ車、運転できん……前途多難よ……)
「残り火」は小花の不甲斐なさを罵りながら、自分自身も逃げ腰になっていた。「この勝負は無理だ、早く降参しろ」という絶望感を伝えてくる。
翰文は、この二人に呆れて笑いそうになった。
外で震える奴と、脳内で腰を抜かしている奴。ドリームチームどころか、これは「ダメ人間同盟」だ。
「黙りやがれ!」
翰文は脳内の「残り火」に向かって一喝した。
「いいか! 誰も退くんじゃない! 俺たちに引き返す道なんてないんだ!」
「小花……大丈夫だ」
彼は不快感を堪え、神経連結を通じて最も優しい波長を送った。
「ただの風だ。……俺がここにいる。一緒に行こう。まずは一歩だけだ、いいか? 一歩だけ、試してみよう」
後ろの無小姐も風を通じて異変を察知した。
彼女は深く息を吸い、磁器の笛を口に含んだ。
ピーーーッという清らかな笛の音が荒れ狂う風を切り裂き、小花の混乱した脳へ、そして「残り火」の苛立った神経へと、涼やかな気流のように流れ込んだ。
翰文の説得と無小姐の笛の音、そして「残り火」の「文句を言いながらも協力せざるを得ない」不協和音の末に、巨大な白磁の駭鳥はようやく、不承不承といった様子で足を踏み出した。
動作はぎこちなく、一歩踏み出すたびに立ち止まる。歩き始めたばかりの巨人のように、よろめきながら門限を越えていった。
流れるような山道走行も、風を切り裂く白光の残像もない。
そこにあるのは、無様な足取りと、神経の痛みに耐える翰文の重苦しい喘ぎ声だけだった。
小花がようやく数歩、外の世界を踏みしめた、その時——。
「止まりな」
針夫人の冷徹な声が通信を遮断した。そこには隠しきれない失望が混じっていた。
小花は免罪符を得たかのようにその場に伏し、巨大な白磁の卵となって縮こまってしまった。「残り火」もまた「……ようやく終わったか」という、危ういところを逃げ延びたかのような安堵感を漏らした。
「夫人? ……俺たちはまだ歩けます……」翰文は脂汗を流しながら弁明しようとしたが、口の中はすでに鉄錆のような血の味で満たされていた。
「歩く? どこへだい? 死にに行くとでも言うのかい?」
門口に姿を現した針夫人は、腕を組み、無様な一人と一龍(と、見えない役立たず)を冷たく見下ろした。
「そのザマを見てごらん。一匹は風の音に怯えて丸まり、一人は神経連結さえ途切れかかっている」
彼女は地図の上の遠い赤点を指差した。
「その状態で、『食鉄蟻』の群れさえ越えられはしない。ましてや『嘆きの回廊』なんて夢のまた夢だよ。……あたしはあの『星光』を三千年も待ったんだ、数ヶ月増えたところで構いはしない。けれど、あたしが心血と巨額を投じて造り上げた最高傑作が、門を出て五百歩でスクラップになるのを見てるわけにはいかないのさ」
彼女が指を一弾きすると、一点の霊光が翰文の眉間へと飛び込んだ。
脳内の地図に記されていた遠い赤点「第四号駅」が、風前の灯火のように消え、霧の深淵へと隠れていった。
代わりに現れたのは、すぐ近くで濁った黄色い光を放つ新しい座標。
その光は電子信号というより、古い地図に滴り落ちた煮え滾る油脂のように、ジジジと音を立てて新しい終着点を焼き出していた。
――『第七号旧水站』。
針夫人の瞳が鋭くなる。「まずは見せてもらうよ。この子が、あんたの手で龍へと進化するのか、それともただの鉄屑として終わるのかをね」
「八響先にある旧水站へ行きな。この『圧力校準器』を届けてくるんだ。あそこの自動ポンプが今にも爆発しそうでね、騒音がひどくて寝られたもんじゃないのさ」
「これ……任務ですか?」翰文は呆然とした。運び屋の真似事か?
「テストだよ」
針夫人は背を向け、二度と彼らを見なかった。「あそこの地形は単純だが、振動は激しい。この子のセラミックの骨組みが低周波共振に耐えられるか、そしてあんたの脳があの子の恐怖で焼き切れないか。それを確かめさせてもらうよ」
ズゥゥゥンという巨響と共に、修道院の門は彼女の背後で重く閉じられた。
翰文は新しい地図を見つめ、身下で丸まって震える「白い花」を感じ、脳内の「残り火」の苛立ちを一身に受け止めていた。
彼は苦笑しながら、小花の冷たい白磁を撫でた。掌には、恐怖で早まったその脈動が伝わってくる。
「……聞いたか、お前ら」
翰文は溜息をつくと、背後で同じく怯える無小姐の肩を優しく叩いた。
「返品されちまったよ。……行こうか。まずは水道修理からだ」
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