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第17話:終わりのないレールと、空腹の哲学


【お詫び】

更新時間を「12:10」に変更したのですが……

作者が「台湾時間」と「日本時間」の時差計算を間違えておりました(笑)。


日本時間 12:10 = 台湾時間 11:10

……ということを失念しており、1時間遅れての到着です。


明日からはちゃんと日本のランチタイム(12:10)に合わせてお届けします!







「地底において、飢餓は感覚ではない。それは『音』だ。最初は胃袋が鳴り、次に骨が軋み、最後には……石が語りかけてくるのが聞こえるだろう。『僕たちは焼きたてのパンだよ』と」



――『灰の塔・鉱夫ギルド・ハンガーストライキ遺書』



 その機械蜘蛛(メカ・スパイダー)――あるいは冷却中の鉄屑の山と言うべきか――は、溜め息のような金属の収縮音を最期に漏らした。「カツッ」という冷却爆裂音と共に、関節から焦げ臭い白煙が昇る。それはまるで、安物のグラフィックボードが過負荷で焼き切れた時のような悪臭だった。



 李翰文(リー・ハンウェン)はそのすぐ近くに大の字で横たわり、自分もスクラップ寸前だと感じていた。



 彼の右手――先ほど導体として使った手――は、不安になるような灰黒色に変色していた。皮膚は干上がった大地のようにひび割れ、少し動かすだけで血の珠が滲む。痛みはとっくに臨界点を超え、今は麻痺に近い感覚しか残っていない。まるでその腕が自分のものではなく、肩にぶら下がったただの焦げた炭のように思えた。



「……これ……」



 傍らの女はすぐには包帯を巻かなかった。彼女は高熱の蒸気も構わず、死んだ蜘蛛の腹部に登り、短剣で装甲の一部をこじ開けていた。



「何してるんだ? 熱いうちに食う気か? 俺はタレ多めの蒲焼きがいいんだが」



 翰文(ハンウェン)は瀕死の状態でも、口だけは減らず口を叩いた。



「……薬……」



 女はグロテスクな内臓と回路の山から、慎重にあるものを掬い出した。「蛍光グリーンの粘着質なゲル」だ。それは強烈なミント臭と生臭さが混ざったような匂いを放っていた。さっきまでパイプの中を流れていた防腐液だ。



「……これは……維持液メンテナンス・フルード……」彼女は翰文(ハンウェン)の黒焦げの腕を指差した。「……肉体用の……」



「正気か? どう見てもエイリアンのヨダレだろ」



「……痛い……我慢して……」



 女は問答無用で、その冷たくてネバネバした緑色のゲルを、翰文(ハンウェン)の火傷跡に「塗りたくった」。



「シッ――!!!」



 翰文(ハンウェン)はネズミなら心臓麻痺を起こすような鋭い悲鳴を上げた。それは清涼感などではない。まるで液体窒素の中に手を突っ込み、直後に無数の軍隊アリが壊死した組織を食い荒らしているような激痛だった。



「……修復……してる……」



 女は暴れる彼の腕を押さえつけ、ボロボロの裏地を裂いて作った布で、そのゲルごと傷口をきつく縛り上げた。



 数分後、骨を削るような激痛は、奇妙な痒みを伴う麻痺感へと変わっていった。腕は依然として使い物にならないが、少なくとも「炭化が進行している」という崩壊感は止まった。



「ありがとな」翰文(ハンウェン)は緑色のちまきのように包まれた手を見て、泣くよりも醜い笑顔を絞り出した。「これで片足引きずりと独腕せきわんだ。サーカスにでもデビューできそうだな」



 女は最後の結び目を終え、しばらくしてから、あのかすれた声で尋ねた。



「……あなた……(ロウ)がない……」



「……なぜ……爆発させられたの?」



 翰文(ハンウェン)は少し呆気にとられた。



 なぜか?



 俺が絶縁体(インシュレーター)だから? 俺が異物(アノマリー)だから? それとも脳内のあのクソ忌々しい「残り火(エンバー)」が、こういうエネルギーの食べ放題ビュッフェを好むからか?



「この世界が、俺を嫌ってるからさ」



 翰文(ハンウェン)は左手をついて立ち上がった。膝が「パキッ」と不自然な音を立てる。



「魔法に満ちたこの世界で、俺は規格外の部品なんだよ。そして科学の常識で言えば……ショートは人を殺す」



 彼は足踏みをして体の状態を確かめた。布を巻いた左足は相変わらず激痛を訴え、そこに廃品となった右手が加わった。だが、ここで立ち止まるわけにはいかないと理解していた。ここは暗すぎる。窒息しそうなほどの闇だ。闇は人を恐怖させるだけでなく、発狂させる。



 あの機械蜘蛛は死んだが、このクソッタレな血管の中に、他の悪性腫瘍がいない保証はどこにもない。もう片方の手まで失うわけにはいかない。これ以上やれば、確実に死ぬ。



「行くぞ」



 彼はひしゃげて変形した金属棒を拾い、杖代わりにした。



「まずは探そう……ネズミ一匹でもいい。そこに生き物がいるなら、出口がある証拠だ」



 そこからは、終わりのない苦行のような行軍だった。



 この地下軌道は、まるで地獄へと続くレッドカーペットのようだった。両側に並ぶ巨大な弧を描く支柱が、一本また一本と過ぎ去っていく。どれも全く同じ形状で、翰文(ハンウェン)は自分がその場で足踏みをしているような錯覚に陥った。



 ここでは時間の尺度が失われていた。二時間歩いたか? それとも四時間か?



 翰文(ハンウェン)は自分の胃袋が反乱を起こすのを感じた。飢えの感覚は強烈で、胃酸が胃壁を溶かすような灼熱感を伴っていた。まるで腹の中に火があり、脳内の「残り火(エンバー)」と呼応して燃えているようだ。



「……腹、減ったか?」彼は力なく隣の女に聞いた。



 女は辛うじて頷いた。彼女の手にある青いペンダントの光はますます弱まっており、明らかに彼女の体力も限界だった。



「……風は……飯の代わりにはならない……」彼女はいつの間にか、翰文(ハンウェン)のようなブラックジョークの言い回しを覚えていた。



「いいことを言う」翰文(ハンウェン)は乾いた唇を舐めた。脳内には高カロリーな食べ物の映像が制御不能で浮かんでくる。「考えてたんだが……あのネズミに似た腐肉食動物、もし焼いて、クミンを少しかけたら、食えるんじゃないか?」



 女は彼を見た。その目には「正気? 本気で言ってるの?」という戦慄が浮かんでいた。



「……あれは……死体を食べるのよ……」



「俺たちは今、死体以下だ」翰文(ハンウェン)は自嘲気味に笑った。「サバイバル学において、炭水化物は神であり、タンパク質はイエス・キリストだ。味について語る資格があるのは、生きてる奴だけさ」



 その時、脳内の「残り火(エンバー)」が、ジッという微かな音と共に跳ねた。



 それは激痛ではなく、接触不良の電線のような微弱な痺れだった。危険信号ではない。「前方注意」の合図だ。



 翰文(ハンウェン)は足を止め、目を細めて闇の果てを見た。



 そこでは、二本の銀色のレールが分岐していた。そして分岐点の横に、巨大な影がぼんやりと聳え立っていた。



 支柱ではない。それは……プラットホームだ。



「……着いたぞ」




 翰文(ハンウェン)は精神を奮い立たせ、動かない足を引きずって速度を上げた。近づくにつれ、前方の影の輪郭が明確になっていく。



 確かにそれはステーションだった。とっくの昔に廃棄され、分厚い塵が積もった地下の停車場だ。巨大な金属のドームが上部を覆い、いくつかの壊れた案内板が柱に歪んでぶら下がっている。地面には無数の遺留品が散乱していた――錆びたトランク、腐りかけた衣類、そして空っぽのベンチの列。



 ここにはかつて人がいた。大勢の人が。散らばった荷物は、パニックの中で遺棄された動かぬ証拠だ。



 翰文(ハンウェン)は苦労してホームに上がった。足元の灰が舞い上がり、咳き込む。彼は足を引きずりながら案内板の一つに近づき、表面の積もった灰を手で拭った。



 指先が冷たい金属板に触れた瞬間、鋭い「ジッ」というノイズと共に、古い汗と安物の香水が混じったような匂いが、暴力的に鼻腔へ雪崩れ込んできた。



 刹那、無数の鋭利な音波が実体のあるドリルと化し、翰文(ハンウェン)の鼓膜を穿った。子供の悲痛な泣き声、警報機の断末魔のような長鳴、押し合いへし合いの中で骨が折れる乾いた音……。



 すべてが沸騰した「絶望のスープ」となって、彼の脳内に流し込まれた。



『……急げ! ゲートが閉まるぞ!』



『これが地上へ行く最終便だ……押すな!』



 視界の中で、無数の歪んだ顔が拡大し、重なり合う。汗と涙の酸っぱい臭いが充満する。



 人の波は巨大な挽肉機と化していた。あの狭いゲートを奪い合うために、生きた人間が生きた人間を踏みつけ、靴底が指を砕き、肘が肋骨を折る。人々の顔には恐怖が張り付いていた。彼らは薄っぺらい切符を命綱のように握りしめ、爪が紙を突き破って掌に食い込んでいた。



 パチンという乾いた音と共に、頭上の照明が前触れもなく消えた。



 絶対的な闇が、分厚い死体袋のように全員を覆い隠した。騒々しかった悲鳴が、何らかの恐怖の力によって一刀両断にされた。



 悲鳴が止んだ。世界は心臓が止まるような死寂に包まれた。



「うっ……」



 翰文(ハンウェン)は頭を振り、自分のものではない絶望の記憶を振り払った。この場所で……かつて大脱出が行われたのだ。そして明らかに、大部分の人間は逃げられなかった。



 脳内の激痛は、数千メートルの地下に生き埋めにされたような閉塞感を伴っていた。



 あの「残り火(エンバー)」は、この案内板に残留していた数千人分の絶望を、翰文(ハンウェン)の手足が冷たくなるような直感へと翻訳した。



『ここは「第七節点(セブンス・ノード)」。血管のバルブだ。』



『最終便なんてなかった。それは嘘だ。』



『ゲートはずっと前にロックされていた。彼らは列車を待っていたんじゃない、死を待っていたんだ』



「……ここも……行き止まり?」



 背後の女が空っぽのレールを見つめ、絶望の混じった声で言った。



「そうとは限らない」



 翰文(ハンウェン)は息を整え、強制的に冷静さを取り戻した。彼はホームの端にある、半開きの金属扉を指差した。扉には「メンテナンス」や「管理」を意味する共通の歯車マークが描かれている。



「あそこだ。スタッフ用通路。もしこの駅に地上へ通じる場所があるなら、それは制御室か、通気口シャフトしかない」



 彼は女を連れてその扉へ向かった。隙間から強烈なカビ臭さが漂ってくる。翰文(ハンウェン)は深呼吸し、全身の力を込めて重い鉄の扉を押し開けた。



 ギィィィッという耳障りな金属音が、広大な駅に響き渡る。爪で黒板を引っ掻いたような音に、全身の鳥肌が立った。



 扉の向こうは狭い部屋だった。



 予想していた怪物や死体はなく、争った形跡もなかった。部屋の設えはシンプルで、机が一つ、椅子が一つ、そして壁には巨大な、すでに黄ばんで脆くなった地図があった。



 翰文(ハンウェン)は地図の前に飛びつき、女の手にあるペンダントで照らした。それは『地下律脈(レイ・ライン)交通図』だった。



 血管のように複雑に交差する無数のラインが、七つの異なるエリアを繋いでいる。そして彼らが今いる場所――赤い「第七節点(セブンス・ノード)」――は、この地図の最下層に位置していた。



 翰文(ハンウェン)の指がラインをなぞって上へと滑り、すぐに一本の細い点線で止まった。



 その線は分厚い岩盤を突き抜け、地図の最上部へと伸びていた。そこには彼にも理解できる共通アイコンが記されていた。雲のような、あるいは……風のようなマーク。



「……これを見ろ」翰文(ハンウェン)は震える声で言った。「これは……排気口か? それともエレベーターか?」



 女が急いで近づき、そのアイコンを見つめた。彼女の目がぱっと輝いた。それは彼女がこの地底に来て初めて見せた、希望に満ちた表情だった。



「……それは……風井(ウィンド・シャフト)……」



「……空へ通じる……肺だわ……」



 ついに道を見つけた。



 その道はいくつかの危険地帯を通過し、点線の横には「極度危険/乱流警告」という注釈があったが、少なくともそれは上への道だった。希望をもたらす道だ。



「上等だ」



 翰文(ハンウェン)はガタつく椅子にドカリと座り込んだ。腹の減りがさらに激しくなり、胃壁が自己消化を始めているようだ。



「目標は決まった。だがその前に、もう一つ哲学的な問題を解決しよう」



 彼は部屋の隅にある錆びたロッカーに目を向けた。そこからは何やら……食べ物が腐った後の甘い匂い、あるいはある種の防腐剤の匂いが漂っていた。



「あのロッカーの中に……まさか、**先史文明(数千年前)**の駅員が残した弁当が入ってるなんてことはないよな?」








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