第11話 : 硝煙、砕けた骨、そして物理学的な暴力
『手元にハンマーしかなければ、あらゆる問題は釘に見える。手元に一トンの「爆裂律晶」があれば、あらゆる遺跡はただの路上の障害物に見える。北陸人の哲学は至ってシンプルだ。「律」が通行を許可しないなら、「律」ごと爆破して通るまでだ』
——『北陸攻城兵団・爆破手操作マニュアル(戦時特装版)』
鼓膜の防御壁を一撃で粉砕するような、物理的な暴力としての轟音が響いた。
密閉された円筒形の空間において、爆発音は無限に増幅され、聴覚神経を直接殴打する。
直後、足元の金属階段が発狂した。
黒い塔の骨格全体が導体となり、底層で発生した壊滅的な衝撃を余すことなく伝導してきたのだ。螺旋階段は巨人が怒りに任せて振り回す鉄鎖のように、空中で激しく波打った。
「ぐわっ!」
李翰文は立っていることさえできなかった。
構造的な震盪によって、彼と女はまとめて空中に放り出された。まるでストライクを取られたボウリングのピンのように、手すりの金属柵に激突する。
「ゲホッ……ごふっ……な、何だ……」
五臓六腑が位置ズレを起こし、胃酸が逆流する。
口腔と鼻腔は瞬時に、苦く、強烈な酸味を帯びた粉塵で満たされた。
それは地球の火薬に似ているが、より刺激が強く、金属を強酸で腐食させたような焦げ臭さを伴っていた。
この世界における「人造の暴力」の象徴――硝煙の臭いだ。
彼は手すりにしがみつき、眩暈をこらえて螺旋階段の中央の空洞から下を覗き込んだ。
距離はあるが、底層の慘狀は一目瞭然だった。
下の円形ホール――十数分前に彼らがいた場所――は、今や煙の充満する瓦礫の山と化していた。
あの「灰律狩人」でさえ突破できなかった黒い壁に、縁が融解した巨大な風穴がこじ開けられている。
守護者であった幽青色の光幕は、接触不良の電球のように数回明滅した後、過負荷による悲鳴のような音を立てて、完全に消滅した。
「……光が……消えた……」
傍らの女が絶望的に呟く。拡大した瞳孔が、階下から侵入してくる火光を映し出している。
光幕が消え、外の「モノ」が雪崩れ込んできた。
だが、それは実体のない灰色の怪物たちではない。
人間だ。あるいは、鉄の缶詰に詰め込まれた生物兵器と言うべきか。
重厚な軍靴が石床を踏み砕く音が響く。そのリズムはあまりに整然としており、窒息しそうなほどの工業的な規律を感じさせる。
濃煙を蛮勇で引き裂き、灰黒色の分厚いコートに身を包んだ「人型の鉄塊」の集団が、濃厚なマシンオイルの臭気と共に空間を制圧した。
顔には昆虫の口器を思わせるフィルター付きのガスマスク。手には発光するパイプが巻き付いた粗暴な銃器。背中には巨大な金属タンクを背負い、そのインジケーターは狂ったように点滅し、律能エンジンが加圧される低い唸りを上げている。
脳内の「寄生虫」が、高圧電流のような鋭い警告音を発した。
今回の痛みは異質だった。鉄錆で歯を削られるような酸味と、脳漿に廃油を流し込まれるような粘着質な悪寒。
そいつは強引に、冷酷で残酷な幻覚を翰文の**眼裏**に焼き付ける。
――耳元で轟く、数千のピストンが一斉に叩きつけられる轟音。
――無数の喉が合成された、金属的なノイズ混じりの狂信的な咆哮。
『鉄と血の栄光のために!』
フラッシュバックする映像は抽象的な概念を超え、具体的すぎる地獄を見せる。
黒い油と鮮血が滴るベルトコンベア。出荷されたばかりの「死」が、湯気を立てながら鉄のフックに吊るされている。
視点が急激にズームし、乾いた血にまみれた冷たい鉄のベッド――手術台に激突する。
拘束革帯は被験者の抵抗で擦り切れ、空気には甘ったるい麻酔と腐臭が漂う。メスが大脳を切開し、「恐怖」という名の神経を腐った肉のように切除し、代わりに「服従」という名のゼンマイを埋め込んでいく。
こいつらは人間じゃない。人の皮を被った鉄の掟だ。
城壁をも粉砕する結晶を背負い、「律」を窒息させる装置を携えている。
その死んだ魚のような眼球の奥にある欲望はただ一つ――任務目標を、生きたまま檻に放り込むこと。
「捕獲部隊か?」翰文は頭蓋の激痛に耐え、歯を食いしばる。「誰を? あの女か? それとも……俺か?」
「……あそこだ!」
階下から、ガスマスク越しに籠もった怒号が響いた。音声処理されたその声は、金属を擦り合わせたように不快だ。
強烈な探照灯のビーム――何らかの結晶を燃焼させた枯れた黄色の光――が螺旋階段を直撃し、翰文と女の影を長く引き伸ばして曝け出した。
「目標確認! 風律反応あり!」
「制圧射撃開始! 女は殺すな!」
銃口が火を噴いた。
それは単発の銃声ではない。死のストロボだ。
発砲のたびに空気が高熱で焼かれる焦げ臭さが漂い、金属弾頭が空気を切り裂く金切り声が、耳元で致命的な網を編み上げていく。
弾丸が手すりの金属支柱を叩き、派手な火花を散らす。
「走れ!」翰文は女を無理やり引き立たせ、背中を押した。「頭を下げろ! 光を見るな!」
彼らは狭く、曲がりくねった階段を駆け上がった。
弾丸は怒れるスズメバチの群れとなって背後から追いすがり、石屑と鉄錆を撒き散らす。
一発の流れ弾が翰文のふくらはぎを掠め、肉を抉り取った。
「ぐッ……!」
鋭い痛みに息を飲むが、足は止められない。
怪物の噛みつきよりも、銃創の痛みは遥かに現実的だ。これは運動エネルギー兵器による、紛れもない物理ダメージだ。
「……奴ら……『抑律器』を持ってる……」女が喘ぎながら告げる。恐怖と酸素欠乏で顔色は土気色だ。「……ここでは……風が……使えない……」
「なら脚を使え!」翰文は吠えた。「俺だって超能力なんてねえよ! それでも犬みたいに走ってんだろ!」
階下からの足音が迫る。
兵士たちは外骨格のような機械式レッグガードを装着しており、登坂速度が異常に速い。重力を無視し、疲労を知らない機械の群れが、「捕獲」という命令だけを遂行するために迫ってくる。
前触れはなかった。
足元の金属が、地獄の蓋が開いたような轟音を立てた。
各層のプレートが互いに軋み合い、黒い塔の骨格そのものが、刹那にして覚醒したのだ。
地底深くに埋もれた臓器から発せられた暴怒のエネルギーが、すべての配管、すべての壁面を伝って狂気的に駆け上がってくる。
振動は靴底のクッションを無視し、翰文の足裏から侵入して脛骨を駆け抜け、脳天を直撃した。歯の根が合わず、視界が激しいブレで残像と化す。
掴んでいた手すりが、急速に熱を帯び始めた。パイプの中をマグマが流れているかのように。
壁面を緩やかに流れていた青い光路は、瞬時に激昂した赤色へと変貌する。
心臓発作を起こしたような、低周波の不吉な駆動音が空間を圧迫し、平衡感覚を狂わせる。
脳内の「寄生虫」が、皮膚を生きたまま剥がされるような幻痛と共に、絶叫にも似た警報を発した。
この塔は傷ついた。そして今、激怒している。
寄生虫は、この超巨大建築物の「暴走」を、破滅的な直感へと翻訳した。
『奴らは塔を痛めつけた』
『扉を爆破し、血管を土足で踏み荒らした』
『今、塔は目覚めた。防御するつもりはない』
『免疫システムを起動し、侵入した細菌を……すべて圧殺するつもりだ』
「伏せろ!」
翰文の直感――あるいは脳内の寄生虫の狂った予知――が、彼の命を救った。
即座に女の頭を押さえつけ、二人は階段の上に重なるようにして伏せた。
その瞬間。
塔の上部の闇が、崩落した。
目に見えるほどの密度を持った「重力波」が、轟音と共に叩きつけられたのだ。
風でも火でもない。空間そのものに数千万トンの質量が付与された。空気は凝固した水銀へと変質し、直立するすべての物体を無慈悲に押し潰す。
「ギャアアアアアアッ――!」
階下から、この世のものとは思えない惨劇の音が響いた。
翰文は床に張り付きながら、背中に千トンの巨岩を乗せられたような圧迫感に呻いた。指一本動かせない。肋骨が軋み、限界を訴える。
眼球だけを動かし、下の様子を盗み見る。
突撃していた北陸の兵士たちは、見えざる巨人の掌で叩き潰された虫のようだった。
堅牢なはずの金属装備が飴細工のようにひしゃげ、外骨格のフレームが弾け飛び、肉体に食い込む。
骨が砕ける湿った破砕音と、背負った律能タンクが圧壊する破裂音が連鎖する。
十数名の完全武装兵士が、瞬きする間に、識別不可能な有機的なシミへと還元された。
ガスマスクの隙間から鮮血が噴き出し、漏れ出した律能ガスと混ざり合って、階段を汚濁していく。
「……これが……塔の……怒り……」
女が床にへばりついたまま呟く。その声に驚きはない。彼女はこの塔の癇癪を知っていたかのように。
翰文は吐き気をこらえ、その惨状から目を逸らした。
あまりに残虐だ。これは防衛ではない。虐殺だ。
この塔は、このような無作法な侵入を決して許さない。人類の理解を超越した物理法則を行使し、これらの「細菌」を消毒したのだ。
重力波は十秒ほど続いた。そして、現れた時と同じ唐突さで、霧散した。
翰文は貪るように呼吸した。潰れかけた肺がようやく拡張を取り戻す。
よろめきながら立ち上がり、下のねじ曲がった金属と肉の残骸を見下ろす。生存者はゼロ。最新鋭の装備も、練度を極めた戦術も、圧倒的な質量の前では悪い冗談に過ぎなかった。
「……俺たち……無事か?」
自分の体を確かめる。擦り傷と打撲以外、あの重力波によるダメージはない。
「……塔が……あなたを……認めた……」
女が壁を支えに立ち上がる。翰文を見る目は、恐怖に近い畏敬に彩られていた。「……私たちを……攻撃しなかった……」
翰文は自分の頭に手をやった。
脳内の「寄生虫」は、今は借りてきた猫のように大人しい。それどころか、奇妙な満腹感さえ漂わせている。
こいつが重力波のエネルギーを吸収したのか? それとも、こいつの存在自体が、この塔のVIPパスなのか?
「『悪質な入居者』がいるのも、悪いことばかりじゃないみたいだな」翰文は皮肉に笑った。「少なくとも、家賃分は働いてくれた」
階下には硝煙が立ち込めているが、あの死神のような軍靴の音は消えた。
とりあえずの安全は確保されたようだ。
だが、一瞬で一個小隊をミンチにするこの塔は、気まぐれを起こせばいつでも彼らを磨り潰せる。彼らは今、居眠りする猛獣の食道を這っているのだ。
唯一の活路は、上へ進むことだけ。
「行こう」
翰文は女の手を引き、死体の山を振り返ることなく歩き出した。
「塔の気が変わらないうちに、とっととこのクソったれな場所を抜けるぞ」
彼らが再び螺旋階段を登り始めると、背後の破壊された入口で、青い光の粒子が舞い始めた。傷口が癒合するように、ゆっくりと、しかし確実に穴を塞いでいく。
黒い塔は再び閉ざされた。
彼らを、外の世界から完全に隔絶するために。




