表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/24

ぴんくの髪の主人公




 家に帰ったルティは、さっそくカティをつかまえた。


 両親が夕食の支度をしてくれているのを手伝いたい気もちをおさえたルティは、逃げられないように両の肩を両の手でつかみ、これ以上ないくらい真剣に、カティのぴんくの瞳をのぞきこむ。



「カティが、きらきらした男が大すきなのは知ってる。重々知ってる。でも伴侶(予定)がいる男に手を出すのは、ほんとうに首が飛ぶし、泣く人がいるんだ。

 ひどいことをすると、ぜんぶ自分に返ってくるんだぞ!」



「はいはいはいはいはい」


 …………えぇ…………?


「……5回も言うの?」


 こんなに涙目になりそうなほど真剣に説得したのに?


 ちょっとうるっとしたルティに、カティは形のよい鼻を鳴らす。


「だって、ルティ、僕の顔を見たら説教なんだもん!」


 ああ、それはね、カティ


「毎日毎日毎日毎日『カティ!』って叫ばれて断罪されたり、ぶつかられたりする身にもなってくれ!」


 きゅるきゅるのぴんくの瞳が見開かれる。ふわふわのぴんくのまつげが、頼りなげに揺れる。ただそれだけが、こんなに愛らしい人を、他に知らない。



 ……ああ、これは皆、やられちゃうよな。


 カティを見るたび、しみじみ思う。

 ぴんくの髪の主人公チートは、対抗するのが大変だ。



 感慨にふけってしまったルティの『ぶつかられた』で渾身のポワエさまアタックをカティは思いだしたらしい。


「そうだ! ルティ、ほんとに怪我しなかった? 打ち身とかない? ひっどいよね、ポワエさま」


 うん。ちょっとね。全体重をのせたアタックは吹っ飛んだし痛かった。しかし


「いや、カティも充分ひどいから」


 ぷくりとカティの頬がふくれる。

 ふつうは子どもっぽいぶちゃいくになるのに、そんなことをしても可愛いとか、さすが主人公!


「えー、恋は自由じゃないの?」


「自由な恋をしてもいい人と、だめな人がいるだろう!」


 カティの唇が、きゅっととがる。


 はいはいはいはいはい、かわいいね。かわいいよ。

 家族には効かないがな!



「だめって、誰が決めるの?」


「……法律? 契約?」


「うわあ」


 ドン引いてる!


「いやいやいや、なんで俺のほうが酷い人みたいになってるかな──!?」


 ちょっと涙目なルティに、夕食の支度を終えた両親の援護が降ってきた!


「カティ、ほんとにいい加減にしないと、皆の首が並べられるから!」


「そうだよ、カティ! 王子はだめだよ!」


 両親が泣いてる。


「えー、でも、コタ殿下は攻略するの、いちばん簡単なんだよ? 肯定してあげれば、すぐになびいてくれちゃうの。ちょろ……えへ♡」


 いちおう、ちょろいと言いかけてやめる配慮をしたらしい。

 聞こえてるけど。



 うろんな目になる家族をよそに、カティのぴんくの瞳は、きゅるきゅるだ。


「僕、ほんとに、心から、この世界に生まれてよかったなって思う。前世では、どっかにはいたのかもしれないけど、実際にこんなにきらきらしてる男なんて見たことないもん。それが、きらきら男がよりどりみどりなんだよ!? そりゃあ、よって取るよね。当たり前だよ!」


 テンションのあがるカティに反して、家族のテンションはだだ下がりだ。



「……いや、ふつう、よりどりみどりじゃない……」


「……なんでカティはこんな風に育ったかなあ……」


「生まれたときからこうだったよ……」


「いや、生まれる前からじゃ……?」



 ぴんくの髪の主人公のおかげで、家が暗い。








 一緒の部屋に並べたルティの寝台の隣には、いつもカティがいる。

 夜の天井を見あげると、小さな頃は怖かった染みが、今はなんだかいとおしい。


「カティの節操のなさにはびっくりするけど、よくあんなに男を、しかもきらきらしてるハイスペックな男を、ぽこぽこ落とせるな」


 寝返りを打ったカティは、ちいさく笑った。


「皆ねえ、さみしいんだよ」


「……さみしい?」


 カティのほうへ顔を向けたら、おそろいなのだろうぴんくの瞳が夜の闇に燈るようにきらめいた。


「顔がいい、能力が高い、位が高い、敬遠されて、畏れ多いってほとんどの人は近づいてこない。権力や富におもねる人だけが来るんだ」


「……ああ」


 なんとなく、わかる。


 ともだちなんて、ひとりもいない。

 誰も、ほんとうの自分を見てくれない。

 見ているのは自分の地位と財力だけ。



「病むよね?」


「……確かに」


「権力にも富にも何の興味もない、『もともとの出来が違う』とか『ハイスペックさっすが!』とか言わない、がんばってるところを認めて、ほめて『がんばってるんだね、すごいね、えらいね』って言うだけで、泣いてよろこんでくれるんだよ」


 カティの声には、ちょろさを嘲るようなところは、ひとつもなかった。

 さみしさを包みこむようなあたたかさと、いとおしさが香る。


 ……なるほど。

 これは、落ちる。



「……そうなのか」


「そうそう。あと僕のこの顔があればね! ぴんくの髪の主人公チートもあるのかも」


 ころころ、かろやかな鈴の声でカティが笑う。



 ぴんくの髪の主人公の弟は止めてほしいといつも思うけれど、酷い目にばかり遭っている気がするけれど、どうしてだろう、カティの弟でいるのは、いやじゃない。


 王子に手を出すのはやめないし、痴情のもつれが多過ぎるとか色々あっても、どんなに男を陥落させても、ちゃんと家に帰ってくる、身体をゆるしたりしない、家族を大切にしてくれるカティを信じているのかもしれない。



「僕が落とせなかった男って、トトだけだよ」









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ