傍にいないと
トトの闇色の髪が、夕焼けに染まる。
呆然とルティを見つめるトトの唇が、ふるえてる。
「…………ルティは、コタ殿下の……伴侶になるって…………」
かすれて落ちる声に、ルティは首をふる。
「ならないよ。俺の気もちは知ってるだろう」
トトの闇の瞳が、揺れた。
「……ルティが、コタ殿下の伴侶になることを喜んでるって……」
ルティを見つめるトトの顔が、ぐしゃりと歪んだ。
「身分をわきまえろ、愛する人のしあわせさえ願えないのかって──!」
悲鳴だった。
「恋人だったお前が傍にいたら、やさしいルティは、お前を裏切ったと心苦しく思うかもしれない。
ルティはきっと心から、しあわせになれない。
ほんとうにルティを愛しているなら、さいわいを願うなら辺境に行ってくれって……!」
いつもやさしい顔をくしゃくしゃにして、トトが叫ぶ。
……ああ、トトは、ルティがトトを捨てたと思ったんだ。
王子の伴侶という栄誉と地位と金に、負けたと思ったんだ。
「……信じたのか……?」
ルティの唇から落ちる声も、ふるえていた。
「最高の地位と栄誉とぜいたくが、生涯保証されるんだ。
……平民の俺と一緒になったって、苦労しかしないって言われて……そのとおり、で……だから……」
唇を噛むトトを、糾弾する資格は、ルティにはなかった。
おなじことを思ったからだ。
将軍という最高の地位と栄誉と盤石な将来に、負けたと思った。
トトは、自分を捨てたのだと。
──信じてる。
そういいながら、ほんとうは信じ切れていなかった。
──だいすき。
告げるくせに、おびえてた。
いつ、心変わりされるだろう。
いつ、すきじゃなくなるんだろう。
伴侶になったって、ひそやかに離縁は傍にいる。
いつだって、恋が終わるときは、一瞬だ。
愛は、憎しみに変わる。簡単に。
「……トト……」
きみを呼ぶ声さえ、ふるえてる。
「ごめん、ルティ、俺……!」
泣きだしそうなトトに、飛びかかるみたいに抱きついた。
「俺よりも将軍の地位を取ったんだって、俺も思った。
追いかけて『もういらない』『迷惑だ』『顔も見たくない』って言われたらって……こわくて……それでも、もう一度だけ、トトの気もちを聞きたくて、来たんだ」
「……ルティ……」
トトの声も、ふるえてる。
そっと、顔をあげる。
闇の瞳に映る自分が、頼りなく揺れている。
「すれ違うし、間違うし、信じきれないし、弱いし、はずかしいし、みっともない。そんな情けない俺も、トトのためなら髪と目の色を変えて追いかける俺も、ぜんぶ、俺で」
のばす腕で、抱きしめる。
「トトを、あいしてる」
こぼれた涙を、トトの腕が抱いた。
「ルティを、あいしてる。俺には、ルティだけ……」
ささやきが、涙に変わる。
「ごめん、ルティ。ごめん──!」
ルティの肩が、トトの涙で濡れてゆく。
ちいさな頭を抱きしめて、ルティは笑った。
「お相子だよ。お互い、信じられなかった。お互い、弱くて。お互いに、捨てられたと思った。
それでもトトに逢いにきたのは」
トトの胸に頬を寄せる。
「トトがいないと、生きられないから」




