十年以上の思いを込めて
久々の小説の投稿です
今日こそ告白しようと心に決めてから何日、いや何
年経っただろう。
まだ夏にもなっていないのに、今日もじめじめとしているし暑い。僕は暑がりだから五月でこんなに暑いなら、夏はどうなるのかとすでにビビっている。
カールした髪をさっと整えて、学生服に着替えながら、なんでこんなにできないのかと情けなくなってきていた。
告白する気はあるのに、いつも一歩が踏み出せない。
好きな人のこれまでの言葉の一つ一つ、表情全てをずっと覚えているのに。
彼女に惹かれたのは、四歳の時だった。
きっかけは、おままごとをしたことだ。
彼女が妻役をした時、子どもながらに心から楽しそうな顔をしているなと感じた。また、お話している時に彼女の温かい感じがなんだかいいなあと思った。
いつの間にか僕の心まで温かくなった。
正直、おままごとの内容よりも彼女の顔をずっと見ていた気がする。だから申し訳ないけど、おままごと自体はそんなに覚えていない。
その素敵という感情が頭からずっと離れなくなった。
その時、僕は恋をした。
今はそれから十年以上が経っている。僕たちは高校二年生になった。
彼女とは幼馴染みで幼稚園から今の高校までずっと同じ学校だ。家もすぐ近くだからいつも一緒に登校している。
高校に関しては、僕が彼女を追いかけて同じ学校を受験したことは、彼女には話していない。
「あっ、大和! おはよう」
彼女は、明るい声で今日も弾けんばかりの笑顔をしている。くりんとした目がぱちんと開いた。
僕の方が十センチぐらい背が高いから、彼女は自然と僕を見上げることになる。
言葉と表情だけで子どものようなかわいさを表現できる彼女を僕は本当に好きだ。
純粋さを感じることができるから。彼女から大人のようなずるさを感じたことがない。そこが特に好きだった。
人は大人になるにつれて、段々とずるさを覚えていくから。
こんな風に好きだなと思う瞬間は毎日何度もある。
もちろん、そんな感情は表情に出さないようにしている。
「ひなた。おはよう」
僕はいつものように彼女の家まで行き、彼女と登校し始めた。
話しながら学校に行くといういつもと変わり映えしない日常。でも今日の僕は、一味違う。
僕は今日こそ告白しようと強く意気込んでいるから。
「ひなた。今日の放課後予定ってある?」
そう意気込みながら、僕の胸はもうかなりドキドキしていて限界寸前だ。それでも、心の中で自分を応援した。
「特にないけど。どうしたの?」
「今日は帰りも一緒に帰りたいなあと思って⋯⋯」
少し言葉につまってしまった。
僕たちは、朝は一緒に登校しているけど、帰りは基本的に個々で誰かと一緒に帰っている。
「いいよ」
彼女はすぐに返事をくれた。
僕は内心かなりホッとしていた。
「じゃあ授業が終わったら、校門で待っててくれる?」
「わかった。あまり待たせないでね」と彼女は冗談めかしてそう言った。
お茶目なところに僕はまたきゅんとした。
授業が終わり校門に向かうと、彼女はもう待っていた。
僕は急いで向かっていると、彼女は手鏡を取り出して自分の顔を見ていた。
「ごめん。待たせたね」と僕が言うと、彼女は素早く手鏡をカバンの中に片付けた。
「待ってたよ」と彼女は色白な腕を振ってくれた。
腕とは対照的に、彼女の顔はなぜかほんのりと赤い。
「うん。あのさ⋯⋯」
僕は次の言葉がなかなかでてこなかった。でも、ここで言えなかったらいつもと同じだと思い、息をゆっくり深呼吸をした。
「今日はここに来てもらったのは、僕の思いを伝えるためなんだ」
「大和の思いを?」
「そう。僕は、ひなたが好きだ。付き合ってください」
僕は十年以上言えなかった思いを全て伝えるかのように言葉に思いを乗せた。
友だちは、メッセージや電話で好きな気持ちを伝える人が結構いるけど、僕は直接言うことを選んだ。
「うん。私も好きだよ。これからは恋人として仲良くしていこうね」
「よかったー」
僕の頬が緩んでいると、彼女は意地悪そうな笑みを浮かべていた。
「どうして笑うの?」
「十年以上も思いを伝えずただ温めていたなんて、やまとくんは怖がりでちゅねー」
彼女はちゃかしてきた。そう言われても、僕はイラッとはしなかった。たぶん普段からよく二人でふざけ合っているからだろう。
「そんな言い方しないでよー。えっ、でも、ちょっと待って。なんで十年以上って知っているの?」
「だって、大和の行動が好きバレしすぎなんだもん」
「嘘だよね!?」
僕は目を大きく開き、開いた口にも手も当てた。
「それが、嘘じゃないんだなあー。好きバレエピソードは山ほどあるけど、どれがいいかな。高校は私を追いかけてこの高校を選んだんでしょ?」
「なんでそれを知っているの?」
僕は心底びっくりした。そのことは誰にも言っていなかったから。
「大和を見てたらわかるよー。私は幼稚園のころからずっと告白してくれるのを待ってたんだからね」
「そうだったんだね。めちゃくちゃ恥ずかしい。なかなか告白できずにごめんね」
僕は下を向いた。
「私から告白してもよかったんだけどね」
「えっ、今なんて言ったの?」
彼女がぼそっと何かを言った。
「教えてあげない」
「えー、教えてくれてもいいじゃん」
「だって、恥ずかしいもん」
「絶対結婚しようね。だって、ひなたがおままごとしていた時に、『けっこん、いいなあ』って言ってたからね」
僕は少し反撃をしてみた。彼女も焦るかなと思ったのだ。
二人で約束はしていないけど、彼女が何気なく言った言葉を僕は叶えてあげたいと本気で思っていることは確かだけど。
「うっ、うん。しようね。覚えていてくれていたんだ」
彼女は顔を真っ赤にして、照れていた。恥ずかしがり屋な一面を初めて見たかもしれない。
照れている姿もかわいいなと思いながらも、予想外の反応に、僕まで照れてきた。
「自分で言って照れるのは、反則でしょ。と、とにかく、これからよろしくね!」と彼女は早口で言った。
今年の夏は、暑さなんか忘れて楽しめそうだと思えたのだった。
お読み頂きありがとうございます。
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