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短編小説 『22時30分 トー横前で僕たちは』

作者: 和泉和真

登場人物


主人公 天城あまぎ 隼人はやと

高校2年 17歳

身長168cm

B型

鉄○会SA出身。親の躾が厳しい、趣味もなく、特技もなく、勉強が得意なことが取り柄。


友人 神尾かみお 颯太そうた

高校2年 16歳

178cm

O型

鉄○会A3出身。天城と5年間の付き合いで人当たりがよく、FPSとスポーツ全般が得意。


ヒロイン 立花 さやか

21歳

153cm

O型


21時53分、本来の終了時刻から1時間半にも及ぶ延長の末、生物の授業が終了する。中学から通い始め約5年、3週目に入った高校範囲は依然として退屈さを増していく。帰っても学校でも塾の課題をこなし、青春と言い張りドブに捨てている時間をかき集めて、最高学府を手に入れるために日々机に向かっている。

「隼人、トー横行こうぜ」

『トー横』東京都新宿区歌舞伎町、新宿東宝ビル周辺の総称である。

「何しに?」

「気分転換だよ、目の保養も大事だからな」

そうやって目先の快楽しか気にしないから人は落ちぶれていく。塾の校内テストでクラスがA2からA3に落第したくせに、神尾颯汰という人間は平然としているのだから救いようがない。

「利は」

「損得勘定で付き合うのはよせよ、俺たち友達だろ?」

あからさまなため息を吐いた所で表情一つ変えることなく、人の弱い所を容易くつついてくる。分かりきった課題の山を繰り返す毎日に、さほど真面目じゃない神尾の笑顔が眩しく見え、断る手段がこれしかないと自分に嘘をついた。

「寄ったらすぐ帰る」

「おう」

代々木から、ネオンの光を浴びた吐瀉物と、夜を知らない繁華街を歩いて10分、歌舞伎町ゲートをくぐってトー横に着いた。ビビットに色めく繁華街、違う世界に住んでいる同年代、画面の向こう側にあった見慣れない景色に胸の奥がざわつく。若者の拠り所として存在する反面、薬の蔓延や性的搾取を原因にバリケードが敷かれでも尚、若者は絶えずここに集まってくる。

家庭や社会から居所を失った人達が床に座り、お構い無しにあちこちにゴミが捨てられ、人の皮を被った鼠が和気藹々と戯れている。その中に制服姿をした神尾が、タッパーに入れた液体をストローで吸いながらその鼠の群れに混じっている。

「来いよ天城」

「いいよ僕は」

昔から神尾という人間は気がつけば周りに人がいて、その対極にいるのが私である。趣味なければ特技もなく、全て母の指示に従って生きてきたからこそ今の自分が形成され、それに似た不遇な環境から逃げ場を探した人がここに集約されている。こういう場所にはホストや地雷系ばかりなのかと思えば、大多数は街中でよく見るような外見の人ばかりで、この悪評はマスゴミの情報統制が機能しているのだろう。ポールによりかかりながら辺りを見渡すと、路上喫煙をしているリクルート姿の女性が、ホストのような金髪の人に言い寄られている。どちらも倫理道徳など既に欠如していると思いながら、不覚にもその2人と目が合い、咄嗟に目線をずらしたつもりが声をかけられた。

「お、和夫じゃん」

「え」

「誰こいつ」

「弟、言ってなかったっけ?今中学生でさ」

知らない人に和夫という知らない名前がつけられて、頭1つ違う高さをした金髪の人に顔を近づけられ、1歩、また1歩と詰められている。

「お、弟の和夫…です…うちの姉がいつもお世話になっています。」

普段感じもしない緊張感が走る。喉が詰まるような長い体感に、中のシャツが汗で張り付く。黒い歯が目立つ生ゴミのような臭い息を漏らしながらその金髪は私の顔をつかみ、名前をつけたそこにいる女性と比較している。

「似てねぇなぁ…中坊がこんな道歩いてんじゃねぇぞ」

「塾帰りで…」

嘘はついていない。ようやく振り絞った声は、自分のものとは思えないほどに細かった。何か言わなければと焦りながら、言葉が喉で突っかかる。

「弟来たから帰るわ、もう金輪際関わらないでね」

酷く理不尽な罵声を浴びながらも屈せずに、金髪の男に吸ってたタバコを押し付け中指を立てながら、連れられるがまま私たちは人混みに消えていった。

「悪いねぇ、付き合わせて」

「あぁいえ、僕何もしてないので」

「なんか奢るよ、ファ○マでいい?」

見ず知らずの人に連れられ、見ず知らずの人に奢られるなんて、不審者対応訓練なんかなら確実にNOと答えるところだが、現実はそうでも無い。

「では、お言葉に甘えて」

ファ○リーマートに入って、ファ○チキを1つと、赤と黒の箱をした煙草をワンカートン購入し店を後にした。神尾を1人置いてきてしまったことを今更思い出すが、あいつのことだから1人でも大丈夫だろうとメールを1文入れスマホをしまう。店の前に並んだガードレールに寄りかかり、先程買ってもらったファ○チキを頂いてその人の横で食べている。

「お名前…聞いてもいいですか?」

「私?立花さやか、立花以外ならなんでもいいよ、あんたは」

「天城隼人です、高校2年です。」

「そう畏まらないで話しずらい」

「すみません…」

男子校である故、女子と話す機会など滅多になく、男女どちらもいる塾であろうと話す機会がないため、耐性などついていないのだ。

「あの、さっきの人って」

「あ〜元竿」

「…なんですかそれ」

「わかんなくていいよ、1本いる?」

そう言ってポケットから先程吸っていた普通の煙草ではなく、電子煙草を渡してきた。

「20歳まで我慢します。」

「偉いね君は、何を生き甲斐にしてるわけ」

「生き甲斐…勉強ですかね」

小学校も中学校も高校も全て勉強に捧げてきた。そのおかげで、東大進学塾とも言われる鉄○会で最上位のSAにいることだけが、私という人間の存在価値にあたると思う。

「真面目だね、私はこの1本が生き甲斐だよ。」

「タバコ吸ってる人よくそう言いますね」

そう言って煙草の箱を見せびらかしつつ、中から取り出し口にくわえた1本を手で覆い火をつける。体に巡った煙を空に吐いているその光景は、普段ならば嫌悪するはずにもかかわらず妖々しく、艶やかに感じた。

「天城くん高校も頭いいの?」

「一応、開○です。」

「そりゃあそうか」

何か腑に落ちたように納得し、煙草から出た灰を親指でフィルター部分を弾き地面に落とした。

「お姉さんは?」

「私?大学中退してそこの快○でアルバイトしてる」

「元々は」

「お茶の○女子大ってとこ行ってたよ、内部だからそんなすごくないけど」

〝女子大の東大〟なんて異名を持つ数少ない国立の女子大学である。

「名門じゃないですか…なんで中退したんですか?」

「鬱病になって家から1歩も動けなくなった時があったから、一旦休もうかなって」

休学でも留年でもなく退学。その選択肢が彼女の選んだ道なら否定はしたくないが、あまりにも勿体ない話であることに間違いは無い。

「偉いですね、そこから外に出てバイトなんて」

リクルート姿にそぐわず、耳の至る所にピアスの穴が隠す気もないように空いているその容姿からは想像ができない。

「でしょ、新宿は色んな人が面白いよ。」

「新宿のネットカフェって変な客多そうですね」

「多いかも、そうそう、面白い話あるんだけどさ、」

リクルートスーツのアルバイトと塾帰りの高校生、普段なら対等に話すこともないだろう人が、トー横という空間で会話を混じえる。社会から拠り所なんて言われている所以が理解出来た気がした。

「キャッチって結構縦社会なんですね」

「君はまだ道外れちゃダメだよ」

「外れませんし外せません」

携帯電話からL○NEの着信音が鳴る。母かと思い開いてみれば神尾で、11時前にもかかわらずその時母にまだ返事をしていなかったことに気がつき、電話をスピーカーにして電話に応じながら返事を打つ。

『隼人お前急にいなくなってどこいんだよ』

『ド○キ隣のファ○マ前、看板の上に金の○って書いてあるとこ』

『おっけーしたらG○GO辺り来て』

神尾との電話を切って、2本目の煙草を吸おうとしている彼女が気だるそうな顔で僕を見る。

「もう行くの」

「友達に呼ばれちゃって、最後1本頂いてもいいですか」

「ん」

高校2年、初めての煙草は見ず知らずの人から頂いた1本だった。20歳になってから吸うと発言した数分後にカッコつけようと思って頂いたそれは、吸い方ろくに分からずむせ返ってしまったので吸う前よりも余計格好がつかない。けど、煙を吸い込んだその一瞬だけは、私が大人であるような錯覚に酔いしれた。

「面白い子」

「煙草やっぱ不味いですよ」

「いずれ分かるようになるよ」

その時貰ったウィン○トンのレットを、成人してからは偶に持ち歩いては吸ってる。電子派にも関わらず、味も好きでもなく大して吸いもしない湿気ったそれを持ち歩いているのだから私は少し変わってるのかもしれない。

「白衣は持った?」

「あー手ぶらだった」

「何着目だよ、購買行くぞ」

神尾に連れられ喫煙所から出て、安田講堂を横切る。湿った煙草を吸いながらも、それはまだ僕にとって苦いだけの味だった。

読了後、もし良ければ感想やいいねを頂けますと幸いです。


今後の作品構成の参考にいたします。


お読み頂きありがとうございました。

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