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第7話 (やばいこれ死ぬわ)

 それからしばらく雑談をしている内にいつの間にか眠ってしまったようで気がつくと朝になっていた。隣を見るとすでに朧さんは起きていて着替えまで済ませていたようだったが私が目を覚ましたことにはまだ気づいていないようだ。悪戯心が湧いた私はそのまま薄目を開けて朧さんを観察しながら寝たふりをすることにした。

 すると彼はしばらく私を見つめていたがやがてそっと顔を近づけてきて私の頬に軽く口づけをした後で優しく頭を撫でてくれたのだった。


(やばいこれ死ぬわ)


 幸せすぎて心臓が破裂しそうになりながらも必死に耐える私だったがそれでも内心かなり動揺していた。朧さんはそれからしばらくの間私の頭を撫でてくれていたがやがて名残惜しそうに手を離す。

 私もさすがにそろそろ起きなければならない時間だったのでさも今起きたかのようにゆっくりと目を開くとそこには優しい笑みを浮かべた彼の姿があった。


「おはよう美帆」


 そう言って微笑みかけてくる彼に私も笑顔で返すと起き上がって伸びをした後で言った。


「おはようございます、朧さん」


 そして二人で朝食を済ませた後で身支度を整えていると朧さんが妙音様に向かって声を上げた。


「妙音様、私に神使としての任を与えてください」


 それを聞いた妙音様は驚いたように言った。


『急にどうしたのだ?』


 朧さんは覚悟を決めたように淡々と続ける。


「元々妙音様は私の人嫌いを治して神使として働かせるため美帆の元に私を遣わせたのでしょう?ですが私は未だ美帆以外の人間と接することに慣れません……このままでは妙音様の期待にも応えられないでしょう。ですからどうか私に神使としての務めを果たす機会を与えてください」


 そう言って深々と頭を下げる朧さんの目には強い決意が見て取れた。その姿を見た妙音様はしばらく考え込んでいた様子だったがやがて静かに言った。


『そうか……それはありがたい申し出だが……一体どういう風の吹きまわしだ?あんなに人の子と関わるのを嫌がっていたお前が……』


 朧さんは一瞬言葉に詰まるもののすぐに顔を上げて言った。


「いえ、別に大した理由ではありません。妙音様がそこまで私のことを考えてくれていると知って、神使としての務めを果たしたいと思っただけです。ただそれだけのことです」


 それを聞いた妙音様は一瞬驚いたような声を上げるとクツクツと笑った後で言った。


『ふはは、そうか……ならば神使としてしっかり励めよ』


「はい!この命にかえても!」


 そう言って再び頭を下げる朧さんに対して妙音様は言った。


『では早速私の神域に来てもらうぞ。やってほしいことは山ほどある』


 朧さんはそれを聞くと緊張した面持ちで言った。


「美帆、そういう訳で私も今日から神使としての仕事に戻る。夜には帰ってくるから晩ごはんは一緒に作ろう」


 それを聞いた私は笑顔で言った。


「はい!楽しみに待ってますね!」


 朧さんは安心したような表情を見せるとそのまま妙音様の神域へと姿を消した。


 ***


 夜になり私が仕事を終えて帰ってくると朧さんはまだ帰ってきていないようで家の中は真っ暗だった。


(……朧さんが来る前はこれが普通だったのに、何だか寂しいな……)


 そんなことを考えながらリビングの電気をつけるとソファに座り込む。


(朧さん、早く帰ってこないかな……)


 そんなことを考えているうちに次第に睡魔に襲われウトウトしてきたところでボンッと音が聞こえたので慌てて飛び起きる。するとそこには予想通りというか何というか帰宅したばかりの朧さんの姿があった。

「ただいま」と笑顔で言う彼に私は駆け寄って抱きつくとその胸に顔を埋めた。


「……どうした?」


 少し戸惑った様子ながらも優しく頭を撫でてくれる彼の温もりを感じながら私は言った。


「いえ、ただちょっと甘えたくなって……」


 私がそう言うと彼はクスッと笑って言った。


「そうか、なら存分に甘えればいい」


「はい!ありがとうございます!」


 私は満面の笑みを浮かべると彼の胸に顔をグリグリ押し付けた後に頬擦りをしてその感触を楽しむとようやく満足したところで顔を上げた。

 それから二人で他愛のない会話をしながら夕食の準備をする。


「お仕事初日はどうでしたか?」


 私が尋ねると朧さんは少し考えるような仕草をした後に言った。


「……そうだな、なかなか骨が折れそうだ。やはり美帆以外の人の子はまだ苦手だ」


 それを聞いて私は少し心配になったものの、それでも朧さんなりに頑張ろうとしている姿に嬉しくなりながら言った。


「大丈夫ですよ!私も出来る限り協力しますから一緒に頑張りましょう!」


 それを聞いた朧さんは優しく微笑みながら言った。


「ありがとう、美帆が一緒なら心強いよ」


 そう言って私の頭を撫でる彼の表情はどこか照れくさそうなものだった。


「そういえば神使のお仕事ってどんな事をするんですか?」


 私が尋ねると彼は少し考え込んだ後で答えた。


「そうだな、簡単に言えば神と人の仲介役だ。神の意志を人間に伝えたり、逆に人の願いを神に届けたり……あとは神の力を借りて人や場所を守護し、災いや邪気を払ったり……まあそんなところだ」


 それを聞いて私は思わず感嘆の声を漏らしてしまった。


「へぇーすごいですね!そんな事が出来るんですね」


 それを聞いた朧さんは得意げな顔で言った。


「もちろんだ、私は神の眷属だからな。これくらい当然だとも!」


 そしてその後は他愛のない雑談をしながら夕食を食べた後に一緒に片付けをして、一息ついた後でソファに座ってテレビを観ながら寛いでいた。不意に隣に座っていた彼が私に寄りかかってきたかと思うとそのまま体重を預けてきたので慌てて受け止め、その顔を覗き込むと既に寝息を立てていた。どうやら疲れてしまったらしい。


(まあ無理もないか)


 そう思いながらも起こさないようにじっとしていることにした。動けないがその代わりに彼の存在を感じられるのでそれはそれで幸せだと思うことにする。


(これからも色々大変だろうけど二人で乗り越えていこうね、朧さん)


 心の中で呟きながら彼の髪にそっとキスをするとその温もりを感じながら私も目を閉じたのだった。

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