鏡よ鏡、世界で一番美しいのはだぁれ?
その晩、魔女様はルンルン気分でした。お小遣いを溜めてようやく買った“何でも応える魔法の鏡”が大手通販サイトの“ジャングル”からようやく届いたからです。早速自分の部屋に取り付けて、早速質問をしてみます。
「鏡よ鏡、世界で一番美しいのはだぁれ?」
しばらくは何の反応もありませんでした。ちょっとだけ魔女様はビビりました。もし仮に電源でも入れ忘れていたなら、動くはずのない鏡に話しかけている痛い大人の女性になってしまうからです。ですが、どうやら立ち上がりが遅かっただけのようで、やがて返答がありました。
『質問の内容が不適切です。美の優劣の基準は様々である為、お答えしかねます』
魔女様はそれを聞いて思いました。
“なんか、思ってたのと違う”
「あなた、“何でも答える”のじゃなかったの?」
『はい。何でも応えます』
「答えてないじゃない」
『応えています』
魔女様は少し黙ります。
――何か思い違いをしているかもしれない。
「じゃ、どうして答えられないのかをもう少し具体的に教えてよ」
『はい。何かの優劣を決めるのには基準が必要になって来ます。例えば、一口に“足の速さ”と言っても短距離走と長距離走ではまるで基準が異なっていて、それぞれに違ったメリットがあります。美についても同様で、時代や文化によって大きく変わります。例えば一説では首長族では首が長い方が女性は美しいとされているとも言われています。ですが、もちろん、日本では違います。ですから、基準を明確化しなれば誰が世界で一番美しいと言えるのかは分からないのです』
その説明を聞いて魔女様は思いました。
“こいつ、面倒くさい”
「もう、良いわよ。それなら、世間で平均的な男どもが好む基準で最も美しい女を教えなさい」
『なら、北〇景子とか、えな〇とか、東雲う〇とかじゃないですか?』
「あんた、てきとーに有名な女性を言っていない? それじゃ、あたしは何人を毒殺すれば良いのか分からないじゃない!」
最早、テロレベル。
『いえ、“有名”であるという点は、実際に美の基準にとって重要なのです』
「なんでよ?」
『美人だと感じる要素の一つに、“何度もその人を見ている”という点があるからです。有名人は当然ながら、目にする機会が多いですから、自然、美人に感じるようになっていくのです』
それを聞いて魔女様は言いました。
「そんなの、一体、わたしはどうすれば良いのよ?!」
それにあっさりと鏡は答えました。
『簡単です。あなたも有名になれば良いのです』
その後、魔女様は美魔女配信者としてネット界にデビューを果たし、一部でコアなファンを獲得する事になるのですが、それはまた別のお話です。