表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

6.暴走?

「呪い返し?」

 萌の説明を聞いたちとせの反応は、半信半疑と言った様子だった。もちろん中学生ともなれば、呪いやおまじないのようなオカルトを、眉唾に思うのは当然ではある。

三川(みかわ)さんは、ただのおまじないだと思ってるかも知れないけど、彩音(あやね)によると、それはどっちも同じものらしいです」

 (はじめ)は補足する。

「でも、ただの女の子のおまじないで、ふつうこんな騒ぎになる?」

「なってる」

 彩音は指摘する。

「それはまあ、そうなんだけど」

 ちとせは女子らしからぬ仕草で頭をかいた。

「おまじないの効果が本物だとして、詠美ちゃんは何をしたかったんだろう?」

「わかりません」

 萌は素直に言った。

「とにかく、ウワサはおまじないの効果をキミに届けるための手段であって、目的じゃないってことだよね。だとしたら……」

 ちとせは言葉を切って、まじまじと萌を見つめた。

「これは、ちょっと、なんと言うかすごく考えにくいんだけど、もしかすると詠美ちゃんは、ウワサにあったようなことを、キミとしたいんじゃ?」

「ウワサにあったようなことって……いや、ありえないでしょ!」

 萌は顔を真っ赤にして否定した。学校一の美少女が、自分とデートや間接キスをしたがってるとは思えない。

「うん。言った私も、ちょっとどうかと思ってる」

 彩音と直哉も、そろって顔の前で手を振っていた。

「でも、他に考えられないんだよなあ」

「本人に聞くのが早いっスよ」

 と、直哉(なおや)

「いや、でも」

 ちとせは躊躇する。

「僕も直哉に賛成です。目的が何かは別にして、もしまだおまじないを続けてるなら、早くやめるように言わないと。ウワサがエスカレートして、三川さんが変な誤解を受けるかも知れない」

 そもそも現状でも、かなり厄介なことになっている。なにせ六人もの相手に、付き合ってると言うウワサが立てられているのだ。ちとせが最初に指摘したように、いずれ「三川さんは六股してる」などと、ありもしない話に発展しかねない。

「今ならまだ教室に残ってるかも。行ってみようぜ」

 結論を待たずに、直哉は中庭を出た。そのあとを、三人がぞろぞろと付いて行く。そうして一年三組の教室までやって来ると、直哉は入口近くの机で帰り支度をしている女子を捕まえ、「三川さん、いる?」と話しかけた。

 女子は教室の中をきょろきょろと見まわしてから、なにやら狐につままれたような顔をする。

「もう帰ったみたい。さっきまでいたんだけど……」

 どうやら一足遅かったようだ。

「そっかあ。それじゃあ明日、三川さんが来たら、大事な話があるから一組の間ノ瀬(まのせ)に会いに来てくれって伝言頼めるかな?」

 三組の女子は、めをぱちくりさせた。

「キミが、あの間ノ瀬くん?」

「いんや、おれは川平(かわひら)。間ノ瀬はこっち」

 直哉は萌を指差す。

「へえ、彼がそうなんだ」

 それだけ言って、女子はすっかり興味を失った様子で、直哉に目を戻した。まあ、当然の反応だ。萌は今や、話題の旬からはずれている上に、あとで「どんなひとだっけ?」となるような特徴のない容姿なのだ。これでは話のネタにもしにくい。

「わかった、伝えておくね」

 そう言って三組の女子は、帰り支度の続きを再開する。

「空振りだったなあ。また、明日かな?」

 これ以上、できることはなかったから、その場で解散となり四人はそれぞれ下校した。


 翌日、登校した萌と彩音に、直哉は困惑した様子で言う。

「もう、わけわかんねえよ」

「なにが?」

 と、萌。

「三川さんとウワサになってるのが六人って言っただろ。その六人全員と、三川さんが手を繋いでデートしてたらしい」

「三川さん、手何本あるの」

 もはやスキャンダラスをこえて、いっそ滑稽である。

「明日になったら六人とモックに行って、六人とシェイクをシェアしてたってウワサになるのかな?」

 六本のストローをいっぺんに加える詠美の姿は、なかなか想像しがたい。

 それでも直哉は、萌のトンデモ予想にうなずき同意する。

「ウワサってさ、みんなが『ありそう』って思う話が広まるもんだろ。けど、これはどう考えたって違うのに、誰も変だと思ってる感じじゃないんだ。なんか、おかしくね?」

 萌と直哉は、そろって彩音を見た。これはもう、なにかオカルトじみた現象と考えるべきではないか。

「昔も同じことがあった。ありえないことや、存在しないものを、本当みたいにウワサする現象」

「そうなの?」

 萌に思い当たる事件はない。

「口裂け女」

 彩音の回答を聞いて、萌はなるほどと納得する。とは言え、

「おれら生まれてないじゃん」

 直哉は指摘する。

 口裂け女は、四十年以上前に小中学生の間で流行った噂だった。萌の両親でも、その頃はまだ未就学児である。

「でも、みんなが知ってるくらい有名」

「確かに」

 直哉はしかめっ面で同意する。

「なんにしても、三川さんと直接会って話をした方がよさそうだね」

「そうだな。伝言がちゃんと通ってれば、あっちの方から来てくれるか」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ