表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

2.デートしてた?

 噂はすぐ立ち消えになると言う、直哉(なおや)の予想ははずれた。それどころか、土日をはさんで月曜日の朝になると、むしろ話がエスカレートしていた。なんでも、(はじめ)詠美(えいみ)が手を繋いでデートしていたそうな。

「それはないわ」

 またもや噂の真偽を尋ねてきた直哉に、彩音(あやね)が否定を返す。

「土日は萌の部屋で、ずっと一緒にゲームしてたから」

 一緒にと言うが、ゲームをしていたのは萌だけである。彩音はもっぱらマンガを読んでおり、たまにどこそこに敵がいるだのなんだのと、横からアドバイスをくれていた程度。

「一緒に?」

 直哉は目をぱちくりさせた。

「萌の部屋で?」

「そんなことより、直哉だって僕とオンラインで対戦してたよね?」

 萌は指摘する。なんならボイスチャットもしていた。

「あ、そう言えばそうだった。それじゃあ、アリバイはばっちりだな」

「アリバイって」

 すっかり犯罪者扱いである。

「けど、これはちょっとマズいよな」

 直哉は腕を組んで難しい顔をする。

「なにが?」

「三上さん狙ってるヤツ多いからさ。上級生にも告白してフられたって人もいるってウワサだし。勘違いしたヤツから別れろってせまられたりするかもよ?」

「付き合ってもないのに」

「ウワサを真に受けてる連中は、そんなこと知らないからな」


 悪い予言は当たるものである。

 実際、その通りになった。

「キミが間ノ瀬(まのせ)?」

 その日の下校中、萌と彩音は上級生に通せんぼを食らったのだ。ショートカットで中性的な雰囲気の女子。なかなかの美人だ。

 何年生かはわからないが、身長は萌より高いし、体つきは彩音よりも大人っぽい。いや、比較対象に小学生体形の彩音を引き合いに出すのは、おそらく誤りである。それでも十二、三歳の萌たちよりも、目の前の彼女の方が年かさなのは間違いない。

「あ、はい。僕が間ノ瀬です」

「いつから?」

「え?」

「詠美ちゃんとは、いつから付き合ってるの?」

 はて、いつからだっけ? と、萌は記憶をたどる。が、そんなものあるはずもない。

「付き合ってないです」

 萌は正直に答えた。

「え?」

「付き合ってないです」

 萌は繰り返す。

「え、でも……」

 すると、彩音がずいと前に出る。そして、

「ウワサです」

 と、きっぱりと言う。

 上級生は彩音を見て、一瞬怯んだ。彩音の眼力は、相手が上級生だからと言って、いささかも効果が落ちるものではない。

「見て」

 彩音は親指で、肩越しに萌を指差す。

「なるほど」

 納得する上級生。

 萌としては、やはり傷つく。

「それ、三川さん本人には聞いてみたんですか?」

 いささか腹立ちまぎれに、萌は正論をぶつけた。

 上級生は目をしばたかせ、小さく首を振った。なにやら、思いもよらなかったと言いたげである。

「そもそも、僕ですよ。三川さんにしてみれば、きっと『誰それ?』って感じですよ。こんな、味のない麩菓子みたいな男子と付き合ってるだの手を繋いでデートしてただのって、ありもしないウワサで騒がれて、三川さんが迷惑してるって考えないんですか?」

「萌」

 彩音が口を挟む。

「なに?」

「味のない麩菓子は、ただのお麩」

 菓子ですらないと言う。

「いや、さすがにそこまで虚無じゃないよ。顔だって、まあ……そう悪くないし」

 上級生は慌てた様子で擁護する。

「うん、不細工ではない」

 彩音も同意する。

「うん。もしキミが誰かに告白したとして、見た目だけでお断りする女子はいないんじゃないかな。たぶん」

「ありがとうございます。ちょっと自信付きました」

「萌、ちょろすぎ」

 彩音がぼそりと言う。

 萌は聞こえなかったことにする。

「なんか変なコト聞いてごめんね。えーと……私、長与(ながよ)ちとせ。二年」

「僕は一年一組の間ノ瀬(まのせ)(はじめ)です。誤解が解けてよかったです」

「私は西山(にしやま)彩音(あやね)

 ちとせは一年生二人を微笑ましげに眺め、

「まあ、そうだよね。もうカノジョがいるのに、詠美ちゃんと付き合ってるはずがないよね」

 とんでもないことを言う。

「カノジョじゃない」

 彩音はきっぱり否定する。

「え。じゃあ、なんで一緒に帰ったりしてるの。仲良く並んで?」

 ちとせはきょとんとする。

「家が隣同士だから」

「ふーん、そうなの」

 ちとせの目に疑惑の色が浮かぶ

「でも、三川さんと付き合ってないのはホントです。って言うか、先輩こそ三川さんのなんなんですか?」

 萌は急いで言った。

「え。私は、その……」

 ちとせは明らかに動揺した。

「赤の他人」

 彩音はズバリと言う。

 ぐうの音も出ないちとせを見れば、それが図星であるとわかる。

「なんて言うか、ほら、遠くから見守っていたいって気持ちはあるんだけど、親しくなりたいとかお近づきになりたいとか、そんな恐れ多いことは考えてなくて……」

 ちとせは、しどろもどろに意味の分からない弁解を始める。

「よっぽど可愛いんですね、三川さんて。いっぺん、会ってみたいなあ」

 なんとなく興味をひかれ、萌はつぶやいた。

「ほう?」

 彩音がじろりとにらんできた。

「あ。いや、彩音だって気にならない?」

「ならない」

「あ、そう」

 二人のやり取りをぽかんと見ていたちとせは、またもや疑惑の目を向けてくる。

「ねえ、キミたちやっぱり付き合って……」

「「ないです」」

 息ぴったりに否やを返す萌と彩音だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ