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老人と羊のタイツ

作者: パン

ショートショートのホラー小説を書いてみました。





「今日は何か特別なことでもあるのかしら?」


 うららか介護園施設長の佐々木さんは、職員室に入ると、いつもと違う雰囲気に感じた。机の上には、白い毛糸や羊の頭の形をした帽子が山積みになっている。職員たちは、それらを手に取って、笑顔で話し合っている。




「あ、佐々木さん、おはようございます。今日は入所者様にサプライズを用意しています」


一番近くにいた松本さんが、嬉しそうに言った。




「サプライズ?何か楽しいことでも?」




「はい。今日は**羊祭り**です。職員全員で羊のタイツと帽子を着て、入所者様に余興を披露します。羊の鳴き声や動きを真似して、笑わせてあげます」




「羊祭り?そんなの初めて聞いたけど」




「私もです。でも、職員会議で決まったんですよ。入所者様が最近元気がないと感じているから、何か楽しませてあげたいということで」




「そうなんだ。それは良い考えだね。でも、羊のタイツってどこで手に入れたの?」




「実は、これは**入所者様から頂いたもの**なんですよ」




「え?入所者様から?」




「そうなんです。この施設には、昔羊飼いだった方が何人かいらっしゃるんです。その方々が、自分で作った羊の皮タイツや帽子を大切に持っていらっしゃるんですよ。私たちが羊祭りをすると聞いて、喜んで貸してくださったんです」




「そうだったんだ。それはありがたいね。でも、大丈夫かな?入所者様に返せるように気をつけてね」




「もちろんです。大事に使わせて頂きます」




「じゃあ、頑張ってね。私も見学させてもらいますよ」




 佐々木さんは、職員室を出て佐々木さんは職員室を出てしばらくコーヒーを飲みながら休憩した。そろそろ3時になり、余興が始まる頃合いだ。




「皆さん今日はお集まりいただきましてありがとうございます。


 今からどもはですね、羊の帽子を被りまして、白いタイツを着てみなさんを喜ばせたいと思います」


 


 そして職員たちは羊のタイツを着だした。松本がやけ似合っている。




「松本さん、男前」


「三浦さんも似合ってるよ」



 

 とみんなゲラゲラ笑い出す。


 サイダーを飲んでみんな楽しんでいるうちに老人たちは自分たちもその羊のタイツや帽子を着てみたいと言い出した。


 十勝さんもいいですよご自由にどうぞといってくれた。


 羊飼いの十勝さんの承諾を得ておじいさんおばあさんたちは各々タイツを着だした。そしてみんなで「メエー」と鳴くのだった。




「みんななかなか楽しんでいるな」




 その日の夜に佐々木さんは消灯時刻に点検をして回っていたが何だか胸騒ぎがした。


 その翌朝、施設のすべての老人たちが忽然と消えていなくなっていた。





「なんだこれは」




 と佐々木さんは驚いた。

 警察とみかん畑の管理員で捜索が始まった。しかしすぐに発見された。彼らは近くのみかん畑の中にポコッとあった空き地に潜んでいた。


 翌日の地方紙の一面にスクープで、山で老人たちは集団脱走と見出しが躍っていた。


(みんな認知症になってしまったのかな)



 と佐々木は考えた。


 この顛末を見ていた十勝は何かいわくありげに静かに笑った。実は十勝は羊をもう使った占い師でもあり、ユダヤの家系に連なるものであった。


 そこで家に代々伝わる羊の占いを利用し一計を案じたのだった。


 元々最初は施設のプログラムの余興でただみんなを笑わせたかっただけなのだ。しかし興が乗ってきて、ついやりすぎてしまった。


 禁忌を犯してしまった十勝は自分の能力を忌み嫌った。そしてもう二度とこのようなことが起きないように自分でまじないをかけた。


 その次の日、羊の帽子達はたまたま施設の外に運び出していた時に強い風が吹いてどこかに飛んでいってしまった。


 もったいないと職員や老人たちは思ったがそんな事もみな月日にかまけてそのうち忘れ去っていった。


 午後の青空が美しい、みかん畑が連なる丘の上の介護施設での奇談の一つである。

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