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衝撃の事実ー若気の至り

「カイ、あの男は?」


「こっそり逃げようとしていたので、ロープでぐるぐる巻きに縛ってそこに転がしておきました」


 とても良い笑顔でカイが指を指す先には、言葉通りロープで体中をぐるぐる巻きにされたミュルツ侯爵が床に転がされていた。


(い、いつの間に……)


 さすがは元魔王四天王の生まれ変わりである。

 ミュルツ侯爵の声が全く聞こえなかったということは、彼が叫ぶ間も与えないほど素早く拘束したということだ。

 ベルティーナがそっとカイを窺うと、その視線に気づいたカイがベルティーナににっこりと笑いかける。


(ひぃっ!!)


 心の中で叫びを上げ、固くなった表情にあらあらというようにカイは苦笑いを浮かべる。





「そんなことよりも、ラモン様! 先ほどおっしゃっていたのはどういうことですか?」


 マーラの言葉にレイモンドはやれやれといったふうに息を吐く。



「私はもうラモンではない。レイモンドだ。さっきの言葉は言った通りだ」


「言った通りって……それではラモン様は自ら聖女を招いて、力を使わせたというのですか?」


「だからそうだと言っている」


「な……何故ですか!?」


 ベルティーナもマーラと同じく驚きに目を見開く。




(やっぱりあの時、魔王はワザと私の力を受けたのね……でもどうして……?)


 二人の驚きの表情にカイはため息をつく。




「ですからそれでは伝わりませんよ、レイモンド様。何故レイモンド様がそのようなことをされたのかを知りたいのですから。ベルティーナ様も気になっている様子ですよ?」


 レイモンドはベルティーナのほうを見ると、仕方がないというように話し出す。




「私が聖女を招いたのは……私のことを倒してもらおうと思ったからだ」


「た、倒してもらうって……何故そのようなことを……」


「私はなりたくて魔王になったわけではないからな」



(なりたくてなったわけじゃないってどういうこと?)



 ベルティーナが頭を傾げていると、カイがそう言えばうというように尋ねる。


「ベルティーナ様は魔王がどのように決まるかご存知ですか?」



 もはやベルティーナが魔王を知っている、すなわち前世の記憶があるという体で進んでいく会話に、ベルティーナ自身も隠すことは諦める。

 レイモンドが前世のことを明かし、敵意はないとわかったのだ。

 ベルティーナはふっと息を吐くと、カイの言葉に返事をする。



「いえ、知りません」


「先代の魔王を倒したものが次の魔王になるんだ」


「それではレイモンド様も?」


 ベルティーナの質問にレイモンドは何とも言えない表情をする。

 それに苦笑を浮かべ、カイが答えた。



「レイモンド様の……いえ、ラモン様の場合は不幸な事故と申しますか……」


「事故ですか?」



 一体なにがあったのだろうと、レイモンドを見つめる。

 レイモンドは嫌なことを思い出したというように眉間に皺を寄せると、重たい口を開いた。



「迷惑な話だ……私は先代の魔王に城に来るように命じられたんだ」


「ラモン様は昔から力が強く、若い魔族の中ではその力は抜きん出ていました。周囲から一目置かれる存在でしたし、その噂を聞いた先代魔王が興味を持たれたようで、城に来るよう命じられたのです」



 カイがレイモンドの言葉を補足するように答える。


(カイさんだったかしら……この人魔王のこともだいぶ詳しいみたいね……)



 ベルティーナがカイを見つめていると、まるで心の声が聞こえているかのようにカイが答える。



「私は前世ではラモン様の家に古くから仕えていた執事の家系でして……ラモン様のことはよく知っているのです。レイモンド様の前世を知っているということは、私のことももうご存知だと思うのですが、私はその関係で魔王四天王に選ばれたのですよ」



 なるほどと頷きながらも何故考えていたことがわかったのかと内心、冷や汗をかく。


 カイが察しが良いのもあるが、ベルティーナは考えていることが顔に出やすいのだが、本人がそれに気づいていないところが残念なところである……


 そんなベルティーナの様子にレイモンドもふっと笑みを浮かべながらも話を続ける。




「カイが選ばれたのは実力もあったからだ。まぁそれはさておき、私はその先代の魔王に謁見の場で力を見せてみろと言われたんだ」



 当時の魔王から命じられたのなら、その場で力を見せるしかなかっただろう。

 しかしなぜそれで先代魔王を倒すことになってしまったのだろうか。

 ベルティーナは頭にはてなを浮かべながらレイモンドを見つめる。

 するとレイモンドはばつが悪そうにすっと視線を逸らした。




「あー……当時のラモン様はまだお若かったですし、人の命令には従いたくないという反抗期を爆発されてる時でして……しかも無理やり魔王城に連れて来られたので、すごく機嫌が悪かったんですよね……」



 レイモンドはむっとしつつ、カイを軽く睨む。



「……だがあれは先代の魔王が悪かったんだ」


「まぁ……それもそうなんですが……わかっていたことではあったんですよ……ラモン様はとにかく普通の魔族より異常に力が強いというのは……」



 そういうとカイが疲れた顔で遠くを見つめる。

 レイモンドも疲れたようにため息をついた。



「えっとそれは……?」


 二人の様子にベルティーナが恐る恐る尋ねる。




「本当に全力を出すつもりはなかったんだが……」


 レイモンドが言い訳がましく視線をそらす。

 そんなレイモンドの代わりにカイが続きを話し出した。


「とにかく機嫌の悪いラモン様は先代の魔王様の言葉を無視されていたのですが……ついに先代も実力行使に出られまして……ラモン様に避けれるものなら避けてみろと全力の力を放たれたんですよ。それをイライラしていたラモン様がその力を吸収して先代魔王様に弾き返されたんです。魔力を倍に上乗せして…………」


 カイはそこでふっと息を吐くと天を仰ぐ。そして最後に衝撃の事実を呟いた。


「そしてそのまま先代魔王は消滅したんですよね……」




「「え…………?」」


 その言葉にベルティーナと今まで黙って話を聞いていたマーラの声が重なる。

 そして二人がレイモンドに視線を向けるが、レイモンドは二人から視線を逸らすように背を向ける。



 魔王とは最も力の強い魔族がなるのだ。

 だからこそ先代魔王に勝つというのは魔族の中で頂点の力を持っていることを意味する。

 その頂点とも言える魔王の攻撃を防ぎ、さらには一撃で倒してしまうなど……



「だから事故だ。私は別に魔王になりたくてなったわけではない!」


「ええ。そうでしょうとも。何気なく怒りに任せて放った一撃でしたからね……その後の周りの動揺、そして魔王を倒すほどの力を簡単に出せてしまう次代の魔王に対しての恐怖……魔王城にそれまで勤めていた側近たちが辞めるのは十分な理由だったでしょうよ」


 そこで一呼吸入れると、カイの瞳から光が消える。

 そして感情のままに叫んだ。


「その皺寄せが全てこちらに回ってくるとはあの時は思ってませんでしたよ!」


 それまで冷静に話していたカイの疲れ切った表情と悲痛な叫びに、ベルティーナとマーラは状況を察して、哀れみの視線を向けるのだった。

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