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敵に回してはいけない二人

「ヴァイス公爵令嬢を探しに行かれるのですよね? 大きな声でしたので、こちらまで聞こえました」


「聞こえた……か……?」



 レイモンドが怒声をあげていたとき、近くに魔力の気配を感じていた。

 しかしそんなことを気にしている状況ではなかったので無視していたのだ。



(では先ほどの魔力の気配はこの男か……)


 こちらが騒がしいのに気づき、風属性の魔法でも使ってこちらの会話を聞いていたのだろう。



「ならば今が一刻を争うことはわかるだろう? 今は付き合っている暇などない」


 レイモンドがぴしゃりと言い放つ。

 そして足を前へと踏み出すが、それでもアロイスはレイモンドの前に割って入り、立ちはだかる。




「ええ。それはわかっています。ですがそのヴァイス公爵令嬢に関わることです」


「何……?」


 騒ぎを聞きつけたのか噂好きな貴族が集まってくる。

 レイモンドからすればそんな奴らはどうでもいい者たちだ。

 だがベルティーナが拐われたという事実が広まれば、それはベルティーナにとって今後不利になることだ。


「ここは人が多いです。少し移動しましょう」


 レイモンドは仕方がないというように、アロイスの言葉に頷くと、人がいない王宮の休憩室に移動した。





「それで? ベルティーナがどこにいるかわかるのか?」


「おそらくですが……シュバルツ騎士公爵閣下はオーディス・ミュルツ侯爵をどのように思われますか?」


「そのように私の反応を見なくてもいい。私も奴が怪しいとは思っていた。今は時間が惜しいんだ。端的に話してくれ」


 レイモンドの様子に信頼できると確信したアロイスは頷いた。




「では、ミュルツ侯爵が最近、王都内の街の教会に多額の寄付をしているのはご存知ですか?」


「寄付? あの男が教会に寄付とは怪しい話ではあるが……その話とベルティーナが何か関係があるのか?」


 アロイスが静かに頷くと、レイモンドははっと気づいたように目を見開く。そして表情を厳しいものに変える。



「まさか……その教会にベルティーナがいると……?」


「その可能性が高いと思われます。王都からミュルツ侯爵が出たという情報は入っていませんし、流石にドレス姿の女性を運び込むにはどこか建物の中でなければ人目につきます。自分の屋敷に運び込むなんて、証拠が残りそうな危険な真似をあの男がするとは思えません」


「確かに人目につかない場所は必要だが……」


 たとえ多額の寄付により、教会の施設を使えるよう手配していたとしても、教会に運び込めば、教会に住んでいる神父やシスターや孤児に気づかれる可能性もある。

 教会内部に勝手のわかる協力者がいなければ難しいだろう。


 レイモンドの表情でその疑問を察したようにアロイスが話しだす。



「その教会の神父がどうやら一枚噛んでいるようなんですよ。最近は頻繁にその教会に行っていたようです。ご存知かもしれませんが、あの教会には使われていない古い礼拝堂があります。そしてそこで教会の神父と会っていたようなのです」


「ではそこにベルティーナが囚われていると.……しかしどうやって高位の闇属性魔法を使える魔族を従えたのか……あの侯爵にそれほど力はなかったし、その神父が実は魔族なのか……?」


「いえ。先程教会で会っていたと話しましたが、侯爵と神父以外にどうやらもう一人誰かがいたようなのです」


「誰かとは?」


「すみません……それはよくわかっていません。その二人の姿を目撃したものに聞いても、もう一人の人物の記憶が曖昧なのです。もしかしたら魔法で認識阻害でもかけられていたのかもしれません……そしてそれができるとするなら……」


「黒幕は侯爵ではなく、高位魔族か……」



 レイモンドの言葉にアロイスは重々しく頷く。

 緊張から固い表情をしているアロイスに向かって突然ふっとレイモンドが微笑む。



「それだけ情報があれば十分だ。どうやら君が仕事ができるという噂は本当だったようだな」


 アロイスは意外な表情と言葉に驚いたように目を見開く。



「あ、ありがとうございます」


「それでは私はその教会に向かおう」


「あ、あの! シュバルツ騎士公爵閣下、お待ちください。一つお願いがあるのです」


 レイモンドはアロイスに何だと言葉を促すような視線を向ける。



「シュバルツ騎士公爵閣下が聖属性魔法使いの誘拐事件の捜査を担当されているとうかがいました。その権限で私にミュルツ侯爵の屋敷を捜査する許可を頂けませんか?」


「立ち入り捜査をさせろということか?」


「ミュルツ侯爵はおそらく確かな証拠がない限り、自分は無関係だと押し通す可能性があります。ですから言い逃れできない証拠が必要だと思うのです」


「なるほどな……」


 確かに今回ベルティーナが拐われた現場で侯爵は目撃されていない。

 もし教会に押し入っても混乱に乗じて逃げられれば後で逮捕するのが難しくなるかもしれない。



「わかった。許可しよう。そっちは任せる」


「ありがとうございます。必ずや証拠を押さえて見せます」


 二人は握手をすると黒い笑顔全開で笑い合った。



 その一部始終を部屋の端から見守っていたカイの顔が引き攣る。


「ベルティーナ様はやばい人たちを引きつける何かを持っているのですかね……」


 人のことは言えない自覚があるカイですら敬遠したい笑顔を浮かべる二人に、この人たちは敵に回すまいとカイは心に誓ったのだった。







「うっ…………わたし……なにが……?」


 ぼうっとした頭で目覚めたベルティーナは自分の記憶をぼやける頭で呼びさます。


(あれ……? 私どうしたんだっけ……? そうだ! パーティーに行く途中で……)


 馬車で襲われてから記憶がない。

 少しずつはっきりしてきた頭で状況を整理する。



(ここどこ……?)


 周囲に視線を向けると窓に目張りがされ、光が遮られている。

 しかし微かに漏れる光で奥にそびえる十字架が目に入る。


(ここって教会……?)


 周囲を確認しようと体を動かそうとするが、両手を後ろで縛られているため、思うように動けない。

 助けを呼ぼうにも布で口を縛られていてそれもできない。


(どうしよう……)


 全く訳のわからない状況に泣きたくなってくる。



「あら? 起きたの?」


 その時、まるで声だけで魅了されそうな美しい女性の声が教会内に響いた。


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