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仕事ができる執事でも規格外の人に仕えるのは大変です

 それから終始機嫌の良くなったレイモンドにベルティーナは屋敷まで送ってもらった。



「ありがとうございます」


 馬車から降りる時も、さよならをして別れる時もずっと笑顔で見送られ、ベルティーナは屋敷の扉をくぐるとふっと息を吐き出した。






「カイ」


「はい。レイモンド様、ここに」


 ベルティーナが屋敷に入ったことを確認するとレイモンドが低い声で呟いた。

 すると音もなく、レイモンドが顔を覗かせている馬車の窓の外に人影が現れる。


 青い髪を微かに揺らしながら、シュバルツ騎士公爵家の執事服を完璧に着こなした男性がレイモンドに礼をとる。

 それは先日、シュバルツ騎士公爵邸にベルティーナがお茶会に行った時に後ろに控えていた、魔王四天の生まれ変わりの執事だった。




「首尾は?」


「上々と言ったところでしょうか」


「そうか」


「ええ。ベルティーナ様の幼馴染、アロイス・ベルガーと言いましたっけ? 彼もなかなかやり手なようですね。流石はレイモンド様の行動予定を入手し、ベルティーナ様に情報を流していただけのことはありますね」


 カイは興味深いというようにニヤッと笑う。

 レイモンドは意外だというように目を見開いた。


「お前が認めるとは珍しいな……」


「そうですか? 私は仕事のできる者は普通に評価しますよ? でもまぁ彼のおかげで少し楽に情報が得られました」


「ベルガー伯の屋敷に忍び込んだのか?」


 カイは否定とも肯定とも取れない笑みを浮かべる。


「なかなか細かく情報を集めているようですよ? 内容もしっかり調べられていて、信頼できそうな感じでした。これは案外早く尻尾を出すかもしれません」


「そうか……では一旦そちらは彼に任せて、今日からお前はベルティーナの護衛に付け」




 レイモンドの言葉にカイは首を傾げる。


「私の記憶が正しければ、ベルティーナ様から護衛はやめてくれと言われて、レイモンド様も了承されていたように思うのですが? それにあの魔石も渡したのでしょう?」


「ああ。言われた。だからこそお前なのだ。他のものなら見つかるが、お前なら姿を見せず、気配も消して護衛できるだろう? 今の会話だってこっそり聞いていたくらいだしな」


「ベルティーナ様に嘘をつくのですか?」


「嘘ではない。ベルティーナは見られていると気疲れすると言っていた。見られていると感じていなければ疲れることもないし、気付かれることが無ければ嘘にはならない」



 カイはわざとらしくため息を吐くと、残念なものを見るような目でレイモンドを見つめる。そして小さな子供を宥めるように言い聞かせる。


「そういうのは屁理屈というのです。それに流石の私でも四六時中気配と姿を消して護衛などできませんよ」


「ならばあの失敗した魔石を使えばいい」



 嫌な事を思い出したというようにカイは眉を寄せる。

 そして先ほどより重い口調でレイモンドに問いかける。


「あの真っ黒に染まった魔石ですか? 一日に何個も失敗して、やっと最後に金色にできた時に出た失敗作ですか? 本当にあの時は一つ一体いくらすると考えているのかとずっと思っていましたよ。それにどうしたらあんな真っ黒な魔石が出来るのやら……どんな邪念をかけられたのですか?」



 ベルティーナは一つ作るのに一体どれだけ労力とお金ががかかったのかと思っていたが、実際のところレイモンドははるかに多い数の失敗作を作り出していた。

 それもあの金色の魔石一つを時間をかけてゆっくり作っていたのではなく、一日のうちに何個も他の魔石を制作していたのだ。

 それも魔石の許容量を超える魔力を流して割ってしまったものもあったりする。普通の人では考えられない異常すぎる魔力量だ。

 それをベルティーナが知ったなら顔を真っ青にしていたに違いない。




「邪念とは失礼だな。私はただ純粋にベルティーナをずっと見ていたいだとか、姿が消せれば四六時中一緒にいられるのではないかと考えていただけだ。決して邪念ではない。何故あんな黒く染まったのだろうな……?」


 カイは疲れた表情でため息をつく。


「ですからそれを邪念というのでしょう! 本当に危ない思考をお持ちですね……絶対にベルティーナ様に知られないようにしてください。絶対、今以上に警戒されますよ」


「そうなのか!? こんなに思っているだけなのに……」


 カイはまたも残念な者を見る目でレイモンドを見つめる。

 そして一つ息を吐くと意識を切り替えた。


「わかりました。とりあえずあの黒い魔石使ってこのままベルティーナ様の護衛は続行します」


「ああ。そうしてくれ。あの魔石の中には姿を隠せる加護がついたものがある。それを使え。おそらく動くとすればパーティーの日だろう。パーティーの日は私が側にいるから安全だ。カイはその日はベルガー伯爵家の息子の方についていろ。いろいろ情報が得られるだろう」


「かしこまりました」


 レイモンドは頷くと馬車を発進させるよう御者に伝え、ゆっくりと馬車が動き出す。

 カイは頭を下げてレイモンドの乗る馬車を見送った。




「魔石の中に姿隠せる物があるとか……あの思考はマジじゃないですか……本当にレイモンド様は……あ、この魔石か」


 カイは黒い魔石をどこからともなく手に出すと、やれやれというように頭を振りながら、一つ一つ確認を始める。

 そして一つの魔石をじっと見つめ、その魔石だけ残し他の魔石をまた一瞬でどこかへと消した。




 カイはヴァイス公爵家の屋敷の一角を見つめ、やれやれというように頭を掻いた。


「本当にあんな人に気に入られるなんて……ご愁傷様です」


 カイは哀れむようば表情を浮かべると、屋敷に向かって頭を下げた。

 そして「さて」と意識を切り替え、魔石をぎゅっと握り込む。

 すると次第にその姿が揺らぎ始め、次の瞬間、通りから人の姿は消えていた。


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