過大評価はやめてください
「ちょっと待ってくれって! ねーちゃん! 違うんだよ! こっちじゃない!!」
アベルが必死にベルティーナを止めようとするが、ベルティーナはどんどん路地の奥へと進んでいく。
一本二本と次々と角を曲がり、奥へ奥へと入って行く。
(ここなら……大丈夫かしら?)
だいぶ奥へと入り込み、大通りからも離れた。
人通りもなく、家の壁で囲まれていて、人から見られる確率も低い。
突然立ち止まったベルティーナにアベルはベルティーナの正面へと回り込む。
そして反対方向に指をさす。
「ねーちゃんあっちだって! 教会から離れちゃったじゃないか!!」
そんな怒ったような表情にベルティーナは優しく微笑んだ。
そして地面に腰を下ろし、フランの頭をそっと自分の膝の上にのせた。
「大丈夫! 私を信じて!」
「ねーちゃん一体何をしようとしてるんだよ?」
アベルの瞳が不安げに揺れる。
「信じて」
ベルティーナの真剣な表情と力強い声に、アベルは不安気な表情をしながらも小さく頷いた。
「わかったよ……」
ベルティーナはもう一度安心させるように微笑む。
そして大きく深呼吸した。
聖属性魔法の力を自分の中にため、それをフランを包み込むようにして解放する。
途端にベルティーナを中心に周囲が明るい光に包まれる。
「うわっ!! ……この光ってもしかして……」
突然の光に驚いた様子のアベルが呆然としてベルティーナを見つめる。
しばらくして光が徐々に収まると、ベルティーナはフランの様子を確認した。
先ほどまでの苦しそうな表情は消え、呼吸も穏やかになっている。
苦しさでぎゅっと閉じられていた目がピクリと動く。
そしてまつ毛を震わせてゆっくりと目が開いた。
「あれ……僕……」
「フラン!! 大丈夫か!? もう苦しくないか?」
アベルはすぐさまフランの隣に膝をつくと、心配そうに問いかける。
「うん! もう大丈夫だよ!」
フランの元気な声にアベルは泣き笑いのような表情で、フランに抱きついた。
「よかった! 本当によかった!! すっごい心配したんだぞ!」
「うん。ごめんね……」
二人の微笑ましい様子にベルティーナも自然と笑顔になる。
(よかった……もう大丈夫そうね)
にこにこと笑っているフランに先ほどまでの苦しそうな表情は全く見えない。
ベルティーナはフランの様子に安堵の息を吐いた。
「べ、ベルティーナ?」
突然聞こえた声にベルティーナはビクリと体を震わせる。
安堵の息を着いたのも束の間、今一番会いたくない人物の声にドキドキと鼓動が速まる。
何も聞かなかったことにして、無視してしまいたい。しかしそんなことはできない。
ベルティーナはゆっくり声の方へと顔を向ける。
「レ、レイモンド様……」
(やばい……どうしよう……どうしたらいいの? 今の魔法見られた……?)
焦りが胸の中に広がっていく。
ドキドキと鼓動がうるさいくらいに速くなり、緊張で手足の先が冷たくなる。
(どうして……? あんなに大通りからも離れたのに……)
ベルティーナは緊張でカラカラになった唇でなんとか声を出した。
「レイモンド様は……どうしてここに……?」
レイモンドはいつもの優しい笑顔ではなく、厳しい表情を浮かべ、ベルティーナを見つめる。
「ベルティーナが路地に入っていくところを見た……だから追いかけたんだ」
店員と話していて、ベルティーナのことは気づいていないと思っていたが、どうやらしっかりと見られていたらしい。
自分の迂闊さを後悔しても今さら遅い。
「それよりも、先ほどの光……あれは聖属性魔法だな?」
「えっと……そ、それは……」
先ほどの光景を見られたのであれば言い訳はできない。
しかし使ったのは癒しの力であり、聖女の浄化の力ではない。
聖属性魔法を使えるものは少なからずいるのだし、その者が必ずしも聖女というわけではない。
しかもまだレイモンドが前世の記憶を持っており、自分を倒した聖女を探していると決まったわけではないのだ。
ベルティーナは覚悟を決めて、自分を落ち着かせるように大きく息を吐き出した。
「はい……そうです……先ほどの魔法は聖属性魔法です……」
(大丈夫。大丈夫よ! さっき見られたのは浄化の力じゃないのだから。それに今重要なのは私が聖女の生まれ変わりではないと思わせることよ!)
自分にそう言い聞かせ、気を引き締める。
そしてレイモンドの次の言葉を待つ。
たとえ何を聞かれてもうまく答えられるようにとベルティーナはレイモンドをしっかりと見つめる。
そしてレイモンドが口を開こうとしたその時、子どもたちの声がそれを遮った。
「ねーちゃんって聖女様なの?」
ベルティーナはビクッと肩を揺らす。
まさか子どもたちの方からそんな豪速球が飛んでくるとは思っていなかった。
思ってもみない方向からの衝撃にベルティーナは言葉につまる。
しかしそんなベルティーナをよそに、元気なフランの声がそれを否定した。
「違うよ! おねえちゃんは天使様だよ!!」
「は? 天使? そんなわけねーだろ!」
(へ……? 天使? ……いやいや!! そんないいものじゃないですよ!!)
アベルのつっこみと同時にベルティーナも心の中でつっこむ。
「天使様だよ! だってこんなに綺麗なんだもん! こんな綺麗で優しい人初めて見たもん! ね? おねえちゃん、天使様なんでしょう?」
「あ……えっと……私はね……」
こんな手放しで褒められるのは恥ずかしい。
とりあえず否定はしなければと思うが、この子たちは教会孤児だと言っていた。
聖属性魔法が使える人間だと言えば、間違いなく教会に連絡がいくだろう。どのように伝えるのが一番良いのかベルティーナは必死で考える。
(でも天使なんて過大評価は絶対訂正しないと……恥ずかしすぎるわ!!)
ベルティーナは咄嗟に良い答えが浮かばず、それでもとりあえず天使ではないとだけ伝えようと、口を開こうとした。
しかしその時、そっと肩に優しく手が置かれた。




