突然の求婚
わかりにくい表現や誤字脱字などあるかと思いますが、お楽しみいただければ幸いです。
王族主催の華やかで豪華なパーティ。
美味しそうな食事に美しく着飾った人々。
その華やかで眩し過ぎる空間の中でも一際美しく、皆の注目の的になっている男性がいる。
今、その男性が片膝をつき、騎士然とした格好で、一人の女性に手を差し出した。
「ベルティーナ・ヴァイス公爵令嬢、どうか私と結婚してほしい」
「け、結婚!?」
求婚された女性、ヴァイス公爵家の令嬢ベルティーナは上擦った声を出す。
よろけて一歩後ろに後退すると、目を見開いて固まった。
誰もが予想外の求婚に、周りにいる女性達から興奮とも絶望ともとれる、黄色い悲鳴が会場に響き渡った。
そんな周りの反応もまるで見えていないかのように、男性はベルティーナの反応に微かに頬を染めて、恥ずかしげに頬をかく。
「すまない……はやる気持ちを抑えきれずに間違えてしまった。まずは婚約だな。どうか私の婚約者になってくれないだろうか?」
その場にいる、すべての人の視線が集中する中、ベルティーナは引き攣りそうになる頬を必死に笑みの形に整えた。そしてなんとか言葉を絞り出した。
「シュ、シュバルツ騎士公爵閣下。突然のことにとても驚いておりまして……大変申し訳ありませんが、今すぐお返事を申し上げることはできません」
あの騎士公爵からの求婚……相手がどの令嬢であっても必ず受け入れるだろうと皆が考える中、ベルティーナのまさかの返答に周囲がざわめく。
女性陣からはあの騎士公爵からの婚約の申し入れに、なぜ直ぐに了承しないのか、何様につもりだと非難の視線が飛ぶ。
レイモンド・シュバルツ騎士公爵。
艶やかな黒髪に金色の瞳を持つ、人並み外れた美貌の公爵である。
公爵家の中でも騎士公爵となれば、国の中では王家の次に位が高い。だからこそ同じ公爵家でも家格が下のベルティーナが婚約の申し入れを本人の意志だけですぐさま拒否することはできない。
騎士公爵とは戦闘能力が高く、戦に出れば一番の功績を上げるほどに武力に長けていると評価された者だけが拝命できる、名誉ある役職だ。最も武力に特化した、だた一つの公爵家だけが賜れる。
しかしそれも新たな公爵が襲名されれば、その個人を審査し決定されるため、いつの世でも騎士公爵があるとも限らない。
誰もが認める秀でた戦闘能力を持ち、全ての者の視線を奪うほどの美しすぎる容姿と均整のとれた体格。そして高い家格を持つ彼は、婚約者に名乗りを上げるものが後を絶たない。
どれほど美しい令嬢であっても選び放題であると噂されている。
しかし、人に対して無関心なのか、それほどの縁談があるにも関わらず全ての縁談を断っており、未だに婚約者はいなかった。
そう今までは……
「そうか……そうだな。突然すまなかった……いきなりこのようなことを言ってしまって、さぞ混乱させてしまったことだろう。だがどうか、私との婚約を前向きに考えてもらいたい」
普段の騎士公爵からは決して想像もできないほど美しく優しい笑みを浮かべ、ベルティーナを見つめる。
その誰もが見惚れる笑顔に、周囲でバタバタと一部の令嬢が卒倒し、普段の様子を知る者は開いた口が塞がらないという表情でその光景を見守る。
この騎士公爵はどれだけ美しい令嬢に声をかけられようと、たとえ王家の者に称賛されようと、まるで表情筋がないのかと思えるほどの無表情を貫く、麗しの騎士公爵のはずなのだ。
その場にいた全ての者が驚き、ざわめきが広がる中、ベルティーナは何とか笑顔で頷くと一礼し、その場を後にした。
早足で王宮の廊下を突き進み、まっすぐにヴァイス公爵家が用意した馬車に向かう。
なんとか馬車に乗り込み御者に合図を出す。
馬車が走り出したのを確認し、ベルティーナは体の力を抜き、はーーっと肺の中の空気を空にするほど長いため息をつく。そして絶望したように頭を抱えた。
(何でなの!? 今までずっと避けてきて、ちゃんと会ったのは今日が初めてのはず!)
ベルティーナは両手で自分の肩を抱き込むと絶叫したい気持ちを全力で抑える。
(何で……何でよ……)
ベルティーナがこれほど怯える理由、それは……
(何で前世で私が倒した、魔王の生まれ変わりの男と結婚なんかしなきゃいけないのよ!! いやよ!! 絶対お断りよ! 絶対何か裏がある! 何がなんでもこの求婚、断らなきゃ!!)
ベルティーナ・ヴァイス公爵令嬢。
彼女には秘密がある。
それは彼女が前世の記憶を持っているということ。
そしてその前世は聖女として召喚された日本人であるということだ。