おひとりさま。
やぁ諸君おはよう。昨日は人生ののっぴきならないアレのお蔭で転生したこっちの世界でもGM的な生活をする事になりました。ジンです。
今ワタクシは冒険者ギルドアガルタ支部の応接室…… 応接室? 的な処に来ています。
何故いつもの受付でも解体場でもなく、応接室? なのかと言うと、それは殺しyもとい、ギルドマスター直々の面談の為というのが理由になります。
因みに何故応接室という名称の後ろに"?"が付帯しているのかというと、一応部屋には対面式のソファーセット一式が据えられているものの、調度品と呼べる物がそれしかなく、また窓もない為テーブル上に置いてある蝋燭が唯一の明かりであったりする。
正直ナニコレぇ? と言いたい程奇妙なルームであるのだが、今のミーにはそっちに対して色々考察する余裕が無いと言うか、殺しy…… ゲフン、こっちを見るギルドマスターの視線が物凄い事になっているのと、恐らくはエルフだろう赤毛の女性もこっちの事を睨んでいる為である。
そして部屋唯一の調度品であるソファーセットのローテーブルの上には、『突然お腹が痛くなったので、面談は明日の朝にして下さい』と書かれた紙が一枚。
……思わず子供か!? と言いたくなるような言い訳であったりするのだが、どうやら昨日牡丹さんに言われて璃子さんがギルドに訪れたらしいのだが、その時俺がギルドへ来れない理由として受付で伝えた理由が、この"ポンポン痛いです"だったりする。
「狐のお宿の女将自ら伝言に来たのは驚いたぞ、いつの間に彼女を使いに出せる程の関係を築いたのかね?」
「いや何と言うか璃子さんがお知らせしてくれてるって知らなかったので、俺としても今びっくりしてまして」
……本音としては璃子さん云々ではなくて、ギルドに行けない理由の内容にビックリしてる訳だが。
「それで? お腹の具合はどうなのかね?」
「ア、ハイ、もう大丈夫です……」
「そうかね、なら話に入る前に彼女の紹介をしておこうか」
うん、何と言うかギルマスの隣でずっとこっちを睨んでるエルフさんの事ですね。何と言うかどこかで会った覚えも無いし、自慢じゃないけどシーカー関係に知り合いも居ないので正直"誰?"とは思ってたんですけど。
「彼女は冒険者クラン『ホワイトガーディアンズ』のサブマスター、ラクレリアだ」
「はじめまして、ホワイトガーディアンズでサブマスしてるラクレリア・ウィンブレイドよ、宜しくね」
……ホワイトガーディアンズ? 何かどっかで聞いた覚えがあるぞ? 確か『Dungeon Searcher』で同じ名前の大規模クランが存在した筈だけど、まさか……
「ふぅん? その反応は、ウチのクランを知ってる感じ、かしら?」
「えぇ、名前をお聞きした程度ですが」
「って事は貴方も異邦人で間違いないようね」
ギルドでの話し合いに異邦人系のクラン関係者が同席とか。これは面倒そうと言うか嫌な予感しかしないんですが。
「話に入る前に、Rankの更新手続きをしておくのでギルドカードを預かろう」
「ふぅん? これで三日連続Rankアップになるんでしょ? ジンなんて名前聞いた事ないんだけど、もしかして『Dungeon Searcher』じゃソロでやってたの?」
「えぇ、まぁそんな感じで」
「にしても噂のゴブ耳君は、ソロプレイヤーかつ高級旅館の常連客……と。そして少なくとも実力的にはCランク以上ねぇ」
おーぅ、何かズケズケとクるなぁ。値踏みしてる事を隠しもしないし、こっちの事を侮ってる節もなし、と。コレは一体何なんだろうかとギルマスを見れば、読んでいた数枚の書類をローテーブルに置いて、軽く溜息を吐いた後「さて」と言葉を口にする。
「シーカージン。先程受付から聞いた報告によると、お前は昨日小規模ダンジョン"三ノ迷宮"産の討伐部位を大量に持ち込んだと聞いたが、迷宮主にはまだ挑戦していないのか」
「一応踏破はしたんですけどね、色々あってボスの討伐部位を採取する事ができませんでした」
って言うか槍を取りに"裏"へ転移した後色々あって、それどころじゃなかったんだよ。そんな訳で一日の稼ぎはキープしてたけど、ボスの討伐部位の採取はできてないんだよなぁ。
「小規模とはいえ三日連続ダンジョン踏破? ソロで? 派手ねぇ。んまぁ確かにそんな事してたら変な虫がワラワラと寄ってきてもおかしくはないわね」
「今はまだアガルタ界隈でしか噂は流れてないがね、程なく勧誘という名の強制アプローチ合戦が始まるのは間違いない」
「え、まだ小規模ダンジョンしか踏破してないのに、そんな事になります?」
「なるのよっ! 只でさえ異邦人という存在は国同士のパワーバランスに関わる存在なのよ? 元々こっちに転生して来るのは『Dungeon Searcher』でそれなりに戦えてたプレイヤーばかりだし、変に活躍するとアンタ、普通に街で生活できなくなるわよ、分かってんの?」
「え、アガルタギルド所属のシーカーってそういうのとは無縁って聞いてたんですけど」
きっちり情報を精査した訳じゃないが、現在のアガルタに於ける環境を考えれば、異邦人を無理に引っ張っていくのは控える傾向にあるって情報はギルドが公言してる事だよな? 確かアガルタ辺境伯も自領でダンジョンアタックしている異邦人は保護するって方針だし。
「普通はまぁそうだな。しかしお前は色々とやり過ぎだ。少なくとも周辺各国が送り込んでいる間諜からはもう情報が其々の本国へと行っている事だろう」
「そうそう、まぁそういう訳でこのままだと折角の戦力がアガルタから流出しちゃう事になりかねないから、今日私が来たって訳」
何か話が変な方向に向きつつあると思うのは俺の気のせいだろうか。て言うか今日ここへ俺を呼び出したのはギルマスだった筈なので、この場にホワイトガーディアンズというクランの関係者が同席してるって事は、ギルドと深い関係にあると思っていいんだろうな。
「今ウチはクランという形で活動しているけど、実態としてはどこにも所属したくない異邦人の受け皿として活動していると言えば理解して貰えるかしら?」
「本来その役目はギルドが負うべき物なのだが、異邦人に関する事、とりわけ所属に関する事に関わってしまうと複数の国どころか、自国の貴族達すら相手にしなくてはならず、それだけで業務に支障が出てしまうのでな。取り敢えずそっち関係は彼女達に任せる事にしているのだよ」
「まぁウチは所属するのも抜けるのも自由だから、自分を取り巻く情勢が見えてくるまで所属してみたらどうかってね、今日はお誘いに来たのよ、ジン君」
「はぁ成程。大体の話は理解できましたけど、たかが一クランが国家を相手にできるだけの後ろ盾になり得るもんなんでしょうか」
「まぁね、結局その辺りは妥協する感じで何とかするしかないのよね」
「妥協?」
「そう、ウチは他国からの干渉を受けない代わりに、有事の際は戦力を出す契約を交わしているの。って言っても侵略戦争に関しては協力しないけどね」
「……防衛戦に関しては?」
「場合によっては介入するかも。侵攻側に異邦人が所属し、かつその戦いが一方的な侵略であった場合…… とかね」
「成程」
つまりは特定国家に所属したくないが、それなりの後ろ盾が欲しい異邦人の為のクランがホワイトガーディアンズって訳か。ふむ、確かに筋は通っているし、転生したての異邦人的にはこういう組織は必要になってくるんだろうな。
でもなぁ…… 俺自身そういうバックアップは必要としてないから感じちゃうんだよなぁ、結局それってさ、特定国家に所属しないならクランに所属しなきゃどうにもなんないって事だろ? それ分かってて「所属するも抜けるも自由」って言い方は卑怯なんじゃないかって思う訳よ。
形的にはこっちから「お願い」して所属する事になるんだから。所属を希望する異邦人に対しても、周辺各国に対しても、ギルドに対しても、このクランはそれなりにマウントが取れる立場にあるって訳だ。
「取り敢えず色々と考えたいので、お返事は保留って事でいいでしょうか?」
「ふん? 別にウチはそれでいいけど、決断は早いに越した事はないわよ? て言うかウチも特定個人に注力する余裕は正直ないし、できたらお返事は今欲しいかな。って」
「え、うーん…… じゃあ取り敢えず今回ご縁が無かったって事で」
「……え?」
正直今日の呼び出しはダンジョンの攻略ペースの話になると思ってたんだよな。で、俺的にもう日給の心配もしなくて良くなったし、ダンジョンの保守管理をする為に色々と準備もしないととか思ってたから、ぶっちゃけ嫌味の一つでも聞いた後は徐々に攻略ペースを落としつつ、フェードアウトする、つまりシーカーを引退するかなとか思ってた訳で。
そんな状況にあるのに、こんなクランに所属しちゃったらGM業務に支障が出てしまうデショ? ね?
「マジ? マジで言ってるそれ? あ、もしかしてジン君ってばもうどっかの国からお誘い受けちゃったとか?」
「いやそれはないんですけど、何か…… ねぇ?」
所属って事ならダンジョンの保守管理や諸々に、GMとして関わるって感じで。牡丹さんの配下になるのかな? でもまぁそういうのは内緒の話だけど。
「え、どういう事? ジン君的に何か言いたい事でもある訳?」
「この話は強制ではない、ないのだが、選択の自由という事に関してはホワイトガーディアンに席を置くのが、取り敢えず良いと私も思うのだがね」
「いや、何と言うかもうそういうのいいんで、カンベンシテクダサイ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「という事があったので、暫くダンジョンアタックは自粛する事になっちゃったんだよね」
「……なんでそんな報告をわざわざニャーにする必要があるのかまるで理解ができないニャ」
「いや、ちょっとの間袋的な物を買いに来る事ができないって言っといた方がいいかなって思いまして」
ギルドでのゴタゴタを強制的に終了させた後、暫く表に出る事はないだろうって事で、地下に潜る前に色々と挨拶回りをする事にした。
したんだが、よく考えると俺の対人関係って、ギルドを除いた場合雑貨屋「猫屋」しかないという事に気付いてしまった訳だが、その辺りは手間がなくて良かったと、ポジティブに…… 考える事にする(震)
で、あの後ギルマスとラクレリアのねーちゃんに色々言われたんだけど、結局のところどこかに所属するか、所属先を明らかにするかしないと解放されそうになかったので、仕方なく色々諸々手続きする事になりました。
「で、ニーちゃんのクランの名前はなんて言うニャ」
「クラン『一人』だ」
「……ニャンて?」
そう、結局どこにも所属していない状態だからうるさい勧誘が発生する訳で。それならもうクランを立ち上げるしかないのではという結論に至った。
因みに拠点として登録する建物と、登録費用が用意できればクランの立ち上げ自体は可能だったりする。ただしそれは必要最低限の規模になるのでギルドからの優遇処置は受けれないし、所属人員の上限という制約もある。
しかし俺的にはソロを貫く為という、対外的な言い訳を通す為の処置かつそれを知らしめる必要があるだけなので、クランの規模は最低限で事足りるし、名称もそれに伴い『一人』という物に落ち着いた訳だ。
……何か変に思われそうだが、良く考えてみて欲しい。世のネトゲプレイヤーの中にはソロ専の者もそれなりに居て、そういう人達はウザい勧誘を避ける為に敢えてお一人様クランやギルドを立ち上げ、名称を「ソロ専」とか「お一人様」なんて名にする事も少なくない。
そこから考慮すれば、今回ミーが立ち上げたクランの名称が『一人』であってもなんらおかしな事ではないし、なんなら対外的な意思表示も兼ねているので中々グッドな命名であったのではないかと自負していたりする。
「いやそれかなり(頭が)おかしな名称になってるニャ。て言うかクランの拠点はどこにしたんニャ?」
「あ、それね、取り敢えず拠点は狐のお宿の上級会員室(離れ)で登録しといた」
「宿って拠点登録できたのニャ……」
一応事前に確認したんだけど、璃子さん的に狐のお宿を拠点として登録するのはアリという回答を得たので、そのままクランの拠点として登録させて頂いた。
あとクラン立ち上げの為の委託金を支払ったので現在の所持金は銀貨六枚半鉄貨幣二枚に減ってしまった。
なので暫くはダンジョンの保守管理をしつつ、換金率の高いモンスターの素材を収集する事になるだろう。ん? だとするともう暫くはそういうのをINする為の袋的な物は、定期的と言うか毎日買いにこないといけないのか。
そう店主に伝えたら「ウッソだろお前ェ」ってネコ獣人最大にして必須の語尾をおいてけぼりにした返事が返ってきたりした。
そんな訳でご拝読、評価、ブクマ有難うございます。拙作はゆるやか~な更新になると思います。
また拙作に対するご評価を頂けたら嬉しいです。
どうか宜しくお願い致します。