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シーカー引退(仮)



 ここは高級旅館『狐のお宿』の最奥。女将さんの璃狐(りこ)さんに案内されて通された特別なお部屋。

 

 そんなハイソな部屋で俺は今とてもプルプルしております。

 

 

 なんせダンジョンの謎空間で邂逅した美人さんが目の前にデーンとおわしましましらっしゃる訳で。

 

 その目の前に正座させられる俺。

 

 

 厄介事になりそうだったから問答無用でバックレた訳なんですが。まぁその、ですね? 自主的に反省してますよって見た目だけでもですね? そういうカンジで…… ん?

 

 いやいやちょっと待て、今気付いたんだけど、何と言うかアレだ、さっきこのヤバそうな人には俺、フル装備状態で対面してた訳で、それはつまり、こっちの正体はバレでないんじゃ。

 

 

 「さっき振りじゃの。どこをほっつき歩いておったのじゃ」

 

 

 バ  レ  テ  ル  !

 

 

 おいなんでやねん! どうしてあんなフルプレートな姿から俺を特定できたんだ!?

 

 

「璃狐はの、一度聞いた声は忘れぬし、聞き分けも出来る特技を持っておっての」

 

「女将としては当然の嗜みですから。ダンジョンでお声を聴いた瞬間ジン様だと分かりましたわ」

 

「え!? 宿の女将さんってそんな高度な嗜みを体得してるのが当然なの!? 異世界レベルハンパないな!?」

 

「そんな訳なかろ! こ奴は特別じゃ」

 

「デスヨネー」

 

 

 こんなカンジでなんか最初から身バレしてた上に、あっさりと拉致監禁状態になりました。いや、また逃げてもいいんですけどね…… なんと言うか食べ物と言うか風呂と言うか、ぶっちゃけこの宿をもう利用できなくなるのが物凄く惜しいので、取り敢えず話だけはしてこれからどうするかの判断だけはしようかと。

 

 

「……それで? こっちがわざわざ穏便に済ませようとしておるのに何故バッくれよった? あん?」

 

「えっと、その、何と言うか、出来心的なサムシングと言うか、ちょっとヤバそうな人達だなぁって思ったのでつい……」

 

「ほぉん? 我がヤバそうな人とな? ハッハッハッ、死ぬるか貴様」

 


 やっぱヤバそうじゃん! 寧ろむっちゃ美人なだけあって真顔で笑うなんて高等テクを駆使されると迫力が凄まじいんですが。

 

 確かに状況的に入っちゃイケナイとこに侵入しちゃったのはこっちの落ち度ですよ? でもね? あんなトコをテリトリーにしちゃってる方達って明らかに堅気じゃない、と言うか人ですらない可能性もある訳で。

 

 幾ら不死身かつ逃亡率100%を誇る俺でも、まだ異世界に来て間もないのに未知との遭遇は時期尚早だと思うんですよ。

 

 

「それで? そちは何ゆえあんな禁地に入り込んだのじゃ」

 

「禁地、って何です?」

 

「ダンジョンの裏側じや。あそこは表側とは別空間になっておるゆえ隙間があっても入り込める筈はないのじゃがの」

 

 

 別空間…… まんま『Dungeon Searcher』にもあった別ディメンションと同じ扱いの空間じゃないですか。

 

 因みにディメンションとは『次元』という意味であり、『Dungeon Searcher』で別ディメンションとはシステム的に別管理された空間の事を指す。ダンジョン裏の別ディメンションはプレイヤーには解放されておらず、運営側のみが使用可能な空間という運用がされていた。

 

 うん、成程、多分こっちの『禁地』っていうのがオリジナルで、『Dungeon Searcher』の管理用ディメンションはそれを模倣した感じなのかな。

 

 ていうかね、俺の槍…… その空間を抜けちゃってんだけど、そこんとこどうなってんでしょうねぇ?

 

 

「えっと、そのですね、槍を全力で投擲したら何故かそっちの禁地に抜けちゃったみたいなんで、それ拾いに…… ですね」

 

「ダンジョンからそちの槍が禁地へ抜けたと申すか? そんな訳なかろ、たとえ壁一枚挟んだ隣であったとしてもじゃ、別の空間という事は文字通り繋がっておらん、ゆえに何かが物理的に通り抜ける事はありえんぞ」

 

「いやぁ、そう言われても抜けちゃったのは事実ですし、実際槍が落ちてた座標に転移したらアソコだった訳ですし」

 

「ぬ、そち、今転移と申したか」

 

「あ、ヤッベ!?」

 

「まさか…… そちは空間転移を使えるのか」

 

「あー、えっと、その、まぁ…… はい」

 

「そも、転移術はこの世界の禁則事項に指定されておる。幾ら異邦人だとてその法則を覆す事はできん筈じゃ」

 

「禁則事項? なんですそれ?」

 

「空間転移に関する術理、蘇生に関する術理、そして時間遡行に関する術理。これら三つの法則は世の(ことわり)を破壊する恐れがあるからの、存在自体が隠匿されておる」

 

 

 ……隠匿って事は一応存在はしてるって事だよな? むしろ俺使えてるし。それよりなんで隠匿されてる筈の禁則事項をこの人は知ってるんだ? 普通は使えない時点で存在しないって認識にならんか? 逆にそういう法則が存在してる事を認識しているからこそ禁則事項なんて言葉が出てくるんだろうし。

 

 

「そうじゃな、我らはこの世界を管理する側。そちら異邦人的に言うなら神の落とし子、半神であり、今はダンジョンマスターというのをしておる」


「ダンジョンマスター!? え、って事はモンスターの親玉!? それより今サラッと俺の思考読んだ!? くっそ色々情報量が多過ぎて処理し切れねぇ!」


「半端者とはいえ一応神の一柱に片足を突っ込んでおるゆえな、読心術ならそこそこ使えるわ。それより今我の事をモンスターの親玉と言うたか? 死ぬるか貴様」



 気に入らない発言がある度殺すぞ発言はどうかと思うんです。いや俺死なないし。それより神様関係の人でダンジョンマスターって、もしや、それは、『Dungeon Searcher』でいう処の管理者とかGM的な存在なのでは?

 

 ちゃんと業務内容とか確認しないと何とも言えないけど。

 

 

「ふむ、GMとは何の事を指すのか判らぬが、ダンジョンを管理してるという意味ではあながち間違いではないの。我の名は牡丹(ぼたん)、このアガルタの迷宮の主をしておる。見知りおけ」


「そして私はダンジョン『狐のお宿』の迷宮主を務めさせて頂いてます璃狐(りこ)と申します。改めまして宜しくお願い致します」


「えぇ~ この宿ってダンジョンなのぉ? どうなってんの異世界事情~」


「なんぞ思考がオーバーフローを起こし始めて言動も怪しくなりつつあるぞ、こ奴」



 取り敢えず事故的な出来事で偶然邂逅したこの人達、実の処俺が居た世界の神様だったらしい。

 

 

 昔々まだ人々が神様仏様と崇め奉ってた時代故か、地球の神様達は結構排他的な行いをしてたようで、神話や昔話にあったように神と人との間に子が生まれたりする事はそれなりにあったらしい。

 

 しかし時代が進み、地球という惑星のほぼ全域は人の知る世界となり、秘境という物はなくなりつつあった。

 

 彼女、牡丹はとある高位の神と、それを奉っていた巫女との間に生まれた神子、所謂半神であったという。

 

 

 その為神に近い存在でありながら神界には至れず、人里離れた秘境で土地神として地上で静かに暮らしていたそうだ。しかし先述した状況により徐々に居場所がなくなっていき、どうしようか悩んでいた矢先にこの世界、アステラの神達に誘われリクルート(死語)したそうな。

 

 

「我らの役目は別世界からやってくる異物の排除とダンジョンの管理じゃの。その為あっちで使えた現人神(あらひとがみ)としての力はこっちでも使える事は使える。じゃがの、人の営みに踏み込む事は世界の理を歪めてしまう事になるゆえ、人の目の前に姿を表す事はせんし、余程の事がなければ干渉もせん事にしておる」


「人の間ではこの地の事をダンジョンが集中的に存在する土地という認識にある様ですが、実際は他世界からの干渉が強過ぎる為に機能を分散配置しただけ。つまり八つのダンジョン群が集中的に存在するように見えるこの地は、『迷宮アガルタ』という一つのダンジョンなんです」


「八つの迷宮其々が実は全部アガルタって迷宮の一部分って…… ん? アガルタって確か七つしかダンジョンが存在しなかったのでは?」


「さっきも言ったと思いますが、ここ『狐のお宿』もダンジョンですから」


「……あぁ、言ってましたねダンジョンって。そっかぁ~ だから温泉とか引き放題だったんですね」


「それだけじゃなく、ダンジョン『沼』の深層では色々と土地活用してまして。当館でお出ししているお料理もそこで栽培したり獲ったりした物を使っておりますね」


「おっふ、幾ら探しても米とか調味料が一般流通していなかったのにはそんな裏事情が……」



 そりゃダンジョンを管理してるなら環境操作もできるだろうし、そこで米作ったり魚獲ったりもできるわな。

 

 

「え~っと、牡丹さんが土地神をしてらっしゃったのは、やっぱり日本でしょうか?」


「この恰好見れば分かるじゃろ。なんじゃ、この宿とか料理を見てなんぞ思う事でもあったか」


「えぇまぁ、ココ(狐のお宿)ってやたらと和風プッシュしてるみたいですし、ダンジョンまで利用して環境整えてるのは、まぁ出自故と言うか、生活してた元々の環境がそういうのだったのかなみたいな?」


「ふむ、その辺りも色々と事情を含むのじゃがな。それよりもじゃ、こちらはこうも包み隠さず何者か語った訳じゃ。しかるにそちはまだ己が異邦人であるのと名前しか語っておらぬが? そこんとこどうなっておるのかの?」



 おっふ……コレはもうアレだな、ある程度こっちの思考を読んでるのは確定だろうしなぁ、それ以前に確認したい事があるんだが、それを聞き出すにはこっちの情報をある程度開示しないと無理なんじゃないかと思う。

 

 何せ……この迷宮主とかの存在やダンジョン関係の仕組み含めた諸々って、激しく『Dungeon Searcher』と合致してる部分があると言うか、状況的にほぼ同じじゃないかと思うんだ。当然こんなのは偶然である訳がないし、神という存在が関わってるのなら、恐らく今の俺(・・・)はこの仕組みに管理側として対応できる形の能力が付与されている状態で転生させられている筈だ。

 

 ……という予想を含め、神に邂逅してからの全てを説明した訳だが、話が進むにつれ牡丹さんの表情から感情が抜け落ちていく。

 

 それはもう見事なまでに、スンってカンジで。

 

 

「……あの阿呆(あほう)共が。魂から人としての全てを削るなどと……何を考えておるのじゃ」


「常々迷宮主様達から異邦人に対しもっと制約を課すべきだと突き上げられてましたから。それに対する答えがジン様という事でしょうか」


「地球側との契約があるからの。こっちに連れて来た者達には能力以外の枷は嵌められん。だからと言うてやっていい事と悪い事がある」



 牡丹さん曰く迷宮主()と世界を管理する神達は役割が違うだけで、立場の上下は存在しないそうだ。

 

 この世界に存在する、他世界と繫がっている迷宮は五つ。そして其々に迷宮主が存在し、ある程度協力し合う関係であるという。

 

 

「はっきり言うとの、異邦人やシーカー(探索者)等では本当に滅せんといかん存在には歯が立たんからの、そこは我らが何とかしつつ、ザコの間引きをギルドや騎士団に振っておるんじゃがの…… それだけでは足りん数を異邦人が埋めておる訳じゃ」



 驚く事に、アガルタダンジョンの中心である"沼"は、迷宮主である牡丹さんですら何層存在するのか分かっていないそうだ。

 

 そして年に二回から三回程本当にヤバいヤツ(・・・・・・・・)が湧くそうで、その時は牡丹さん達含む精鋭が深層二百五十階に用意した"殺し間"でそういうのを迎え撃つらしいんだが、そのヤバいヤツ(・・・・・)の余波が中層以上の浅い階層の魔物を刺激する事で起こるのがスタンピードなんだそうだ。

 

 

「もしかして、異邦人ってあんま役立ってません?」


「いや、浅層の氾濫はやたらと魔物の数が多いからの、それなりにできる(・・・)者の数が必要になる。ただしそこで何ぞあったとしても滅ぶのは人の営みだけで、世界が滅ぶ訳ではない。ゆえに我らは他世界から来る魔の物は滅するが、ダンジョンにて湧く魔の物に関しては感知しておらん」


「あー…… つまり、迷宮主さん達管理者にとって、例えば迷宮都市アガルタ(・・・・・・・・)が滅んだとしても迷宮アガルタ(・・・・・・)が無事ならば問題はないって認識にあると? ……因みになんですが、異邦人達がその"ヤバいの"と戦った場合、通用するんですかね?」


「ふむ、そうよな、ウチで迎撃に出るのでそちが知っておるのは剛羅(ごうら)……そちがさっきやりあった鬼神じゃが、あ奴程に出来ぬと話にならんと言うたらどうじゃ?」



 うわぁ、さっきの鬼……え、鬼神? あの脳筋も神の端くれになるのかぁ。途中で牡丹さんが介入したせいでガチでやり合ったとは言えないけど、こっちはフル装備の本気モードだったのは確かだ。

 

 で、ほんの僅かだったが打ち合った感じでは、互角と言うか、状況次第ではちょっとヤバかったかも知れないというのが正直な感想なんだよな。

 

 でと、異邦人は基本的に『Dungeon Searcher』のアバターの能力を反映した状態で転移してるんだろ? もしそれが本当なら、GMである俺より能力は確実に低い。つまり……

 

 

「そも、異邦人だけで事足りるなら、我らのような半神をわざわざこの世界へ送り込む事などせんわ」



 うん、何と言うか色々と聞いた話を簡潔に纏めるとだ ────

 

 

 ・他世界からの侵攻を防いでいるのはダンジョンを管理している迷宮主達である

 ・世界の存続というレベルで言えば異邦人は殆ど貢献していない

 ・迷宮主さん達は迷宮外の営みがどうなろうと基本感知しない

 

 

 これ、話だけ聞くと異邦人いらないんじゃ…… とも思ったりする訳だが、恐らく神さん達がその辺り納得してないんだろうな。

 

 『Dungeon Searcher』のプレイヤー達を転生させてんのって神様達だし。

 

 

「アレら的には生きとし生ける者、人であろうが獣であろうが、全ての命は(すべか)らく保護するべきであると(のたま)っておるの」


「人の心を読んでさも当然のように会話を進めないで欲しいんですが…… しかし、成程、その辺り神様と迷宮主さん達との価値観と言うかやるべき事の認識がかなり違ってるって事でいいんですかね?」


「何もかも全てを救済するというのなら、中途な事をせずに最初から全力を注ぐべきじゃ。しかるに…… いや、今更その辺りをそちにどうこう言うのは詮無き事であるな」



 うわぁ、さっきは無表情だったのに、今度は無表情(青筋付き)にシフトしちゃってますね。て言うか徐に立ち上がってなにするんです? お? 胸の辺りから扇子をズルリと取り出してフリフリしたと思ったら、なんかゲートを開きましたよ? コレダンジョンで見たアレですよね。え? 入れと? どこ行くんです? あ、いやワタクシこの後ギルドに行かないといけないんですが、はい? そっちは連絡しとくから心配するな? いやいやそういう訳にはいかないデショ? え? 「死ぬるか」ってマジ殺意向けるのヤメテ貰えませんか? いやホント切に。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「で? そちは空間の綻びが見えるそうじゃが」


「綻びと言うかテクスチャに隠れた穴というか、処理忘れの隙間とか、そういうのを特定したりしてたんですけど……」


「先程言っておったGM業務というヤツじゃな。そしてそちはこっちの世界でもそういう不具合が見えると?」


「えぇ、まぁ、何でか見えてますね……」


「その綻びはどこにあるのじゃ?」


「どこにって…… その……」



 槍を回収する為に調べた座標は文字化けしているが、位置情報としては有効な状態で記録されたまんまになっている。

 

 と言うか、実際マーカーピンが今目の前でフヨフヨしてる訳で。うーんとってもゲーム的な絵面デスネ。

 

 で、ピンがこの位置なら、方向的に恐らく壁の抜けはあの辺りで…… こういう場合、大体の範囲をサーチ、オブジェクトを一旦ワイヤーフレーム状態にして確認すれば…… うん、あったわ、壁に抜けが。

 

 

「ここに、この位の穴が開いてますね。で、恐らくですけどリソースを抑える為にダンジョンの壁とバックヤードの表裏を共有してる関係で、壁の抜けが本来繫がる筈の無い二つの世界を繋げてしまったと。状況的にはそんな感じでしょうか?」


「成程の。元々裏側なぞダンジョン保守用の付帯設備でしかないからの、造りも粗雑であり、厳重に空間管理をしている訳ではない。ないのじゃが、不具合を見つけてしまってはこのまま放置もできんの。そういう訳でジンよ、その綻びを塞ぐがよい」


「塞ぐがよい、って、え? どういう事?」


「塞げ」


「え? どうやって?」


「ふ・さ・げ」



 …………えっと? コレはアレですか? 『Dungeon Searcher』の管理システムで壁の抜けが確認できたんだから、復旧もできるだろって事ですか?

 

 うんまぁ、正直俺もできちゃうんじゃないかなぁとは思うんですけどね? でもここでそれやっちゃうと、後々トテモマズい事になりはしないかと思っちゃう訳なん…… あ、ハイ、スイマセン壁抜け箇所の修復ですね?

 

 

 管理用システムツールを起動し、さっき特定した壁の"抜け"近辺の同質オブジェクトをコピーする。そして"抜け"の部分にコピーしたオブジェクトデータをペーストし、仕上げに周囲のズレやテクスチャの模様を修正、たったコレだけの簡単作業で空間に空いた穴が塞がってしまう。

 

 それは構造物の殆どが壁か床で構成されるダンジョン故の管理のし易さが幸いしたと言うか、現場管理者にもこういう技術的リカバリをさせないと人手が…… そういう運営側の都合が生んだシステムツールの色々が、まさか異世界で使えるとか…… どうなんだよコレ。と思わなくもない。

 

 

「ふむ、綻びは塞がったか」


「あ、やっぱそういう不具合って見えてるんですね」


「見えいでか、我はこの迷宮を管理しておるのじゃぞ」



 そういう牡丹さんは何故か物凄く良い笑顔と言うか、物凄く目力が過ぎる笑顔と言うか、ぶっちゃけ笑ってるのに笑ってないと言うか。

 

 

 そんな牡丹さんの笑顔を見て、昔何かの本で読んだ事がある、ある言葉がフと脳裏に思い浮かんだりしたもんサ。

 

 

 ──── "笑うという行為は本来攻撃的なものであり、獣が獲物を定めた時に牙を剥く行為が原点である"

 

 

 っていう言葉がさ。

 

 

「そち、確か今はシーカー(探索者)をしておるのじゃったな」


「え、はい、まぁ、そうですね、そんなカンジで…… そんな風味で……」


「ふむ、まぁそれは良いとしてじゃ、そち、我と契約を結ばんか?」


「……契約です、か?」


「そうじゃ、まぁ分かり易く言えば業務委託と言うかの、ダンジョンの保守管理と、年に数度ある迎撃戦への参陣を頼みたい」


「……ダンジョンの保守管理と言うと、今みたいな不具合修正とかですか?」


「そうじゃの、基本的には施設の修繕やら、不具合の改善じゃな。全て確認した訳ではないが、そちが今やったのは我が常日頃しておるやり方とそう変わらんかったからの、他の不具合にも対応は可能であろうよ」



 え、俺システムツール使って修正したんだけど、牡丹さん達もそういうの使って不具合直してんの? マジで?

 

 

「いや、我はそのシステムなんちゃらとやらは使っておらぬぞ。だが結果が同じならやり方が違う程度問題にはならんわ」


「だから当たり前のように心の呟きを拾って、フッツーに会話に繋げるのヤメテクダサイ。て言うか不具合云々はまぁいいとして、迎撃戦って、もしかしてダンジョン深層二百五十階で迎え撃つとかいう、アレ(・・)ですか?」


「うむ、アレ(・・)じゃ。そちは不死者なのであろ? しかも壊れずの武具で身を固めておる。更には剛羅(ごうら)と五分に打ち合ったそうではないか、なら戦力として計上するには充分であろうが」


「えっと、言われてる事は理解できるんですが、俺としては取り敢えず自由でいたいので特定のどこかに所属するとか、契約するとかはちょっと……」


「もし契約を受け入れるのならば、狐のお宿の上級会員室をタダで使えるようにしてやろう。勿論食事を含むサービス全般も付く」


「……え」


「あとダンジョンの一部階層を自由にして良いぞ。そこで米やら農作物やらを作っても良いかもな。何ならそういうのができる小作人を付けてやっても良い」


「え、ちょちょちょっ、待っt」


「階層によっては温泉も引けるし、海があれば海産物も食い放題じゃな。そぉーだ、いっそ別荘なんぞも建ててみてはどうじゃ?」



 ……宿もタダで使えて、メシも食い放題。しかも農地や避暑地に転換可能なダンジョンの階層も使えたりするとか、コレって良く考えるとシーカー(探索者)稼業やるより面倒がなく、最初から求める物が全部付いてくるという好待遇契約なんじゃないか?

 

 いや、確かに自由ではないかも知れんけど、よく考えたら俺、自由でなきゃできない事をしようなんて思ってないし。

 

 と言うかノルマ無しの保守管理と年に数度の討伐ミッションに参加するだけで安定した生活できるなら、そっちのが良くないか? むしろ迷う要素はまったくナッスィンなのでは?

 


「あ、すいません、それじゃお世話になります。宜しくお願い致します」



 こうしてシーカー(探索者)としての転生生活は早々に終わりを迎え、何故か前世と同じくダンジョンの管理業務に就く事になった俺であったが、実はこの契約が想像した物よりも煩雑、かつ超面倒臭い物だと後々知る事になるのであった。

 

 

かなり間が空きましたが、ぼちぼち更新していきます。


と言うか、ネタはあるんですが、書いていいのかどうかギリと言うか、色んな意味で。


そんな訳でご拝読、評価、ブクマ有難うございます。拙作は更新がかなりゆるやかなペースになると思います。


また拙作に対するご評価を頂けたら嬉しいです。


どうか宜しくお願い致します。

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