刀がリアルでメインウエポンだとね、もうね。
皆様こんにちは。ギルドで武器屋の場所を聞いたら「え…… 今更?」と怪訝な表情で返されたジンです。
いや確かにダンジョンアタックするなら、先ず装備や消耗品を整えてからというのがデフォルトなんでしょう。でもね、お金が勿体ないし、エクスカリバー(拾った棒)でも全然イケてるし。そう考えれば俺的に武器防具の類は現状見栄えだけのブツなんですよ。
でもね、流石にギルドで蛮族とか、実は魔法職だけど色々こじらせて近接職的な見せプしてる(棒的に)とか言われちゃもぅね。
うん、流石に武器辺りはちゃんとした物を用意すべきかなって思った訳です。
そんな訳で現在迷宮都市アガルタが誇る鍛冶屋街に来ています。はい。流石ダンジョンが密集するシーカーの都市。武器や防具を扱う鍛冶屋だけで数十件は並んでおりまして。
で、お店云々の前にちょっとおさらいと言うか、ワタクシの都合とメインウエポンである大太刀の話になるんですが。
そも、大太刀と言うか日本刀という物は、切る事に特化した武器でありまして、極めて鋭利かつ脆い武器なのです。
相手を我が仇敵(二つ名的に)ゴブリンに設定するとして、通常の日本刀で切るなら恐らく五~六匹も切れば血油で切れ味が壊滅的に落ちると思います。
また洋刀に比べれば刃が薄く、鋼が固すぎる…… つまりデリケートな為、骨に当たれば刃が欠けるだろうし、鞘から出したままだとすーぐ錆が浮いてしまうんじゃないかな。
で、このアステラという世界、文化的には中世レベルの様相を呈しているんだけど、基本的に前衛職が身に着ける鎧や剣は名称がアーマーにソード。つまり鉄製品かつ重装備がメインなんだよね。魔物も武具を装備するなら当然この手のブツを使うと思っていい。
そんな訳で鉄製のアーマーや盾を相手に日本刀ブンブン丸するのは極めて愚行。て言うか相性最悪なのです。刃が欠けるし、折れるし、伸びるし、頻繁に油塗って錆びないようにしないといけないし。
そういう事情から、ここアガルタでも日本刀を取り扱っている鍛冶屋は極めて少なく、また製法が特殊な武器なので製作はおろかメンテナンスすらままならない状態。
更に更に、ワタクシの使う武器は『Dungeon Searcher』時代デザイナーの悪乗りと趣味を押し付けられた結果大太刀となってまして。
ぶっちゃけ日本刀というカテゴリであっても、普通の物ではちゃんと戦えませんという状態。
おい…… 日本刀すらほぼ無い状況で、カテゴリ的に斬馬刀とか野太刀みたいな大太刀なんてニッチかつマイノリティなウエポンある訳ないだろJKという。
「瑞穂刀が欲しいって? なんであんな面倒くせぇの使ってんだアンタ。ってもしかしてアンタ瑞穂剣士か? なら国元に頼んで送って貰う方が早ぇだろ?」
「いや俺瑞穂って国と関りなんてないんですけど。やっぱ在庫とかはないですよね」
「前金さえ貰えれば注文は受けるが、入荷は…… そうだなぁ、半年から一年は掛かるんじゃねぇかなぁ。て言うか作刀って事になると向こうに行かなきゃどうにもならんが、あの国はなぁ……」
どの鍛冶屋さんに聞いても大体こんな感じでどうにもならない状態と言うか。まぁ刀って製法が特殊だし、鍛冶仕事も専用かつ面倒な手順を踏まないといけないからなぁ。
て言うかこちらの世界では、異邦人が関わっているのか、それとも元から存在するのか、日本に似た文化の国が存在しているらしいんですよ。
名を瑞穂国。詳しく聞くとどうやらその瑞穂国は現在日本で言う処の安土桃山時代と言うか、ザックリした言い方をすれば、ズバリ戦国時代の様相を呈しているらしく、帝という頂点が一応存在するものの、並み居る大名達が血で血を洗う戦を現在進行形で繰り広げているそうで。
大名とかも居るのかよ、まんま日本だなおい。
でまぁ、何て言うか、鍛冶屋のドワーフおじさん曰く、瑞穂国って他国からは修羅の国という言い方が一般的になってるという、とんでもない国。
いや安土桃山時代って、織田信長が寺焼いたり、その放火魔王を明智さんがぬっころころしたり、農民が坊主に扇動されて「大名の、蔵のお米を見てみたい、あソレ一揆!一揆!」つって大名相手にヒャッハーしたり、ある意味国民総フィーバー状態(意訳)になっちゃってるって事じゃないですかヤダー。
「探しモンなら一々鍛冶屋巡りするよか組合に行く方がいいと思うぜ?」
「組合、ですか?」
「おう、冒険者ギルドの隣に鍛冶屋組合の事務所が併設してっからよ、そこ行きゃ探しモンが見つかるかも知れんぜ?」
なんという事でしょう。一生懸命半日近くも鍛冶屋街をウロウロした結果、まさかスタート地点である冒険者ギルドの隣がゴールになってるなんて!
こうして徒労感にビダビタと浸りつつ鍛冶屋組合とやらに向かい、大太刀を扱ってそうな店を知らないか聞いてみて、そういう特殊な武具を扱っている店をピックアップして貰った訳です。
結論。
既に全店訪問済みでした。 え、マジで?
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「と言う事があったんですよ。マジあり得ないと思いません?」
「ウチは雑貨屋ニャ。武具の事なんか聞かれてもどうしようもないニャ。寧ろなんで兄ちゃんがそんな愚痴をニャーにしてるのかって方がマジあり得ないニャ」
雑貨屋『猫屋』。ここはある意味心のオアシス。
俺的には困った時ココに来ればなんとかなるのでは、と頼りにしている店であったりする。
決して贔屓にしてる店とかその辺りが無いという、俺ってシーカーとしては致命的に人間関係狭くない? と認識したので仕方なくここに来た訳では決してない。
ないんです。
「いやだから、そういう相談は鍛冶屋組合か冒険者ギルドにするニャ。て言うかなんも買わないのなら帰れニャ」
「そんなぁ…… 麻袋一枚買いますから相談に乗って下さいよぉ」
「兄ちゃんの口から袋ってワードが出ると身構えてしまうニャ…… ニャー、ベンジャミン、お前特殊な武器とか扱ってる商人知らないかニャ?」
ベンジャミンって誰? って思ってたら、奥からピンク色かつムッキムキのマッチョバニー(♂)が現れた。
あー…… ベンジャミンって言うのねウサさん。て言うか「ウスッ」って初めて声聞いたけど、凄くシブいボイスですね。具体的にはスネークとかシュワちゃんの声っぽいと言うか。
「って鍛冶屋じゃなくて商人?」
「鍛冶屋組合でダメならもう商人に聞くしかないニャ。ウチのベンジャミンは昔傭兵してたから、そっち関係を扱ってる商人に詳しいニャ」
「ウスッ」
傭兵かぁ~ うん、見た目確かにムキムキで戦闘力高めに見えるわ。ピンクだけど。ウサちゃんだけど。
そんな訳でベンジャミンさん(ウサ)に紹介して貰った商会に行った訳だが、近年瑞穂国のフィーバー具合が天元突破しているらしく、作刀依頼はおろか、物品の輸入に関しても難しいという現状を聞かされました。
要するに大太刀、入手が絶望的になりまして……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
なんか昨日色々とあったような気がするが、取り敢えず気のせいだったと思い直し、今日も布の服とエクスカリバー(棒)でダンジョンアタックに勤しみます。
挑むは"三の迷宮"と呼ばれる小規模ダンジョン。
総階層二十層。ここも五階層毎に入口へ戻れる転移装置が設置されている親切設計。
出現する魔物は浅層から中層まではコボルトとオークの混合が中心で、以降はオーガが闊歩してるという。
『Dungeon Searcher』に出てくるオーガは武具を装備し徒党を組んでいる為、それなりに強い魔物という認識にあったが、この世界のオーガは知能が低いプチ巨人、所謂劣化したトロル的な魔物という認識でいいらしい。
対して俺のイメージするオーガは"鬼"と呼ばれ中規模ダンジョンに生息する魔物というイメージだったんだけど、うーん、ここにきて初めて転生前との知識の相違が確認される事になったなぁ。
因みに討伐部位は右足首から先。
……うん。いやまぁ、分かります。牙とか爪とか特徴的な部位がないから、嵩張らない部位かつ体躯がオーガと分かる部分だとそういう部位になるんでしょうね。って納得すると思ったか!
て言うか足ぃ? なんでそこで足なの? ゴブと同じ耳でもいいんじゃないですか? ああギルドで確認する時違う部位に設定しておけばギルドの職員さんの手間が省けるから? うん成程、つまり、それは……
今日の収拾部位は手、鼻、足という事ですね(震)
まぁね? 普通この辺りのダンジョンに潜ってるシーカーって大体一日に十体程の討伐部位を持ってくのが精々でしょうし、それならまぁそういう部位を討伐証明として設定するのに問題はないんでしょう。
でも俺は一日の儲けを考えると其々百体近くの討伐部位をギルドに持ち込まなくてはいけない訳で……
因みにギルドの受付でRankアップの手続きの際、例の眼帯の殺し屋もといギルバートさんから、夕方に面談をしたいという通達をされまして。
寧ろあの殺しゲフンゲフン、ギルバートさんてギルドマスターさんらしいですよ。いやびっくりしてないけど? なんせ名前に「フォン」だの「アガルタ」だののワードが含まれてましたもんね。なんならこのアガルタを治めている辺境伯に所縁のある人なんじゃないかって予想もしてたりしましたし。
まぁなんか面倒事が発生する予感をひしひし感じつつ、いつものように駆け足で最下層まで潜る。
ダンジョンアタックの際はマップを網膜投影しつつ移動してるので、基本他のシーカーとかち合う心配はない。ただそのせいで俺がダンジョンアタックしてる姿を誰一人確認してないって事になるので、そういう部分も色々と噂される原因になってるみたいだけど、棒切れ一本でワンパン行脚してる姿を見せる訳にはいかないだろうし、その辺りはしょうがないなという事で割り切っていたりする。
のを含めた部分がギルマスからの呼び出しに繋がってる訳ですね。
因みになんで即呼び出しという事にならなかったかと言うと、業務的に外せない用事があるという、向こうの都合が関係してたりします。はい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
小規模ダンジョン"三の迷宮"
ここからは今までのダンジョンと違い、最下層は通称"ボス部屋"と呼ばれる部屋のみがが存在するという構造になっている。
名称から分かる通りそこは迷宮主というボスが存在する部屋になる。更にこの部屋は戦闘中は出入り口が閉まる為、以降はパーティ単位で討伐に挑む必要があるという。
ふむふむ、漸くダンジョンアタックっぽい趣きになってきたね。寧ろ今までのダンジョンがシーカーに有利過ぎる造りになってたと言うべきだろうが、そこは神様的なサービスとして、ダンジョンアタックに慣れる為のチュートリアル的環境だったと考えれば仕方ないと言えるんだろうな。
二十階層へと続く階段を降りると、正面には今までの迷宮には無かった広間が広がっている。
広さ的には25mの正方形位程か、高さはオーガの背丈から逆算すると5m程。見える範囲にはオーガが五匹中央部に佇んでおり、奥には二回り程大きな個体も確認できる。
多分奥のヤツが迷宮主なんだろう。事前に調べた情報によると、この広間に踏み込むと入り口が閉まってしまい、中の魔物を全て倒さなければ唯一の出口である転移装置が出現しないという。
それはつまり、今までのダンジョンと違い、明確な生と死がここには存在するという訳だ。
ある意味シーカーとして活動できるかどうかの試金石、GMとしての感覚で言えばここでふるい分けが行われる訳である。
『覚悟が無ければ去れ。覚悟があっても力がなくば迷宮の糧となる』
ダンジョンシーカーとしてギルドに登録する時、受付から全ての冒険者が聞かされる言葉がこれである。
って事で、ここでは魔物を倒した後は強制的に外へ出なくてはならないので、俺的都合で言えばここへ入る前には日給分である金貨一枚の稼ぎを確保してないとまた浅層で不足分を狩らねばならないという面倒が発生する。
途中までのシリアス思考から、世知辛いお金儲け事情に考えがシフトしてしまうのはもうどうしようもないな。うん、だってこう…… ボス戦だというのに緊張感もなければ、インベントリ内にある
※オーガの右足(61)
という表記にうんざりしてるトコだし。
時刻は15:18、夕方にはギルドで面倒もとい面談が控えてるという事情から、いつもよりも少々急ぎ気味で潜ってきた。
広間に一歩踏み込むと、示し合わせたようにオーガ達が雄叫びを上げ、棍棒を振り上げて襲い掛かってくる。
身長が2m半程はあろうかという、ちょっとだらしない腹回りのプチ巨人が走ってくるとかいう絵面は低Rankシーカーなら恐怖を感じる事だろう。
でもお前らは棍棒という、ある意味俺のエクスカリバー(棒)の上位互換を持っている時点で遠慮はしないぞぅ?
ンガァァァァ! って突っ込んでくるちょっとだらしない腹回りのプチ巨人共の頭を、スイカ割り宜しく順番に叩き潰しつつヒャッハーしていく。
そんな感じで雑魚をあっと言う間に駆逐し、ボスのちょっとだらしない腹回りのプチ巨人(大)を視界に入れて、密閉空間という目撃者がいない事をいい事に、ここ最近のストレスを解消したるわ! とばかりにインベントリから『※GMジン用大身槍∞』を取り出して……
本来なら投げる造りにはなっていないソレは、穂の部分が全長の半分を占める特殊な槍である。
放出系の魔法が使えない…… つまり遠距離攻撃手段を持たない俺の、唯一の飛び道具。それを力一杯分投げ…… たら、うん、流石GM専用装備、∞表記はダテじゃないね。貫くどころかパァァンって音と共にちょっとだらしない…… もとい、迷宮主を破裂させて壁の向こうにすっ飛んでいきました。
……え? 壁の向こうに? ナンデ? ダンジョンって破壊不能オブジェクトじゃなかったっけ? いやいやいや、"一の迷宮"で試した時は大太刀も大身槍も壁に弾かれてたじゃないか?
寧ろ大身槍って投擲目的の装備だから、投げた後は手元に戻ってくる仕様になってる筈なんだけど、投げっ放しのまま戻ってきませんよ?
え~ ちょっと待って、ここで槍無くしたら遠距離攻撃手段なくなっちゃうんですけどぉ~ 槍ィ! 俺の槍はどこだァ!! あ! 壁の向こうに槍の反応がするぅ!
……え、壁の向こうぅ? 隠し部屋かなんかですか? ちょっと座標の確認をば…… ってナニコレ座標数値文字化けしとるがな! コレってもしや、領域外って事か? 寧ろ壁抜けバグですか!? 神様ちゃんとオブジェクトの抜け修正しといて下さいよホントにぃ~
何かGM時代を思い出し酷く懐かしい気分に浸りつつ、暫く槍周りの座標を探ったり、回収できないか色々やってみたが、どうも向こうに行くしか回収する手段がないのではという結論に至る。
至ってしまいました。
マジかぁ、『Dungeon Searcher』のダンジョンならいざ知らず、こっちのダンジョンって領域外に転移しても大丈夫なのか? 普通こういう時はGMコールして一言文句を言いたいとこだけど、良く考えるとGMって俺だわハッハッハッって自虐的ツッコミを心の中でしつつ、仕方がないので槍の座標を目印に転移をしてみる。
「……おい、ちょっとこれ、マジかよ」
槍を回収すべく、覚悟を決めて転移した先は……酷く馴染み深い場所、いや見た目がと言う意味でだが。『Dungeon Searcher』でGM業務に就く者達が待機する際に使っていた空間、通称"バックヤード"と言われる場所と見た目が寸分違わぬ場所に出た。
「なんでバックヤードがこっちの世界に存在してるんだ?」
唖然としつつ周りを見渡し、一体ここは何だと確認 ───────
次の瞬間、視界がグルグルと回り、頭に強い衝撃を受ける。
網膜に赤く大きなWARNINGという文字が点灯している状態に理解が追い付かず、視線を巡らせば、ゆっくりと崩れ落ちていく首が無い体が見える。
こうして俺は唐突に、アガルタに転生して初めてアバターに損傷を受ける事になった。
刀が主武器だと云々というのは諸説あると言うか、多分明言しちゃうと色々面倒になると思うのでスルー推奨で。寧ろお願い。いやマジ卍
そんな訳でご拝読、評価、ブクマ有難うございます。
拙作は更新がかなりゆるやかになると思います。
また拙作に対するご評価を頂けたら嬉しいです。
どうか宜しくお願い致します。