別荘地と書いて拠点と読む。
「ジン様のご要望に叶う土地ですが、この辺りなどはどうでしょうか」
ダンジョン"沼"234階。フィールドタイプの階層は、広さが凡そ20Km程の高低差がそれなりにある場所だった。やや北西に小さな岩山があり、そこから落ちて来る水は小さな滝つぼを形成し、更に小川となって海へと流れていく。
岩山の周辺には森があり、そこから海辺の間には手付かずの草原が広がる。環境的には複数の変化を詰め込んだ「箱庭型」と呼ばれるタイプの階層らしく、特化型が必須な生産施設を置くには適していないが、個人的な住環境を求める俺には最適な場所ではないか、と朱音さんがイチオシするスポットとして連れてこられたのがここだったりする。
「ここなら滝つぼ周辺に小さな屋敷を構える事が可能です。また位置的にご要望の山の幸と川の幸、そして水の確保が可能です。更に徒歩圏内に平地(草原)がありますので個人消費が賄える農地が開墾でき、また海岸も存在するので海の幸を獲る事もできます」
牡丹さんとの契約の内容に"ダンジョンの中で気に入った一階層を自由にして良い"という権利を貰っていた俺は、選定に時間を掛けてもいいからという前置きをしつつも、「山の幸、川の幸、海の幸、そして農作物の栽培が可能で毎日風呂に入れる環境の階層を選んで欲しい」と、自分で言うのもアレだが無茶振りにも程があるだろうという要望を朱音さんに投げていた。
取り敢えず面倒な事はしたくなく、また便利かつ清潔な生活環境を求めるなら正直狐のお宿で事足りる。それでも敢えてダンジョン内部に拠点を構える事にしたのは、俺の下に就いた物見衆達の都合が大きい。
アガルタダンジョンでは牡丹さんを頂点として、活動する者達は役割ごとに「〇〇衆」という集団を形成し、有機的に連携している。
例えば剛羅の下には近接戦闘を担う徒士衆》が居たり、晃全爺さんなら陰陽衆とか率いてたりね。基本的には縦割りのトップダウン型、判り易く言うと組織がピラミッドを形成してると言えば理解できるだろうか。
で、其々は遭魔戦以外は別々に行動しており、役割に沿った行動をする為拠点を置き、そこを起点に活動をしているそうだ。
「これで屋敷と付帯設備の整備に取り掛かれます、ジン様のお蔭で我ら物見衆にも悲願であった拠点が…… 本当に、ありがとうございます」
「物見衆はあちこちに散ってるのが普通でやすからこれまで拠点は必要ありやせんでした。しかしこれからはジン様が筆頭となりやすんで拠点は必要になりやすね」
物見衆ってこれまでは家なき子だったらしいんですよね。て言うか何故俺の下にそういう組織が就いたのかという謎もあったりしたもんだが、そこは牡丹さんの"鶴の一声"というヤツが発動し、新入りと言うか現在人間関係のカースト底辺であるミーの立場では「アッ、ハイ」という返事しかできなかった結果、物見衆は彌榮さん直属という任を解かれ、俺の直属組織という事になってしまっていた。
そして同時に俺の別荘=物見衆のハウスって事にもなってしまっていたりした……
そんな訳で現在のアガルタダンジョンの組織関係をザックリと説明すると ────
牡丹さんを頂点に、"森の民"の長である彌榮さんが各組織の調整を行う。
その下に剛羅が率いる徒士衆と、晃全が率いる陰陽衆、そして生産関係を纏め上げる史典親方が率いる鍛冶衆が存在し、更にはあと三つばかり組織が存在するらしいが、そっちの関係者にはまだ会った事がないので今回は省略する事にする。
「うん? 鉄砲衆の名前が出てないけど、雅楽さん達って誰の配下になるん?」
「鉄砲衆は決まった頭を持ちませんけど、強いて言うなら長が担当になるんでしょうか」
「成程。って事はアガルタダンジョンって牡丹さんがトップで、彌榮さんがナンバー2、そんで脳筋とか爺さんがその下に就くと。って事は俺も序列に組み込まれるならその辺りになるのかね?」
「いえいえ、ジン様は牡丹様が輩として遇されましたので、序列という事であれば拙の上になりやすね」
……ん? 俺の序列が彌榮さんより上? 何でそうなる?
「輩とは同類、仲間という意味でやすがね、それを牡丹様が言うって事ぁジン様、アンタぁ迷宮主と同格だって言われてるんでやすよ?」
「いやいやいや確かに迷宮の管理を請け負う事になったけど、結局それも下請け業務だし。現状俺を序列上位に置く利点はないでしょ。いやワンチャン面倒事に発展する可能性もあったりしない? 人間関係的にさ」
寧ろ俺的には面倒事は避けたいので、できるだけ重要ポジに就かないカンジでお願いしたいんだが…… あ、ダメ? なんで? ああ、遭魔戦で活躍してたから? もしや……それはゴブ耳乱b、あ、チガウんですね、はい分かってます……
「元から牡丹様しか持たなかった迷宮への干渉力を備えてやしたし、遭魔相手に真正面で体張ってたのも皆見ておりやした。他の衆からしてみれば思う処もあるでしょうが、その辺りは時間が解決してくれるんじゃないかと思いやす」
「迷宮に常駐してる組は粗方納得済みの話です。そして今回の話に出てきてない者達自体、外で活動してる者達ですのでまだこの件での反応が返ってきてないというのが現状なんですよね」
彌榮さんが言うにはアガルタダンジョンの関係者の内半分程は、ダンジョンから産出される資源を売り歩きつつ資金を稼ぐ傍ら情報を収集したり、迷宮同士の繋がりを維持する為行き来しつつ、タイミングが合えば遭魔戦に応援として参戦する事もあるそうだ。
「担ぎ屋衆ってんですがね、そこの頭ってのはものすげぇ気難しい性分のモンなんですが、まぁ…… ジン様なら歓迎されるでやしょうよ」
「え、そうなんです?」
「えぇ、元々担ぎ屋衆は商売人気質が強えぇ衆でして、切った張ったは迷宮間の商売上切り離せねぇから仕方なく…… ってな感じでやっちゃぁいますが、今後はその辺りジン様が居りゃぁ事足りそうでやすし、ヤツ等にしてみりゃこれ幸いって感じになるんじゃないですかねぇ」
「他ダンジョンへの応援ですかぁ、別にそれは構わないんですけど、俺一人でその担ぎ屋衆さん達の代わりになりますかね?」
「ジン様は遭魔相手にベタ張りで前衛張れやすし、何より転移術をお使いなさる。なので援軍って形で他の迷宮へ行って貰う事が容易でやすし、それなりに戦働きをして貰う機会があると思って貰った方がいいと思いやすよ?」
いや援軍て。確かに転移先の座標を記録しとけば、以降の移動は時間も距離も関係ないけど。そもそも遭魔相手にベタ張りって…… アレは逃げれなかったから仕方なくあんな戦い方になっただけであって、本来俺のアバターは近接攻撃に極振りビルドだからな。あんま盾としての能力を当てにされると困るんだよ。
「他に二人程連れて飛べるとお聞きしてやすが、それなら朱音は固定として、もう一人…… 雅楽や弥雲辺りを連れてきゃその辺は万全なんかじゃないですかね」
「いやそれでもたった三人でしょ? 幾らなんでも応援って言うには少な過ぎるんじゃないかなぁ」
「何を仰いますやら。ウチには剛羅や晃全翁が参戦してるからジン様も集団戦って体で戦ってられやすが、他の迷宮に行きゃ間違いなく前衛張らされると思いやすよ? 何せウチ以外の迷宮で遭魔に傷を負わせられるヤツは、恐らく片手の指で余る程度しか居ないでしょうしね」
「え、何か今サラッとヤバい事聞いた気がするんだけど? 寧ろそんな状況で今までよく無事だったなオイ!」
「いやぁ遭魔と言ってもピンからキリまで居やして、這い上がってくる個体の強さってのは迷宮の規模に比例しやす。ウチはこの世界最大規模の迷宮ですんで必然的に遭魔の強さも極まってやすが、他の迷宮だといいとここの前排除したのとどっこいのが最上位って感じでやしょう。つまり、ジン様ならお一人でも何とかできるのではと」
「そこはジン様の必殺技である"絶"の出番ですね」
「いやいやいや、アレでもギリだからね!? てか朱音さんそこで"絶"とかアテにしない! 寧ろ援軍要請が来た時は脳筋と爺さん辺り連れていかないとヤバイデショ!」
サラッと無茶振りするんじゃないよマジで、この前戦ったのと同じくらい強いのを俺単体で相手しろって? どれだけ人の事過大評価してんだよ! せめて脳筋とか爺さんの補助がないと無理ゲーなんですがそれは。ってなんですか、え? いや朱音さんをハブにするつもりは無くてですね、戦力的に…… ア、ハイ、イヤそのそういうつもりは全然…… うん、何と言うかその、えっとハイ…… サーセンシタ、調子乗ってました、ホント申し訳ありませんカンベンシテクダサイ……
結論から言うと脳筋と爺さんはアガルタから動かす事はできないという事で、基本的に俺と朱音さんが固定として、都度状況をみて動けそうな誰か一人を伴って他ダンジョンの遭魔戦へ参陣するというのも業務に含まれる事になった。
そんな訳で俺は暫くの間、アガルタダンジョンの保守管理をしつつ、他ダンジョンの座標を拾いに行く為に半日程の移動というルーチンを熟さないといけなくなった訳ですよ。
いやほら、転移使えるしね? ある程度移動したらそこの座標記録して狐のお宿に帰る…… ってのを繰り返していけば何日も移動に掛かりっきりにならなくてもイイしノー野宿安定デショ? ってカンジで。ホントもぅ風情もクソもない旅…… 旅? じゃないよ的な、なんちゃって移動生活がスタートする。するんですよマジで……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「そんな訳で、半日程度の旅に必要な道具とか諸々が欲しいのでオススメのブツをオナシャス」
「半日程度の移動は旅と言わないニャ。寧ろ移動用キャリアなんか必要ないからそれは元の棚に戻してくるニャ……」
旅をするというならそれなりの装備は整えないとダメだろう。ほら、世間一般ではそこらの低い山とかの登山道ってハイキングコースなんてファンシーな名称になっているが、それに騙されて散歩気分で入山したら遭難したなんて話はそれなりに聞くしな。
そんな訳で大事を取って、俺は雑貨屋『猫屋』へ旅に必要な道具や装備を整えに来た。
「だからニーチャン、半日程度の移動に野外調理用の器具や大型テントなんかの重装備は必要ないって言ってるニャ。荷物になるからそれは棚に戻すニャ」
「え、でも途中で腹減ったりしたらヤバくないです? あと遭難した時テントは要るのでは?」
「なんでたった半日移動するだけなのに、遭難前提の、更に餓死対策するレベルの備えをする必要があるニャ。半日しか移動しないんなら弁当でも買ってきゃいいニャ。てか何でアホみたいに移動コンロとか寸胴鍋とか調理器具一式買おうとしてるニャ」
「いや、メシは温かいの食いたいじゃないですか。で、必要な道具なんかは大八車的なカーなんかを用意すれば、一式全部乗るから問題ないかなって思うんですよね」
「誰も持ち運びの心配なんかしてないニャ! そんなのサンドイッチと水筒でも持ってきゃ事足りる事なのに、何故無駄に総重量300kgにもなる装備を用意しようとするニャ! もう盛大に目的と手段をはき違えてるニャ!」
「いや、そこは何かあった時に備えてですね……」
「実際に行動する前段階で備えの方向性が既に遭難レベルの迷子になってるニャ! おい狂犬! お前もシレッとバーベキューコンロを奥から持ってくるんじゃないニャ!」
「外での食事は、基本的にバーベキューではないでしょうか」
「一体それはどこの基本ニャ!? てか肉焼きたいなら焚火と網だけで十分ニャ! 何なら枝にぶっ刺すだけで事足りるからなんも道具はいらないまであるニャ! なのに何でよりにもよって重量200kgクラスの魔導バーベキューコンロを引っ張り出してくるニャ…… そんなボケはなァ…… ゴブ耳のニーチャンだけで腹一杯ニャ!」
「ボケではなく本気と書いてマジなんですが?」
「アホか? お前ら二人揃ってアホなんかニャ?」
『猫屋』の店主、見た目は黒猫が二足歩行してる感じの獣人だが、名前がエドワルド・フランシスコ・ロペス・ガルシアというんだそうだが、とても覚えられそうにもないので未だに俺は猫屋の店主と呼んでいる。
そしてこのエドワルド・フランシスコ・ロペス・ガルシア改め猫屋の店主さんだが、どうも朱音さんとは昔馴染みらしく其々「狂犬」「クソ猫」と呼び合っている…… が、どういう関係なのか聞いてみた処、予想外の言葉が返ってきた。
「そこの「狂犬」とは仕事関係で組んでた事があるニャ、でもニャーは昔膝に矢を受けてしまったのでニャ、今は雑貨屋を営んでるニャ」
膝に矢て。彼は昔ホワ〇トランかソリ〇ュードで衛兵でもしていたのであろうか。て言うか仕事関係で組んでた事があるって、もしかして店主は森の民の関係者か何かですか?
「アガルタに居る獣人は皆同じ里の出ですが、これまでに至る生き方の違いで今の立ち位置は違っています。なので獣人だから皆味方…… という単純な関係ではありませんね」
「ニーチャン達異邦人だってお里が同じモン同士で普通に殺し合ってるニャ? それはニャー達も同じニャ」
随分と極端な言い方をしてるが、言ってる意味は理解できる。昔彼らに何があったか知らんけど、アガルタに移住してから一世紀以上も時間が経過してるなら其々の生き方も違ってくるし、関係も複雑化するのは当たり前なんだろう。
て言うかそもそも彼ら獣人の都合とか、ルナリス教国との間で何があって今どういう関係にあるのかとか、その辺りの話も付き合いが浅いからって遠慮があってちゃんと確認できずにいる。
が、どうにも俺はこらからそれなりに重要なお仕事を任されるのが確定してる感じだし、仕事を円滑に回す為にも、これからの行動の基準…… 自身の立脚点を固める為に、最低でもこのアガルタに於けるダンジョン外の情報を精査する必要がある。
情報集めとか、人間関係の構築とか面倒臭いけど。
ホント面倒臭いけど…… 主に人間関係の方。
「取り敢えずテントとか食料入れる袋的な物クダサイ。余裕みて一週間分の物資が入る枚数を」
「何で半日行動に付帯する予備日を一週間に設定してるニャ…… 相変わらずニーチャンは頭おかしいニャ」
そんな訳でご拝読、評価、ブクマ有難うございます。拙作は更新がものっそゆっくりペースになると思います。
また拙作に対するご評価を頂けたら嬉しいです。
どうか宜しくお願い致します。




