餓〇伝説
「此度は中々手早く遭魔を始末できたようじゃが、どうじゃ? あ奴は役に立ったかの」
狐のお宿最奥の離れ。アガルタ迷宮の主牡丹を筆頭に、剛羅、晃全、彌榮という上位管理者達が集い、先の遭魔討伐戦に於いての報告と確認が行われていた。
「ジン様のお蔭で戦力の殆どを攻めに回せやしたし、何よりトドメ自体あの方が獲りやしたので」
「ふぅむ…… で? そちらから見てあ奴はどうであった?」
「どう…… って言われても、まぁ一言で言うと、ありゃぁ言っちまえばバケモノの類ってヤツだなァ」
「ほう? 剛羅をしてバケモノとはの。それはまた、何と評価すれば良いのかの」
「幾ら防御寄りの系統と言えど遭魔は遭魔ですじゃ、それの攻撃をまともに浴びて飄々としておるとか、ほんにバケモノとしか言えんですわいの」
怪訝そうな顔で報告書を睨む牡丹に何とも言えない表情を並べつつ、戦いに参加していた者達は長段平を振り回すフルプレ騎士の評価を口にする。
そも遭魔とは外の世界から来る異物であり、多少有り様の差異はあれど、危険度という面に於いては半神をして脅威だと言わしめる存在である。
これまでは剛羅が盾として前面を受け持ち、その他の面々で削り切るという戦略一本で何とかしてきた。但しその戦略の要である剛羅であっても攻撃の直撃を受ければ即落ちは必至、故に盾とは言っても回避が基本となる。
しかしジンは遭魔の攻撃をまともに浴びても平然としており、更にはギャーギャーとツッコミを入れつつカウンターすらやってのけたりしていた。これは牡丹配下の上位存在達ですらバケモノ扱いされる程の人外っぷりである。
「……ん? んん? 遭魔の攻撃を? まともに? それは一体何の冗談じゃ?」
「いや牡丹殿、あのジンというのは遭魔の攻撃を真正面からビシーンバシーンと受けてもギャーギャー文句言うだけで、ケロッとしておったですじゃ」
「……なんじゃと? 確かに武具には壊れずの特性が付与されておったが、それでも殴られれば中身は無事では済むまい」
「いやいや、それがもうケロッとしてやして。寧ろ最後は必殺と言ってゴブの耳を撒いて遭魔の意表を突いてやしたね」
「……ん? ん……んんんん? ゴブの耳? なんぞそれは?」
「て言うかゴブの耳もアレだけどよ、いっとうヤベぇのはトドメに使ったアレなんじゃねぇか?」
「アレ? なんじゃそれは?」
「むぅ、アレか……」
「あぁ、アレでやすか……」
「ぬぅ…… アレとは一体なんじゃ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『Dungeon Searcher』では基本的に週に一度のメンテの時以外、ずっとサーバーは稼働し続けている。当然その間はプレイヤーもずっとゲームをプレイしている訳で。それは、つまり、ゲームの管理を担っているGMはその間ずっとお仕事な訳で。
「そんな訳でな、『Dungeon Searcher』での管理って二十四時間業務なんだよね。で、労働基準法的に丸一日お仕事をさせ続ける訳にはいかないんで、管理者チームを三班に分けて業務を回してた訳だ。取り敢えず各班には社員であるGMが三名、アルバイトである"モデレーター"が三名、そしてボランティアの"コンパニオン"が五名の計十一名を一班として、週一のメンテ日以外毎日八時間の三交代体制でさ」
「ふむふむぅ」
「んで、各班のチームリーダーは言ってしまえば人員を管理する立場と言うか、社内規定では主任待遇って事で、受け持ち時間内ではある程度の管理権限を持っていた訳だ、対外的にも三班のリーダー達ってのは色々とやってたからそれなりに有名だったし、社からしてもそれなりに信用されてたと思うし」
「ほうほう、それで?」
「結局何を言いたいのかと言うと朱音さんがさっき聞いてきた、あの遭魔を倒した"アレ"ってのはサービス初期にやったイベント絡みで実装されたGMだけの特殊な能力なんだけどさ……」
『Dungeon Searcher』では、取り敢えずの規模ではあったがワールドシナリオ的なイベントが何度か開催された事がある。
だが、まだゲームの運営が安定していなかった創成期の辺りで開催されたイベントでは、後先考えない上層部が無駄な部分にジャブジャブとリソースをぶち込んじゃっていたせいで新規にデータを開発する手間や時間が取れなかったり、新たなスタッフを雇う資金もないという自業地獄が発生しちゃったりしていた。
その為何度かGMである俺達も駆り出されるというか、あろう事かイベントボスをさせられた事もあった。
「俺が遭魔にトドメを刺した"アレ"は、イベントボスを勤めていた時の能力でね、名称は『絶』と言う」
「へぇ、『絶』ですかぁ。成程『絶』ぅ~、『絶』ですかぁ」
「……いやごめん、連呼しないで。ホント、ちょっと心がその、何と言うか痛くなるので、オナシャス」
この何とも厨二心をくすぐる名称の『絶』とは、古今東西ボスという存在に必須と言われる第二形態時にのみ発動可能な能力だったりする。
能力の発動条件はGMジン用∞フルセットを装備した状態で相手の攻撃をカウンタ―で返す事。発動すれば防御を無視した状態でのクリティカルヒットが必ず発生する。その際受けるダメージ数値は、何とスキルを発動した時点のHP残量全てという特性を持つ鬼畜仕様。
これを回避するなら、戦闘前にリザレクションが自動発動するアイテムを使用しておくか、魔法を掛けておく必要があるという、回避不可な極悪能力であったりするんだな。
ただこの能力を使用した後は二分間行動不能になり、その後五分間能力値全てが八割減、更にそこから五分間は能力半減のペナルティが付く。
……まぁこんな強力な能力に対してのペナルティとしては軽いように思うだろうが、それはイベントバトルの時間制限が三十分という仕様の為、それ以上のペナルティを付与しても意味ない状態だったので仕方がないと言えよう。
────── なんでか通常時に使用してもペナルティは変わらん仕様になってたんですがね。
「成程、だからあの時鎧の一部が邪悪に光ったり、簡単に遭魔をプッスリできちゃったんですねぇ」
「邪悪って…… うん、アレが第二形態ね。まぁある意味即死技なんかゲーム的に使うのは反則だからってさ、自粛してイベント以外で使った事のなかった死にスキルがこっちで切り札になるとか、ボクもビックリしてます…… はい」
発動すればワンパン即死攻撃とか…… ゲームの中でなら対策の立て様もあるだろうが、蘇生に関する術理が禁則事項として設定されているこの世界に於いてははっきり言ってチートどころの話ではない。まぁ対象が単体である時点で使い処はある程度限定されるのだろうが、それでも今回の様な対遭魔戦ではバリバリのチートとして使える手なのは間違いない。
「寧ろジン様に『絶』を使って頂ければ遭魔戦は『絶』だけで事足りてしまうのでは。と言うか『絶』って言うより壮絶と言うべき能力ですよね『絶』って」
「だから連呼しないで…… て言うか朱音さん、何かあの時とは随分性格違ったりしてませんか……」
「えと、基本私達"森の民"は一部を除いて性格的に色々と難がありますから、遭魔と戦う時は薬を飲んで心の動きを鈍くしてるんですね」
「あ、そうなんだ。てか薬で心の動きを抑えるとか、随分無理してると言うか…… その、何と言うか……」
まぁあんなバケモノなんか前にしちゃったら普通ビビっちゃったりしちゃうわな。て言うかここだけの話、俺自身大丈夫って思いつつも殴られ慣れるまでちょっとビビり入っちゃったりしちゃってたからなぁ。
「皆イケイケドンドンですし? 放っとくと死ぬまで特攻辞めませんし? 何か気が付いたら殴りに飛び出してますし?」
「え~ そうなんだぁ、そっち系なんだぁ、へぇ、成程ねぇ~?」
薬で押さえないと種族総『ガンガンいこうぜ』ってどんな戦闘民族なんだよ、てかアドレナリンブッパし過ぎだるぉ? 何だよブッコミとか気が付いたら殴りに飛び出してたとか。
「そんな訳で改めて。この度正式にジン様の傍仕えを仰せつかりました、"森の民"物見衆の朱音です。どうぞよしなに」
「えーっと、要するに俺と、ダンジョン各階に散らばった"森の民"との繋ぎ役に朱音さんが就くと、そう認識しても?」
「そうですねぇ、それに加えて身の周りのお世話とか? 必要ならそれ以外の諸々とか仰せつかりますよ?」
「成程、"それ以外の諸々"という部分はヤなヨカンがするので取り敢えずノーサンキューとして、業務的な流れは…… うん、大丈夫そうね」
朝からこれで四カ所目であるダンジョンオブジェクトの復旧作業、世間一般的には"穴抜けバグ"と呼ばれる不具合を修正しつつ、俺と朱音さんは互いに情報交換という名の世間話をしていたりする。
あの時ではブレストプレートを着込み、両手に大型クローを装備する物々しい恰好の朱音さんであったが、今日は戦闘目的ではないという事で、皮鎧メインの軽装で業務のお手伝いに就いていたりする。
背丈は178cmの俺より頭一つ…… いや半分程?、低いから恐らく身長は160前後だろうか。ちょっと長めの赤毛はウルフカットであり、頭頂にはワン娘の証であるケモミミとぶっといアホ毛が生え、胸部装甲は皮鎧であるにも関わらずそれはもう盛大に…… 色々と、サイズ的に自己主張している。
防御力増大に直結しそうな胸部装甲はまぁさておき、犬娘なのにウルフカットとかそれ何か狙ってるの? 色々と。そこでキャラ立て企んでるんですかとか密かに思ったりするのは心の内に留めておこう。
「にしてもこう…… 抜けバグが三十から五十階層付近に集中してるとかどういう事なのかな、後八カ所程確認されてるんでしょ?」
「えっとですね~ この"沼"で一番戦闘が行われているのは統計的に三十~五十階でしてぇ。それでシーカー達の前線基地が三十五と四十五階層にあるんですけどね、その辺りが原因となっていると思われまして」
「成程。戦線維持という事を考えると、兵站線はある程度の拠点を挟まないと最前線まで届かないだろうしね」
「その辺りの維持を万全にすると言う事は、必然的に戦闘数もそれなりになってしまうんですよねぇ」
「それ以前に、ここのダンジョンオブジェクトって不壊属性じゃないの? 幾ら頻繁に戦闘が発生するからって、オブジェクト破壊に繫がるとかおかしくない?」
「実は…… "沼"の浅層って作られた当初通過点としての用途しか考慮されてなかったらしく、かなり適当に作られてたらしいんですよねぇ」
「ん? ……んん? どういう事?」
「元々ここは遭魔を迎撃するのは二百層以下と想定された作りになっていまして。でも、まさか異邦人の方達が百層も突破できないとは想定されておらず…… その……」
「わぁ、そういうカンジでテキトーに作ったフィールドの想定外ゆえに、今ミーがツケとしてひっ被ってると、つまり、そゆ事ですか」
おい、そこで凄くいい笑顔のサムスアップはいらないんだよ! 寧ろ『Dungeon Searcher』のランカークラスで百階層いかないとか、神の想定ガバガバ過ぎやしませんか!? って「末永く宜しく」ってヤメロ! そういう台詞はもっとキュンとしちゃうキャッキャウフフパートとかで言うモンであって、こういうメンドクセーシチュで使うモンじゃねーんだよ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「え、何ですか!? ちょちょっ!? もう一度お伺いさせてクダサイ!?」
「ですから、今日からこちらのジンさんと私はパーティを組む事になりましたので、その手続きをお願いしたいのですが? ついでにクランの名称を「一人」から「二人」に変更お願いしますね」
結局あれから"抜けバグ"の修正に一日費やした訳だが、次の日に始業前の打ち合わせをした際、これからは業務でダンジョンの中で活動するなら対外的にパーティを組んだ方がいいのではという事になったので、朝一からギルドへ手続きに着ていたりした。
いつもの如く窓口に並び、受付のオネーサンに朱音さんがパーティ結成の申請をする。ここまではそういう手続きに明るい彼女に任せたのは決して間違いではなかったと思う。
ただ…… この判断が間違いだったと気付いたのは、彼女、朱音さんのシーカーRankが事前にどれ程かの確認を怠ったのがそもそもの失態だったと、後に猛省する結果となってしまうのであるのだが……
「おい…… アレ、受付で"ゴブ耳"と一緒に居るのって、もしかして"餓狼"じゃないか?」
「え、"餓狼"ってあの? "森の民"の?」
「そうそう、確か第五次スタンピードで魔将を単騎で屠ったとか、オーガの群れを掃滅したとか。もしアレが本物の"餓狼"なら伝説のシーカーだぞ」
誰が"ゴブ耳"か! ていうか餓狼とか、伝説のとか、繋げちゃうと嘗て一世を風靡した某格闘ゲームのタイトルになってしまうんですがそれは。
因みに俺は金髪アニキより、あの骨法使いのビミョーな弟を使う頻度が高かったな。て言うかライジング〇ックルとか空〇弾とか兄弟揃って蹴りの必殺技が色んな意味で捻り過ぎでアタマオカシイと思うのは俺だけだろうか? 主に絵面的に。
「あのぅ、RankAの朱音様とRankEのジン様がパーティを組みましても、潜れるダンジョンはジン様に合わせた場所に限定されますし、必然的に収支も目減りした物になります。更にはRankの査定にも影響がありますので、その……」
「マイナスに関しては全て私に対しての物ですよね? なら構いませんよ? どうせこの先ずっとコテパを組むのですからRank差は何れ埋まるのですし」
「え!? ゴブm……もといジン様とずっと!? 正気ですか?」
おい受付嬢、今俺の事"ゴブ耳"って言おうとしたな? 寧ろ朱音さんシーカーRankAってどいういう事? 聞いてないんですけど? ナニ? 無双しちゃうの? 餓狼が無双って魔将とかオーガ相手にバーンナッコーとかザンエイケンッとかしちゃう訳? それ以前に貴女犬族ですよね? なんで狼なの? ねぇナンデ?
「そもそもパーティを組む事に規制も何もない筈ですが? 第一大手クランでは新人教育と称して高位シーカーが新人シーカーと一時的なパーティを組むのは常態化している事でしょうに、なぜ我々に対してだけそういう注意が入るのでしょうか」
朱音さん、今さっき貴女ミーとコテパ組むとか言ってませんでしたっけ? て言うかものっそ注目されてるんで、そろそろ手続きとかしてフェードアウトしませんか?
「と、我が主が申していますので、とっとと手続きの程お願いしますね」
「ダレがアルズィー!? 寧ろ人の心読んで勝手に代弁しないでぇーーー!?」
「取り敢えず長からジン様の専属を仰せつかっておりますし、それってもう主従の契りを交わしたと同義でいいですよね?」
「彌榮さんからは業務補助としか聞いてないんですが。て言うかお給料支払う関係なので主従と言うか雇用関係なのではないかと思うのですけど」
「まぁその辺りは心づもりなので間違ってはいませんよ。と言うか部下の忠義をそういうビジネスライクに落とし込むのはどうかと思うのですが」
「あの…… ジン様、朱音様、ギルド長よりお話があるという事で、申し訳ありませんが別室においで頂けませんでしょうか?」
やっべ。何かまた殺しyもといギルド長から呼び出しが掛ったんですが、用件って多分アレですよね? RankAとRankEがコテパ組む事に対して物申す的なお話ですよね?
どうすんの? ダンジョン関係の諸々って内緒なんでしょ? 何か面倒な事になりそうなんだけど…… ねぇ?
そんな訳でご拝読、評価、ブクマ有難うございます。拙作はゆるやか~な更新になると思います。
また拙作に対するご評価を頂けたら嬉しいです。
どうか宜しくお願い致します。




