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ファイナルアルティメットウエポン



 ゴボゴボとうがいをする様な、水が排水溝へ吸い込まれる様な、そんな不快な音をくぐもらせ、黒い塊が宙に浮かぶ。

 

 

 アガルタ迷宮の一つ"沼"の二百五十階。そこには遮蔽物となる構造物が巡らされ、其々には攻勢防御を念頭に置いた狭間胸壁や銃眼防壁染みた壁が、下層へ向けて囲む様に設置されている。

 

 飛び道具や魔法を使用すれば自然に戦力を集中する形──── 所謂十字砲火になるよう配されたそれらは、階層の中心を"殺し間"として機能させている。

 

 

「見た目は"毛玉"っぽい個体に見えやすが、どうもちっと毛色が違う様で」


「観測班からの知らせでは直径凡そ8m程の体躯で、触手が二十以上生えているようです。また体毛が固く剣や矢も通じ難いそうです」



 彌榮(いやさか)さんと配下の獣人さんが観測し、遭魔(そうま)の情報が防衛戦に参加する者達に伝えられる。

 

 本来なら三百階層付近から攻撃を開始し、削りながら弱体させ、最終的に二百五十階の"殺し間"で止めを刺す。それが防衛戦本来のやり方だという。だが今回の遭魔(そうま)は隠密能力に長け、移動速度もそれなりという個体であった為、存在に気付くのが遅れ、結果としていきなりの総力戦となった。

 

 

「これは…… え、これで8m?」



 直径8mの怪物、そう聞けば魔物としてはそんなに大きくないというイメージを持つかも知れない。実物を見るまで俺も正直小さいなというイメージが先行していた。

 

 地球に氾濫していたファンタジー物に出てくる魔物と言えば10mや20mのは当たり前、主人公ともなればその程度の魔物なら、何の問題も無く倒すなんてのがストーリーとしては当前というのが殆どだったんじゃないかと記憶している。

 

 つまり何が言いたいのかと言うと、8mという大きさは大したことも無いと思っても仕方のない事だと思う。

 

 だが実際その程度と思われる大きさを前に、俺は今ちょっとリアルでの縮尺の誤解というか、現実と想像の差という物にプルプルする羽目になっている。

 

 

 何と言うか──── 思いの外デカイのだ。

 

 

 たった8m、それがリアルで対峙するとどうしようもなく巨大に感じる。

 

 まぁ戸惑うのも当然だ、8mと言えば一桁メートルだ。大股で移動すればたった8歩程の大きさである。

 

 しかしそれを物として置き換えてみればどうか。例えば車。日本のメーカーが発売するミニバンやそこそこの大型セダンならば全長4m前後のサイズが殆どだ、つまり8mとは車二台分を縦に積んだ大きさである。

 

 また幹線道路の幅はセンターラインから路肩まで一車線凡そ4mの幅員と定められている、つまり8mの怪物とは道路を二車線分塞いでしまう程の巨躯を誇る。

 

 それでもまだピンとこない者にはこう説明すれば凡そ想像がつくだろうか。ごく普通に子供達が通う小学校や中学校の教室、そこの先生が立つ、教壇がある側の壁。あの黒板が張り付いている壁の端から端までの距離が凡そ8m前後。つまり今俺の目の前に浮いてる黒い毛玉は教室の幅一杯の直径を有する巨大生物なのだと。

 

 前衛として対峙する今、縦に二つ並んだ目を見る為には首が痛くなる程見上げなければいけない、左右の端を見る為には目一杯首を回さねば視界に収まらない。つまりそれ程巨大で────

 

 

「おいジンの字、なにプルプル震えてやがんだよ」



 はっきり言おう、遭魔(そうま)という存在もヤベーが、今俺の現実逃避をぶち壊してくれたこの脳筋(剛羅)とか爺さん(晃全)なんかも、結構ヤベー存在であったりする。

 

 何せぶっといワイヤーもかくやという触手がブンブンと振るわれる中をひょいひょいと移動し、脳筋(剛羅)がガシガシと斬りつければ、逆側から「ヒョヒョヒョヒョ」という形容のし難い笑いと共に爺さん(晃全)が魔法をブッパする。

 

 当然二人以外の者達もガシガシと攻撃を仕掛け、場は物理と魔法双方の力が渦巻き七色の爆発と暴力が混ざり合う。

 

 そして不壊の武具を纏っているという理由だけで正面の攻撃を一身に受け持つミーは、現実逃避でもしてないと精神的にメーになりそうになっていたりしてる。

 

 

「むぅ、硬さもそこそこじゃが、妙に攻撃の芯を外されるのぅ」


「チッ、切っ先が本体に入ってかねぇ! っだらメンドクセェ!!」



 うん、キミ達…… 何かバトルマンガ宜しく熱く語るのはいいんですけどね? タゲが移る度に俺の後ろに隠れるのは絵面としてはどうなんですかねぇ?

 

 

「攻撃が当たる瞬間だけ全力で動いてるようで。これはちと長期戦を見据えて配置の見直しをするべきでは?」



 そうね、配置の見直しに関しては俺も大いに賛成です、え? 俺のポジは引き続きそのまま? ……そっかぁ、そうなんだぁ。

 

 

 正直言って、遭魔(そうま)の正面に居座って前衛をソロで勤めてはいるが、攻撃が10発来れば8発は直撃してると思う。痛いし怖いしかなりの衝撃も受けるが、装備が壊れないのと、やたらと頑丈な肉体のお蔭で昏倒はしてない。けど、このままではジリ貧なのは間違いない。

 

 

 主に俺の精神的に。

 

 

 お前そりゃアレだ、視界一杯の毛玉に睨まれつつビシーンバシーンされて、尚且つゲホゲボゴボボなんて不快なうがい音聞かせられるんだぞ? しかも定期的にタゲ外しの為に味方が俺にヘイトを擦り付けに来る。一言言わせて貰っていいですか? 俺装備見て貰えれば分かるだろうけど、盾職じゃないんですよ。

 

 寧ろ大太刀ってカテゴリ的に両手剣であって、バリバリの攻撃職なんですけど?

 

 

「ジンの字が前受け持ってくれるから今回は楽だなァ、お蔭でメシとか食う余裕もあるゼ」


「フザけんなボケ! こっちがビシーンバシーンされてんのに、何呑気に後ろでおにぎり食ってんだよ!」


「腹が減っちゃ戦はできねぇってな? 心配すんな、メシ食ったらちゃんと交代してやっから」



 今回防衛戦に戦闘要員として参加してる人数は三十人程らしく、それを補助する為にもう三十人程がこの階層に散らばっている。

 

 今までは剛羅(ごうら)遭魔(そうま)の攻撃を受け持ち、その他でなんとかするというのがお決まりのパターンだったらしいが、そこで壊れない防具を装備した死なない俺が参戦する事で戦略は一新、盾ポジを二枚にし、尚且つサポート要員を増やす事で時間を掛けて損耗を減らす事に方針転換したそうな。

 

 まぁね…… 要の盾ポジが一枚だとどうしても戦略的な余裕がないと言うか、基本は短期決戦になっちまうだろうよ。

 

 だけどな? 余裕ができたからって人がビシーンバシーンされてる後ろでブルーシート広げて、ピクニックよろしくお弁当タイムとかどうなのよ? えぇ?

 

 

 こうして一部に負担を激しく押し付ける防衛戦は、俺と脳筋(剛羅)がローテで遭魔(そうま)の攻撃を受ける事で長期戦の様相を呈する事になった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「シャケにしますか? オカカにしますか? それとも卵焼きにしますか?」



 ダンジョン"沼"二百五十階で繰り広げられる防衛戦も今日で三日目に突入した。そう、なんとあれからビシーンバシーンされる日々が三日目に突入してしまった。

 

 流石にそれだけの時間があれば色々慣れるもので、一方的に食らう攻撃は10発中8発から、10発中6発程に減ってきた。それに伴い今まで防御するだけで手一杯だったのが、僅かばかりになるがカウンターによる反撃もできるようになったのは、今回の防衛戦に於いて俺的に数少ないプラスとなる話題と言えるだろう。

 

 

「お腹一杯ですか? お茶飲みますか?」


「うんその、ポンポンは膨れましたので、ちょっとゆっくりさせてクダサイ……」



 彌榮(いやさか)さんの配下、通称"森の民"と呼ばれる人員はサポート要員が多く、今回の防衛戦に於いてもその辺りを一手に引き受けている。

 

 そして現在は脳筋(剛羅)と交代しお食事タイムな俺の専属サポートとして、犬獣人の朱音(あかね)という娘が就いてくれている。

 

 年頃は恐らく十代後半だろう辺りのワン娘だが、やたらとテンションが高く、殆どの会話の語尾に"?"が付帯したりする困ったちゃんでもあったりする。

 

 

「ゆっくりしますか? それじゃ膝枕しますか?」



 ムチムチの膝枕を堪能しつつ、現況を整理する。

 

 この三日間での防衛戦で判明した事だが、今回相手にしているヤツは比較的良く出現する"毛玉"と呼ばれる遭魔(そうま)の特殊個体であるそうな。

 

 "毛玉"自体は隠身に優れ、防御寄りに能力を振った感じの魔物なんだそうだが、今回のヤツはそれに加え、更に防御に特化しておりこちらの攻撃の殆どが無効化されてしまっている。

 

 

「お昼寝しますか? 子守歌歌いますか?」



 まどろみながら彌榮(いやさか)さんが纏めた個体情報と、現在自分が出来得る手段をムチムチの膝枕を堪能しつつも模索していく。

 

 今回の特殊個体は基本的に防御寄り特化と言っても物理的に硬い訳ではなく、瞬間的な回避と、まん丸な体躯を利用した捌きが攻撃を不発に導いている為、結果的に防御特化になっているケースであると考えられる。

 

 "殺し間"の真ん中に陣取りつつも、僅かなスペースを効率的に、尚且つ攻撃を受ける一瞬だけ動く事でまともに攻撃が当たらない、と言うか多少の手応えがある程度の立ち回りをされているので、逆にイライラが募る結果となってしまっている。

 

 

「……要するに、防御されてるってよりも躱されてるという事か」



 長期戦になればこっちが有利なのは自明の理だが、これから先の事を考えればもっと効率的、かつ確実性のある戦略を確立する必要がある。とムチムチに後ろ髪を惹かれながらも休憩を終了し、毛玉討伐に向けて準備を進める事にした。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇




『ゴバゲボゴブゲバ!!』

 

「シィッ!」

 

 

 左右から薙ぐ様に迫る触手をギャリギャリと音を立てながら擦り上げ、その勢いを円運動に変えつつ本体に大太刀を叩きつける。

 

 本来日本刀としての用途的にはしてはいけない戦い方と、俺の中の知識が警鐘を鳴らす。が、振う装備も不壊属性の物である為、敢えて受ける時も叩く時も正面から、全力でいく。

 

 そうする事で被弾する確率を下げ、更にはカウンターの機会を増やしていく。

 

 

『ギィィィィィガァァァァゴバゴボ』


「煩せぇッ!」


「カカカッ! ほぅらこれでも食らわんか!」



 そうする事で俺からヘイトが剥がれる事が少なくなり、必然的に脳筋(剛羅)爺さん(晃全)達が攻撃に専念できるようになる。

 

 当初に比べれば連携が取れ、攻撃する機会も増えたと言える。が、相変わらずダメージ的には微々たるものしか蓄積していない。

 

 元の耐久値がどれ程あったのか、今はどれだけ減っているのか、肝心の部分は分からない状態だが、残念ながら手応え的にコイツを仕留めるにはまだ時間も手数も足りてないのが嫌でも分かってしまう。

 

 三日も対峙すれば分かる。攻撃が当たる瞬間、たった数センチから数十センチの動きだけで全てを往なしている。寧ろそれだけしか動くスペースがないのにも関わらずコレとか、遭魔(そうま)ってのはこんなに面倒な存在なのかとうんざりする。

 

 

「むぅ、これだけの長期戦となると老骨には堪えるわい…… のっ!」


「へッ、まだまだ余裕だろが…… よっと、まぁでもそろそろ俺も飽きてきたぜ。ったく、どうにかなんねぇのかよコレはよォ」


「幾ら押し込んでも僅かばかりの隙間は埋める事は不可能じゃて、覚悟を決めて叩き続けるしかないわい」



 ひょいひょいと攻撃を躱しながら繰り広げられる戦頭(いくさがしら)二人のやり取りに、周りのヤツ等もうんざりした表情を滲ませる。

 

 確かに、どれだけ詰めても相手をカッチリと詰める程に追い込むのは物理的に無理があるし、身をよじる余裕がある時点でコイツとの戦いが長期化するのは必然と言える。

 

 

 これが遭魔(そうま)、その中でも特に厄介な特殊個体。倒す事はできてもそこに至るまでの労力は膨大な物になるのが必然の存在。

 

 

「おい脳筋(剛羅)爺さん(晃全)



 振り返りもしないが、こっちに注意が向いた事が分かったので、そのまま言葉を吐き出していく。

 

 

「悪いけどよ、ちっとの間コイツのヘイトを取ってくれ」



 返事も待たずに視界の隅にインベントリのウインドウを呼び出し固定。毛玉を睨む。

 

 何度か攻撃を受けるが、俺の言葉をちゃんと聞いていたんだろう、徐々にヘイトが剛羅(ごうら)に集中し始めた。

 

 

「なんだよジンの字、大か小か? 時間は稼いでやっからさっさと行ってこいよ」


「もよおしたんじゃないから! そっちはまだ余裕だから!!」



 どうでもいい言葉のキャッチボールをしながら大太刀を右手一本で肩に担ぎ、空いた左手をインベントリに突っ込む。

 

 俺とは違い、攻撃が最大の防御な剛羅(ごうら)と対する時は、毛玉も全力で触手を繰り出す。それを確認し、俺は毛玉の足元…… 足元? にインベントリから取り出したブツを一掴みペチャリと投げる。

 

 

『ゴボゲバ…… ゴバ? ギッ!? ギギギギギ!?』


「おっ? コリャ何だァジンの字よ? 一体何投げ……」


「む!? コレは…… 一体なんぞ?」



 一瞬で動きを止める毛玉と戦頭(いくさがしら)の二人。特に遭魔(そうま)には俺が投げたブツの効果が覿面だったらしく、うがい的な唸り声がフッツーの悲鳴に変化すると共に動きが固まった。



「ッシャオラ食らえ!」



 ペチャリと撒かれたブツ(・・)に慄き、見開かれた目。効果があったと確認が取れれは遠慮はいらない。

 

 動きが止まった毛玉に向かって、俺は更にインベントリから取り出したブツ(・・)をねじり込む。

 

 

『ギギギギギィィィィィィィィ!? ギャァァァァァァァァァ!?』


「見せて貰おうか。異界の遭魔(そうま)の防御力とやらを!」



 インベントリから取り出した、プルンとしたそれ…… ゴブリンの右耳を、一掴み毛玉の目の中に押し込むと今までの精密的な動きが嘘の様にバタバタともがき始めた。

 

 

「やはり…… モンスターすら避けて通るスメル、ダンジョンの消化にも抗う存在感、天然のゴブ耳の前では遭魔(そうま)であっても抗う事は不可能だったか」


「……は? これゴブリンのってクセェッ!? おまッ なんてモンをぶち撒けクサッ!!」


「ぐむぅ!? なんぞコレは! 目が…… 目が染みるぞい!」


『グギァァァァァ!?』



 俺が今使ったのは、始末に困った天然のゴブの右耳。ダンジョンに吸収されなかった為にインベントリにINしたままのソレは、色々あって始末する暇も無かった危険性廃棄物である。

 

 そしてこのゴブの耳は、この前吸収実験の際、夕方結果を確認しに行った時、ペチャリと撒かれた耳を避ける様にモンスが移動するのを確認してしまったのであった。が、まさか遭魔(そうま)にすら効き目があるとは正直思いもしなかった……

 

 

「よく見ておくのだな。実戦というのは、ドラマのように格好の良いものではない」



 取り敢えずギャギャー煩かったので、三倍で動く赤い人ばりにニヒルな雰囲気を滲ませつつ目ん玉をブスリとして毛玉にとどめを刺す。

 

 そして周りを見渡せば、何故か遥か向こうに避難する脳筋(剛羅)爺さん(晃全)を筆頭に、遭魔(そうま)を囲んで攻撃していた面々が真顔でこちらをプルプル睨んでる姿が見える。

 

 

「……認めたくないものだな。自分自身の、若さゆえの過ちというものを」



 この時俺は、後に第三者が居る場では使う事を禁じられる事になる|超絶アルティメットウエポン《ゴブリンの耳》を初めて実戦で使う事になったのであった。

 

 

そんな訳でご拝読、評価、ブクマ有難うございます。拙作はゆるやか~な更新になると思います。


また拙作に対するご評価を頂けたら嬉しいです。


どうか宜しくお願い致します。

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