女神のお仕事
短編『護国の聖女』の世界の女神のお話です。
「うわ、マジか」
「なに? どしたのディー」
「や、なんか今回の聖女がプロテクト発動させちゃって」
「えっ、マジ? あのエグい設定の?」
「は、はは…そう、アレ。」
私はディアナ。ガルシアチームの一人。
現在このガルシア世界の中の王国ディアマンティアの担当者だ。
この仕事を始めてそこそこの中堅。ガルシアチームに入ってからは、かれこれ…四千年位経つかなぁ。
とりあえず自分が担当する国の名付けは自分でするんだけど、私、ネーミングセンス無くてね。
いつも自分の名前を適当にもじったり付け足したりしてる。
で、今私が担当している国の名前がディアマンティア。
私はこのディアマンティアの中の人達には女神として認知されている。
うん、認知された場合は神とか女神としてやり取りするっていう決まりだからね。
ひとつのチームでひとつの世界を運営していく事で、その世界から生まれるエネルギーを抽出するのが私達の仕事。
適度に災害イベントや戦争イベントなんかを起こしたりして、人口が増えすぎないよう減りすぎないよう管理してるってワケ。
で、中の人達の知能がある程度育つと、だいたい私達の存在に気付くのよ。
そうなってきたら“神託”機能を使って中の人達を動かしたりも出来る。
たくさんの人達がいろんな事を起こして、この世界に様々な出来事があるとエネルギー抽出率が上がるから、多種多様なイベントをチーム会議で考案して実施してるんだけど
まぁ、なかなかに面白くて充実してる。
仕事が面白いって、大事よね。
でね、私達の存在を認知する所までは結構な頻度で起こるんだけど、中の人達がその認知した私達に接触を図ろうとする事って稀で。
そうしようと思い付く事は出来てもなかなか実際に向こうからこっちにコンタクトを取る事って出来ないのよ。
だけどそれが出来た時にはご褒美として担当するその国に護りを与えてあげてるの。
た・だ・し、それも条件クリア出来たら、っていう契約なんだけど。
んで、その条件付けって担当者の裁量に任されてて。もちろん会議で報告はするわよ。でもある程度は担当者個人の好きに設定出来るの。
それで、このディアマンティアの人達が私へのコンタクトに成功した際にも、私の好みで条件付けをしたの。
どんな条件かって? ふふふ
一応私も女ですからね、ここはひとつロマンチックにいきましょう。って事で、プログラムを起動させるキーワードに『愛』を入れる事にしたの。
コンタクトを成功させたのがこの国の王様と家臣の一人だったから、王太子とその家臣の一族の女性の二人の愛を使って行う契約としてプログラムを組んだのね。
で、そこにちょっと意地悪な条件付けをスパイスとして入れてみました。
まず、二人で一緒に愛を誓い合う事で護国のプログラムが発動するようにしたから、女性はそのプログラムを発動させる婚姻までは相手に『愛の言葉を言ってはいけません』って事。
それから男性の方には、この契約によって護国のプログラムが発動する事やその詳細を、『婚姻までは知ってはいけません』って事。
この2つが守られて、その上で二人がある程度の愛を育む事が出来れば
まぁ「君がいないと死ぬー!」みたいな熱烈な愛じゃなくても、「お互いに相手を思い遣って大切にします」っていう愛があればプログラムが発動されるように設定したのよ。
だけどそれが条件だって言ったら「厳しすぎる」ってクレームが来て。
「女性から愛を囁かれもせず、その理由も知らされないのでは男性がその女性に愛情を抱き続けるのは難しい」ですって。
むー。なんなの女神にクレームとか。
護国プログラムってかなりレアなのよ? 戦争イベントからも災害イベントからも護られちゃうのよ? オマケに五穀豊穣のお約束付き。これくらい出来なきゃ与えてやる事なんて出来ないっつの。
そうは言っても一応会議で報告しないと。
それで会議で報告した時にチームの皆でいろいろ考えてね、救済措置を与える事にしたの。
もし、男性の方がそれで愛情を持てなくなった場合でも、女性の方に愛情がたっぷりあった場合のみ、その愛とその女性自身を使った護国プログラム“女神のプロテクト”を発動出来るようにしてあげましょう。
通常の護国プログラムとは違うモノになるけど、それで国は護られるんだから文句は言わせないわ。
本来は二人の愛を契約にしてるんだから、片方の女性側だけで発動した場合、残った男性の方は今後誰もパートナーが出来ないようにしなくちゃね。
寿命が来るまで不死身にしてあげるから、一人で国を護りなさい。
そう言ってやったら、まぁ文句たらたらで。
ふん、知らないわよ。これ以上譲歩なんてしてやらないわ。
アイツらからのコンタクトなんて、既読スルーよ。
まぁでも、自分から愛を伝えられなくて、それで男性に浮気されちゃう女性は可哀想だけど。でもそんな男性にたっぷりの愛なんて、抱ける女性が居るとは思えないし、
救済措置とか言いながら、実際はあってないようなものよね。
で、実際にそれを実装してみたら。やっぱりというか、何代かに一組の割合で条件クリア出来ないカップルがいる訳よ。
当然浮気男を愛するような奇特な女性も現れず、条件クリアに失敗した代は護国プログラムは発動せず。
次世代までは護国無しで頑張ってね。
でもそれまではずっとそうだったんだから、問題無いわよね。
そう思ってたから、今回聖女になった女性が救済プログラムを発動させた時はびっくりしたわ。
本気で愛してなきゃ発動しないやつだからさ。
それで慌ててプログラムを解析して、ちょっと切なくなっちゃった。
聖女の子、ホントにあの王太子の事が好きだったのね。
自分から好きって言えなくて、ずっとその想いを溜め込んで。
可哀想な事しちゃったな…
「よ、ディアナ、今帰りか? 遅いな」
「あ…ええ、ちょっと残業で」
声を掛けてきたのは私が新人の頃に同じチームだった先輩。
あの頃はいろいろ失敗ばっかりして、随分助けて貰ったっけ…
先輩はいろんなアイデアで世界を活性化させて、エネルギー抽出率ナンバーワンで表彰される事も多い、私の憧れ。
「…どうしたんだ? なんか元気無いな」
オマケに優しくて。でもこの優しさは私だけに向けられるものでは無いって知ってる。仕事が出来て優しいなんて、ホント、ズルい。
「え、そう…かな?」
「なんだ? なんか落ち込んでんのか?」
さっき、同僚に“エグい設定”って言われたのが、地味に堪えてるかも…
「んー、落ち込んで…るのかなぁ…」
「そっか…うん、よし。何か美味いモンでも食いに行くか」
「えっ、でも」
「俺の奢りだ、遠慮すんな。」
もう…いつもこんなふうに優しくしてくれるから…勘違いしたくなっちゃう。
でもダメ。先輩は優しいから、昔ちょっと面倒を見ただけの後輩の私なんかにもこうして度々声を掛けてくれてるだけで
それをバカみたいに勘違いしたら傷付くだけだもの。
勘違いなんて、しないわ。
私は笑って言った
「…先輩、もう私、新人じゃないんですよ。」
「何言ってる、こういう事に新人もベテランも無いだろ。落ち込んでる時位、大人しく奢られておけ」
やめてよ、泣きたくなっちゃうじゃない
「もー先輩、私みたいな意地悪女神なんかに構ってると、評判落としますよ」
だから私は笑って言う
「…誰が意地悪女神だって?」
先輩がちょっと怒ったみたいに言った。
けど皆がそう言ってるの、知ってる。私が実装したプログラムの条件は意地悪だって。モテない女の、意地悪女神のプログラムだって。
でも私だって最初から意地悪だった訳じゃない。
最初の頃は優しい女神様だったのよ。
だけど優しい条件にするとがっかりする結果になる事が多くて…なんか、腹が立ってきちゃって…
それでもさすがに今回の聖女の子の解析結果見て…やり過ぎたなって、ちょっと反省してる。
だから次の会議までに新しいプログラムを考案して、実装方法も考えておこうって思ってるのよ。
あ、いけない。何も言えなくなった私を見て、先輩が困ったように笑ってる。
いけない、いけない、しっかりしなきゃ…
「他の奴らが何言ってるか知らないけど」
先輩が私の顔を覗き込むようにしてきた。優しい顔が間近にあって、縋りたくなっちゃう…
「俺はお前が新人の頃からずっと見てるんだ。
例えば今回お前が実装したプログラムの条件が厳しいものだったとして、お前がそれを条件にしようとした理由も、俺はわかってるよ」
「…な、何言ってるんですか先輩…」
戸惑う私を先輩が真剣な顔で私を見ている
「全く…俺が何万年お前を見てると思ってるんだ。お前は不器用だからな。会議でもうまく説明出来ないんだろうけど」
先輩の手が伸びてきて、そっと頬を撫でられた
「お前は『愛』が見たいんだろ? 何があっても壊れない、そんな本当の…真実の愛を」
「先輩……」
「俺がお前に見せてやるよ。ディアナ…」
女神がチョロかった…