表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たなびく戦旗の下に  作者: 澤木無我
3/28

たなびく戦旗の下に

ゴール城にて、アリアの思い。


                 7 ゴール城憂色

 アリアは城壁の上に立って、故郷の夕景色を眺めていた。でも、この風景には何かしら既視感があった。もちろん、戦争のない時の故郷の風景とは違ってはいるが。

 城の周囲にはカリガン軍のテントが立ち並び、炊事の煙が幾筋も上っていた。今日はもう戦いをする気は、敵にはないらしい。攻撃前の緊張感も相手からは感じられない。それとも、最後の夜は安らかにという敵からの温情なのかしらと、ふと考えたりする。

 目を城塞の主殿の方に向ける。父の死期は遠くないのだろうと思う。父は自分を戦う前に王都のリマにやろうとしていた。私に死んで欲しくはなかったのだろう。

 三月にジスカル将軍が父の元にやって来た。病気見舞いということだった。その時父の部屋で、父とジスカル将軍は長い間余人を交えず話し合っていた。病気見舞いにしては、ずいぶん長いことと思ったのを覚えている。あの時、何を話していたか父に聞いたが、話してはくれなかった。ただ、父は部下にゴール城の整備を指示した。兵も集め、訓練するように命令した。私には、リマに用事があるから行くように命じた。病気の父を置いては行けないと言うと、父の言うことが聞けないのかと寝台から立ち上がって怒っていた。すぐに咳き込んで執事達に寝台に寝かせられたのに。

 父は数年前、他の北方諸侯の大半がルイス王太子の即位に反対し、他の王族を支持して反乱を起こした時、反乱には正当な理由がないとして、北方諸侯の軍には加わらなかった。その為、諸侯の軍に攻められ、二人の兄も戦死し、母も戦乱の中失ってしまった。父は幼い私を伴って、ゴール城に立てこもった。父も兵士達も懸命に戦ったが、衆寡敵せず、落城寸前と思われ、覚悟を決めたとき、突如来援してベネット子爵家をすくったのは、ジスカル将軍だった。ベネット子爵家はそれ以来、ジスカル将軍の配下として北方戦役を戦ってきた。内乱後、子爵から陞爵はしなかったものの、領土は増えた。子爵家自体は豊かになった。でも、父には何か空虚なものがまといついたように感じていた。母や兄達を失ったためなのか、自分にはわからない。

 今日、父の部屋に行ったとき、横になっていた父は、使用人達に部屋を出るように言った。私を枕元に呼ぶと、かすれた声で、敵の囲みに隙があれば、ゴール城を脱出し王都に行くように再び言った。私は再度断った。父は悲しげな表情をして、

「援軍は来ないのだ」と言った。「援軍は来ないのだ。・・・我らを救える兵力は、・・・王国にはないのだと・・・言われた」

 誰にとは聞かなかった。

「もし、敵が来たら、・・・できる限り、・・・進軍を阻止すること、・・・それが、我らの仕事だ。・・・だからお前は・・・」

 私は静かに首を振った。

「私がいる場所は、お父様と領兵たちがいる、この城です」



進軍を開始したカリガン本隊の様子。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ