第五王子と仲間達
別動軍の軍議中。
5 アランの軍の苦悩
「速やかに本隊に合流せよ。しかし、ゴール城を落とすのは必須か。どっちかにしろよ。王太子殿下は我々にどうして欲しいんだ?」とベルト。
「殿下というより、軍監殿が我らの無能を世に曝したいんだろう」とイリア子爵。
「とは言え、選択肢はないだろう。ゴール城を落とさずに進めば、今度は我らの後ろが危ない。危険を承知で軍を進めることはできまい」
発言したのはクリムソン伯爵公子ベック。
皆アラン王子と同世代、二十代の部将、士官達であった。
「急ぐ必要はない。というよりは、今本隊に合流しても、我々は邪険にされるだけだと思いますな」
発言したのは、アラン軍の副将テイラン伯爵。五十代の将軍職。この中での軍歴は一番長い。軍歴は長いが、戦場を駆け巡る武将という雰囲気ではなく、どちらかと言えば後方支援を携わることの方が多い文官的な将軍といったイメージだろうか。今回、アラン別動軍が結成されることになり、他の多くの古手、ベテランの将軍達がアランの指揮下に入ることを忌避した中、自ら進んで軍に加わる意志を表したのだ。いわば貧乏籤を自分で引きに行ったということだ。
アランが後で真意を尋ねると、テイラン伯爵は笑いながら小さな声で、
「私は、昔から王太子殿下には嫌われておりまして。それにデッサ一族とも馬が合いません」
デッサ一族。ガルフ・デッサ伯爵は今度の侵攻軍の軍監。そして、彼の父はフランク・デッサ侯爵。カリガン王国の宰相である。本軍に居ては彼の立つ瀬がないのでと言う。それに昔フランク・デッサが将軍としてある戦いに出た時、テイランも一部将として傘下に加わっていたという。その時の軍議でフランク・デッサの作戦に異議を唱え、以来後方にまわされてしまったそうだ。
「そのようなこと、私に話してよいのですか」とアランが言ったとき、テイランは、
「殿下はお話にならないでしょう」と微笑んだ。
「それと・・・。」テイランは何か考えるように静かに話し始めた。
「恐らく、本軍はフリアノ軍に簡単には勝てないでしょう。我方が相手の倍の兵力であったとしても」
「それは、負ける可能性もあるということでしょうか?将軍。」とベルト。
テイランは静かに手を前に組み、椅子に深く座り直して話し始めた。
「ご存じの通り、フリアノ王国は少し前までの内乱で疲弊しました。現国王であるルイス三世の即位に、王族のご兄弟や、大貴族が反対したためです。しかし、結果は現国王側の勝利に終わりました。もちろんこれはルイス三世自身に政略、軍略の才能があったためですが、それと同時に王は、この内乱の最中に、自分と同等に軍を率いる才能のある将軍を見つけています」
「ジスカル将軍ですか?」とクリムソン伯爵公子。
「彼はもともと、貴族でも何でもなく、一つの傭兵隊の隊長だったと聞いています。ある戦いで彼の傭兵隊の働きを見たまだ即位前のルイス王子が、直接傭兵隊の幕舎におもむいて口説いたそうです」
「王子が・・・?傭兵隊に出向く・・・?」とイリア。
「噂ですがね」と微笑むテイラン。
「で・・・。王国全体の政略と王国南部の攻略は、主にルイス王自身が。王国北部の大貴族との戦いはジスカル将軍が主体となって、王国内を平定したということです」
テイランの話は続く。
次は別動軍の方針。