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≪小話≫4.5カルロス・ウィングフィールドの高揚

毎度閲覧・ブクマ等ありがとうございます。

今回は小話を2話分けて更新します。

ある日の事、風の国の第三王子であるカルロス・ウィングフィールドは、とある件について頭を悩ませていた。

それは、自身に舞い込んだ山のような見合い話の件である。

目の前の机の上にに積み上げられた、見合い相手の情報の紙切れ束を睨み付けると、カルロスは思わず机に突っ伏した。

元はと言えばこの原因は自分にあるのだが、正直この紙の山を見ただけで溜め息しかでない。

原因、それはここ最近勉強や剣術の稽古など毎日代わり映えのしないものばかりで『退屈していた』という事だ。

本来カルロスぐらいの子が居る家庭であれば、親と過ごしたり、兄弟も居るのだから兄弟と遊ぶ事が普通であろう。

だが、ウィングフィールド家の家族仲はあまり良いものではなかった。

まず王である父親は、様々な政で忙しく王でありながらあまり王城に滞在していない。

その為、息子である兄達やカルロスはもちろん、王にとっては妻であるはずの王妃すらまともに会うことは少なかった。

そしてその王妃は、息子である王子達に対してあまり興味を持つ人間ではなかった。


ただ唯一興味を抱いているのは第一王子であり、この先の王位を継ぐであろう第一王子のみ『自分の息子』として扱い、自らの指揮で最高の教育を与えていた。

それもいずれなるであろう『国王の母』という外聞の為、つまりは自分の為にしている事だった。

そして第二王子は、全体的な能力では第一王子より優秀であるが為に、王位を継ぐ可能性もあると考えを持ったこの国の宰相が特に力を入れて教育の指示をしている。

そして当の王子達は、第二王子は母から愛されている兄への嫉妬、第一王子は自分より優秀な弟への嫉妬でそれぞれ啀み合う関係となっていた。


そして第三王子であるカルロスは、そんな啀み合う兄王子達とは打って代わって、王子でありながらもほぼ蚊帳の外の存在であった。

周りが2人のどちらかが王位を継ぐ事しか考えて無いため、10歳も年下であり3番目であるカルロスにはあまり王子としての関心が持たれていないという状況なのだ。

しかしカルロスも王子である。放っておく事も出来ない為それなりの学習、生活環境は与えられてはいる。

そんな自分の状況にカルロスは悲しみ、そして寂しい日々を過ごし…

てはいなく、ただただ呆れていた。


呆れている、というより、カルロスは些か冷静すぎる性分に生まれたらしく、兄達を巡って起きている王位争いというものがあまりに無駄すぎる事を幼いながらに悟っていた。

そして父である国王に対しても、流石に放っておきすぎなこの環境がおかしい事にも気づいていた。

つまりこの王家の家庭崩壊の原因は、王と王妃の夫婦仲の険悪であるだろう。そう冷静に分析できる程にカルロスは異常に冷めている子供だった。

そしてその結果、カルロスにとって『家族』とは『ただの血の繋り』だけなのだと冷静に判断し、今の状況を寂しがることも憂う事もしなかった。


ただひたすら淡々と日々を過ごす。

それだけが、自身のすべき事なのだと判断し、遂行するカルロスの様子はまさに空虚だった。


そして、そんな王子の冷め具合を間近で見てきたカルロス付きの側近達は、せめてカルロス様だけでもまともな方に…という考えで教育を薦める者達で構成されていた。

その為かカルロスには特に情操教育に力が入れられる事となり、それを察したであろうカルロスは、今後の面倒事を避けたいという“効率性を重視”し、真面目に教育を受けた上で"表面上"は良い子として成長していった。

そして"表面上"は優しく、穏やかで、物分かりの良い子供として育ったカルロスに、側近達は揃って自分達の教育方針の成功を喜んでいた。

だが、あくまで"表面上"であり、内面は変わらずの空虚さであった。


そんなカルロスが、相変わらずの日常に退屈を感じてしまい、ある日一言、思わず呟いてしまった。

「誰か話し相手が居ればなぁ…」と。

カルロス的には、ただ軽い気分転換を用意してくれれば位の感覚だった。

しかし、側近達は予想外の受け止め方をした。

「カルロス様が寂しがっている!」と捉え、その時本当にたまたま兄王子達が婚約者が決まった事もあり「カルロス様に婚約者を!」という話になってしまったのだ。


何故そこまで発展した、とカルロスは自分の側近達に呆れた。

そして自分の発言を後悔した。

訂正をしたかったが、この見合い話は案外広まってしまったらしく、それ故に側近達が集めた以上に山積みの見合い写真が届けられてしまったのだった。

これだけの話が周りから来てしまっては断ることもしづらい。

"良い子"であり続けるなら、適当な相手を見繕ってとりあえず終わらせてしまおう。

そう考えながらペラペラと、山程の見合い写真を確認していた。

とりあえずの希望は、五月蠅いと相手するのが面倒なので大人し気な娘である事。

そしてたちまちの婚約であるので、気の弱そうな娘が良いだろうと考える。

気が弱ければ、万が一にもカルロスに反論などするような事は考えないだろうから、扱いやすいだろうとの考えだ。


「…まぁどんな娘でも、これから数回会うぐらいにしておこう。あまり深入りすると面倒そうだし。」


そうして考えながら探していると、1人の娘の写真に目が止まった。

その娘は見た目は大変可愛らしいが、写真に写るその姿は他の写真の娘と比べて大変暗い表情で写っていた。

見合い写真にこんな表情で写るのはどうかとも思うが、この娘なら条件に合うかもしれない。

そう思った王子は、そこに記されている名前を口にする。


「オルコット公爵家令嬢。アリス・オルコット…」


立場も申し分無さそうな彼女に、カルロスはこの娘にとりあえず決め、会ってみる事にしたのだった。


そして見合いが決まり、いよいよ会う日が近づいたある日。側近の1人がカルロスに何か言いたげな表情で部屋に入ってきた。

なかなか言い出さない側近に理由を聞くと、見合い相手を再度調べた結果、彼女の母親が元平民の出である事が解り、できれば立場上見合いを取り止めるべきではないかという相談に来たようだった。

何故しっかり事前に調べないんだ…とカルロスは呆れたが"優しい良い子"としては、ここで「じゃあ止めましょう」とは言うべきではないだろうと考える。

それにあの後一応確認した他の写真の娘達は、全員我儘そうだったり気が強そうだったりで、性格が条件に合いそうな娘がなかなか見当たらなかった。

また本来の目的である暇潰しとしても、彼女は水の国に住んでいる為、会いに行く口実で国外に出てみたい気持ちもあった。


「良いじゃないか、可愛らしい()だったし、僕は是非会いたいな。」


そう笑顔で側近に伝えると、渋々了承された。



そしてさらに後日、側近から「オルコット家の息子達が、見合いに同席する事を希望している」という報告が来た。

次から次へと何か起こるな、と少し面倒に感じつつも何故か聞いたら、どうやら彼女の兄達が「妹が心配なので同席したい」という事らしかった。

妹の見合いに兄が同席など聞いたことない。

そんなにも愛されている娘なのだろうか、とカルロスは少し興味が湧いてきた。


「構わないよ、ちなみにその人達は何歳くらいの人達なのかな?」


自分の兄も10歳程離れているので、一応失礼があってはならないだろうと思いそう聞くと、側近達から意外な答えが帰ってきた。


「1人は双子の兄であるクリス様。もう1人は今件の提案者でありアリス様と同じ歳のオルコット公爵の実子、つまりはアリス様の義兄にあたるギルバート様です。」


その答えに驚いた。

つまりは自分と同年代の2人、しかも1人は義兄だと。それが妹を心配して()()()()()見合いに参加したいと。

家族とはいえ『血の繋り』すら無い相手をそこまで心配できる者がいるのか、そう考えるともっと興味が出てきた。


この提案を上げた、ギルバートという人間に。


今まで出会った事の無いタイプの人間かもしれないと思うと、とにかく会ってみたいと思ってしまった。


「ふぅん…興味深いね。うん、構わないよ。同い年なら是非ともお友達になりたいしね。」


その言葉に側近達は驚き一瞬戸惑ったが、特に反論はすることなく承諾した。

そうして決まった『兄達同伴の見合い』を、カルロスは心待ちにするのであった。


そして会った結果、まずアリスの方の感想は「普通の女の子」であった。

思ったよりも少し気が強そうな印象は受けたが、同じ年代の娘達の気の強さとは違い「強か」と言うべき印象に思えた。

しかし、あの写真の暗さは何だったのかと思う程に、アリスは普通の女の子だった。

双子の兄であるクリスも礼儀を弁えた「普通の子」という感想だ。


そして義兄のギルバート。彼はやはり「普通と何か違う」事が感じられた。

まず、アリス達と話をしていると、必ずギルバートの話が上がる。

そして話を聞く限り、アリスが写真と印象が変わった理由もどうやらギルバートにあるようだった。

そしてギルバート本人と話していても、やはり今まで会ったことの無いタイプの人間である事が感じられた。

ギルバートは、とにかく真っ直ぐに自分を見て話をする。

そして初めて聞くであろう話をする度に、細長い目をしっかり開きながらキラキラとした目を向けてくれた。


いつも自分を見る周りの者の目は心配や哀れみ、敬意といったものばかりで、こんなに無邪気な目は生まれて初めて見た気がした。

そんな風に接せられた事の無いカルロスは、あまりに新鮮な反応に思わず今まで話したことが無いほどたくさん話をしてしまっていた。

そしてギルバートに授業がある時も、アリスと共にギルバート達の授業を見学させて貰うなど、なるべくギルバートも側に居るような状態をつくった。

その授業風景も見ていて飽きるものではなく、何に対しても一生懸命に励むギルバートは、見ていてこちらも楽しく思えた。

そして、やはり『見合い』なのでアリスと2人きりで接する事になっても、話題はお互いギルバートの話ばかりしていた。

アリスもどうやら今の流行りの話をするよりも、ギルバートの話をした方が反応も良く、こちらが聞けばギルバートについて良く教えてくれた。

その反応から察するに、明らかにアリスはギルバートを好きなのだろう。

そしてそれはつまり、自分との婚約を受ける気はないだろう、という事も判断できた。


正直、アリスに断られる事自体はショックでも何でもない。

だが、自分が指定した1ヶ月が終われば、おそらく学園入学までギルバートに会う口実が無くなってしまうので、そう考えると少し惜しい気がした。

いくら放っとかれているこの状況でも、それなりに影響力を持つ王子が、気軽に「一公爵の息子」と会いに行く事を周りは悪影響と考え許可はしないだろう。

カルロスは初めて、今回の様な接点が無ければ自由に動く事が出来ない自分の立場をもどかしいと感じた。


期限の前日、端からみればダメ押しとも思えるようだが、最後にもう一度ギルバートと話したいと思いオルコット家を訪ねた。

すると、カルロスの願いが通じたのか家に居たのはギルバートだけだった。

これ幸いとギルバートと2人でお茶をするが、話題はやはり婚約の件になった。

カルロスは、最初の様子から言ってギルバートは、自分とアリスの婚約を望んではいないだろうと思っていた。

だが、予想外にもギルバートは婚約を祝福する姿勢を見せてきた。

そしてカルロスが、ギルバートの家族になるかもしれない事に対しても「きっと楽しい」と言ってくれた。


『ギルバートと家族になる』


そう考えるとカルロスは思わず"初めて"心から嬉しいと思ってしまった。

そして、カルロスが自身の家族の話をした様子から、自分ですら自覚のなかった陰りにギルバートはすぐ気づいてくれた。

やはり今まで会ってきた者達とは違う、何か「不思議なもの」を持っている様に感じられた。

そしてギルバートは自分を"表面上"だけでも"王子"としてだけでもはなく、"そのままのカルロス"を見てくれる。


そんなギルバートの側にもっと居たい。


ギルバートと『家族』になってみたい。


そう思い立ったカルロスは、急遽「無事にアリスと婚約を結べる方法」を考える事にするのだった。


そして結果、カルロスは無事アリスと婚約を結ぶことが出来た。

しかしどうやってアリスにOKさせたか、それは少し申し訳ないがギルバートを使わせて貰った。

まずギルバートにアリス宛の手紙を渡して貰う事にした。

その内容は「自分はアリスがギルバートを好きな事を知っている。自分と婚約すれば、君に今後舞い込んでくるであろう他の婚約を断る口実にもなる。自分もとある目的があるので、その為にも明日の婚約を了承してくれないか」というものだ。

もっと丁寧には書いたが大体こんな感じだ。

これでアリスが了承してくれれば、無事に婚約を結ぶことができると思う。


アリスはこの一ヶ月を振り返ると、思った以上にギルバートの事を中心に行動している。

なので恐らくアリスは、この内容に了承してくれるだろうと考えた。

自身の周りの事は、自分が()()()()()()()()に振る舞えば、情操教育に力を入れている者達が勝手に王子に良い影響があると判断してくれるだろう。

現に最近の側近達のカルロスを見る目が、妙に温かい視線のように感じるので、今の状況ならアリスと婚約を結んでも祝福してくれるだろうと考える。

ちなみに、側近達のこの視線は「最近の王子超楽しそう」というほっこりしている感情の表れなのだが、そこまでは今のカルロスには察する事は出来なかった。

まぁ本当に楽しくなるのだから嘘ではないし、周りもそれで"アリスとの婚約が間違っていなかったと思ってくれれば万事解決だとカルロスは考える。

そうして思惑通りにアリスとの婚約が決まったのだった。


無事婚約が決まった夜、自室でカルロスは1人満足感に浸っていた。

これでアリスの婚約者として、好きな時にギルバートに会うことが出来る。

これから何をしよう、何を話そう、そう考えるだけで心が踊った。

…なんだか体が軽く感じる、今なら空でも飛べそうだ。

今まで感じたことの無い高揚感を胸に抱きながら、カルロスはもっと長くギルバートと居る為にも今後の移動距離を減らすべく、さっそく国で一番オルコット家に近い場所となるタウンハウスへ移る準備に取り掛かるのだった。


そんなカルロスが、近々本当に空を飛べる様になるのだが、今のカルロスはただただ初めての思いを噛み締めるのだった。


小説のカルロスが内心ヒロインを馬鹿にしていたのは、ヒロインが物を知らないからではなくそれほど彼女が愛でられていたのだと感じられたから少し嫉妬したんです。

腹黒というより少し冷淡であり寂しがりだったんです。


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