5:魔法で遊戯
毎度ブクマ・閲覧ありがとうございます。
今回は魔法やこの世界の事の説明が沢山出てきます。
カルロスとアリスの婚約が無事(?)決まり、それからカルロスは驚く事に一週間に2、3度は必ずウチに通うようになった。
小説では当初からアリスにあまり興味が無かったので、婚約を結んでもたまにしかに会うことはなかったというカルロスが、こんなにもウチに通ってくるとは。
まさに事実は小説よりも奇なりである。
ちなみに学園入学時点では、アリスのヒステリックさを他の女性への防波堤として利用する事で、アリスとの婚約を続けているとヒロインのサラに告げているシーンがあった。
『それ以外、彼女と婚約を続ける意義は無いよ。』とは小説のカルロス談である。
そんなカルロスに対し、サラは『そんなに女性を軽視する人は許せません!!』と王子相手に怒るのだが、その実直さがカルロスがサラに興味を持つ切っ掛けとなるらしい。
しかし今こんなに通ってくるということは、案外気づいてないだけでアリスの事が好きになっているのかもしれない。
というか、正直俺の想像力ではそれ以外考えられない。
これなら、アリスのフラグはほぼ問題が無いのかもしれないと、婚約時のこともあり警戒していた俺は少し安心もした。
ただ俺はなんとなくフラグ云々より、彼は仮にも一国の王子なのだから勉強など俺達よりもっと大変じゃないのかと思い、そちらがつい心配になった。
「授業は午前中に受ける事にしてるんだ。午後からはなるべく授業を受けなくてもいいように調整してもらってね。周りからも、子供は遊ぶのが一番だと言ってもらえたからね。」
俺の疑問にそう笑顔で応えながら、俺が試しに魔法で作った水ソフトボールでクリスとキャッチボールをしていた。
ちなみにこの水ボール、俺の魔法で作ってみたのだが、何故普通のソフトボールではないのかというと。
この世界は魔法が盛んな為かあまり工業的技術が進んでいないようで、前世のような安全性に優れた遊具はあまり普及していないのだ。
その為ゴムボールの様な柔らかい素材のボールも無く、あっても硬球といった硬い素材のものしか存在していない。
その事実は少し前に、クリス達とキャッチボールをしたいと思いボールを欲したら、ボール遊びなど危ないという理由で止められてやっと気付いたのだが、確かにグローブも無いままに硬球を素手でキャッチするのは普通に危ないだろう。
そこで俺は考えた、魔法でボールを作る事だ。
試してみると、案外簡単にボールを作り出す事が出来た。
ちなみに作り方は簡単で、生成する際に大きさと時間を大まかにイメージする事でその時間、その形を保つ事が出来るのだ。
その事について先生に聞いたら、魔法で武器を作り出す場合もあるので基本的な事ではあったらしい。
そして試しに、魔法の水ボールを見せようとその場で作り出したら、無詠唱で魔法を発動させた事の方に滅茶苦茶ビックリされてしまった。
先生曰く、基本的に魔法は『詠唱』をした上で発動をさせる事が初歩とされているらしい。
そちらの方が、言霊による安定した発動が行えるから推奨されているとの事だった。
ただ、イメージさえしっかり出来れば詠唱は無くても構わないらしく、先生から俺はイメージ力が高いタイプなのだろうと判断された。
…まさか、前世からの妄想力…及び想像力がこんな形で生かされるとは思わなかった。
そして、その水ボールを見せたら遊具を作るとは斬新なアイデアもお持ちですね、とも関心された。
どうやら魔法をこうやって遊びに使うのはあまり無い事らしかった。
その後少し実験を兼ねて硬さも変えてみるように念じてみたが、残念ながら俺の能力ではソフトボールの硬さが限界だった。
先生曰く、魔力が育てば硬さも自由に操る事が出来るようになるだろうと答えてくれた。
やはり硬度を変えるには、それなりの魔力量が必要になるらしい。
そういえば、魔力が強いとされる水の国の王子は氷の魔法の使い手だった。
俺もいつか氷を作る事が出来るんだろうか。
そして魔法に関して、話は少し発展するのだが、この世界での魔法の発動方法には体質が関係しており、『感情発動型』と『任意発動型』の二つがある。
感情発動型は感情が不安定になった時など、感情の大きな変動が発動条件になっている体質だ。
もう一つの任意発動型は、その名の通り自分が使いたい時に発動を行える体質だ。
大抵の人はほぼ任意発動型なのだが、中には上手く魔力をコントロール出来ない体質が存在するのだ。
水道の蛇口で例えると、普通に使える蛇口が任意発動型で、少し捻るだけで凄い水が出る蛇口が感情発動型だ。
つまり、魔力の調整が難しいのだ。
感情発動型の人間は、修練次第では任意で発動を行うことが出来るが、それを行うにはかなりの精神力が必要らしくなかなか上手く任意で発動を行うことが出来ない場合が多い。
勢いよく出てくる水を、手で無理矢理押さえて調整するのは誰だって難しいのと同じだ。
実はアリスがこの感情発動型であり、小説のアリスもヒステリーを起こす度に、魔法を暴走させでいた。
大した魔力量がなければちょっと発動して終わりなのだが、アリスの魔力量はクリス同様なかなかの量なのだ。
その為感情が不安定になりいつ暴走してしまうか分からないので、なんとか魔力を安定させる為にも今のアリスには、専属の風の魔力を保持している家庭教師が就いている。
ちなみに俺とクリスは任意発動型なので、普通の家庭教師に基礎的な魔法の使い方を習っている状況だ。
俺達の魔法の先生は、俺に合わせて水の魔力の保持者であるが、『師匠』がクリスと同じ土属性なのでクリスの詳しい魔法指導は師匠が行っている。
ちなみに『師匠』とは、俺達の武術の先生の事であり、他の家庭教師達と区別する目的もあり俺がそう呼んだら定着した呼び名だ。
…話が逸れたが、つまりは俺は使おうと思えば好きなように使えるタイプなので、好きな時に個人的にこうやってボールを作ったりを実験を兼ねて(勝手に)魔法の練習をしているのだ。
まぁそんな訳で、現在皆でそうやって作ったボールで遊んでいるのだ。
「まぁ遊ぶのも大事だよな。けどこんなに日を空けずに通うって大変だろ?」
カルロスの返事に対して俺はもう1つ気になることを口にする。
この世界は東西南北で国が別れているが、カルロスのいる風の国は東、俺達の水の国は北に存在する隣国である。
カルロスは王子なので勿論王城に住んでいるのだが、実はここから結構な距離がある。
この大陸の各々の国の王城は、セントラルを中心に東西南北の最端にそれぞれ位置しているので、例によってカルロスも国の一番奥、つまり大陸の一番東側に存在している。
そして俺達の住む屋敷は父さんの仕事の関係で、セントラルに近い側にあり他の国にもまぁまぁ近い場所に位置している。
けれど、やはりまぁまぁであり風の国が隣国とはいえ王城から馬車で4、5時間はかかる場所だ。
婚約の為とはいえ、一国の王子が今までよく通ってきたと思う。
「あれ?言ってなかったっけ?僕、婚約が決まってから前に話してた、使わなくなったタウンハウスに移ったんだ。」
「へ?わざわざ?」
タウンハウスとは、簡単に言えば別邸の事だが、カルロスの言うタウンハウスは、管理者に任せきりのほぼ放置されていた屋敷の事である。
わざわざ婚約者の為にそこまでするとは、これは本気度が違う。
「元々学園に通うまでに、少しでも自分の身の回りの事が出来る様に練習を兼ねて移る予定はあったんだ。ほら、学園って寮制で使用人もよっぽどの事が無いと認められないでしょ?」
確かに、父さん曰く学園は魔力さえあれば平民、貴族、王族であろうと身分は関係なく入れるが、高貴な身分の者は使用人も"特殊な事情"とやらがなければ基本的には認められないらしい。
その"特殊な事情"とは、例えば命を狙われ易い立場にある者の護衛や、身体の虚弱などの1人での生活が困難な者のサポート役などである。
カルロスは王族だが、本人曰くほぼ後継者争いからは外されているので、その"特殊な事情"には当てはまりにくい可能性がある。
それでも誘拐の心配はしないのかとも思ったが、小説の成長したカルロスは魔力は勿論、剣術の達人でもあったので、恐らくは簡単に誘拐出来る人間は居ないだろう。
つまりカルロスは、その寮生活の練習のために元より王城を出る予定はあったらしい。
しかし、婚約が決定しそのついでに引っ越しするとは、齢7歳にしてしっかり者であると感心した。
「それでもここまで馬車で2、3時間くらいは掛かるんじゃないか?午前中授業受けてからここに昼時には来るって結構大変だな。」
タウンハウスの話は以前聞いており、風の国の中でもセントラルに近い場所にあると言っていた。
しかしこの世界の国間はそれぞれ山や森林で区切られているので、それを越すとなるとかなりの距離があるはずだ。
「前までならね、でも最近は魔法で20分くらいで来れるよ?」
「へー魔法で…んん?魔法で?どうやって?」
首を傾げた俺の疑問に答えるように、カルロスは続けていたキャッチボールを止め、ニッコリと笑顔を浮かべたままこちらを向いた。
『我に宿りし風の力よ。この身を空に舞い上がらせよ。』
カルロスは詠唱ながらくるりと身体を横に回転させると、身体の周りに風が巻きつくように発生し、それに持ち上げられるようにふわりと宙に浮き上がった。
「え、えええええ!!!??」
思わず大声を挙げた俺だったが、近くに居たアリスとクリスもポカンとした表情でカルロスを見上げていた。
「す、凄いですわ…私こんな事出来ませんわ…」
「人一人飛べるなんて、かなり魔力量が無いと出来無い事だよ…!」
2人も感動して見上げており、カルロスは少し得意気にフフッと笑った。
「つい最近出来る様になってね。今までは飛べても10㎝くらいだったんだけど、いきなり飛べる気がしてやってみたら出来たんだ。」
「やってみたら出来たレベルなのかよ!?」
やっべぇコイツすげぇな、勉強と剣術もだが魔法も天才的かよ。
カルロスは得意気にくるくる飛んでいたが、しばらくしてゆっくりと着地した。
「結構長い間飛べるからさ、僕だけ先に来て後から使用人達も追いかけてくる様にお願いしたんだよ。」
「それで最近側近さん達あまり見なかったのか!?てかそうなると側近さん達の労力半端無いな!?」
「僕は来なくて良いって言ったんだけどね。お供しますって聞かなくて。ゆっくりすれば良いのに。」
いや、王子置いてゆっくりとか無理だろ。
というよりよく許したな、側近さん達。
「…誰か1人くらい一緒に飛べないのか?」
「それが、他人だとなかなか浮かないし疲れるんだよね。大人1人って結構な重さだし。」
王子1人で来る事に危機感を覚えないとは、この王子本当に大丈夫だろうかと俺は不安になった。
「まぁそんなに心配しなくても大丈夫だよ。あ、何なら試しにギルバートもやってみようか?」
「え!?マジで!?」
魔法で空を飛ぶとか本当に夢のような事叶うなんて!
そう思い俺は、心配をそっちのけで思わず目を輝かせてカルロスに詰め寄った。
するとカルロスが少し顔を背けたので、思わず近づき過ぎたかと反省し少し離れたら、何故か残念そうにされてしまった。
「別に離れること無いのに。」
顔を背けたのそっちじゃねぇか、と思ったがそれより飛びたい欲の方が勝ち早く早くと急かした。
「それじゃ、やるよ~」
カルロスはそういうと目を閉じ、両手を俺に翳した。
『我に宿りし風の力よ。この者の身を空に舞い上がらせよ。』
詠唱後しばらくは微動だにしなかったが、やがて俺の周りに風が集まるように渦を巻きだし、足が地面から不意に離れる感覚に襲われ思わず倒れそうになった。
「わわわ…」
「ちょ、あまり動いちゃダメだよ。」
「そんな事言われたって…」
そう言われ身体の力を抜くように意識するが、そうこうしているとすぐに浮遊感が落ち着いた。
「…?」
「…うーん、えーと…ごめんね?」
するとゼーゼーと肩で息をしているカルロスがおり、何故か謝られた。
そこで俺はハッとした。
「…重いか。」
俺はなるべく言いたくなかった言葉を口にした。
するとバツが悪そうな顔をして明後日の方向に視線を逸らされた。
その態度に確信を得た俺は、ショックのあまりガクリとその場へ崩れ落ちた。
くっそぅ…最初より痩せたと思ったのにまだまだかよ…
ショックを受ける俺にカルロスが、焦りながらも申し訳なさそうな顔をして語りだした。
「いや、自分を浮かすより他人を浮かすのって結構魔力と集中力いるんだよね。自分は簡単にフワフワ浮くんだけどさ…」
そう弁解するが、俺は腹の肉をつまみながら恨めしそうに愚痴った。
「くそー…ご飯減らそうかな…」
「義兄さん、ご飯残したら母さんに怒られるよ?」
「それにお身体を壊しますわよ。義兄さまが倒れるなんて、そんなの嫌ですわ。」
うぅ…確かにそうだがなんか悔しい。
落ち込む俺を見て3人はそれぞれ俺を慰めてくれた。
「ギルバート、そんなに落ち込まないでよ。」
「そうだよ義兄さん。そんなに気にする事なんかないよ。」
「そうですわ。こちらで私と一緒にお茶でもして落ち着きましょう?」
「そうそう、あちらで僕とお茶でも…」
「いいえ義兄さん、僕と。」
「いえいえ私と。」
何故か慰められていたハズがいつの間にかお茶の話になっていたが、俺は正直お茶の気分になりそうもなかった。
しばらく何故か3人で睨み合っていたが、ふいにカルロスが何か閃いた様でアリスを呼び寄せ耳打ちをした。
そして俺は肩を叩かれ見上げると、再び笑顔を浮かべたカルロスの顔が見える。
「ねぇギルバート、もう一回やらせてよ。」
「えー…もういいよ…なんか切なくなる…」
「そう言わないで、一つ試したい事があるんだ。頼むよ。」
そうい言われしぶしぶ立ち上がったら、何故かカルロスはアリスと手を繋いでいた。
何?リア充アピ?何か可愛いなこのヤロー。
茶化そうかと思った俺だったが、2人は目を瞑り何かに集中している様なので黙って見ている事にした。
そうすると、2人の周囲に風が集まるように吹きだし、どうやら魔法を発動しようとしているのが判った。
かなり集中しているようで息を呑んで見守っていると、しばらくその状態が続いた後2人同時に繋いでない方の手をそれぞれ俺に翳し、同時に詠唱を始めた。
『我等に宿りし風の力よ。この者の身を空に舞い上がらせよ。』
すると、先程より簡単にフワリと俺の体が浮き上がった。
「お、おぉ~~!!」
始めて飛んだ感動に俺は思わず手足をパタパタと動かした。
そして地面から1メートル程の位置をフヨフヨと浮遊した。
「す、すげぇ~!!浮いてるぅ~!」
しばらく興奮しながら浮遊していたが、少しするとゆっくりと地面に降ろされた。
降りた後俺は、思わず興奮しながら2人に駆け寄った。
「すげぇすげぇ!!さっきとは大違いじゃん!今の何!?」
すると2人は、その場に座り込んでおり肩で息をしていた。
「習ったばかりで上手くいくか判らなかったけど、何とかいけたみたいだね…」
「…け、結構疲れるものですわね…」
「だ、大丈夫か?」
2人はしばらくの間息を整えていたが、カルロスは落ち着いた様でゆっくりと立ち上がった。
「ふー…いやーごめんごめん。もう大丈夫だよ。」
「アリスも大丈夫か?」
「えぇ、なんとか…」
アリスはクリスに手をとって貰い、引き上げて貰う事でなんとか立ち上がった様だ。
「今の何だ?2人で手を繋いでたように見えたけど…」
「今のは『同調魔法』と言って、同じ属性の魔力を持っている者同士で手を繋ぎ"同時詠唱"をすると、2人で一つの魔法を発動させることが出来るんだって。」
「へー…聞くだけだと結構簡単そうだな。」
「ただ同じイメージを共有していないと、上手く発動できないらしいんだけどね。お互いのイメージが上手く共有できないと、同時詠唱しても発動まではいかないんだって。アリスはまだ上手く自分で魔法は扱えないけど、それなりに強い魔力を持ってるからね。2人で『ギルバートを喜ばせたい』と考えながら発動したら、なんとか出来たみたい。」
「『それなりに』は余計ですわ。でも成功して良かったですわ。義兄さま。」
それってつまり、2人は『俺を喜ばせる』という共通の想いがあったからこそ上手く発動できたのか。
わざわざ俺のために魔法を使ってくれた2人の思いもよらぬ優しさに、俺は思わず感動した。
「ふ、2人ともぉ…」
感動している俺の側で、何か考える仕種をしていたクリスが思い出したように声を上げた。
「それ師匠に聞いたことがあるかも。ほら、前聞いた話で『魔獣』と戦う時に複数人で魔力を通わせ合って倒す事もあったって言ってたよね。」
「ん?あー、そういえば言ってた…かな。」
確かに以前師匠が話してくれた武勇伝の中に、そんな話があったかもしれない。
ただ師匠の話は、基本的にどれも凄い話ばかりなので、微妙に覚えているか自信がないが。
「凄いよね師匠さん。水の国の騎士団に在籍してたんでしょ?部下や周りから『鬼の騎士団長』って言われてたって…ん?神だったっけ?」
「し、師匠にそんな通称が…あんなに良い人なのに…」
「凄ぇよな…最初熊倒した話聞いた時も驚きだったけどさ。実は『魔獣』だったって知ったらその通称も納得だわ…てかそれも、師匠曰く部下と一緒に倒したって言ってたけど、あれ絶対師匠一人でやってるって。」
師匠は妙に控えめな所があるが、結構正直な人なので聞けばすんなり答えてくれる。
だが、話した後で部下と~だの周りの人が~など変な訂正が入る。
別に凄いことなんだから恐縮する事は無いのに、そう言ったら「本当なんだ!」と強く否定されるのだ。変わった人である。
「そうそう魔獣と言えば、この間この国の東側の森でも魔獣騒ぎあったって。」
そうクリスが思い出したように話し出した。
ちなみに先程から話に出ている『魔獣』についてだが、この世界は一応そういうものが存在するらしい。
らしいというのも、俺は小説でも実際でも魔獣を見たことがないのだ。
小説は、ほぼ街中のセントラルの学園内の話だけだし、ヒロインのサラは幼少期より文字通りの箱入り娘だ。
学園内でサラは魔獣に会わなかった筈なので、その話が出てこないのも不思議ではない。
ただ、どこかでそれらしい『大きく獰猛な獣』という一文を見た気がするが…誰の話だっただろうか。
とりあえず師匠や先生達から聞いた話では、この世界の魔獣とは「魔法の使える獣」で「魔獣」らしく、逆に魔法の使えない普通の獣達はただの動物と呼ばれている。
魔法と言っても俺達の様に火を出したりするのを口から吐いたり、身体強化で大きくなったりするレベルの魔法だ。
ただ魔獣は、本来人前に出現する頻度は少なく、たまに森の奥や海底などで見られると師匠は言っていた。
そして魔獣はかなり危険なものも居り、大昔には暴れた魔獣に殺されたという話もあるらしい。
今では通常それぞれの住処で大人しく過ごしており、そこに侵入したり害を加えなければ問題は大してないとの事だった。
そして中には愛玩、使役用に調教された魔獣もいるらしい。
しかし現在も暴れる危険な魔獣は発生するので、それに対応するために、それぞれの国の騎士団達が各地に派遣されるらしいのだ。
簡単に言えば、騎士団とは日本でいう自衛隊に近いものにあたるのだろう。
ちなみに警察は『警備隊』という名で存在しており、民間の問題事はその警備隊が主に取り締まりをしている。
ただ聞くところによると俗称『後始末隊』と呼ばれているらしいので、本当に何かから守ってくれるかは定かではないらしいが。
「今回の魔獣は、騎士団のお陰で倒されたらしいけど。騒ぎのあった場所はカルロスが通ってくる道筋にも近いんだから、やっぱり1人での行動は控えた方が良いと思うぞ。」
俺が心配してそう忠告すると、カルロスは驚いた顔をして見つめてきた。
「ギルバート…心配してくれるのかい?」
カルロスは何故かキラキラとした目を向けながら聞いてくる。
「当たり前だろ、友達なんだから。」
「"友達"…うん、そうだね。ありがとう、気を付けるよ。あ、でも通うのは止めないよ。それに空飛んだ方が安全だと思うし。」
こいつ…人の忠告を笑顔で無視りやがってこの野郎…
俺が半ギレ状態のまま本気で睨んだら、流石に少し堪えたのか笑顔が引き攣りだした。
「…判ったよ。今度からちゃんと側近達と来るから。そんなに心配しないで。」
「判ればいいんだよ、判れば。」
カルロスの返事に俺は満足し、思わず頭をよしよししたらみるみるカルロスの顔が真っ赤になった。
あれ?やっぱり同い年にやられたら恥ずかしかったかな?
しかしどうやら嫌がってはいないようで、カルロスは俺の手に頭を更にグリグリと押し付けてきた。
何だか可愛くなり、もう少し続けていたらアリスに「義兄さま!私も!」と抱きつかれた。
また後ろから、服の裾を引かれ振り返るとクリスが「僕も…」と照れながら頭を近づけてきた。
それに感動した俺は思わず3人をまとめて両手で抱き寄せ、思い切りワシャワシャと撫で回した。
両手に花とはこの事かー!!カルロスも義弟妹達も超可愛い!!
思わず萌えてしまった俺は、しばらく3人に「よしよし」を強請られてしまい、流石に疲れた俺がギブアップするまでよしよしタイムは続くのだった。
次回はまた小話に入ります。