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4:カルロス・ウィングフィールド

ブクマ、閲覧毎度ありがとうございます。

今回でやっと小説の主要人物が出てきます。

数人の黒服の男性達と供に、ようやく到着した王子が部屋へと入って来た。

王子は俺達の存在を認めると、あの写真と同様の綺麗な顔をこちらに向けた。。

俺達は父さんも含め全員立ちあがり、王子へと頭を下げる。


「ようこそカルロス様。この度はわざわざ我家までお越しいただき恐縮です。」

「いえいえ、こちらこそいきなりのお話承諾いただき光栄です、オルコット公爵。それにその様に畏まってくださらなくても良いですよ。」


父さんに笑顔でそう返す王子の気遣いの言葉に、俺達は揃って頭を下げ父さんは王子に席を勧めた。

王子は席に着くと、近くに控えた黒服の人に一言二言何か告げた。それに彼らが頷くと、無言のまま速やかに退室していった。

その様子を不思議そうな顔で見送っていた俺に気付いたのか、王子がニッコリとこちらに笑顔を向けて告げた。


「彼らも居ると皆さん緊張されると思いまして、一旦外に出て頂きました。」


ニコニコと答える王子の姿に俺は思わずオォ…とたじろいだ。

王子ってまだ俺らと同い年だよな…?それにしては大分大人びているというか、場慣れしているというか、そこら辺の大人と同じように思える。


「お気遣いありがとうございます。カルロス様。」


俺がそう考えていると、横からアリスが礼を告げた。


「妹の事だけでなく僕達のことまで配慮して頂き、本当にカルロス様は噂に違わぬお優しい方で安心しました。」


さらにクリスが続けて話し、ウチのも大概だったわ、と思ってしまった。


「いえ、その様に言って頂けて光栄です。えぇと、貴方がアリス様の双子のお兄さんですか?」

「はい、クリス・オルコットと申します。そしてこちらが僕達の義兄の…」

「…あ、ギ、ギルバートです。この度は僕達の同席も承諾して頂き誠にありがとうごさいます。」


思わずどもってしまったが、なんとか返した俺に対し王子はフフと微笑む。


「いえ…妹さんを心配されての事と聞いて、そんなお優しい兄上にも是非会ってみたいと思ったので。」

「は、はぁ…恐縮です。」


本当にそんな理由でOKしてくれたのか、それともただの建前なのか、変わらぬ笑顔からはなかなか読み取れそうも無かった。


「それに、皆さんも僕と同い年の魔力保有者と聞き、いずれ魔法学園の同級生になるのでしょうから、出来る事ならお友達になりたいと思いまして。」

「えぇ!王子様と、僕達がですか!?」


思わず驚きの声をあげた俺を、全員が驚いた表情で見つめてくる。

それをマズイと思ったのか、クリスに耳元で「義兄さん、声が大きい…」と諌められた。


「す、すみません…素直に驚いてしまって…」

「フ、フフッ…賑やかなお兄さんですね。」

「「「申し訳ありません…」」」


俺の様子が余程可笑しかったのか、肩を震わせ静かに笑う王子に俺以外の3人が代わりに頭を下げ、俺は恥ずかしさに顔を真っ赤にして落ち込んだ。


「フフフ、そんなに落ち込まないでください。むしろとても優しく、楽しい方でこちらも安心しました。」


ニコニコと返す王子に、全員が笑顔になる。

そんな状況に思うところがあったのか、父が一言切り出した。


「カルロス様、それでは私は隣の部屋に居りますので、ゆっくり子供達とご歓談を。」

「お気遣いありがとうございます、公爵殿。」


そう告げて退室した父さんを見送ると、王子は「さて」と手を叩きながら俺達へ向き直る。


「大人達も居なくなりましたし…そろそろ堅苦しいのは止めようか。」


ニッコリと告げる王子に、俺達は全員キョトッとした表情を浮かべる。


「だって、僕達全員同い年なんだから、ずっと敬語は堅苦しいでしょ?そちらの彼は特に、ね?」


俺に対しウィンクをしてくる王子に思わずキュン、としてしまった。

可愛い笑顔でその表情はズルいぜ、これだから美少年は、と俺は思わずハハッと笑ってしまった。


「改めて自己紹介を、僕の名前はカルロス・ウィングフィールド。君達と同じ6歳、あ、あと一ヶ月で7歳かな。よろしく。」


軽く自己紹介をしてきた王子は、俺に握手を求めてきたので思わず反射で握手した。


「ギルバート・オルコットです。先程は緊張で変な態度をとってしまい申し訳ない…」

「ハハッこちらは見ていて面白かったよ。笑ってしまってすまない。」

「いえ…あれは仕方ないと…」

「そうかな?そして君がクリスだね。よろしく。」

「こちらこそ。どうぞよろしく。」


クリスとも挨拶と握手を交わしすと、今度はアリスを見つめる。

あ、緊張で飛んでたけど、これってアリスのお見合いだった。

2人が次に起こすであろう行動に備え、俺は体を強張らせて様子を見守った。


「申し遅れましたわ、カルロス様。私がアリス・オルコットと申します。」


椅子から立ち上がったアリスは、スカートの裾をつまみ、淑やかにお辞儀する。

そんなアリスの足元に、王子は緩やかな動きで跪いた。


「この度は僕の申し出を受けて頂きありがとうごさいますアリス様。お会いできて嬉しいです。」


そしてアリスの手を優しく取ると、その手の甲に流れる様にチュッと口付けた。

わ、わ~、よく映画とかである奴~!!本当にやる人初めて見た~!!2人超絵になるぅ~!!

こ、これは惚れてまうやろ~!

などと、思わず視聴者気分で興奮して見ていると。


「こちらこそ、王子様からのご指名と聞き、大変身に余る思いですわ。」


特に取り乱す事無く礼を告げるアリスに、俺は思わずあれ?と思った。

絶対真っ赤になって取り乱すかと思ったけど、アリスの顔色は別段変わった様子は見れない。

あ、王子の前だから冷静に努めているのか?流石だな。

アリスの返事に王子は笑顔で答えると、緩やかに立ち上がりアリスに着席を勧め、そのまま自分ももとの席へ着いた。

すげぇ手慣れてるな、と王子の馴れた紳士っぷりに俺は思わず感嘆した。


「可愛らしい上にとても聡明な方なんだね。写真で見た時と印象が違って少し驚いたよ。」

「まぁ、どのような印象でしたの?」


その質問に王子は少しの間、顎に手を当てながら考える。


「気を悪くされたら申し訳ないんですが、とても大人しそうな印象を受けたので…」

「フフ…カルロス様こそ遠慮なく言って下さっていいんですよ?自分でもあの写真を撮った頃は、とても暗い性格だったと自覚してますから。」


そう答えるアリスの表情は、どこか寂しげに見えた。

写真を撮った時期として思い当たるのは、恐らくこの家に来た当初のことだろうかと考える。

この家に来た時のアリス、というよりクリスもどこか怯えた様子をしていた様に思えた。

当時記憶が戻ってなかった俺は、そんな2人に妙な苛立ちを感じていたのだった。

2人の美しい容姿や当時の状況から俺は、その感じた苛立ちを彼らにぶつけるしかなかったのだった。


「…あの時は、ということは、今は何か心境の変化でもあったのですか?」


椅子に座り直した王子は、優しげな声色でアリスに問いかけた。


「…えぇ、とても良いことがありましたの。」


とても嬉しそうな笑顔で答えるアリスの言葉に、クリスも深く頷いていた。

きっと家族仲が良好になったおかげで、2人にとってとてもいい環境になったのだろう。

孤独になる筈だった2人の、そんな幸せそうな笑顔に俺はなんだか安堵した。


「そう、ですか…」


そう返した王子の声色に少し違和感を感じた俺は、思わず王子の顔に視線を移した。

王子の顔は少し驚いた様子に見えたがそれはほんの一瞬であり、すぐにあの綺麗な笑顔に戻ってしまった。

その後は特に取り留めもない話が始まり、あれほど心配していたお見合いは何事もなく終わってしまった。

そして最後にお見合いの返事をアリスが伝えようとした際に、王子が


「返事は急ぎません。また近いうちにお伺いしますので、せめて一ヶ月程考えて、またお返事を聞かせてください。」


という言葉をかけた事で、お見合いの返事は一ヶ月後というのが決定してしまった。




王子が帰った後俺達3人は、俺の部屋で少し休む事にした。

メイドの用意したレモンティーと、俺達が好きな茶菓子をつまみながら、アリスの王子に対しての

印象が気になり思わず聞いてみることにした。


「で?どうだったよ?王子様は。」

「どう、とは?」


飲んでいたカップを置きコテンと小首を傾げる姿は、先程の王子を前にして堂々としていた少女と同一には思えなかった。


「いや…結構綺麗な子だったし、一目惚れ~とか、しちゃったりとか…」

「…義兄さま…私そんなに単純そうに見えますか…」


呆れた様子で俺を見つめるアリスに、何故か妙な緊張感を感じた。


「いや!そういう意味じゃなくて!誰だってあんな綺麗な人に迫られたらその気なくても嬉しいものじゃない?」

「それはまぁ、王子様からのご指名は確かに凄いとは思いますけど、別にそれだけですわ。」

「…それだけ?」

「それだけですわ。」


そう言いアリスは再度カップに口をつけた。

その表情は特に焦ってもおらず本当に「それだけ」らしかった。

あれー?小説だと王子曰く、出会った当初からよく王子に会う度にベッタリしてたって書いてあった筈…

俺達が立ち会っちゃったから、何かが変わったんだろうか?

不思議そうに首を傾げる俺はこの件で頭がいっぱいになり、そんな百面相している俺の事を2人が呆れた顔で溜め息をつきながら見つめているのに気付くことはなかった。




その後、王子は宣言通り一週間も経たぬ内にオルコット家に、しかもほぼ毎週通ってきた。

その際アリスの希望もあり、俺達もよく同席はしていたが俺達にも授業などのやるべき事があるので、その際には2人きりで過ごす事もあった様だった。

だが俺達が授業を受けていても、それを近くでお茶をしながら見ていたりしたので、本当に2人きりの時間もあまり多くは無かったように思えた。

2人のお見合いなのにこれでいいんだろうかと思ってしまう程だ。


それを直接聞くと、王子は「ギルバートの様子は見ていて飽きないから」と笑いながら答えてくれた。

何が面白いのかさっぱり分からんが、まぁ楽しそうなので納得しておくことにした。

ちなみにこの短期間でそれなりに仲良くなってきた俺達は、互いに呼び捨てする程の仲になっていた(流石に王子の側近達の前ではしないが)。

そんな風に親しくなっていく間に、あっという間に約束の一ヶ月が経とうとしていた。




「なぁ、明日は約束の日だけど、どうなんだ?」


俺がお菓子を頬張りながらそう問い掛けた相手は、アリスではなくその王子の方だった。

ちなみに現在アリスは義母さんとショッピング、それにクリスも付き添いでお出かけ中だ。

ショッピングは大分時間がとられるので面倒だと感じた俺は、それより魔法の練習がしたかったのでクリスを生贄に留守番する事にしたのだった。


そうしたら王子がやって来た。

王子にアリスの外出を告げれば、流石に帰るかと思ったのだが「じゃあ一緒にお茶しよう」と誘われ居座られた。

アリスを待つつもりなのか、と思い聞けば「君と話したいだけだよ」と返され長居のつもりも無いとも言われた。

アリスと会わず俺と話とかもう完全にお見合いと関係無くなってないか、と疑問に思うが別に話すことが嫌でも無いので大人しくお茶する事にした。


「どう?と言われてもね…アリスの事は君が良く分かってるんじゃないのかい?」

「う、う~ん…」


優雅にお茶を飲む姿も絵になる奴だな、と思いながらそう返され思わず腕を組んでここ最近のアリスの様子を思い返す。

その結果この一ヶ月、特に進展も見られずアリスが王子に惚れている様な仕草も見られなかった。

もはや普通の友人関係を築きつつある2人に、正直婚約はどちらに転んでもおかしくはないと思えた。


「それに、君としてもこのまま話が進まない方がいいんじゃないのかい?心配だったんだろう?」

「うーん…」


そう本人に言われてしまうと、本当にこのままでいいのか、とも考えてしまう。

小説の本来の展開的には、王子に惚れたアリスがなかなか婚約解消をさせず、結果ヒロインに危害を加え出したアリスが学園追放されるというシナリオだ。

だから俺は、アリスが王子に出会ってベタ惚れしないかというのが心配だったのだが今のアリスの反応だとそれはなさそうだ。

恐らく現在のアリスは、王子を『仲の良い友人』レベルの人間として捉えている様に見える。

もしかしたらこの先、魅力的に成長した王子に惚れていく可能性もあるが、小説の様な過剰依存になる気配は今のアリスに見られないと思う。


王子の方も、小説では大分性格に難があるようにも感じたので警戒はしていたが、こうやって接してみると多少の強かさは気になるものの、賢く良識もある事が感じられた。

俺の知らないこの世界の事は勿論、魔法の話などなかなかに為になりそうな話ばかりで正直話していて興味深かった。


もし2人がこのまま婚約しても、今の状態の2人ならうまくいく気がするし、仲良くなる事でヒロインと王子の恋愛フラグ自体が立たなくなれば、晴れてアリスの破滅は回避される。

つまりは、俺的にどちらに転んだとしても、アリスの破滅フラグを回避する術が想定できるので、以前ほど2人の婚約を否定する要素が思い浮かばないのだ。

それに俺は


「…楽しいんだけどな。」

「え?」


思わず口に出した言葉を王子は拾ったらしく、聞き返された。


「あ、いや、カルロスと話すの結構面白いし、色んな事聞けて興味深い所もあるし、僕としては別に婚約に反対する要素が無い気がしてさ。」

「…面白い、かい?僕と話すの。」

「うん、カルロス頭良いから色んな話聞けて楽しいよ。」


俺の言葉に、王子は大きな目をさらに見開き、その水色の瞳をパチパチとさせ驚いた表情をみせる。

その瞳がまるでビー玉の様に見えて、思わず「ラムネについてるあのビー玉ってこんな感じだったよな…」などと呑気に前世の兄が買ってくれた事を思い出していた。


「…そんな風に言ってくれるの、君が初めてだよ。」

「え?」

「…周りの大人達は皆、僕の事は『王子』としてしか見ないから、『凄いです』とか『流石です』とかお世辞ばっかりだったからね。」


カチャリと皿に静かに置かれたカップの中身を見つめながら、王子はポツリと語った。

いや、多分本当に『凄い』んだと思うけど…と思ったが、神妙な面持ちの王子に口を出すことはしなかった。


「…周りはそうでも、国王や王妃様、それに兄弟だって…」

「…父上も母上も、国の事ばかりで子供の事は二の次さ。もし気に掛けるとしても、次の王候補である兄上達の事ぐらいなものだよ。その兄上達も互いを後継者として意識し合いすぎて仲違いしている。年の離れた僕の事なんか気にも止めてないよ。」


その話を聞き、そういえば小説の風の王子は兄王子達より10歳も歳が離れて出来た子供だと書かれていた。

第三王子とはいえ、そこまで離れているとやはり後継者としては見て貰えないのかもしれないと思った。


「今回の婚約の話だって、兄上達の婚約が決まったついでで出た話だし、誰も僕の事を本気で思って薦めた訳じゃないさ。」


そう言うとまるで気にしていないような、穏やかそうに笑う王子だが、俺からは泣きたくても泣けないようなそんな複雑な表情に見えた。


「だから今回の話が決まらなくても何の問題もないんだよ。どうせまた次の話を持って来られるだけだろうから。」

「…カルロスは、それでいいのか?」

「…そうだね…アリスと話すの嫌いでは無いし。それにこれから面倒ではあるよね。また色んな話を持って来られるとか考えるとさ。」


ハハッと笑うが、その顔はいつもの様に楽しそうには見えなかった。


「…僕は、ちょっと残念かな。」

「…え?」


俺の言葉に王子は首を傾げる。


「だって、カルロスがもしアリスの婚約者になるとしたら、僕の義弟にもなるってことだろ?」

「…予定にはなるかな、僕の方が年上だけど。」

「たった数ヶ月じゃん。て事はさ、また兄弟が増えるって事だろ?そりゃ楽しいに決まってるじゃん。」

「…は?」

「だって、この一ヶ月だけでも結構楽しかったんだからさ、これからもっと楽しくなるかもしれないだろ?」

「…ずっと楽しいとは、限らないんじゃないかな。」

「えー?楽しいって!だって僕はクリス達と兄弟になって毎日楽しいし! 兄弟が増えれば楽しさも倍!良いと思わないか?」


そう力強く語る俺のその言葉に、ポカンと口を開けて呆けた王子だったが、すぐにフフフと肩を震わせ笑い出した。


「君は、頭が悪い訳ではないんだけど、フフッ…どこか考え方が一味違うよね。」

「え?何それ褒めてんの?」

「フフッほ、褒めてる褒めてるっフフッ…」

「…いや…絶対バカにしてるだろ…」


何故かいきなり笑い始めた王子は、一仕切り笑った後、落ち着く為か残りの紅茶を流し込んだ。


「はー…、お腹痛い…こんなに笑ったの初めてだよ…」

「タノシソウデナニヨリデス。」

「何?そんなに怒った?」

「別に、怒ってはないですケドー」


尚もクスクス笑う王子だったが、訳も分からずだだ笑われるのは誰だってむかつくだろうと思う。まぁ俺は、ただ何となく釈然としなくて困ってるだけだけど。


「ごめんごめん、本当にバカにした訳ではないから。」

「…まぁ、なんか元気になったみたいだから別にいいけどさ。」

「え?」

「ん?」

「…元気ないように見えたかい?」

「ん?んー、まぁね。違った?」

「…うん、そう…かもね。」


王子は呟くと、プイッとそっぽを向いてしまった。

何だ?今度は拗ねたのか?笑ったり拗ねたり忙しい奴だな。

そして、何やらそのまま考え込んだ王子を他所に、俺は美味しい茶菓子に舌鼓を打つのであった。



その後本当にアリスに会うこと無く帰った王子だったが、何故かアリス宛の手紙を俺に言付けて帰っていった。


「中は見ちゃダメだよ?」


と至近距離(しかも笑顔とウィンク付き)で告げた顔に何故か圧倒されたが、そんな事言われなくても俺に他人の手紙を見る趣味はない。

気にはなったが、ちゃんとそのままアリスに手渡す事にした。

そして夕方帰宅したアリスに、王子からの手紙を渡すと不思議そうな顔をした様だが、その場で手紙に目を通すなり血相を変えた。


「読みましたか!?このお手紙!?」


そしていきなり俺に詰め寄って来たアリスに、俺は全力で首を横に振り「読んでない」と答えた。

その返事にホッとした顔をすると、いきなり神妙な顔つきになり「少し部屋に戻ります」と言い、本当にそのまま部屋に篭ってしまった。

王子に手紙で何か言われたのかと心配した俺は、すぐアリスの部屋へ向かった。

だがアリスからは「なんでもない、少し考え事があるので夕食時までそっとしてほしい」と言われ、それ以上どうする事も出来なかった。


結局本当に夕食時には普通に部屋から出てきたアリスに、俺は「大丈夫か?」と問い掛けたのだが、答えは「大丈夫ですわ…明日の事で少し…」とだけで、それきり返事は返ってこなかった。

どうやら婚約の返事の案件だったと知り、もしかして婚約の返事の催促の手紙だったのだろうかと考える。

だが普通の催促には思えず、しかし答えてくれなさそうなアリスに、俺は少しの不安を持ちながらもただ明日を待つことしか出来なかった。



そして翌日、王子は予告通り我が家へやって来た。

そして、初めての時の様にアリスの前へ跪くと手を取りキスをした。


「約束の一ヶ月が経ちました。お返事、聞かせてもらえますか?」


少女漫画なら背景に花が咲き誇りそうな綺麗な笑顔に、側で見守っていた俺は思わずクラクラした。

こんな笑顔見せられたら普通の女性ならノックアウト確定である。

現に後ろに控えていたメイド達の何人かは、声量低めながら赤い顔をして黄色い声を上げていた。

王子のキラキラオーラに一瞬目が眩んだが、やはりアリスがどう答えるのか気になった俺はグッと耐え視線をアリスに移した。


昨日の様子では、王子からの手紙の件で悩んでいたようだったが、今朝のアリスの表情は何か吹っ切れ晴れやかな様子だったので、俺の昨日の不安は杞憂だったと考えることにした。

しかし、不安は不安なので何か怪しげな素振りが2人から感じ取れないかに集中すべく、俺はしっかりとアリス達に視線を向けた。

そして、アリスは一瞬悩んだ素振りを見せた後に、微笑みながら王子の手をそっと握り返した。


「こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ。」


その返事に周りに控えていたウチのメイド達や、王子の側近達からパチパチと拍手が起きた。

「おめでとうございます!」「素敵なお二人だわ!」といった声が聞こえ、それに釣られるように俺も拍手を始めた。


一部始終を見守ってはいたが、俺からはアリスが嫌がる素振りも王子が何か企んでいるようにも見えず、寧ろ本当に幸せそうにお互いに微笑み合っているように感じた。

結局小説通りに婚約は為されてしまったようだが、どうやら今の2人の様子から見て小説のような最悪な顛末は恐らくは無いだろうとはなんとなく思えた。


ただ気になるのは、これまでの2人の様子では婚約が成立する様な素振りはほぼ見られなかったのだが、どういうことだろうか。

恐らくは、あの手紙が関係していると思うのだが、一体内容とは何だったのだろうか。

そういった疑問を考えながら王子の顔を見ると、俺と視線が合った瞬間嬉しそうな顔でこちらにウィンクをしてきた。

アリスの方もこちらに気づき、少し照れながらこちらに笑顔を向けてくれた。


…まぁ2人が幸せそうならいいか。

俺はそう考え、こちらを向く2人に再び拍手を送った。

そして万が一の時に備え、これからも自分磨きにより一層力を入れて行こうと心の奥で思うのだった。



そんなギルバートは、まさか2人が裏でギルバートを巡って共通の目的を持って婚約を結んだとは、まったく気付く事が無かったのだった。




敬語など使い慣れてないので間違い等あればすみません。


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