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1:家族関係は良好に

本編開始です。

転生を自覚した階段転落事件から、俺は三日三晩高熱で苦しんだ。

理由は恐らく転生前の記憶が戻った事に、幼い身体が耐えきれなかったからだろう。

俺はあの時、あの時間に転生したんだと思ったがそうではなく、転生自体はしていたが落下の衝撃で前世の記憶がフラッシュバックしたようだった。

なので熱にうなされている間、ここで生きてきた6年間をじわじわと思い出し、この世界の事や自分自身の立場というものの自覚が出てきた。


そして4日目には記憶が安定したのか熱も下がり、ベッドの上でゆっくり考える事が出来た。

まずこの世界、どうやら魔法の存在する世界らしく、俺も1年前(当時5歳)の時に発現がみられている。

そして俺が生まれ変わったのはなんと、貴族のお坊ちゃまとやらだったのだ。

これであの「坊ちゃん」が俺を指していたのは確定した。


俺の今世での名前はギルバート・オルコット。

オルコット公爵の一人息子であり、幼少期より病弱だった母からようやく産まれた子ということで、両親や周りから大分甘やかされて育ったようだ。

この体型は可愛い一人息子を文字通り甘やかした結果か。


しかし、そんな幸せ絶頂な時、俺がもうじき6歳になるであろう年に母が亡くなった。

父は、母が亡くなって1年も経たない内に再婚をしたようで、その一件から幼い俺は父を盛大に嫌悪した。

実はこの世界的に、貴族は片親というのがあまり外聞が良いものではないらしく、そういった風潮から周りに捲し立てられ、この再婚も俺の事も考えて行った事だろうと今なら分かる。

だが当時の俺には、父が大好きな母を蔑ろにしたのだと感じたのだった。

それまでの仲睦まじい2人を見てきたので、尚更そう思えたのだろう。

しかもだ、その再婚相手には連れ子が居り、それが美しい容姿の双子だったというのが、どうにも当時の俺初めての嫉妬心を刺激したようだ。

この間の階段上で真っ青になっていた男の子と女の子は義兄妹だったようだ。

ちなみに彼らは俺と同い年だが、俺の方が少し早く生まれた事と、俺が公爵の実子である為長男となっている。

男の方が兄でクリス、女の子は妹でアリスという名前だった筈だ。

そしてそんな精神状態の俺が、義兄妹達と仲良く出来る筈もなく、甘やかされて育った環境もあり心底義兄妹達を嫌った。


嫌うだけでなく苛めまくった。

アリスの髪を引っ張ったり、クリスに嫌味を言ったり、押したり引いたりets…


「(…俺超サイテーじゃねぇか!過去の俺シバきてぇ!!)」


俺は思わず反省と後悔の念から頭を抱えた。

しかしそんな最悪な状況でも、周りは俺が公爵の実子であることもあり、変に止める事も出来ず黙認するしかなかったようだった。

そういった中起きたあの階段転落事件も、俺がアリスにいつも通り嫌がらせしていた時、止めに入ったクリスに押し返された反動で落ちたのだ。

完全に自業自得である。


「うぁ~…俺マジでクズじゃん……サイテー人間じゃん、しかもデブ…クズデブ野郎じゃねぇか…」


なんとも最低な人間に転生してしまったんだと、俺はベッドの中でモダモダと自己嫌悪に陥る。

やったのは過去のギルバートの仕業と言えばそうだが、結局は記憶のない自分による犯行なのだからなんとも言えない。

記憶が戻った今、今まで通りの苛めっ子でいるのは本気で気分が乗らない、罪悪感で死ねる。

なら、どうするか。


…謝るしかなかろう!!

というか俺は、本来美しい少年少女は愛でたい人間だ!

あんな可愛らしい弟と妹が目の前に居るというのに、愛でずにいられようか!!否、だ!!

……言っておくがショタロリの気はないからな!ただ愛でたいだけだ!庇護対象だから!

俺は心の中で、誰が聞いてるでもないのに力説する。


…しかし、あれだけの事をして、許してもらえるかは分からない。分からないが、とにかく土下座してでも謝り続けよう。

よし、そうしよう。

折角転生出来たのに、家族仲険悪とか最悪だ。

今からでも出来れば仲良くしていきたい。

そんな事を考えていたら、部屋をコンコンとノックする音が聞こえた。


「ギルバート様、今よろしいでしょうか?」


どうやら義母が訪ねて来たらしい。

そういえば、義母に対しても今までの俺は余り関わろうとはしなかった。

これは話せる良い機会かもしれない。


「はい、どうぞ。」


そう返事をすると、ガチャリと音を立て扉が開いた。

そこには義母と共にクリス達も一緒に入ってきていた。


「(うーん、こう見るとやっぱり3人とも綺麗だなぁ…)」


義母とアリスは、腰まで伸びた亜麻色の髪にウェーブがかかっており、全体的にフワフワしたイメージだ。

クリスはセミショートの長さの漆黒の髪が、軽く動く度にサラサラと流れ、キラキラ光って見えた。

それぞれの美しさを持つ3人は、親子だけあって同じ翡翠色の瞳をしており、そんな美しいづくしに見つめられ、俺は思わずホゥ…と溜息が零れた。

その溜息にクリスはビクリと肩を揺らした。

その顔は血の気が引き、まるで人形の様に白く感じた。

そう気づいた俺は、他2人の顔をもう一度見る。

アリスも同様に何か恐れるように縮こまって義母にすがり付いており、義母は何かを覚悟したような顔をしている。

何事だろうと思い俺は首を傾けた。


「あの、何かありましたか?」

「え…?」


俺の言葉に義母も含め、子供達も驚いた顔をしている。


「3人とも顔が真っ青ですよ?体調が優れないのでは?」

「い、いえ…そんな事は……」


俺の対応に、全員が狼狽えはじめる。

あ、そっか、そりゃあの傍若無人なガキがいきなりこんな反応したら驚くわ。

でも直しようもないので仕方ない、このまま進めよう。

というかボケッとしてて気づけなかったけど、多分あの階段の件で来たんだろうな。


やべぇ……早く謝らないと、あっち親同伴とか俺ピンチ。

これって所謂『うちの子に何て事を!』『被害届出すわよ!』といったやつではないか!?

まぁこの世界に被害届なんて無いだろうが、何らかの制裁は求められるだろう。

このままだと父さんに〆られそう、てか絶縁言い渡されそう。


「あ、あの、もしかして階段の件…でしょうか?」

「「「っ!」」」


その話を出すと、3人共反応を示した。

あ、やっぱそれか、だったら話は早い、めっちゃ謝ろう。


「あ、あの…」

「…その件は…本当に申し訳ありませんでした!」


俺は、何かを言おうとした義母の声を遮り、勢いよく頭を下げながらベッドの上で土下座をした。


「…え…!?」

「僕が全部悪いんです!貴方の大切な子供にちょっかいかけて、こんな事態になってしまって…言い訳のしようもない。今までの事も含めて、本当にどうお詫びすれば良いのか…」

「ちょ、ちょっとお待ちください!ギルバート様!」


お怒りの言葉が返ってくるのを予想していた俺は、焦った様子の義母の声に思わず、ん?と顔を上げる。

3人共凄く焦った様子で俺の事を見ていて、どうやら俺の事を訴えに来た様子には見えない。

それに後妻とはいえ、義母から様付けされるとはどういう事だろう。


「お顔をお上げくださいまし、ギルバート様。貴方様にこの様な事をさせてしまっては私は、旦那様に何と説明すれば良いのか…」


へ?何いってるんだこの人は、立場で言えば彼女は公爵夫人、その上俺は自分の実子を苛めた張本人だ。

逆に父さんに苛めの件を伝え、俺を罰する事も可能だろう。


「えっと…あの、失礼ですが、えーと…お、お義母様(おかあさま)?」

「まぁ…そんな…私には貴方様にその様に呼んで頂く資格などありませんわ。」

「し、資格って…何故ですか?貴方は後妻とは言え公爵夫人でしょう?」


その言葉に義母は目を潤ませる。


「この様なお話…貴方様にお伝えするのは…」

「理由を聞かねばこちらも納得いきません。どうか、教えてください。」


お願いします、と再度頭を下げると義母はまた焦ったが、俺が頭を上げるとゆっくりと語ってくれた。


「実は私は、本来貴族の生まれではありません。元々とあるお屋敷の小間使いとして働いていました。」


そこから語られた話を簡単にまとめると、これまでの周りの態度がどうしてか分かった気がした。


義母が働いていたお屋敷のご主人はとても良い人で、義母とも年が近く気づいたら恋愛関係になっていった。

けれどそんな関係を周りが許す筈もなく2人は別れたが、彼女は後に双子を身籠っていたことが分かった。

義母は周りにそのご主人の子とは告げずしばらく産み育てるが、後にその双子が僅か3歳で魔力がることが判明し、それを聞き付けた誰かによってさらにご主人に伝わり、子供の存在を知ったご主人により引き取りたいとの理由でどうにか夫人となれた。


だがそのご主人は幾日も経たぬ内に流行り病に侵され亡くなり、そのお屋敷で居づらくなり、出ていこうとした矢先に今回の再婚の話が出たらしかった。

その子供達の魔力を理由に、丁度片親となったオルコット公爵、つまり父さんとどうにか周りが繋げたがったらしい。

この世界は美しい容姿も重要なステータスの一つとされている。

義母は容姿も美しいしさらに子供達も魔力持ち。オルコット家にも悪くない話だったのだろう。

その様な成り行きもあり、義母も含め子供達もこの家では引き取ってくれた恩故に、大きく出る事は出来ない立場だったという訳だ。

それに加えギルバート少年は彼らを嫌っており、父もそれに全く口出し無しとくれば、周りも簡単に手を出すことは出来なかっただろう。

そう思うと、思わず泣けてきた。


「ギ…ギルバート様…?」

「うああああ…、なんて…なんて辛い話なんだ…!」


いきなり大号泣し出した俺を見て、義母も義兄妹もあたふたしていた。

というか、明らかにドン引いている。


「そんな事情があるなんて…知らなくて…本当にごめんなさい…」


グズグズになりながら号泣する俺の背に、フワリと温かい感覚が触れた。

義母が俺の背を撫でてくれていたのだ。


「ギルバート様…お気になさらないでくださいまし。むしろその様に私達を気にして頂いて、勿体ない事ですわ。それに、ギルバート様もお辛かったでしょう?お母様を亡くされて日も経たぬ内の事、幼い貴方様には耐え難い事でしたでしょうに…」


幼いと言っても、中身は20+6でいい歳なんですがね。

しかし、そう言いながら俺を宥める義母に、前世の母とこの世界の母を思い出す。

どちらの母も、自分には優しかった。

義母にも同じ優しさを感じ、俺は今世でも母に恵まれているらしい、と思えた。

そう考えていると、更に温かい感覚を感じる。


「ギルバート様…泣かないで下さい。」


どうやら兄妹達も泣き止まぬ俺を心配し、肩や腕をそれぞれ気遣うように握ってくれたようだった。

今まで苛めていた俺の事を、こんなにも心配してくれるとは、見た目だけでなく心まで美しい兄妹だ。

こんなに優しい兄妹を持てるとは、俺はなんて幸せな世界に生まれたのだろう。


「…ありがとう、お義母様。それにクリスとアリス。君達のような義兄妹(きょうだい)を持てて、すごく幸せだ。」


思わず出た言葉に、3人はそれぞれ顔を赤らめポロリと涙を溢す。


「えっ?あの、や、やはり僕が家族というのは嫌…」

「ち、違います!そうではなく…」


涙を拭う義母とアリスに代わり、クリスが自身の涙を腕で拭い口を開いた。


「幸せなのは、僕達の方です。ギルバート様のようなお優しい義兄(あに)を持てて、光栄の限りです。」


フワリと笑うクリスに併せて義母達も笑顔を浮かべる。

…ヤバイ…眩しすぎる…綺麗すぎだろこの人達…


「クリス、それにアリスも、僕を兄と思ってくれるなら様付けはやめてほしい。その、出来れば…"兄さん"と呼んで欲しい。」


前世では二人兄弟の弟だったので、実は下の兄弟というものに少し憧れがあった。

兄は優しかったし不満もなかったが、不満と憧れを持つのはやはり別である。

俺の言葉に2人は互い視線を合わし、良いのだろうかという表情を浮かべる。


「いいんだよ、遠慮なく呼んでくれ!けど今までの事もあるから無理にとは言わない。ただ僕はこれからは兄として、お前達を必ず守っていくと約束しよう!」


2人の手を握りながら、俺は力強く告げた。

少し狼狽えた2人だったが、俺の顔を見て真剣と受け取ったのか、笑顔で手を握り返してくれた。


「「はい、ありがとうございます。義兄(にい)さん(さま)」」


幸せそうな2人の綺麗な笑顔に、俺は心が浄化されるようだった。

うん、守ろ、全力で、この笑顔を。

そうだ、微笑んで見守ってくれている義母にも言わなくては。


「お義母様も、僕の事は本当の息子と思って接して下さい。悪いことをすれば叱ってください。良いことも教えてください。僕はまだまだ(この世界の事も)分からない事が多いのです。お願いします。」

「…分かりました。至らぬ母かも知れませんが、こちらこそよろしくお願いいたします…ギルバート。」


お互い頭を下げ合い、フフッとどちらからともなく笑い声が上がる。

その和やかな雰囲気に包まれた部屋に、俺の様子を見に父が訪室したのはその数分後だった。


そこからは、俺が父にこれまでの経緯について語り、父に勘当されると早とちりした俺が土下座をするわ、父が俺たちに詫びて頭を下げるわで、てんやわんやする事になるのだが。

その時の俺は全く知る由もなかった。




次回からこの世界についての説明入ります。

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