命の大切さ
結婚式の前に、行く場所がある。
絆の学園だ。
「ここが、僕たちが育った施設だよ」
優美に虐待や施設のことは、今日まで隠していた。
小さい頃「何でおばあちゃんやおじいちゃんがいないの?」と聞かれて、困った。
中学くらいで、薄々気付いていたと思う。
「私達ね、虐待されてたの」
「そう、なんだ……」
優美は複雑な表情をする。
親が元被虐待児と聞いて、いい思いはしないだろう。
「薄々、気付いてたけどね」
やはり、か。
「子育て、恐る恐るやってたでしょ? 割と気付いてたよ」
「ごめん」
ママは頭を下げる。
「え、そんな、謝って欲しいとかじゃなくて。感謝してるよ。じゃあ、中に入ろうよ」
施設に入る。
変わっていない。
子供の頃に戻ったかのような錯覚に陥る。
だけど、老朽化のため近々建て替え工事が行われるらしい。
智恵理先生が迎えてくれる。
「智恵理先生」
僕は声を掛ける。
「久しぶり、勇気君、なっちゃん、それに優美ちゃん」
「初めまして、岩佐優美です」
「小さい頃とかに、会ってるんだけどね。まあ、覚えていないよね」
「そうだったんですか」
「勇気君もなっちゃんも、本当にいい子だったんだよ」
「はい、自慢の両親です」
「それなら、良かった」
その後も、施設を見て回ったり智恵理先生と話をした。
「お父さんとお母さんのことがいろいろわかって、良かった」
帰り道、優美はそう言った。
優美は一歩前に出て、こちらに振り向く。
夕日が優美の向こうに見えた。
「お父さん、お母さん。今まで育ててくれて、本当にありがとう」
真っ直ぐな言葉をしっかりと受け止める。
涙は式の日までとっておこう。
その夜。
優美はもう寝ている。
「ねえ、パパ」
「どうしたの?」
「私、心配なの」
ママは思いつめたような表情で、打ち明ける。
「私たちの子育てって、これで良かったのかな? 正解なのかな?」
僕も何度もそう思うことがあった。
普通の両親の子育てを知らない分、尚更不安だった。
「子育てに正解はないんだよ。ちゃんと大人になったんだから、これで良かったんだと僕は思うよ」
「うん……」
お父さん、お母さん。
今まで育ててくれて、本当にありがとう。
この言葉が、全ての答えだと思う。
「ママ、今日までありがとう」
「こちらこそ、ありがとう。本当に、私を幸せにしてくれたね」
お互いにお礼を言う。
「なっちゃん、愛してる」
「勇気君、愛してる」
恋人のように、愛を確かめ合った。
そして、式の日がやってきた。
ウエディングドレスを着た優美が僕の前に現れる。
「お父さん、どう?」
僕はかつてのママを思い出した。
「世界で一番、綺麗だよ」
「大げさだよ」
優美は嬉しそうに、恥ずかしそうに笑う。
「そんなことないよ」
ママも僕と同じらしい。
大げさなんかじゃない。
「優美ちゃん」
「あ、叔母さん」
優美の親戚である由紀も、もちろん式に呼んだ。
「本当に結婚しちゃうんだね」
「はい、今までありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとう。私達も、優美ちゃんにはたくさんの思い出をもらったんだよ」
「はい……。これからも、よろしくお願いします」
「うん!」
そして、式が始まる。
バージンロードを一緒に歩く。
一歩一歩、今までの思い出と共に。
本当に優美は巣立ってしまうのだと、今更実感する。
披露宴に移る。
優美も新郎も友達がたくさんおり、大いに盛り上がった。
そして、優美の手紙。
優美はマイクの前に立ち、手紙を読み始める。
「お父さん、お母さんへ。今まで育ててくれて、本当にありがとう。
お母さんとお父さんの愛情に包まれて、今日まで生きてきて本当に幸せでした。
私は夜泣きがひどかったそうですね。
でも、そんな私を泣き止むまであやしてくれたそうですね。
本当に感謝しています。
昔、私を一度だけ叩いたことがあったよね?
うっすらと覚えています。
きっと、私がわがままを言ったのだと思います。
なのに、お母さんは泣いていたのを覚えています。
本当に、私のことを大事にしてくれているのだと感じました。
反抗期の頃、ひどいことを言ったり、したりしてしまいました。
きっと、傷ついたことだと思います。
本当にごめんなさい。
お父さんとお母さんが、子供の頃とても辛い経験をしたことを智恵理先生から詳しく聞きました。
だけど、お母さんもお父さんも、一生懸命私を愛してくれました。
感謝してもしきれません。
今日、私は二人の元を離れ、旅立ちます。
ですが、二人の子供であることは変わりませんし、二人がくれた全てのものを忘れません。
本当にありがとうございました」
優美との思い出が、全て鮮明によみがえってくる。
自然と、目から熱い雫がこぼれる。
優美もこれから、幸せな家庭を築くんだ。
僕は虐待の連鎖を断ち切ることができた。
僕の夢はようやく、叶った。
僕、岩佐勇気の将来の夢は、幸せな家庭を築くこと。
暴力や恐怖は存在せず、子供たちが幸せに育つ家庭。
いろんな場所に連れて行ってあげたい。
スポーツや勉強も一緒にやりたい。
そして将来、子供の結婚式で僕は泣くんだ。




