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兄妹の別れ

 面接より7日以内に結果が学校に連絡されると聞いている。

 今か今かと待ち続け、5日後の昼休みに先生に呼ばれ、進路指導室へ向かった。


「岩佐、おめでとう。よく頑張ったな」


 まず、先生の第一声がそれだった。


「ありがとうございます!」


「で、色々書類を書かないといけないんだ」


 先生は少し困った顔をする。 


「その中に、身元保証書っていうのがあるんだが、身元を保証する保証人が必要なんだ」


「はい」


「で、一般的には両親になってもらうんだが……」


 なるほど、そういうことか。


「いいか、岩佐。この先の人生で保証人が必要な場面が何度かある。部屋を借りる時とか結婚する時とかな」


 先生がこの先、何を言わんとしているかはわかる。


「だから、一回両親に会ってみないか?」


 思わず、頭を抱えそうになったがやめた。

 会いたくない。

 そう強く思っている。


「会えません」


「……そうか。じゃあ、他の人に頼もう」


 保証人の条件、資格は特に指定されておらず、1人必要なだけだった。

 2親等以内は不可、2人必要などの条件を指定する会社もあるらしい。

 なら、由紀やなっちゃん、元さんでもいいはずだ。

 だけど、この3人は全員未成年だ。

 もしかしたら、だめかもしれない。

 となると、あと1人しか候補はいない。


 授業が終わり、施設に帰った。

 早速、職員室へ寄る。


「智恵理先生、内定決まりました!」


 ひとまず、報告をした。


「おめでとう、勇気君。信じてたよ」


 智恵理先生は笑顔を見せてくれた。

 そして、言わないといけないことがある。


「ありがとうございます。あの、身元保証書に保証人が必要なんです」


「ん? なるよ」


 あっさりと、そう告げられた。


「いいんですか?」


 断られることも、覚悟していた。


「なっちゃんの時もなったしね。まさか、断ると思ってたの?」


「いえ……」


 いいのだろうか、こんなに軽くて。


「ただし、保証人を頼んだ重みだけは忘れないでね。信じてるから」 


「はい」


 智恵理先生に出会えて、良かった。

 感謝を忘れない。


 とりあえず、書類は書き終えることができた。

 その日の夕食の時間。


「お兄ちゃん、おめでとう!」


 バイトから帰って来た由紀が、早速祝ってくれた。


「ありがとう、由紀」


「やっぱり大丈夫だったね」


「うん」


 由紀も信じてくれている。

 この信頼を裏切ってはいけない。

 

 そして、夜。

 元さんに電話した後、なっちゃんに電話する。


「もしもし、なっちゃん?」


「勇気君?」


「内定、決まったよ」


「おめでとう! 信じてたよ」


「ありがとう」


「じゃあ、パーティーでもしないとね」


「いいよ、そこまでしなくても」


 思わず、笑みがこぼれてしまう。


「これで、勇気君も一安心だね」


「うん、そうだね」


「本当に、良かった。じゃあ、そろそろ切るね」


「うん、ありがとう」


 電話を切った。

 僕はいろんな人に支えられている。

 今日は強く、実感した。

 明日からも、ちゃんと生きよう。

 支えてくれる人たちに、恥ずかしくないように。


 それからの日々は、バイトをしたり会社からの指示に従って動いた。

 残り少ない学校生活を満喫した。

 そして、卒業式の日。

 学校に親しい人はいない。

 卒業アルバムの最後のページも、空白のままだった。


 卒業式を終え、施設に帰る。

 その途中、なっちゃんの部屋に寄った。

 今日はなっちゃんは休みだ。


「勇気君、卒業おめでとう!」


 部屋に上がり、祝ってもらう。

  

「ありがとう、なっちゃん」


「うん!」


 もうすぐ、一緒に暮らせる。

 そう思うと、高揚感が止まらない。

 既に、物件も見て回った。

 

 でも、一方で施設を出なくてはいけない寂しさもある。

 それに、由紀を一人残していくことになる。

 由紀は別の班に組み込まれることになるだろう。


「勇気君、卒業アルバム見せて」


「え? うん」

 

 アルバムを渡す。


「白いページ、書いていい?」


「うん、いいよ」


 大好き。

 そう書いてくれた。

 心の内から、幸せを実感する。

 人に好かれる、そして好きになるって素晴らしいことだ。


 施設に帰った。

 

「勇気君、卒業おめでとう」


「お兄ちゃん、卒業おめでとう」


 智恵理先生と由紀に祝われる。


「ありがとう」


 もう、あの高校に通うことはないんだ。

 今日で終わり。

 そして、その日はゆっくりと眠りに落ちた。


 数日後。

 卒園式の日だ。

 毎年と同じように、食堂で行われる。

 司会は職員が行い、式は進んでいく。


 卒園児童からの言葉が贈られる。

 今年巣立つのは3人。

 2人が先に言葉を贈った。

 最後に僕だ。


「僕はこの施設に来た当初、自暴自棄になってすべてが嫌でした。だけど、職員さんや施設の仲間のおかげで、自分の大切さに気付けました。絆の学園での日々は、一生忘れません。本当にありがとうございました」


 拍手が沸き起こった。 

 その後、卒園児童から施設へのプレゼント。

 最後に、智恵理先生からの言葉。

 智恵理先生は去年同様、既に泣いていた。


「なんか、毎年泣かされちゃうね。みなさん卒園おめでとう。今年も無事に、全員就職進学が決まって良かったです。これから、みなさんが経験する社会は、必ずしも温かいものではありません。ですが、この施設で学んだことを忘れなければ、きっと生きていけます。……どうか、元気で」


 智恵理先生はしっかりと、言い切った。

 拍手が沸き起こった。


 玄関に出る。

 僕たちはついに、巣立つ。


「智恵理先生、いろいろありがとうございました」


「うん、頑張って」


 そして、たった一人の家族に目を向ける。


「由紀」


「行かないで……」


 由紀は泣きながら僕に抱き着く。

 

「やだ! やだ! 一緒に居たい!」 


 由紀は小さな子供のように叫ぶ。

  

「由紀には友達や職員さんがいるじゃないか」


「でも、家族はお兄ちゃんだけだもん!」


 頭を撫でてやる。

 それでも、涙は収まらない。


「お兄ちゃん、ちゃんとご飯食べなきゃだめだよ」


「うん」


「毎日、お風呂入って着替えてね」


「うん」


「無理しちゃ、だめだよ」


「うん」


「なっちゃんと、幸せに……」


「うん、わかった」


「大好きだよ、お兄ちゃん」


「僕も」


 由紀を優しくほどく。


「それじゃあ、行ってくるね」


「行ってらっしゃい」


 僕は絆の学園から、巣立った。

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