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面接

 そして、パスタを食べ終わりデパートを出た。


「お兄ちゃん、元気ないね」


 由紀がぽつりと言った。


「いや、そんなことないけど」


「私が大学行くの嫌?」


「いやいや、そんなことないよ!」


 むしろ、歓迎している。

 僕は自分のことで勝手に悩んでいるのだ。

 それを、由紀に話すわけにはいかない。


「じゃあ、何悩んでるの?」


「何でもないよ」


「話したくない?」


「うん……」


「じゃあ、いいや」


 深く聞いてこないのは、ありがたい。

 そして、施設に着いた。


「お、ひまわりだね」


 智恵理先生に迎えられる。


「はい、なっちゃんに」


「それはいいね。由紀ちゃんは?」


「私は帽子です」


「うん、いいセンスだね」


 自室に戻る。

 嫌なことを忘れるため、夕食の時間まで就職試験の準備をした。

 しかし、あまり集中できなかった。


 翌日。

 今日はなっちゃんの誕生日だ。

 僕と由紀はなっちゃんの部屋に寄る。


 インターホンを鳴らし、部屋に上げてもらった。


「なっちゃん、誕生日おめでとう!」


 僕と由紀は揃って、祝福した。


「ありがとう、二人とも」


「はい、プレゼントだよ」


 先に由紀から渡す。


「帽子? ありがとう、由紀ちゃん!」


「僕からは、花です」


 ひまわりを渡す。


「ひまわり……ありがとう! 勇気君」


 そして、買ってきたケーキの箱を開ける。

 ワンホールだと余ってしまうので、一切れずつ買ってきた。

 僕がチョコレートケーキ、由紀がチーズケーキ、なっちゃんがショートケーキだ。

 それぞれ、口に運ぶ。


「おいしいね、由紀ちゃん」


「うん!」


 楽しい誕生日は過ぎていく。


「誕生日を祝ってもらうって、幸せだね」


 なっちゃんがじみじみと言った。

 普通の家庭なら、祝ってもらうのが当たり前かもしれない。

 僕たちは普通じゃない。

 それでも、こうして誕生してきた幸せを共有することができる。

 それは、とても嬉しいことだ。

 施設で初めて誕生日を祝ってもらった日から、ずっとそれは感じている。


 ケーキを食べ終わった。


「さて、帰ろうか由紀」


「うん、そうだね」


 僕と由紀は立ち上がる。


「今日はありがとう、二人とも」


 そして、部屋を出た。


 夏休みが終わり、9月初旬。

 応募書類を学校経由で会社へ提出した。


 次は面接と筆記試験がある。

 筆記試験は適性検査、SPI3だ。

 ネットに面接の方が重視されると書いてあったが、所詮はネットの情報だ。

 夏休み以前から面接と共に対策はしておいた。


 筆記試験を終え、面接の日がやって来た。

 その日は自然と、朝早く目が覚めた。

 今日の出来次第で、就職の合否が決まるのだ。

 そう思うと、身が固くなる気がした。


 面接の練習は夏休み中もずっとしてきた。

 学校の先生だけでなく、智恵理先生にも手伝ってもらった。

 もう、これ以上やれることはない、と思う。

 それでも、不安はある。

 

 その時、携帯が鳴った。

 なっちゃんからだ。

 

「もしもし、勇気君」


「なっちゃん……」


「今日、面接だよね?」


「うん」


「不安?」


「うん、そうだね」


 なっちゃん相手に、強がる必要はない。

 

「私も不安だったな、面接の日。でも、私にできたんだし、勇気君なら大丈夫だよ」


「なっちゃんは僕なんかより、ずっとすごいよ」


「そんなことないよ。勇気君はすごいよ。勇気君が受かるって信じてるから」


 なっちゃんの言葉、一つ一つが僕の不安を打ち消してくれる。

 

「それじゃあ、切るね」


 もっと、なっちゃんの声を聞いていたかった。

 だけど、なっちゃんも忙しい。

 わがままを言う気にはなれない。


「ありがとう、なっちゃん」


「うん」


 通話を終えた。

 朝食まで時間がある。

 もう一度、イメージトレーニングした。


 そして、朝食の時間になった。


「お兄ちゃん、緊張してる?」


 食堂へ向かう途中、由紀に声を掛けられた。


「うん、そりゃあね」


「今まで頑張って来たもん、大丈夫だよ」


 由紀の受験の時と逆だと思った。

 食堂に着く。


「おはよう、勇気君」


「おはようございます、智恵理先生」


「ちゃんと寝られた?」


「はい、大丈夫です」


 他の職員や子供たちにも声を掛けられる。

 自分ではわからないが、結構不安そうな顔をしてるのかもしれない。

 なっちゃんにあれほど、励ましてもらったのに。


 朝食を終え、施設を出る直前。


「お兄ちゃん」  

 

 由紀に呼び止められた。


「どうしたの?」


「えっと、頑張ってね。きっと、大丈夫だよ。だって、私のお兄ちゃんだもん」


 由紀は由紀なりに、僕のことを心配しているようだ。

 そうでなければ、こんなに一生懸命言葉を紡ごうとはしない。

 愛おしくなって、頭を撫でる。


「えへへ」


 由紀は笑う。


「行ってくるね」


「うん!」


 施設を出る。

 駅まで歩き、バスに乗り込む。

 バス内には作業着の社員が多数で、学生服の学生が数人。

 僕は話しかけられることもなかったので、頭の中で面接練習を思い出しておいた。


 工場に着いた。

 学生は僕を含め、4人だ。

 受付で挨拶すると、採用担当の人に控室まで案内される。


 面接の順番は僕が一番最初だ。

 入室を指示される。

 ドアをノックして、入室する。

 ノックの回数は決まってるそうなので、慣例に従った。 

 

「失礼いたします」


 部屋に入り、ドアを閉める。

 そのまま、練習した通りの動きをする。

 ドアを閉め、お辞儀をし、椅子の横に立ち、自己紹介。


「どうぞ」


 面接官に着席を促されたので、着席する。


「本日はお越しいただきありがとうございます。ではまず、なぜ当社を志望したのか。志望動機をお聞かせください」


 想定内の質問だ。

 焦らず、冷静に。


「私は元々、地元企業への就職を希望していました。就職先を探す際、施設の先輩の影響もあり、物作りへの興味が湧き御社に目が留まりました。世界的なトップメーカーの生産拠点である御社で、今までのアルバイト経験などで培った物事に柔軟に対応するスキルを生かし、様々な業務に携わりたいと思ったからです」


 ゆっくりと、丁寧に言い切った。

 面接官は頷きながら、メモを取る。

 

「自分の良い点、悪い点を含をめ自己アピールしてください」


「私の良い点は真面目なところです。施設や学校で与えられた仕事は最後までこなしますし、勉強にも力を入れて来ました。その結果、周りの人からは信頼され、テストでもよい成績を残すことができました。また、健康面でも欠席遅刻はほとんどありません。悪い点はリーダーシップに欠ける点です。何かの代表などになった経験がなく、人をまとめることに不安があります」


「人間関係はどうですか?」


「誰かと衝突するようなことはなく、良好です」


「では、友達は何人くらいいますか?」


 困った。

 元さんは友達じゃなくて先輩だし、なっちゃんは彼女だし。

 ぐるぐると、頭の中を黒い渦が出来上がる。


「友達はいませんが、交際している方はいます」


 なんとか、乗り切れたのだろうか。


「立ち仕事になりますが、可能ですか?」


「はい、できます」


「トイレにはよく行きますか? あるいは胃腸が弱いということはありますか?」


 これは、工場勤務でよくある質問らしい。

 現場をいちいち離れるわけにはいかないからだ。


「普通です」


 元さんによると、この答えでいいらしい。


「単純作業になりますが、できますか?」


「はい、できます」


「コンビニエンスストアでアルバイトされていたようですが、そこでの経験で得たものはなんですか?」


「コンビニエンスストアの業務は、多岐にわたります。それらを並行でこなしていくので、複数の作業を同時にこなす能力が身に付きました」


 具体性のあるエピソードを交えた方が良かったかもしれない。

 慌てず、次の質問に備える。


「児童養護施設で暮らしているとのことですが、そこでの暮らしで学んだことなどありますか?」


 想定外の質問だ。

 いや、よく考えれば想定できたかもしれない。

 落ち着いて考えをまとめる。


「僕は両親の虐待が原因で入所しました。施設の職員や仲間と暮らしていくうちに、両親から与えられなかった自分を大切にする心、自尊感情を得ることができました」


 僕は言い切った。

 これまでの経験全てを、言葉に変えることができたと思う。

 

「本日の面接は以上です、お疲れさまでした」


 僕はお礼を言い、退室した。


 控室に戻り採用担当の方にお礼を言う。

 そのまま、工場を出る。

 これで、終わりだ。

 やれることはやった。

 反省すべき点はあるものの、大きな失敗はなかったように思う。

 バスまで時間がある。

 少し暑いがバス停で待つ。


 30分ほどして、バスは来た。

 乗り込み、駅まで外を眺めていた。


 そして、施設に着く。

 早速職員室へ向かう。


「勇気君、どうだった?」


 智恵理先生に聞かれ、おおまかに面接の様子を伝えた。


「うん、まあ、大丈夫でしょ。今日はゆっくり休むといいよ」


 そう言われ、自室に戻る。

 疲れがどっと押し寄せる。

 なっちゃんに連絡を入れたいが、仕事中だろう。

 由紀はまあ、帰って来てからでいいか。

 なんだか、昼寝でもしたい気分だ。

 私服に着替え、ベッドに入った。

 目を閉じる。

 いろいろな思いが巡った。

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