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勇気の誕生日と三者面談

 僕は全て話し終えた。

 なっちゃんは最後まで静かに聞いてくれた。


「僕が自分の大切さに気付けたのは、周りの人のおかげです」


 虐待の治療における、大切なことは何か。

 それは、周りの人との関わりだと思う。

 僕もなっちゃんにとって良い影響を与える存在になれれば、と思い今日まで接してきた。

 

 今日は間違ったことをしてしまった。

 これからも、別の間違い方をするかもしれない。

 それでも、関わることをやめない。

 なぜなら、孤立が一番悪いことだからだ。


「なっちゃん、これからも傍にいていいですか?」


「うん、もちろん。あ、そうだ」


「何ですか?」


「敬語はやめようよ」


「うん、そうだね」


 対等な関係を結べた気がした。

 その時、僕はくしゃみをした。


「聞いてる間ずっと思ってたけど、濡れてて寒くないの?」


「ちょっと寒い」


 でも、無理した。

 すぐに話したかったから。


「それじゃあ、帰るね」


「うん、また」 


 僕はなっちゃんの部屋を出た。

 雨は止んでいる。


 施設に着いた。


「次からは、一声かけてね」


 黙って施設を出てしまったので、智恵理先生にそう言われた。


「はい」


「なっちゃんとは、どう?」


「大丈夫です、これからも」


 この先、様々な困難が待ち構えてるかもしれない。

 でも、なっちゃんとなら乗り越えられる。

 そう、確信した一日だった。


 数日後の5月17日。

 今日は僕の誕生日だ。

 なっちゃんと一緒に祝いたかったが、ホテル業界というのは休みが少ないらしく都合が合わなかった。

 だけど、日付が今日になると同時に、なっちゃんからお祝いのメールが届いた。


 その日、バイトが終わり施設に帰ると、ケーキが食堂にあった。


「お兄ちゃん、遅いよ~」


「勇気君、お帰り」


 由紀と智恵理先生が待っててくれたようだ。

 バイト終わりの時間は遅いので、食堂には僕たち3人しかいない。


「ただいま」


「さ、お兄ちゃん。席に着いて」 


 促され、席に着く。


「お兄ちゃん、プレゼントだよ」


 服をプレゼントされた。


「ありがとう。由紀は人の服選ぶの好きだね」


「うん! 服を選ぶってことはその人のことを考えることだから」


 ろうそくの火を消し、ケーキを切り分ける。

 

「勇気君の施設での誕生日も、これで最後だね……」   


 智恵理先生が寂しそうに言う。

 その通りだ。

 僕は来年、この施設にいない。


 施設を出て行くにあたって、心配なのは由紀だ。

 由紀を一人、残していくことになる。

 

「智恵理先生、暗くなっちゃうよ。そんなこと言うと」


「ああ、ごめんね」


「お兄ちゃん、18歳、おめでとう。これでもう、結婚出来るね」


 その言葉を聞いて、なっちゃんの顔がすぐに浮かぶ。

 もう、法律的に結婚できる年だ。

 僕の夢、幸せな家庭を築くという夢に一歩近づく。


「由紀、智恵理先生、本当にありがとうございます」


 そして、18歳の誕生日は過ぎていった。


 次のなっちゃんの休日に、部屋に寄ると飾り付けがされていた。


「あ、来た来た」


「これは?」


「誕生日のお祝いだよ。遅くなってごめんね。さ、座って」


 机の前に座る。

 なっちゃんは冷蔵庫から、ケーキを取り出してくる。


「ワンホール!?」


「そうそう、そっちの方が楽しいでしょ?」


 何が楽しいかわからないが、せっかく買ってくれたので食べ始める。


「職場はどう?」


 学生時代みたいにいじめられてないか、気になる。


「うん、厳しいけどいい人が多いよ」


「それなら、良かった」


「私彼氏います、って言うとみんな驚くよ」


 なっちゃんは周りに言うタイプらしい。

 僕は学校では一切言ってないけど。


「ところで、勇気君の小学校時代に沙希って女の子いたじゃない」


「うん」


「その子、きっと勇気君のこと好きだったんだよ」


「そうかなあ」


 そういうのには、疎い。


「いいなあ、そういうの。憧れる」


 何がいいんだろう。

 よくわからない。


「今はなっちゃんが好きでいてくれて、幸せだよ」


「うん! 勇気君、18歳おめでとう!」


「ありがとう」


「プレゼント、持ってくるね」


 なっちゃんは隠しておいた、プレゼントを取り出す。


「鍋掴み?」


「うん、手作りだよ。勇気君、料理好きでしょ?」


 その鍋掴みは、市販の物と遜色ないほどの出来で可愛らしい模様が縫われている。

 なっちゃんの手作りだと思うと、心が暖かくなる。


「ありがとう。なっちゃんのために、料理沢山作るから」


「うん」


 そして、二人で過ごす誕生日は過ぎていく。

 ケーキは結局余ってしまったので、施設に持って帰ることになった。


 中間テストが終わり、三者面談がある。

 僕のように、両親が来られない場合は施設の職員が行ってくれる。

 智恵理先生と共に、教室に入った。


「お疲れ様です。どうぞ、そちらの席へ」


 担任の先生にそう言われ、僕と智恵理先生は座る。

 担任の先生はまだ20代の若い男性の先生だ。

 智恵理先生より年下だろう。


「それで、早速前回の中間テストの話なんですが。岩佐君は成績優秀で、安定しています」


 その後に続く言葉は、わかっている。


「こちらとしては、ぜひ進学を勧めたいんですが。岩佐、やっぱり学費が心配か?」


「はい、そうですね。それもあります」


「両親は……その、頼れそうにないか?」


「両親は絶対に頼りたくないですし、会いたくないです」


 先生は苦い顔をする。

 そして、気付く。


「ん、それもあるって、どういうことだ? 学費以外に何か進学を諦める理由があるのか?」


「いえ、就職したい理由があります。僕は彼女を支えるために働きたいんです」


 初めて、彼女がいることを伝えた。

 先生は目を見開く。


「岩佐、彼女がいるのか? もしかして、校外に?」


「先輩です。去年までこの学校にいました」


「そうか……。じゃあ、彼女のために進学を諦めるんだな?」


「元々、強い進学の希望はありませんでした。なので、諦めるわけではありません」


「でもなあ、大学行けるなら行っといたほうがいいぞ。長い目で見ると、行っといて良かったと感じると思うぞ。生涯年収とか、キャリアとかな」


 そうは言っても、4年間もなっちゃんを待たせることはできない。


「彼女にはその話、したのか?」


 そういえば、していなかった。

 なっちゃんは何と言うのだろうか。


「してません」


「別に、その彼女と結婚するわけじゃ……」


「結婚します」


 僕は先生の言葉を遮るように言った。

 先生は目を丸くする。

 僕はなっちゃんと一緒になる。


「先生は、どう思います?」


 先生は智恵理先生に聞いた。

 智恵理先生が初めて、口を開く。


「先生、私が卒園した子供に一番してほしくないことは、何だと思います?」


 智恵理先生は問う。


「そうですね、犯罪とか?」


「自殺です」


 あまりにも重い一言。

 過去に、自殺した子供もいたのだろう。


「施設の子供は進学するより、就職した方が生活が安定します。両親を頼れない場合は、特に」


 智恵理先生はそう続ける。


「進学した場合、学費は奨学金でなんとかなるかもしれません。ですが、生活費は? バイトだけで稼げますか?」


「確かに、難しいかもしれません」


「勇気君は男の子だから、風俗で身を売ったりすることはできませんが、世の中高収入で危険なバイトは幾らでもあります」


「岩佐は真面目だから、そういう仕事には目を向けないでしょう」


「真面目な子ほど、周りを頼れなくて自分を追い詰めるんです」


 聞いてるだけで、怖くなる。

 僕は真剣に将来を考えていなかった。

 智恵理先生は今まであまり口出ししてこなかったが、僕の将来を考えてくれているのだ。


「それじゃあ、先生は岩佐に就職を勧めるんですね?」


 担任の先生が智恵理先生に確認する。


「まだ、決められません。勇気君も将来をしっかり見据えていません。勇気君と話し合う時間をください」


 智恵理先生は、そう答えた。

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