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Magic Heart  作者: JUN
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第九話 友達

 ゆっくり目を開くと、そこはどこかの部屋だった。どうやら布団に寝かされているようだ。


「痛っ!?」


 愛華は起き上がろうとするが、気づかないうちに痛めたのか背中に激痛が走った。

 起きるのは諦めて部屋の中を見回してみる。

 とても静かな部屋。木の匂いが漂う山小屋のような家だ。車の音や、人の話し声すら聞こえない。耳を澄ますと優しい風の吹く音が聞こえてくるのみである。


「えっと……確か私、優君と優音ちゃんと一緒に本屋にいたんだよね……」


 本が何故か光った事は覚えているのだが、そこからの記憶が全くない。

 周りには誰もいない。優真も優音も。いつも二人と一緒にいたせいか、とても心細くなってしまった。この家のどこかにいるのだろうか。

 そんな時、誰かの足音が聞こえてきた。それはだんだんとこの部屋に近づいてきている。

 やがて部屋のドアが開かれ、その隙間からヒョイと顔を出したのは金髪の少女だった。


「あ、起きた?」


 少女は朗らかに笑いながらベッドの横にやってきた。

 少女の容姿は同性の愛華から見てもとても美しい。ストレートの金髪は肩で切り揃えられていて活発な印象を受ける。

 だが一挙一動は優雅で、どことなく気品が漂っているようにも感じる。


「あなた、村の近くの森の中で倒れてたんだよ? 背中怪我してるようだったから急いで帰って手当てしたけど、まだ痛い?」

「え、あ、はい……」


 愛華が戸惑いながらそう言うと、少女はちょっとごめんねー、と愛華をうつ伏せにした。


「い、痛い痛い痛い痛い!!!!?」

「はいはいすぐ終わりますからねー」


 歯医者で駄々をこねる子供のように声を上げる愛華だったが、少女は全く容赦がない。

 愛華を無理矢理うつ伏せにすると少女は愛華の背中に手を当てた。


「『青く青く澄み渡る海の申し子ウンディーネよ。御身の力で彼の者の傷を癒せ』」

 

 少女の手が青く輝くと、背中の激痛がすうっと引いていった。

 愛華が驚いて言葉も出ななくなっていると、少女はこれでよし、と言って手を引っ込めた。


「え? え!? すごい! ぜんぜん痛くなくなった!」

「そりゃそうよ。あたし、水の魔法の達人だもん」


 とてもファンタジーな単語が出たが、愛華の耳には入っていなかった。

 

「あ、そうそう。まだ自己紹介してなかったわね。あたしはリースミリス。リースミリス・ベルティオー。リースって呼んでね。あと、別に敬語とかはいらないわよ。堅苦しいのは苦手だからね」


 容姿はまるでお姫様のようなのに、その砕けた話し方とのギャップが激しくて愛華は苦笑した。どこか性格が優音に似ている気がする。


「私は鳴海愛華。あ、名前が愛華だよ」

「へ、変な名前だけど、うん。アイカね。よろしく」


 そんなのほほんとした自己紹介よりも愛華にはもっと気になる事があった。


「ねえ、リースちゃん。私の他に、あと二人……男の子と女の子がいなかった?」


 やはり心配するのは、愛華の大切な少年とその妹の安否だった。

無事ならばそれに越した事はない。でももし怪我なんかしてたらどうしよう、と愛華は不安になってしまった。

 だが、愛華のその予想はどちらも外れる事になった。


「いえ、あなた一人だけだったわ。もしかして連れがいたの?」

 

 愛華はその問いには答えられなかった。

 優真と優音が近くにいない。ただそれだけで、こんなにも不安で寂しくなる。かたかたと愛華の肩が震えだす。


「どうしたの? 寒いの?」


 違う。寒くはない。そう思っているのに上手く口が回らない。

 隣に大好きな人達の笑顔がない。

 不安。焦燥。絶望。

 いくつもの負の感情が愛華の中で渦巻いている。

 だが――


「あ……」


 ふわり、と包み込まれるようにリースに抱きしめられる。


「大丈夫よ、きっと。アイカの大切な人達だもの」

 

 どこにも根拠のない言葉。しかし、何故だかリースの言葉にはそう思わせるだけの何かがあった。

 まるで母に抱きしめられているような感覚で、だんだんと愛華の震えが収まっていく。

 愛華は、それから震えが止まってもその心地よさに身を委ねていた。











「もう大丈夫?」

「うん。ありがとう、リースちゃん」


 リースに抱きしめられて大分落ち着いたのか、愛華の心に余裕が生まれた。

 そして改めて部屋の周りをきょろきょろと見回してみる。


「あの、リースちゃん。ここって、どこなの?」

「ん? あたしの家」


 ガクッとうなだれそうになるのを何とか堪える愛華。

 そんな事はわかってるよ、と愛華は内心思った。


「あ、あのね? そうじゃなくて……」

「あ、ああ! そういう事ね! ここはマラハ村っていう大陸の最南端の村。あまり裕福な村

じゃないけど、畑を耕したり、作物を育てたりしてすごく平和な村なのよ。でね、この村で一番おいしい食べ物はなんてったって……」

「リースちゃん! ちょっとストップストップ!」


 ほっといたらいつまでも村のいい所を語りそうなので愛華は慌てて止めに入った。

 リースがこの村を好きなのはもう痛いほどに十分わかった。だが、聞きたいのはそこじゃない。


「そこじゃなくて……ん、何て言ったらいいんだろう。ここって日本じゃないよね?」

「んー? ニホンって何?」


 やはり、さっきから感じていた違和感はこれだ。

 どう見ても外国人の容姿をしているリースに日本語が通じていたり、聞いた事もない地名が出てきたり、ここが日本――というか、地球でもなくて、小説なんかで出てくる別の世界なら説明がつく。

 だが、あまりにも非現実的な事にそれを認められなかった。

 そして、それは次のリースの言葉で決定的になる。


「もしかしてこの世界の事を言ってるの? まさかね。それくらい誰でも知ってるものね」

「ん……参考までにこの世界の名前は?」

「え? グリンベウムだけど……。まさかと思うけど、アイカってこの世界の人じゃない?」

「うん……多分だけど」


 思った通り、ここは別世界。よもや本当にそんな世界が存在するなんて、と愛華は頭が痛くなってきた。

 リースは驚きで目を見開いている。

 驚嘆。驚愕。まさにそんな感じの表情だ。

 そしてそのリースの口から出てきた言葉は――


「すっごーい! ほんとに異世界なんてあったんだぁ。へえー、母さんが言った事本当だったんだ」


 そう言ってまじまじと愛華を上から下へ、下から上へと観察し出した。


「ふうん、特にあたし達と変わったとこはないんだぁ」


 そして視線が愛華のある一部分で止まった。

 さらに両手を突き出してそれを触り始めた。


「あっ、ち、ちょっと、リースちゃん! ひゃんっ!」

「むむ。あたしより遥かにでっかい。ここに決定的な違い発見」


 リースは愛華のそれ――胸を両手でにぎにぎと揉みしだいた。

 リースの手の中で形が変わる毎に愛華の艶かしい声が響く。


「んっ、ちょっと、リースちゃん……やめてってば!」

 

 愛華はリースの両手を渾身の力で振りほどいて、リースから距離を取った。

 両手で胸を隠して顔を赤くし、睨む愛華。

 

「うぅ……セクハラだよぉ……優君にだってまだ触られた事ないのにぃ……」


 愛華はさり気に大胆発言している事に気づいていない。もちろんリースが聞き逃すはずもな

い。


「あはは。ごめんごめん、つい。で、その人誰? アイカの好きな人〜?」


 にやにやと意地の悪い笑みを浮かべている。リースも年頃の少女なのだから恋愛沙汰に興味があるのは当然といえば当然である。

 愛華は自分が言った不用意な発言にさらに顔を赤くした。

 口は災いの元。全くその通りだ。誰が言い出したのか、昔の人は偉大である。


「ほれほれ、さっさと吐いちゃった方が楽になるわよ〜」


 そう言ってリースは両手をにぎにぎして愛華に迫ってくる。

 愛華はおびえる小動物のように、リースの魔の手から逃れようと後退る。

 ――これ以上されたらお嫁に行けなくなっちゃうよぉ。だ、誰か助けてぇ。

 いよいよ涙目になってしまった愛華を見て、さすがにやりすぎたかと思ったようでリースは焦った。


「あ、あはは。冗談だよ。そんな目で見ないで。ちょっとした、お・ちゃ・めだって」


 この意地悪い性格と大雑把な性格。まるで優真と優音を足して二で割ったような少女だ。

 はあ、と愛華がため息をついたところでリースがようやく真面目な顔になって本題に入った。


「で、愛華はこれからどうするつもりなの? 元の世界に帰る方法を探す? あ、その前にさっき言ってた男の子と女の子を捜すのかしら」

「うん……、取り敢えず二人を探しながら元の世界に帰る方法を探してみる。二人もこっちに来てるかどうかわからないけど、やっぱり心配だから」


 訳のわからない場所に飛ばされて嘆くよりも、二人を心配する愛華。

愛華がそう言ったきり、リースは何かを考えるかのように黙りこくってしまった。

 日はどうやらまだ昇りきっていないようだ。このままリースに迷惑を掛けるのは忍びない。出来るだけ早くこの村を出て行こう。

 そう思いながら愛華は立ち上がった。ずっと寝たきりだったからか背中が痛い。だが歩けないほどではない。


「お世話になりました、リースちゃん。助けてくれてありがとう。元気でね」


 愛華のその言葉に、ばっと弾かれたようにリースは顔を上げた。


「待て待て! 何を勝手に自己完結して去ろうとしてんの。あのねぇ、知らないと思うけど、村から一歩外に出れば魔物がうようよしてんのよ? そんなのに襲われでもしたら人を探すどころじゃないわ。それに、いったい村を出てどこに行こうとしてるわけ?」 


 うっ、と言葉に詰まる愛華。言われてみれば考えていなかった。地図も食料も旅をした経験もない愛華がどうやって元の世界に帰る方法と二人を探そうというのだろうか。

 一度こうだと決めたらとことん一直線という兄妹のストッパーである愛華にしては珍しい。それだけ焦っているという事だろう。

 俯いて黙ってしまった愛華を見て、リースは呆れてため息をついた。


「ねえ、アイカ」


 顔を伏せたままの愛華に向かってリースは言った。


「村を出るんだったら案内役は必要よねぇ。それと用心棒みたいなのも」


 愛華は戸惑いながらも肯定した。確かにそんな人がいれば愛華一人きりよりはよっぽど安全である。


「ちょうどね? いるのよ。そんな事をしてくれる人が」

「そ、そうなんだ」


 リースの言わんとしている事はわかる。その人を愛華の旅の供にしようと言うのだろう。

 だが、心苦しい。自分には何も礼をする事は出来ないし、見知らぬ人と寝食を共にするのは、人見知りの愛華にとってはとても我慢ならない状況だ。

――しかし、愛華の心配は次のリースの言葉で吹き飛んだ。


「――アイカの目の前に」

「えっ?」


 リースは愛華の目をまっすぐに見据えながら言った。

 何を言っているのだろうかこの少女は。この村を自慢するほど大好きなのに、自ら村を出るというのか。それも昨日会ったばかりの赤の他人の為に。

 ――なんで、そこまでして……。

リースは困惑している愛華に気持ちのいい笑顔を見せた。


「なんでって顔してる。そりゃあ、あたしも村を無理には出たくないよ。でもね、困ってる友達は全力で助けるものでしょう?」

「友達……? 私が?」

「うん。まだ会ってからそう時間は経ってないけど、あたし達は友達。……駄目?」


 リースの金色の瞳に不安の色が見え隠れしている。笑顔を見せてはいるが、否定されるのが怖いのだろう。不安は消せないようだ。

 そんなリースの心情を察して、愛華も笑顔を返した。


「ううん。私もリースちゃんみたいな子が友達になってくれてすごくうれしい。でも、その気持ちはうれしいけど、せっかくできた友達を危険な目に合わせたくはないよ」

「その辺は大丈夫。あたしはこの村一番の魔導士なんだから!」

リースはそう言ってゆっくりと右手を広げた。その薬指には青い綺麗な指輪がはめられている。

「『来たれ』」


 リースの短い呟きの後、指輪が呼応するかのように青い輝きを放ち、一瞬にしてその手の中に青い薄手の長剣が現れた。所々に銀の装飾が施されており、両刃の刀身には見た事もない文字が刻まれていた。


「綺麗……」


 愛華は魔法を目の前で使われた事よりも、その剣に心奪われていた。

 まさに圧巻の一言だった。それは最早、剣というより一つの芸術品である。

 剣の事をほめられたリースは照れくさそうにはにかんだ笑みを見せた。


「ありがと。これはね、母さんの剣をモチーフに作ってみたんだ。中々気に入ってるから武器はほとんどこれしか使った事がないのよ」


 ひゅんっ、という音を残し剣はリースの手の中から消えてしまった。


「自分で作ったの?」

「うん。魔法で、だけどね」

「魔法……」


 やはり異世界に魔法は付き物なんだろうか。にわかには信じ難いが目の前でその現象を見てしまったら信じるしかない。


「で、どうする? 大人しくあたしを連れて行くか、あたしが無理矢理連れて行くか」


 ――それって結局同じことなんじゃ……。

 リースの強引さに苦笑いを浮かべる愛華。だが、そんな思いがすごく嬉しかった。


「でもいいの? どのくらい掛かるかわからないんだよ? そんな旅なんかに……」

「いいって言ってんでしょ。それについでだから寄って行きたい所もあるし。気にしない気にしない」


 そう言ってリースはポンポンと頭を撫でてくる。そんなリースの優しさに涙が込み上げてきてしまった。


「……ありがとう……リースちゃん……」


 それから、リースは愛華が落ち着くまで愛華の頭を撫で続けていた。



いよいよリースが出てきましたね。ハピマの再登場キャラはリースが最後ッス。あとは三人の観点から書いていきます。

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