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Magic Heart  作者: JUN
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第三話 魔導具

 優真が異世界で初めにする事、それは料理。

 幸いにも材料は元の世界と変わらず、普段通りの料理を作ればいいだけだった。

 コンロは魔法がある世界だけに特殊だった。なんでもジュードが言うには、火の魔法使いが魔法を使う為の燃料である『魔力』を込める箱があり、その箱の中央に円形の鉄板が埋め込まれている。

 それ自体一種の魔法みたいなもので、鉄板を熱くするにはその魔法を発動させる言葉がある。

 ジュードいわく、言葉に魔力を乗せ、『点け』と唱えるらしい。

 もはやその時点で優真は出来ないので発動させるのはジュードかレンの役目だ。

 まあそんなこんなで優真が初めて作った料理はオムライスだった。

 ジュードは

「激ウマ!!」と叫び、レンは

「女として悔しいです……」と落ち込んでいた。

 ジュードはともかくレンが料理出来ないのは意外、と優真が言ったらレンはさらに落ち込み、ジュードが

「一回食ってみたらわかる」とだけ言ってきた。とてもお呼ばれされたくないな、と優真は感じた。











 昼食を済ませた三人はさっそく魔法の修行を始める事にした。


「さて、んじゃあ何からやっかな」

「まず魔法とは何か、という事から説明していけばいいんじゃないかな?」


 確かに原理を知っていればイメージしやすいかもしれない。

 優真はしっかり話を聞こうと椅子に深く座り直した。










 遥か昔、この世界がまだ存在しなかった頃、二柱の神がいた。

 創成神ヴァンと創造神アースである。

 創世神ヴァンは世界を、創造神アースは人間を造り出した。

 その後、二神は世界と人間の管理者として二つの精霊を作り上げた。

 光の精霊ヴァルナ、そして闇の精霊アガレス。

 やがて、世界を構成する四大元素――火、水、風、土を司る四つの精霊が生まれた。

 火の精霊サラマンドラ。

 水の精霊ウンディーネ。

 風の精霊シルフ。

 土の精霊グノーム。

 六つの精霊は人々に時には力を、時には知恵を与え、そして新たに風の精霊と水の精霊の倦族、雷の精霊トールと氷の精霊セラシスが生まれた。

 この二つの精霊以外にも新たに生まれた精霊も数多くいるのだが、雷や氷のように別性質となる精霊は生まれず、現時点での源精霊はそれら八つの精霊だと言われている。

 精霊に力や知恵を授けられた人間は畏怖や尊敬の念を込めて八つの源精霊を精霊神と呼び称えた。

 精霊神が人間に授けた力に、自然界の力を借り不思議な現象を引き起こす魔法というものがある。

 魔法はそれまで白黒だった世界に、光の三原色と呼ばれる赤、緑、青、さらに闇の三原色と呼ばれる蒼、紫、黄の色素をもたらした。

 魔法にはそれらの色と対応した属性があり、それぞれ八柱の精霊神と同じ数だけ存在する。

 サラマンドラの紅炎。

 ウンディーネの青水。

 シルフの緑風。

 グノームの黄土。

 トールの紫雷。

 セラシスの蒼氷。

 ヴァルナの白光。

 アガレスの黒闇。

 初めはこれら八つの属性しか存在していなかったが、文明が進むにつれ人間自ら交配、開発し、多くの色と属性の組み合わせが判明しているが、まだ全て解明されたわけではない。

 魔法は組み合わせ次第で性質が変化し、遥か昔から文明発展に貢献してきたが、次第にその力は文明のためではなく今や戦争のための力となってしまった。












「というのがこの世界の歴史ですけど……分かりましたか?」

「まぁ大体は分かった。けどなレン。教科書棒読みはちょっといただけないと思うぞ」

「うっ……」


 今までこの世界の歴史をレンに教えてもらっていたわけだが、学校の教科書をただ読んでるだけだった。


「てゆーかレン、学校行ってたんだな」

「はい、ジュン君も行ってますよ。本当はそこで魔法を学ぶんですけど私とジュン君はちょっと特殊で、ちっちゃい頃から魔法を勉強してました」

「ふふん、超天才なのだー」


 ジュードは腰に手を当て尊大な態度でそう言った。

 と言っても生活能力皆無な魔法の天才というのもなんだか締まらない気がする。


「ユウマの幼なじみと妹を無事見つけられたら入学してみるのもありだな」

「あ、それいいかも。とっても楽しくなりそう」


 レンはそんな未来に思いを馳せているが、ずいぶんと遠い未来になりそうだ。

「かなり話が逸れたな。ま、簡単に言えば慣れだな」


本当に簡単に言ってくれるが、優真にとってはどうやればいいのか全く分からない。


「とりあえず魔法に属性があるのは分かった。で、魔法ってのはどの属性でも使えんのか?」

「いや、属性は基本的には一人につき一つ。たまに二つ持ってる人もいるがな」

「ジュン君は二つ持ってるんだよね」



そうなのか? と優真が聞くと、すごいだろーという言葉が帰ってきた。聞かなきゃよかった。


「よし、まずは見せてやろう。魔法というものを」


 ジュードはそう言うと、右手を前に突き出し、得意気に笑みを浮かべた。


『来たれ』


 すると突然ジュードの右手が紫に放電し始め、バチバチと火花を散らした。

 ジュードの右手に纏っていた電気が形を成していき、細長い棒状の形になった。

 ジュードがそれを一振りすると尖端が鋭く尖った槍が姿を現した。時折紫の電気が槍の中からジジジッと火花を散らしている。


「これは魔法を使う為の道具、『魔導具』と呼ばれるてるもんだ。さっき教科書にも出てきた自然界の力、別名『マナ』と自分の魔力を合わせて初めて魔法が発現する。これはそのマナと魔力を繋ぐパイプみたいなもんだと考えてくれ」

「なるほどー。ならその魔導具を出せれば俺にも魔法が使えるという事か」

「まー、有り体に言えばそういう事だな。だが、その前にやる事がある」


 ジュードは人差し指をビッと上げると、それをそのまま町の方に向けた。


「まずは『魔導具精製の儀』を受けるべし!」












 魔導具精製の儀。それは魔導具を得る為の重要な儀式である。

 ある特殊な魔法を使う為、町に一軒はある魔法屋に出向かなければならない。

 ジュードは何か別の用があるらしく、優真の道案内はレンがする事になった。

なったのはいいのだが――


「ここがお肉屋さんで、あっちがお魚屋さんです。あ、もう少し行けば服屋さんとか雑貨屋さんとかもあります」


 レンは町の観光案内もしてくれているのだが、肝心の魔法屋にはまだたどり着かず、あっちへふらふら、こっちへふらふらと忙しなく歩き回っていた。


「あ、ちょっと待ってください」


 一通り案内を終えると、今度は自分の買い物を始めてしまっていた。

 実はこの言葉、今ので三回目。まさかジュードはこれが嫌で逃げたのだろうか?


「くそぅ、ジュードの奴……」

「あ、ユウマさん! あれ可愛くないですか!?」

「……誰か助けて………」


 若干半泣きになりながらも優真はレンに連れ回されるがままだった。












 優真とレンが魔法屋へとたどり着いたのはジュードの家から出て二時間後の事だった。

 実は魔法屋。ジュードの家から歩いて十分ほどの場所にあった。

 ここまで来るのになんだか異様に疲れた。


「す、すみません〜」

「まぁ、もういいよ。慣れてるし」


 優真、幼なじみと妹に荷物持ちとして拉致される事数知れず。

 気を取り直して魔法屋を見上げてみる。

 一見すると優真の世界の喫茶店風な建物。屋根にはでかでかと看板が掲げられているが優真には読めなかった。


「こんにちは〜」


 カランコロンというドアのベルを鳴らしながら入るレンに続く優真。

 中は外装と同じようにまんま喫茶店。イメージとしては、暗い店で怪しげな薬や杖が立て掛けられていると思っていた優真は面食らった。

 店番していたのはひげ面マスター――ではなく、思わずおぉ、と呟いてしまうほどの金髪美人。

 その美人はレンの顔を見ると外見とは裏腹に子供っぽい笑顔を見せた。


「レンちゃん。久しぶりね〜」

「はい、お久しぶりです、ソフィア先生。今日は魔導具精製の儀をしてもらいに来ました」


 ソフィア先生と呼ばれた美人はレンの後ろにいた優真に目を向けると、あらあらまあまあと楽しげな声を上げた。


「レンちゃん、ジュード君だけじゃ物足りなくなるなんて小悪魔ね〜」


 何を考えたのか分からないが、どうやらろくでもない事を考えたらしい。

 レンはへっ? と呆けていたがやがて理解するとブンブンと激しく首を横に振った。


「いやいやいやいや!! 違います!! 違いますよ!!!」

「あはは、レンちゃん可愛い〜」


 どうやらレンは生粋のいじられ体質らしい。レンには悪いがとても微笑ましい。

 一通りレンをいじると満足したのか、ソフィア先生と呼ばれた美人は優真に向き直った。


「さて、改めて自己紹介するわね。私はソフィア・グレイス。レンちゃんやジュード君が通ってるリーザリス魔法学園の教師ね」

「あ、俺は優真と言います。でも、教師なのになんで店番してんですか?」


 ソフィアはその問いに苦笑で答えた。


「今は戦争中ですから。学園も休みなんです」


 ぼそっと言ったレンの呟きに、ああ、と優真は納得した。 仕事がないのに金が入るわけないわな。実に切実な理由だ。


「はぁ、まぁ仕方ないんだけどね。さて、魔導具作るんだったね。奥へどうぞ」


 ソフィアが手を向けた方に扉があった。どうやら店の奥で作るらしい。

 店の奥の通路を行った先には何もない空間があるだけだった。

 何かを作るような工房も、道具を保管する倉庫もない。


「じゃあユウマ君は部屋の真ん中辺りにいてね」


 こんなとこでどうやって魔導具作るんだか、と思いながら言われた通りにした。

 ソフィアは優真に手をかざし、なにやらぶつぶつ呟き始めた。


『八柱の神の規則に従い、我は魔を司る力を彼の者に授ける』


 薄暗い部屋の中に優真を中心にして巨大な魔方陣が現れた。

 その魔方陣から八つの光――白、黒、紅、青、緑、黄、蒼、紫、それぞれの色の光が優真の周りを漂っている。

 無意識に優真は手を伸ばしていた。するとそれに呼応するかのように一つの光が優真の手に収まった。

 その光は優真の手の中でキラキラと白く輝いていた。


「うわぁ〜! ユウマさんは『白光』の属性に選ばれたみたいですね!」


 レンが魔方陣の外で感嘆の声を上げている。

 優真はその光から自分の中に何かが入り込んでくるのを感じていた。

 決してそれは不快な感覚ではなく、とても自然にすんなり受け入れる事が出来た。

 これで儀式は終わりか、と優真は魔方陣から出ようとしたが、今度は黒い光が優真の目の前に現れた。


「うおっ!? 何だ何だ!!?」

「すごいですユウマさん!! 二つ目の属性に選ばれました!!!」

「そ、そうなのか?」


 だったらもう一度手を、とその黒い光に手をかざすと光がもやに変わり――


「ぐっ!!!?」


 さっきのすんなり入った属性とは逆に、今度のは無理矢理ねじ込んできた感じだ。体が引き裂かれるように痛い。


「ゆ、ユウマさん!? 大丈夫ですか!?」

「頑張って〜ユウマ君。二つ目の属性が体に入る時って属性同士がけんかしちゃうからすっごく痛いらしいんだけど、耐えてね」


 それ先に言えよっ!!! と、全力でツッコミたかったが、あまりの痛みに声が出ない。

 優真は地面に膝をつき、歯を食い縛って顔を上に向けた。


「ああぁああぁぁああああぁぁああぁあ!!!!!」










「ハァー、ハァー、……死ぬかと思った………」

「だ、大丈夫ですか?」

「おめでとうユウマ君。無事に魔導具精製の儀は終了して、めでたくユウマ君は『白光』と『黒闇』に選ばれました」


 白光と黒闇……?

 優真は息も絶え絶え死にそうになりながらソフィアに向き直る。だが、属性を得たはいいが、肝心なのを忘れている。


「ま、魔導具は……?」

「あれ? けっこう一般常識だと思うけど、まぁいいわ。魔導具はね、人から与えられる物ではないの。自分で創造するのよ」


 そう言われて優真は手をにぎにぎして杖っぽい物をイメージしてみるが、何も変化は起きない。

 そんな簡単な事じゃないよ、とソフィアに笑われた。


「ゆっくり練習していきましょう。私もジュン君も手伝いますから」

「ああ、よろしく頼む」


 ようやく痛みが引いてきて優真は大きく伸びをした。

 自分の中で二つの属性が漂い、混ざり合っているのを感じる。

 まだまだ使いこなすには時間が掛かりそうだ。

 優真は愛華と優音の無事を願いながら部屋の外に出た。












 ブオン!!! と、ジュードの槍檄が激しく優真に襲いかかる。


「ほらほらイメージよイメージ。さっさと魔導具出さないと死ぬわよ!!!」

「うわっ!! 危なっ!? ぐほっ!!?」


 ジュードの槍の柄の部分が優真の腹にドスッと突き刺さった。

 優真は地面を転がって悶絶。ジュードはオカマの様に手の甲を頬に当てて高笑いしていた。


「ぐおおぉぉ……」

「おーほっほっほ!! 出直してきなさ〜……いでっ!!?」


 オネエ言葉を放ち続けるジュードにレンのツッコミが入った。


「気持ち悪いからやめなさい」

「ちっ……これからが面白かったのに………」


 優真は咳き込みながら立ち上がり、やっぱ無理があるだろうこれ、とジュードを睨み付けた。


「んなこたねえぞ。身の危険を感じた時とかのすげー必死な気持ちが一番魔導具出しやすいんだ。なあ、れっちゃん」

「う〜ん、まあそうかな」


 頼みの綱はレン、とか思っていた優真は、裏切られた! とショックを受けていた。


「はぁ……何をモチーフにするかはイメージ出来てんだけどなぁ……」


 小さい頃一緒に住んでいた祖父の唯一の趣味が刀や拳銃集めだった。と言っても大半は模擬刀やモデルガンだったが、中には本物もあってよく自慢されたものだった。というか、本物の銃を子供に見せびらかさないで欲しい。

 優真にとってイメージしやすいのは、どっちかというと刀。だがこれがなかなか上手くいかない。


「ま、気長にやろうや。よ〜し飯飯。ユウマ、飯の準備は?」

「あ、悪い。買ってきてなかった」


 な、なんだって〜!! と大袈裟に地面に両手をつくジュード。


「いやー、はっはっは。どうやって魔導具出すのか考えてたら忘れてたわ」

「私が材料買いに行きましょうか?」


 死ぬ〜死ぬ〜、とジュードは地面を転がり回っている。


「いや、だいたい道も覚えたし一人で行けるよ」

「そうですか。気をつけてください」


 あぁ〜、あぁ〜、とゾンビのように下から唸り声が――


「ああもう! うるさい!!」

「げはあっ!!!?」


 レンが思いっきり転がるジュードの背中を踏みつけた。カエルが潰されたような声を出してジュードは動かなくなった。


「……レン……意外とバイオレンスなんだな……」

「はっ! ち、違うんですよ!! ジュン君があまりにふざけた事すると体が勝手に……」

「しくしく……そうやってれっちゃんは俺を傷物にぐえ!?」


 レンは足に力を入れ、またふざけた事を言おうとしたジュードの背中を踏みつけた。


「ジュン君ちょっとこっち来なさい」

「助けてユウマー、れっちゃんに陵辱されるー」

「し・ま・せ・ん!!!」


 ジュードの首根っこをつかみ、鬼の形相を浮かべながらレンは家の中に入っていった。


「……レンも大変だな」


 しみじみとそう感じながら優真は再び町へと足を向けた。












「さて、今日の献立は何にするか」


 今が旬の食材、と言っても季節がよく分からない。あっちでは秋だったが、こっちでも同じなんだろうか。

 少し肌寒いし、長袖で十分なくらいだからまあ同じなのだろうが。


「長袖と言えば、俺制服のままだな」


 こういう格好は周りから見るとけっこう浮いている。レンに頼んで服買ってもらうか。


「いや、これ以上世話になるわけにはいかないな。それにこの格好の方が、二人を見つけるのにいいな」


 とりあえず現状維持のままで、と結論付けて肉屋の前にたどり着いた。


「あ……そういえば俺文字読めないんだった」


 これじゃ値段がいくらだか分からない。レンから金はもらっているが……。


「足りっかな……」


 と、様々な肉類を眺めながら悩んでいると――


「あっ!!?」

「ごふっ!?」


 ドゴッ、と先ほど痛めた腹に誰かがタックルしてきた。不意討ち過ぎてモロに受けてしまった。


「お、おおぉぉ……」

「す、すみません! あの……大丈夫ですか……?」


 とても大丈夫ではなかったのだが、声からして若い女の子。

 そこは大丈夫と見栄を張って言ってしまうのはバカな男の悲しい性か。

 痛みを我慢してその少女(多分)を見てみると、優真より頭一つ分小さいが、全身真っ黒なローブを着込み顔もフードを被っていてよく分からなかった。


「あの……お詫びは後で必ずします! 失礼致します!」

「あ……」


 その少女は言うだけ言っといってすぐに立ち去ってしまった。

 と思ったら、今度は似たような格好(背丈からして男)の五、六人の集団が少女を追いかけていった。

 そして優真は腕を組んで考える。


「これは俗に言う、あの子大ピンチ?」


 考えついたら献立は何にするかは忘れて、黒ローブ集団の後を追いかけていった。












「やっべ、どこ行ったんだ?」


 あの黒ローブ集団を追っかけて行き、やがて狭い路地裏に入っていったら見失ってしまった。

 奥にはまだ道が続いているが、何本か道が別れている。


「いったいどっちに……?」

「………い! ……な……っ!!」


 どこからか声が聞こえてくる。さっきの少女の声だ。


「あっちか……!」


 優真がその声のする方へ駆けていくと、少女と黒ローブ集団が対峙しているのが見えた。

 幸いにも横から見えているので誰にも気付かれていない。


「下がりなさい!! 私を誰だと心得ているのですかっ!!!」


 さっきのおどおどしたような声ではなく、凛としたよく透き通る声で少女は言い放った。

 だが黒ローブ集団が怯んだ様子はなく、その中の一人が恭しく一礼をした。


「全て、承知の上です。大人しく我々に従ってもらいたい」

「お断りします! 私はあなた方に従う気はありません!」


 男はため息を一つつき――


「では、少々痛い目を見てもらいます」

「っ!?」


 男は少女に歩み寄り、その手に緑の風を纏った細身の剣を出現させた。魔導具である。

 男は魔導具を振り上げ――


「とうっ」

「ぐあっ!?」


 魔導具が振り下ろされる前に優真は男に飛び蹴りを放った。

 その場の全員が突然の乱入者に目を丸くしている間に優真は少女の手を取った。


「こっちへ!」

「え? あ、あの……」


 少女は突如現れた優真に戸惑いを見せるが、優真の走る速さに合わせてくる。

 優真は黒ローブ集団を撒く為に路地裏を右へ左へ走り回る。

 ちらりと後ろを振り返ってみると、全員ではないが何人か追いかけてきている。

 それを見たらなんだか笑いが込み上げてきた。


「こっちに来てから逃げてばっかだな、俺」


 そこで気付いた。全員じゃない? 


「やばい! 回り込まれてる!」


 だが気付くのが遅かった。右の通路から何人かの黒ローブの人物が出てきた。

 咄嗟に左の通路に飛び込むが、そこは行き止まりだった。


「全く、手こずらせないで欲しいものだ」


 再び男が優真と少女の前に出てきた。その声色は不機嫌を露にしている。

 助けに入って逆に追い詰められるとは情けない。


「さあ、その方を渡してもらおうか」

「うっせえ!! そんな陰気な格好しやがって! 似合ってねえんだよ!!」


 後ろで同じような格好をしている少女が少しばかりへこんだ。

 男は特に意に介す事もなく、再び魔導具を出現させた。


「ならば、死んでもらうしかない」


 男の魔導具に纏っている風がより激しくなり、周りの風も引き寄せられるように集まってくる。


『シルフの倦族たる風の精霊よ。その深緑なる風で我が敵を切り刻め』


 魔導具から風が吐き出された。風は男の服をはためかせ、周りの家の壁を抉り、まさにそれは鎌鼬(かまいたち)


 魔導具は、イメージ


 優真は襲い来る鎌鼬を避けもせず、迎え撃つように腰を落とした。

 この子は渡さない。こんな怪しげな奴等には絶対に。俺が必ず、守る。


 思えば簡単な事だった。二つの属性を持つのなら魔導具も二つにすればいい。

 優真の手に光が宿る。


『来たれ!!』


 優真は力を込めて手を振り抜く。

 すると既に目の前に迫っていた荒れ狂う鎌鼬が一瞬にして消え去った。

「なにっ!?」


 驚く男を見据えて、静かに息を吐く優真。

 優真の手には光り輝く純白の刀が握られていた。


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