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Magic Heart  作者: JUN
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第二部 第一話 魔法学園入学

お待たせいたしました。第二部の始まりです。この『学園編』はシリアスは控えめっぽくなりそうです。

 小鳥のさえずりが聞こえた。朝の眩しい光が優真の顔を照らしている。優真は寝呆け眼を擦りながらゆっくり起き上がった。


「……眩しい」


 若干カーテンが開いている。どうやらその隙間から朝日がこぼれているようだ。ベッドから降り、優真はカーテンを勢い良く開いた。

 部屋一面が朝日で明るく、一日の始まりを示しているように光が広がっていった。

 どうやら外は快晴。今日もいい天気。優真は窓を開け、朝の気持ちいい空気を肺いっぱいに吸い込み深呼吸する。

 優真の朝は深呼吸から始まる。それは元いた世界から変わらない優真の習慣。


「さて、朝飯作ってネボスケどもを起こすとしますか」


 優真はあくびをしながら部屋の扉を開いた。今日からいよいよ学園がある。気合い入れていこう。















「学園?」


 三日前。ジュードは買い物から帰ってきた優真と愛華に告げた。


「そーよん。結局陛下にあいぽんの事バレちゃって、力の抽出方法が見つかるまでは護衛を付けなくちゃいけなくなっちゃったんだよねぇ」

「それと学園とどう関係があるの?」


 愛華は生活必需品が入った袋をテーブルに置きながら子首を傾げた。

 この数日で人見知りの愛華もずいぶんとジュードに慣れたようだ。ジュードの気さくな性格のおかげだろうか。


「護衛っつーのが俺、出来ればユウマとれっちゃんもっていう話。まぁユウマとれっちゃんは兵士ってわけでもないし、強制じゃねえよ」


 強制じゃなくとも優真は愛華を守ると決めている。レータ王にはジュードが口添えしてくれたのだろう。愛華が利用されなければ何でもいい。


「まぁ俺も一応学生なわけだし、護衛対象と離れるのもアレなわけだからユウマとあいぽんの入学許可証を申請してきたのよ」


 ジュードは白い紙を二枚ひらひらさせている。というか、その学園は試験も何もなく申請しただけで入れるものなのだろうか……。


「なんだか果てしなく不安なんだが……」

「心配ねーって。陛下の推薦だから入学試験とかもねえし、金だってたんまりあるだろ? それに元の世界に帰る方法は陛下の方で探すって言ってたから当面の心配はなーっし!」


 結局レータ王に優真と愛華が異世界人という事は話してしまったらしい。害がなければバラされても構いはしないが、あまり広めるものでもない。


「学園再開は三日後だし、明日は色々と必要な物揃えちまおうぜ」


 そう言って屈託なく笑うジュード。学園を本当に楽しみにしているように見える。そんな笑顔を見ているとまぁいいか、で納得してしまう優真であった。
















 リーザリスは魔法大国と呼ばれるほどに魔法が発展している国である。魔法の研究所はもちろんの事、魔法に関連した職業別組合であるギルド、国民の安全を守る魔法警備隊、城遣えの魔導士など、魔法に関連した職種は様々である。

 それらの基盤には必ず魔法の教育機関が存在する。この国では一定の歳に達してから学園に通うというわけではなく、何年魔法学園に通ったか、を義務教育としている。義務教育の年数は六年。

 リーザリスには魔法学園が三つ存在している。それぞれこの国を形作っている三つの円の中に一つずつ。

 リーザリス城に最も近い国の中心の円にある魔法学園、聖テレイア魔法学園。ここはその名の通り、リーザリス王妃であるテレイアが建て、理事長を勤める学園である。王族や高位の貴族が通っている。ちなみにリーレイス姫もここの生徒である。

 二つ目は中流階級、真ん中の円にある魔法学園。リーザリス魔法学園。この魔法学園はリーザリスで初めて建てられた学園であり、優秀な魔導士を多く排出している歴史がある。

 三つ目は下流階級、いわゆる貧民街と呼ばれる最も外側の円にある魔法学園。魔法訓練学校。ここに通う生徒は義務教育ではない。深い知識を得る為ではなく、生きる為に魔法を学ぶ人が通う学園である。卒業後は城の兵士やギルドに入る人が大半である。

 今回優真と愛華が入学するのは、ジュードとレンが通っているリーザリス魔法学園である。優真が初めて学園を見た感想は、リーザリス城と同じくデカい、だった。

 校舎は二つ、どちらも四階建て。一つの校舎に三クラスずつ。この学園には学年が存在しない。六年の義務教育が完了すればもう登校しなくてもよく、一年に一度ある卒業式に出れば卒業である。

 校舎は東館、西館に分かれ、それぞれの一階には食堂や図書館、保健室などといった学生に必要な場所はそろっている。


「――ここまでで何か質問はありませんか?」


 そんな説明を恰幅の良い温和そうな校長から受けた優真と愛華。目に入るもの全てが新鮮で、校長の名前など二人の頭の中からすっぽり抜け落ちてしまっていた。もちろん質問などはない。


「よろしい。お二人のクラスは東館の2―1です。外で待機している先生に案内させますので」

「はい」

「お二人に創世神と創造神の導きがあらん事を……」


 校長は柔らかい笑みで優真と愛華を見送った。なんだかいい校長っぽいので安心した。

 運命的というより作為的なものを感じるが、優真と愛華はジュードとレンと同じクラスである。気楽なのは気楽だが、なんだか嫌な予感も感じていた。


「失礼しましどふっ!?」


 そんな事を考えながら校長室を出ると、急に目の前が真っ暗になって息苦しくなった。何やら顔に柔らかいものが押しつけられている。


「ゆ、ゆゆゆゆゆゆ優君!!?」


 隣からは戸惑いと怒りの声が愛華から発せられている。状況を把握しようと手を顔にやるが――


「あんっ……。ユウマ君学園でそんなとこつかんじゃダメよ……」


 どこかで聞いた事のある声。というかリーザリスでユウマに対して悪ふざけするのはジュードの他に一人しか覚えがない。

 優真はようやく拘束から抜け出し息切れしながら叫んだ。


「はぁはぁ……、な、何やってんですかソフィアさん!!」

「だって久しぶりにユウマ君に会えると思ったら体が疼いちゃって」


 悩ましげに手を頬に添え、どこか色っぽい仕草を見せる金髪美女は、この学園の教師であり優真の魔導具を作った喫茶店のマスターでもあるソフィア・グレイス。

 ソフィアの性格を知らない者が今の光景を見ればいらぬ誤解を与えてしまうだろう。


「う、疼いて!? 優君!! 私がいない間にいったい何してたのっ!!!」

「あぁやっぱり……」


 前回のリルと同じような事になってしまった。しかも今回は愛華だからけっこう口うるさい。

 優真は愛華を説得するのに十分以上――途中でソフィアが余計な事を言ってきたのもあるが――かかってしまった。

















「みんなおはよー。今日はまずこのクラスに入る事になった新入生を紹介するね」


 ソフィアに促され教室に入る二人。クラスは約三十人ほど。その中ににやけ顔のジュードと笑顔のレンもいる。

 だが二人は、いや二人だけでなくクラス全員は疑問に思った。優真は疲れ果て、愛華はどこか不機嫌だった。そしてクラスを代表してジュードがソフィアに尋ねた。


「せんせー、新入生二人の顔が変なんスけど」


 聞きようによってはかなり失礼な言葉だが、優真にはツッコむ気力もない。だがソフィアは気にしないで、と意味深に笑うだけだった。


「まあとりあえず、二人に自己紹介してもらいましょう。じゃあユウマ君から」

「あ、はい」


 気を取り直して優真は咳払いを一つ。これから長年付き合っていくクラスメイトだ。何事も最初が肝心。ジュードがいる時点であまり心配はいらない気がするが……。


「霧谷優真です。極東の小さな村から来ました。わからない事だらけなんで色々教えてくれるとありがたいです」


 優真の自己紹介はつつがなく終わった。出身地の設定はジュードの案。極東の小さな村とでも言っておけば、調べる手段もないから好都合らしい。

 次は愛華の番。優真はチラリと隣を盗み見る。愛華は人見知りで上がり症だから、と優真は親のような心境で心配していた。


「あ、あの……、鳴海愛華……です。……よろしくお願いします……」


 案の定愛華は消え入りそうなか細い声で自己紹介を終えた。ギュッと愛華は無意識に優真の腕の裾をつかんでいた。

 そんなしんとした空気を打ち破るかのようにジュードがハイハイハイハイ、と手を上げた。またジュードの顔が異様にニヤついている。優真は嫌な予感がした。


「ズバリ! 二人の関係は!?」

「ジュン君……」


 知っているはずなのにわざと聞くジュード。レンは呆れて物も言えなくなっている。諦めずにどついて欲しかった。

 ただの幼なじみだ、といつものように答えようとしたが、その言葉は最前列に座っていた赤い髪の少女に遮られた。


「先生。とりあえず新入生への質問は後ほどがよろしいかと」


 透き通るような凛とした力強い声。だが決して煩くはなく、どこか心地よい。背まで届く髪は毛先にウェーブがかけられていてどことなくお嬢様のような雰囲気が感じられた。


「そうね、クーちゃん」

「クーちゃんは止めて下さい!」


 凛々しくクールな少女かと思いきや激しくツッコミをソフィアに入れている。なんだか親近感が湧いてしまった。

 ソフィアは教室内をぐるりと見回し、じゃあユウマ君はそっち、アイカちゃんはあっちね、と空いている席を指差した。幸か不幸か優真は窓際のジュードの後ろ、愛華は真ん中の列のレンの隣である。


「ふふん、よ・ろ・し・く」

「はぁ……」


  不適な笑みを見せるジュードに優真はため息で応える。優真の学園生活は波乱の予感を感じたまま始まった。
















 新参者への質問攻めはどこの世界でも共通しているのか、休み時間になった途端優真と愛華の席には人だかりが出来ていた。

 初めは当たり障りのない質問で答えやすいものだったのだが、慣れてくるとジュードがしたような下世話な質問もされた。

 その度にジュードはニヤニヤと笑みを浮かべている。優真は殴り飛ばしたい衝動に駆られるが、そんな事よりも気になる事があった。


「アイカさんは何か趣味とかあるの?」

「……あ……う……」


 やはり愛華は緊張で上手く答えられないでいる。レンが必死になってフォローしているが、それでも質問は連続して飛んでくる。

 仕方ない助けるか、と優真は立ち上がろうとしたが、視界の隅に鮮やかな赤い髪がよぎり、止めた。


「こらこら、そんなに矢継ぎ早に質問ばかりするからアイカさんが困ってるよ」


 その人物は先ほど鋭いツッコミを入れた赤い髪の少女だった。彼女がこのクラスのリーダー的存在なのだろうか。


「ユウマ、いいんちょの事気になるのか? 確かに美人だがいかんせん性格がきついからなぁ……。ユウマに御し切れるかどうか」

「いや俺はんな事考えてるんじゃ――」

「聞こえているぞ、ジュード」


 いつの間にか当の本人が優真の隣に立っていた。何度見ても目を奪われる美麗な赤い髪に、今にも射ぬきそうな鋭い視線。なるほど、ジュードの言う通り性格は穏やかではないらしい、というのが優真の印象だった。


「こりゃ失敬」

「全く……新入生に余計なイメージを植え付けるんじゃない。すまない、見苦しいところをお見せした。改めて、私はこのクラスの学級委員長をしているクレハ・メイザースだ。よろしく、ユウマ君」


 手を差し伸べた赤い髪の少女――クレハの雰囲気は優真が感じた印象を百八十度変えるものだった。どうやらクレハは誰にでも厳しいのではなく、ジュードのようなお調子者に厳しいようだ。

 優真もこちらこそよろしく、と握手に応じた。クレハの手はさらさらで綺麗な手――などではなく外見とは裏腹に手の平は豆だらけで所々皮も剥がれている。

 優真にも経験がある。毎日竹刀で素振りをしていた時によくこうなっていた。これはそういう類の手だ。

 ――強い。優真は直感的にそう感じた。クレハと見つめ合ったまま。


「……ユウマ、本気か?」

「あ? あ、ああ悪い、クレハさん」


 優真は急いでクレハから手を離す。若干クレハの顔が赤くなっているが、気にしないでくれ、と笑顔だった。


「それと私の事はクレハでいい。……委員長でも構わないが、役職名で呼ばれるのはあまり好きではない」

「わかった、クレハ。俺の事も優真でいいよ」

「ああ、そうさせてもらうよ」


 クレハは微笑んで頷く。なんだか一挙一動がいちいちカッコいい。これほどいい意味で男らしい女の子も初めてだ、と優真は思った。




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