第十九話 均衡する力と力
更新がけっこう遅れてしまいましたが、二話同時投稿です。さて、兄妹喧嘩の行く末やいかに……!
先に進んで行くにつれて部屋や廊下の状態が酷くなっていく。火はもう消えたようだが、もう城はほぼ半壊状態。
だが、城に入った時から聞こえていた破壊音や爆発音は先程から遠くなっていた。
「上に強い魔力、少し先にそこそこの魔力を感じるわ。多分上にアレンとジュードがいるわね」
「そうなんだ……。じゃあ先に上に行けばいいの?」
リースは走りながらどうするか考えている。幼なじみ同士の戦いを止めるか、王を助けるか。
効率を考えれば別々に行動したほうがいい。だが、それだと愛華が危険な目にあってしまう。
「私なら大丈夫だよ」
「アイカ……」
「早く止めたいんでしょ? 行ってきて。私は王さまの様子見てくるから」
「〜〜〜〜〜!!」
リースは何とも言えない表情で声にならない声を上げた。
リースの中で葛藤しているようだ。効率か、安全か。考えている時間はない。
「……わかった。止めてくる。でも!! でも絶対危ない事しちゃやだよ。すぐに行くからちゃんと待ってて」
「うん、わかった」
愛華のその言葉を聞くと、リースは今までの倍以上の速さで駆けていった。
遠くからちゃんと待ってなさいよ〜、という叫びがエコーがかかって聞こえてきた。
そんなリースに苦笑する愛華。様子を見るとは言った事は本当だが、愛華はそろともう一つ気になる事があった。
『そなたの探し人はそなたの向かう先にいる』
「……よし、行こう」
愛華は駆け出した。王の間へ。そこに優真と優音がいる気がして。
優真は倒れてくる柱を横凪ぎに斬る。柱はまるで紙を切るかのようにいともたやすく二つに分かれた。
優真の持つもう一つの属性。『黒闇』、その導力は――
「『侵食』。全ての物理を切り裂く」
ジュードとの訓練の中で得た力は危険極まりない力だった。一歩間違えば、人間など簡単に殺せてしまう。
「なんという力、なんという才能……。『白光』と『黒闇』の二つを持っているなど八賢者の中にも存在しないというのに……」
優音の後ろでリングサーク王が驚愕の声を上げた。
それでも優音は戦う事を諦めてはいない。
「そんな事は関係ないですお父様。お兄ちゃんが何をしようとしても絶対止めますから」
優音が銃口を優真に向ける。するとその銃口が赤く輝いた。
「お兄ちゃんが隠し玉を持ってたみたいに、私だってとっておきがあるんだから!」
優真に向けられた二つの銃口が更に赤く輝く。そしてそこに優音の魔力が集約されていく。その濃密な魔力はやがて視認できるほどに高まり、赤い風でできた球体の形を取った。
「『紅蓮風雅』!!」
優音が魔導具のトリガーを引いた。
――銃の爆発音が辺りに響く。赤い風の球体が優真に向かって放たれた。
「ぐっ……」
優真の額から汗がしたたり落ちた。赤い風の球体が迫るにつれて周りの景色が霞む。
灼熱の風が優真の頬を焼く。流石に直撃すれば怪我では済まないかもしれない。
だが――
「やらせねえ!」
優真は黒闇の魔導具を消し、白光の魔導具を出現させた。
そして赤い風の球体を斬る。導力『封印』によって赤い風の球体は空中に四散した。
(よし、今のうちに反撃を!)
優真は白光の魔導具を消し、再び黒闇の魔導具を出現させ構え走りだした。
だが、爆発音が二つ鳴り響く。数瞬後、左肩と右足に鋭い痛みが走った。
「がっ!? くっ……」
優真は肩膝をついて優音を見据えた。優音の二つの魔導具から発砲炎が昇っている。
「痛って……くそ、まさかとっておきを囮にするなんて……」
血は出ていないが、腕と足が痺れている。あまり力が入らない。
「頭を使わなきゃダメだよお兄ちゃん。まだまだ行くよ」
優真の腕と足の痺れを好奇と見た優音は受け身から一転、優真に向かって駆け出した。
「にゃろう、なめんなよ。接近戦は俺の領域だ」
優真も応戦する為に魔導具を右手に構える。足の痺れで回避は期待できない。優音の攻撃はなんとかして受け止める。
「『紅蓮――」
優音は走りながら再び魔導具に魔力を込め始めた。それを見た優真は三度黒闇の魔導具を消し、また白光の魔導具を出現させる。
「な〜んちゃって」
「なっ!?」
優音は急に魔力の溜めを止め、足元の石を蹴った。
「うぐっ……」
導力『封印』では物理である石は無効化できない。優真は対抗手段のないまま腹に受けた。
その様を見て優音はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「弱点発見。見たとこお兄ちゃん、属性の両立はできないみたいだし、属性の入れ替えの間に数秒のラグがあるみたいだね」
「……」
とうとうバレた。ジュードにもそれは指摘された点だ。優真は黒闇属性の魔導具を得る事に力を注いでいたから、その弱点の補強ができなかったのだ。
最強の力を持つ魔法初心者。故に脆い。弱点がはっきりと浮き彫りになってしまう。
「それが……どうした!」
弱点がバレたからといって怯む優真ではない。むしろ開き直る。
優真は痛みを我慢して走りだした。手には白光属性の魔導具。
「わっ!?」
まさか突っ込んで来るとは思っていなかった優音は魔導具を乱射する。
優真は最小限の動きで弾の雨を避け、避けきれないのは腕で受け止める。
「ずりゃあ!!」
優音が間合いに入ったところで思い切り魔導具を振るう。
「っとと!」
流石に優真の妹だけあって反射神経はいい。紙一重で斬撃をかわされた。
かわし様に優音は魔導具のトリガーを引く。優真も負けじと魔導具を振るい、運良く弾は魔導具に当たり打ち消された。
「まだまだあ!!」
優真は更に追っては斬る、弾を弾く、もしくはかわす。優音も斬撃を避ける、避け様に魔導具を撃つ。
どちらの攻撃も当たらない。流石に兄妹だからか、いい意味でも悪い意味でも息が合っている。
このままでは埒が開かないと感じた二人は一度大きく距離を取った。
「はは……」
「……?」
いきなり笑いだした優真を不審に優音は見つめる。
「面白れぇな、優音。確か昔、こんな感じでじいちゃんに試合させられたっけな」
「うん、あったね。私女の子なのにお兄ちゃん容赦なかったもん。防具付けてなかったら危なかったよ」
「ばかやろ。お前だって逃げ回りながらエアガン連発してきたじゃねえか。そのくせ俺が疲れた頃に近づいて殴るわ蹴るわ」
「人聞き悪いよ。作戦と言ってよ」
和気あいあいと今の状況を忘れて昔話に花を咲かせる優真と優音。
だが二人は理解している。この勝負は次の一手で決まるという事を。
「あの時はどっちも倒れて勝ち負けは決まらなかったが」
「うん。今度は負けないよ」
「それは俺のセリフだ」
それ以降、二人は全く動かなくなった。飛び出すタイミングを窺っているのだ。
優音の背後に控えているリングサーク王と王妃はもはや何も言わない。
動かないでいたのはそれから数秒か、数分か、気分的には数時間も待っていた気がする。
だがその均衡は突然崩れ、二人は全く同時に走りだした。
「でりゃああああああ!!!」
「やああああああああ!!!」
優真と優音はまるで自らを鼓舞するかの様に、叱咤するかの様に魔導具に全魔力を込める。
優真は全ての魔法を打ち消す導力『封印』に、優音は灼熱の風で敵を焼き尽くす『紅蓮風雅』に。
そして二つの力はぶつかった。どんな魔法も優真の導力の前では無意味かと思われた。しかし――
「ぐっ……打ち消し、きれない!!?」
赤い風の球体は優真の魔導具に触れても消えていない。むしろ押し返している。
そもそも優真の属性は最強であるが故にその魔力の消費量も膨大である。既に優真の魔力が尽きかけているのだ。
だが、それは優音も同じ。優音は魔導具を消し、地面にへたりこんだ。
「はぁ、はぁ……。さ、流石にもう無理……」
優音にもほとんど魔力は残っていない。つまりはこれが最後の攻防。優真が打ち消せば優真の勝ち、それができなければ負けとなる。
「ぐ……くぅぅ……!!」
(負けられない……)
ここで負けたら今まで世話になったジュード、レン、エアに顔向けできない。
勝っても負けても、リーザリスとリングサーク、どちらかの環境は必ず変わる。それは必然。
だが、絶対にリーザリスへ帰る。無事に帰ると約束した。リルと。
リルの為に。そう優真が強く思い始めた時、白光の魔導具に小さな光が灯った。
徐々に――それはほんの微々たるものだが、それでも白光の魔導具が灼熱の風の球体を押し返し始めた。
「こんなとこで、負けてたまるかああああああ!!!!!」
優真の思いに呼応するかのように、魔導具は強く輝きを放つ。 そして斬った。優真の思いを乗せた渾身の一撃。灼熱の風の球体は真っ二つに切り裂かれ、打ち消された。