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Magic Heart  作者: JUN
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第十話 四つの魔法技術

 マラハ村の近くにある、精霊が住まうと言われている森を抜けるには馬を走らせて一日。人間の徒歩で行けば三日は掛かってしまう。

 だが、そんな事は気にもしないで荷物を背負った二人の少女――愛華とリースがマラハ村を出て森に入ってから早二日が経っていた。

 現時点での二人の目的は、情報収集だった。取り敢えず、マラハ村から一番近い商業の町レイドに向かっている。

 レイドはマラハ村から北東の地点にあり、森を抜けるのが一番の近道だった。


「さてと、ちょっと休憩しましょうか」


 森を半分くらい進んだ所でリースは後ろにいる愛華に声を掛けた。


「はぁ、はぁ、う、うん……」


 愛華は息も絶え絶えにそう答えた。無理もない。少し前までは普通の女子高生だった愛華が、整備されていない獣道を歩いて平気なわけがない。

 ふらふらとおぼつかない足取りでリースに追いつくと、愛華はその場にへたり込んでしまった。


「大丈夫? 愛華」

「う、うん……何とか……」


 リースは背負っているリュックサックを下ろして愛華の顔を心配そうに覗き込む。美しい金髪がゆらゆら揺れている。この華奢な体のどこにそんな体力があるのか、リースは汗も掻いていない。


「ごめんね。村に馬があればとっくにレイドについてるのに」

「ううん。私なら大丈夫だから。危険な目にも遭ってないし」


 愛華は村から一歩外に出れば魔物がうようよしていると聞いていたのに、今の今までそんな類のものには遭遇していなかった。運がいいのだろうか。


「そりゃそうよ。精霊魔法使ってるんだもの」

「精霊魔法って?」

「魔法にはね、四つの種類があるの。詠唱魔法、精霊魔法、方陣魔法、召喚魔法の四つ。私達が魔物に遭わないのもその一つの精霊魔法のおかげ。精霊魔法は近くにいる精霊に呼びかけて力を貸してもらう魔法なのよ。今は森の精霊に協力してもらって魔物を近づけさせない結界を張ってもらっているの」

「へぇ〜、そうなんだ」


 愛華は自分の周りを見回してみる。だが、特にそのようなものは見つけられなかった。

そんな事をしていると、リースが目には見えないわよ、と笑いながら言ってきた。


「ねえ、後三つの魔法ってどんな魔法なの?」


 愛華が興味津々といった感じでそう聞いた。そうね、とリースは考える。そして、何かを思いついたように顔を上げた。


「見てもらった方が早いかな。じゃあ、ちょっと見ててね」


 リースはそう言って、目を閉じて呪文を呟き始めた。


「『全てを押し流す水の奔流よ。我が下に集え』」


 そう言い終えてリースは右手の指を上に突き出す。すると、指から一筋の水が飛び出し、頭上にあった木の枝をボキッと折った。

ふう、とリースは一息ついて落ちてきた枝をキャッチした。


「わぁ……」

「今のが詠唱魔法ね。言霊によって魔力を導きマナと合わせて、自分のイメージ通りに魔法を発現させるのよ。それで次はこれ」


 今度は、リースは今の枝を使い、地面に何かを描き始めた。

 円を描き、文字を書く。そうやって完成した陣に向かってリースは手をかざした。


「『水蛇』」


 リースがそう言うと、陣がうっすらと輝きその中から水の蛇が現れた。

 水の蛇は陣の上で這い回ったり、愛華の方を向いて下を出したりして愛華をびびらせた後、リースが手を下ろすと同時に陣と蛇も消え去った。


「……リースちゃん」

 

 爬虫類やら虫やらが嫌いな愛華はリースを恨めしそうに睨みつけた。


「あはは、ちょっとしたジョークジョーク。それで今のが方陣魔法。地面や紙に魔方陣を書いて、魔法を発現させるの。空中にも文字が浮かび上がる形で書けるんだけど、それはめっちゃ疲れるからあたしはあんまり使わないかな」


 それで最後に、と言いながらリースは今使った木の棒を地面に突き刺し、再び詠唱を始めた。


「『我、森に敬意を払う者。願わくは、その身を現さん事を』」


 リースの詠唱が終わると、突き刺した木の棒を包み込むように光が現れた。

 その光はだんだんと形を成していき、身の丈十センチ程の小さな少女が現れた。

 少女の背中には羽が生えており、リースが手を差し出すとその上に座った。

 その姿はまるで――


「妖精……」

「そ。この森の精霊。何かの花の妖精かな。精霊は目には見えないんだけど、召喚魔法で呼び出せばこうして見る事が出来るのよ。あたしの属性は『青水せいすい』だから水の魔法しか使えないんだけど、召喚魔法は属性関係無しに色んな属性の精霊なんかを呼び出せるんだけど……」

「わぁ……、妖精さんだ……」

「まるで聞いてないわね……」


 やれやれ、と呆れたため息をつくリース。愛華は漫画や小説の中でしか知らなかった妖精を間近で見て感動していた。

 そんな愛華にリースは手に乗った精霊を差し出し、愛華は慌てて手を出した。妖精はしばらく愛華の顔を見上げていたが、やがて安心したようにその手に飛び移った。


「花の妖精は心の綺麗な人にしか近づかないのよね。その点、アイカは大丈夫そう。ちゃんと妖精が心を開いてる」


 妖精はうれしそうに手から離れ、愛華の周りをグルグル飛び回っている。どうやら愛華にすっかり懐いたようだ。


「でも精霊魔法と召喚魔法って似てるよね」

「そうね。この二つの魔法の違いは精霊の協力が間接的か直接的かって違いだけね」


 愛華は妖精を肩に乗せたまま頭の上にハテナを浮かべている。どういう事かあまりよくわかっていない。


「そうねぇ、精霊魔法の代表的な使い方は精霊の憑依かな。精霊を自分の体に降ろして身体能力を向上させるの。召喚魔法は精霊を実体化させて一つの個として協力してもらうかって感じね」

「あ、じゃあリースちゃんに言葉が通じてるのも何かの魔法なの?」

「まあ、そうね。アイカの話を聞いた限りだと、アイカは召喚魔法の類でこの世界に来たんだと思うのよね。召喚魔法には元々相手の言葉がわかるように意思疎通の魔法が掛かってるし」

 

 ならば誰が、何のために愛華をこの世界に召喚したのか。今はまだわからない事だらけである。今考えても仕方ない事だが。

 だが、そんな説明を聞いていたからかなんだか自分も魔法を使って見たくなってきた。


「んふふ、アイカも魔法、使って見たいんじゃないの?」


 そんな気持ちが顔に出てたのか、ズバリとリースが言い当ててきた。


「でも、私魔法なんて使えないし……、よくわからないけど、そういうのって生まれ持ったものとかじゃないのかな?」

「ううん、違うわ。この世界では誰でも使えるようになるわ。才能に左右される事はあるにはあるけど。ま、物は試しってね。レイドでアイカも魔法使えるようにしちゃおう」


 なんだかさらっとすごい事を言われた。魔法というのは火を出したり水を操ったり危ないものが多い印象があるが、リースが召喚したような妖精を出せるようになるなら使って見たい。気が付いたら愛華はうん、と頷いていた。

 愛華の返事に満足したリースは、よしと言って立ち上がった。


「休憩終わり。さあ、レイドに向かうわよ、アイカ」

「うん。じゃあ、妖精さん。元気でね」

 

 愛華がそう言うと、妖精はニコリと笑顔を見せて飛び去っていった。


「レイドまで後少しよ。頑張ろう」

「うん」

 

 愛華とリースは再び歩き始めた。

 目指すは商業の町レイド。最初の目的地はもうすぐそこだった。












 精霊の森を抜け出て歩く事半日。ようやく目的地が見えてきた。

 商業の町レイド。そこは世界でも五本の指に入るほど商業が盛んに行われている町であった。

 愛華とリースがレイドに辿り着く頃にはもう夕日が沈みかけていて、取り敢えず情報収集は明日からにしようという事になった。


「すごいね〜、色んなお店がたくさんあるよ」

 

 愛華はキョロキョロと周りを見回しながら歩いている。日が沈みかけているというのに町にはいまだたくさんの店が開かれていた。

 この世界に来て初めてまともな町に来たという事もあり、愛華は都会に初めて出てきた田舎者のようにはしゃいでいた。歩き通した疲れなどどこかに吹っ飛んだようだった。


「アイカ〜、そういうのは明日にして今日はもう宿取ろう。あたし疲れちゃった……」

 

 そんな愛華に対してリースは疲れていた。最早足取りはゾンビのようである。


「あ、うん、そうだね。宿ってどこにあるんだろう?」

「うーんと……。あ、あれだ」


 リースは指を差す。そこには看板を掲げている建物があり、多くの人が出入りしていた。

 二人がその中に入っていくと、カウンターの向こうに従業員と思しき男がノートに何かを書いていた。


「すいませーん。二人泊まりたいんですけど」

 

 リースが手続きをしている間、愛華はカウンターの横にある通路を覗き込んだ。

 そこにはたくさんの人が酒や料理を食していて、まるで祭りのような騒ぎだった。どうやらこの宿は酒場も兼ねているらしい。


「お待たせ。あら、酒場?」

 

 宿泊手続きを終えたリースが戻ってきて、愛華と同じように酒場を覗き込んだ。


「うん。そうみたいだね」

「ちょうどいいわ。ここで腹ごしらえも兼ねて、情報収集もしちゃいましょ」


 リースは臆さず愛華の手を引いて酒場に入っていってしまった。

外からではそうでもなかったが、中に入ると酒臭さやら汗臭さやらがむわっと鼻につく。リースは平然としていたが、愛華は一刻も早くここから抜け出したかった。

 適当に空いている席に座り、給仕に何品か注文してリースははぁ、と息をついた。


「やっと休めるわね。明日からは馬借りてもっと楽できるから安心してね、アイカ」

「……うん、ごめんね」


 謝る愛華に、リースはコツンと愛華の頭を軽く殴った。


「謝るの禁止ー。あたしが勝手に首突っ込んだんだから気にしないでって言ってるでしょー。前も言ったけど、あたしにとっては友達を助けるのは当たり前なんだからね」

「……だけど、お金だってリースちゃんに全部払わせてるのに、私何にもお返しできないし……」


 ますます塞ぎ込む愛華に、リースは盛大なため息をついた。


「……あのね、アイカ。あたし昔に、男の子二人と女の子一人とある約束をしたの。一人はお調子者で、もう一人は……うん、まあなんて言うかあたしの許婚なんだけど……って、その話は置いておいて。あともう一人はその許嫁の妹ね」


 愛華はその許婚にひどく興味を持ったが、まずはリースの話を聞く事にした。


「その約束っていうのがね、友達は命を賭けて助ける、って子供ながらにそんな約束をしたの。経緯とかは忘れちゃったけど、その約束だけは覚えてるんだぁ。あたしは、その約束をずっと貫こうって思ってる。だから友達になってくれたアイカを、命を賭けて助けるって決めたんだ」

「リースちゃん……」


 照れくさそうに――だが絶対にという意思を瞳に宿しながらリースは言った。

 愛華はまた感動して泣きそうになってしまった。なんだかこの世界に来てから涙腺が緩んでる気がするなぁ、と愛華は思った。

 そんな時、給仕が料理を運んできた。よほど空腹だったのか、いつも食事前にする祈りもそこそこに、リースはすごい勢いで料理を掻き込み始めた。

 ――帰る前に、絶対リースちゃんに恩返ししよう。

 料理をのどに詰まらせ苦しむリースに、苦笑して水を差し出しながら、愛華はそう思っていた。


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