第一部 第一話 召喚の日
さ、始まりました。以前書いていたハピネスマジックの改良版です。ハピマよりは読みやすくなってると思うので、楽しんでいただけると光栄です。
暗い、暗い暗黒の中。灯りなど一切存在せず、むしろ光を拒絶するかのような漆黒の暗闇。
その中でも一際異様な雰囲気を醸し出す一人の人物が静かに佇んでいる。
頭の先から爪先に至るまで、全てを黒いローブで包み、手にはおとぎ話に出てくる魔法使いのような細長い杖が握られていた。
「くくくっ……いよいよ、我が願いが叶う……」
低くおぞましいほど笑い声をあげながら、杖でコツコツと床を突いた。
すると直径十メートルほどの黒く輝く魔方陣が現れた。
フードの隙間からニヤリと 不気味な笑みがこぼれた。
閑散としている大通り。俗に言う裏通りというやつだ。
表通りにも華やかなデパートや本屋、コンビニも数多くある。
だが、どうにも人通りが多く、目当ての物が品切だったりすることも多い。
そんな時利用するのが裏通りというわけだ。
そういった理由で、裏通りに来た少年一人と少女二人。三人とも学校帰りなのか制服を着込んでいる。
「しっかし、相変わらず廃れてんなぁ」
「私はこれはこれで味があっていいと思うなあ。古風で」
「古風……か……?」
目の前の本屋は屋根もボロボロ、扉はなんとも滑りが悪そうな引き戸、看板には文字が錆び付いているが真野書房と書かれている。
「いいか? 愛華。古風というのはだな――」
「そんなのどうでもいいから早く行こうよ!」
枯葉色の髪の少年が愛華と呼ばれた黒髪の少女に古風とはなんぞや、という事を教えようとすると、少年と同じ枯葉色の髪の少女がしびれを切らしたように二人を急かした。
よく動く目と表情、そして動く度にピョコピョコ揺れる右に結ったサイドポニーが少女の活発さを表している。
「まあまあそう焦るな、優音。どうせマンガは逃げやしない」
「逃げるよ! 売り切れちゃうから急いでるんでしょーが!」
そう言うと、優音と呼ばれた少女は力任せに引き戸を開け中に入っていった。
「やれやれ。我が妹ながら気性が荒い」
「あの元気は私も見習いたいけどなぁ」
「止めてくれ。あんなの一人で十分だ」
「また優君はそういう事言って」
しょうがないなぁ、と愛華は苦笑する。
そんな話をしながら二人は中へ入っていった。
本屋の中は狭いくせに本棚が敷き詰められるように並んでいた。
人一人がやっと通れるくらいの幅だ。入り口の横に会計場所がある。
「んじゃ愛華。俺その辺見てくっから終わったら呼んでくれ」
「うん、わかった」
愛華と別れ、そのまま適当にうろつく事にした。
ここの本屋は狭いわりに様々な本が置いてあった。
マンガ、雑誌、小説、その中には大きな声で言えないような、まぁぶっちゃけエロ本なんかも置いてあった。
ちょっと手に取りたい衝動が走るが、異性の幼なじみと妹が近くにいるので無理矢理反対方向に首を向けた。
「あれ?」
「優君? どうしたの?」
「なんか面白い本でもあった?」
目当ての本があったのか、ホクホク顔の優音と愛華がいつのまにか隣にいた。
まずい、さっきの行動見られたかもしれん。
だが、二人は気付いてなかったのか特に何も言ってこない。
「いや、これ何の本かなーっと思って」
マンガばかりある本棚に一冊だけ表紙は真っ黒で題名も書いてない本があった。
周りが華やかな表紙ばかりなのでどうにも浮いて見える。
見たところ包装もされていない。試しに中を読もうと手に取ってみると――
「な、なんだっ!?」
「きゃっ!?」
「わっ!?」
突然本がまぶしくて目も開けられないほどの輝かしい光を発し始めた。 最後に見たのはそんな光景だった。
――数瞬後、その場には優音が買おうと持っていたマンガだけが取り残されていた。