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第九話 進化

 施設では既にあの女鉄士の治療は終えていて、駆け込んできた真澄が抱えるルチルの治療が行われた。


「いいか……我慢しろよ」

「うう……」


 寝かされたルチルは、腹を出されていた。何人もの番兵が不安げに見ており、彼らの足下には、いつの間に入ってきたのか、白猫のミルクも座り込んでいた。

 衛生兵がピンセットで、彼女の腹の傷口に差し込んでいる。その傷は銃創であった。彼女は右脇腹を撃たれた状態で、あの魔法を使ったのである。


 弾が体内に入ったまま治癒魔法を使うと、傷が塞がっても弾はそのままになってしまうので、先に弾抜きが必要であった。

 ルチルが呻きながら、弾抜き作業に必死に堪えている。そしてとうとう、その脇腹から、弾丸がピンセットに挟まれて抜き取られた。


「よし! すぐに止血と治癒魔法を!」


 言われてさっき女鉄士を治療していた、回復魔法を使える衛生兵が、彼女の側によってあの回復魔法を使う。やはり傷口はすぐに全快とはいかないようだ。


「傷を塞ぐのはできるが、出血が酷い……しばらく安静が必要だな。すぐに病院に運ぶぞ」

「あら丁度いいわ。今警官が来たみたい……」


 見ると施設の外に、騒ぎを聞いてきた警官達が、ここに到着したようだ。鬼鴨が牽引する鳥車が、施設前で止まり、大勢の警官が駆け込んでくる。

 その後は慌ただしく、警官による検問がなされ、ルチルは即座に鳥車に運び込まれ、弘後町の病院へと搬送されていった。幸いというか不幸というか、入院が必要な程の怪我を負ったのは、彼女一人であった。


「なあ……それはやはり私が撃った弾か?」


 器具の片付けをする衛生兵に、真澄がそう問いかける。手元にある金属製のケースには、先程抜き取られた、真っ赤に塗れた弾丸が置かれていた。潰れたフルメタルジャケット弾だ。


「まあ、恐らくそうだろうな。あの場で鉄砲を持っていたのは、お前だけだし……」

「うう……やっぱりそうなるよな……」


 後悔と罪悪感たっぷりで、真澄が呻く。あの時ルチルは、眼妖の群れの丁度後方にいた。それはつまり、真澄が銃口を向けたのと、同じ方向である。

 これはどう考えたって、真澄が撃った弾が、彼女に当たったとしか考えられない。


 弾は全弾眼妖に当たっていた。恐らく一度眼妖の眼球を貫通した弾丸が、そのまま後頭部から後方に飛んで、彼女に当たったのであろう。

 真澄はあの時に、流れ弾の危惧はしていたが、貫通した弾に関しては何も考えていなかった。


(弾が一発で二人分殺せる物だったとは……。一度当たれば、そこで止まる物だとばかり、勝手に思っていた……。ぬう……鉄砲の使い方は、勝手に頭に流れてくれるのに、こういった知識は頭に入らないのか?)


 元々銃を扱ったことがこれまでなく、弾丸は貫通する物という、常識すら知らなかった真澄。

 以前小説で見た、銃弾で撃たれそうになった主人公が、仲間が己の身体を盾にして、主人公を銃弾から守るシーン。あれはもしや大嘘だったのであろうか?

 彼女は手元にある自分の命を救った勾玉を、何故か苛ついている様子で見ていた。


「しかし変わった弾丸だな? 俺は実物を見たことはないが、前に見た本の写真だと、弾ってのはもっと丸っこくて……え?」


 衛生兵がケースに置かれていた弾丸に目を向けたときに、彼は目を丸くした。その弾丸が急に消えたのである。

 誰かが持ち去ったというこではない。彼と真澄が見ている前で、ケース内の弾丸が、幽霊のように透明化し、やがて完全消失してしまった。先程まで弾丸に付着していた血が、ケースの底に落ちている。

 試しにそのケースのそこに触れてみるが、そこには何の感触もない。ただ透明化して、見えなくなったというわけではないようだ。


「これも初めて知ったな……弾ってのは、撃った後消える物だったのか?」

「いやあ……それはないんじゃ?」


 目の前で起きた怪奇現象に、マスミと衛生兵は、訳が分からず首を捻っていた。





 その後警官から現場で色々聞かれていた真澄。詮索されるのをめんどくさがったのか、あの勾玉のことに関しては、警察はきちんと理解してくれた。昨日ほど、警察署であんな騒ぎを起こしたばかりなだけに。

 あの勾玉から変身した魔法の銃で戦ったとして、あっさりと真澄は解放される。そして真澄は、少々急ぎ足で、弘後町へと戻っていく。どうやら今日の狩り場での仕事は、中止になった様子。


 そしてその真澄の元を、ついていく見えない旅の仲間が一人。それは先程から、一部始終を全て見ていた小次郎であった。


『参ったな……あのロリッ子を撃っちまうなんて。これってやっぱり俺のせいか?』

『さあ? 戦場で混乱しているところに、偶然居合わせて当たったなら、それは単に運が悪いだけで、誰のせいでもないわ。まああの子が、ここで起こってること判ってて、ここまで来たなら、完全にあの子の自業自得だけどね』


 真澄の懐に入る源一と、誰にも聞こえない言葉で会話する小次郎。だが彼女の放った言葉に、源一は疑問を感じた。


『判ってて? あのロリッ子が、眼妖のこと知ってて、ここに来たってのか?』

『さあ? でも眼妖を殺せる力を持った奴が、二度も眼妖の襲撃に居合わせるなんて変じゃない? それにあの子が信仰してるロア教てのが何かね……』

『まあ、確かに偶然にしては変だが……。そんでロア教がどうしんたんだ? 何か問題がある宗教なん?』


 彼女がこの地で布教しようとしている、女神ロアを唯一神として崇める宗教。

 女神ロアの絶対的主義の教義は、源一もかなり胡散臭く感じていた。だが所詮宗教など、大概そんなものだろうと、彼は特に不審には思っていなかったが。


『いや、宗教そのものに問題があるわけじゃないけどね。まあ私も仕事上、色々あってね……。まあそれはいいわ。それよりあんた、さっき小銃に化けてたけど、あれは何?』


 何か言いにくそうな小次郎。そして急に話を逸らすように、彼の変身に関して問いかける。昨日見たステータス表では、彼はナイフと拳銃にしか変身できなかったはずだが……


『それが俺にもよく判らん。さっきステータス表を見たら、何故か項目が増えてた』


 そう言って、昨日も小次郎に見せたステータス表を、再び表示させる。昨日とは違って、歩き続ける真澄についていく形で、ステータス表が空中を移動している。

 小次郎はそれを追いかけながら、そのステータス表を見た。


 転生武具 源一 第三級

 第一形態:軍用シーフナイフ

 第二形態:自動式拳銃

 第三形態:自動式小銃/手榴弾

 次級 455/800


『確かに項目が一つ増えてるわね。第三段って、ゲームみたいにレベルアップしたってこと? あんた何したの?』

『そんなの俺が聞きたいよ。何か知らんが、勝手に増えてたんだ』


 どうもこの級という物が上がると、より強力な武器に変身できるようになるらしい。だがその条件が全く不明。これには小次郎も、源一自身も全く見当がつかない内容である。


『条件は知らないが、どんどん強力な武器になれる仕様かしらね? てことは……十段だと二十段だのといくと、どうなるのかしらね?』

『さあな……何かワクワクするな』



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