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第七話 鉄士

 街を離れ、森の中の街道を進む真澄。この道をすれ違う人々は、何故か警官達のように武装していた。

 真澄は先程街で、あれ程の騒ぎを起こしたのが嘘のように、平然とした様子で歩いている。


『真澄、どこにいくんだろうな?』

『狩り場でしょうね。昨日鉄士協会に入ってたし、これまでの会話から、どうもこの女、鉄士みたいだし』

『鉄士? それは冒険者みたいな感じか?』

『いや~ああいうのとは似てるようで、大分違う感じね』


 狩りという言葉を聞いて、ゲームなどに出てくる冒険者を連想したが、小次郎は否定する。


『鉄士ってのは、まあ採取人みたいなものよ。この世界にいる無限魔って怪物を狩って、肉や素材を採るのよ』

『無限魔? 昨日の一つ目か?』

『いや、あれとは全然違うわ……ていうか、そもそも何だったのかしらあれ? この人が読んでた新聞でも、あれの正体は分からなかったぽいし……。とにかく無限魔ってのは、あんな風に人里に出てきたりはしないわよ。あれは狩り場っていう、限られた土地にしか出ないわ』


 この世界の、地球とは異なる知識を、少し話し始める小次郎。この世界には、ごく一部の土地で、無限魔という異常生物が徘徊する場所があるという。

 それは土地の中に人間が入り込むと、真っ先に人に襲いかかってくる(動物の場合は、基本的に無視)。そしてそれはどんなに殺しても、またすぐに新しいものが沸いてくる。どんなに殺しても減らないため、無限魔という呼称がついたらしい。


 これだけ聞くと、ただ迷惑なだけの存在に思えるが、実はそうでもない。

 この無限魔は、この世界の重要な資源になっているという。無限魔の死体から取れる、骨や皮は、加工すれば色々な事に利用できる(無限魔の種類によって、差異はあるが)。

 食肉として食べられる無限魔もおり、食肉文化の強い鰐人にとって、貴重な食料になる。

 また樹木などの、植物系のモンスターを倒せば、林業を行わなくても、材木が手に入るという。ただし普通に伐採した木より、質が劣る場合が多いらしいが。


 そんなこんなでこの世界の各地では、無限魔を狩ることで、国にとって大きな資源を得ているのだ。

 無限魔は自分の縄張りから外に出ることは全くない。予めその縄張りを確保・管理すれば、人が襲われる心配もないのである。

 中に無限魔の縄張り=狩り場の土地を巡って、国同士でいざこざが怒る場合もあるという。


『へえ、ようはフィールドモンスターか』

『どっちかっていうと、ダンジョンモンスターね。狩り場ってのは、地面の下の、洞窟とかにある場合が多いから。鉄士協会は、そういった狩りをする奴らを管理して、素材の換金とか、鉄士同士のいざこざの仲介とかしてるわ。強い無限魔が出る狩り場ほど、良い素材が採れるし。鉄士になって強くなるっての、憧れる奴らはかなり多いわね』

『な~るほど! じゃあ俺の出番はありまくりだな! 昨日やさっき見たく、その無限魔ってやつ相手に活躍して、この真澄を成り上がらせてやるぜ!』


 真澄がどういう立場があるか知って、自分が役立てると、源一は意気揚々と、真澄にくっついて、共にその狩り場に向かっていった。


『大活躍ってほど、大層なことならない気がするけどね……。たかが拳銃ごときじゃ。それにそもそもなんであんたに、そんな力があるのかも謎だし……』






 真澄が向かったのは、地下であった。弘後から数㎞ほど森林の中を通る街道を進み、辿り着いた先は、まるで城のように大きな塀に囲まれた場所。

 日本の城郭でもあまり見られないような、高さ数十メートルを超える、大きく分厚い石造りの塀。天辺には櫓らしきものが、塀の上を長く設置されている。


 その門前に彼女はやってきていた。日本の城と違って、こちらは鉄製の門である。

 その門の前に、数人の番兵がいる。着ている制服などは、警官とは微妙に色合いが違う。鉄士協会の役員であろうか?


「今日ここで狩りがしたいがいいか?」

「ああ、よし」


 真澄が身分証らしき札を見せると、あっさりと通門許可が下りる。10㏊程の面積を囲うその中には、これまた堅固な鉄作りの柱と、石造りの壁で覆われた、六角形の建物。瓦屋根の形はどこかの寺院に似ているが、下の方は何かの要塞のようだ。


『何だいこれ? 狩り場に行くんじゃないのか?』

『この下に狩り場があるんでしょ。こういうのって、誤って獲物が人里に紛れないように、結構厳重に管理されるからね』


 確かに普通に考えれば当たり前だ。ゲームのように町を一歩出れば、モンスターに遭遇しまくるような環境などあり得ない。そうならないよう、事前に手を打たれるはずである。

 真澄はその建物の中に入る。内部は簡素で、武装した見張りが数人いる広間の中に、地下へと続く下階段がある。地面についた大穴に張られるような階段。それはかなり大きく、横幅は一度に十人分は通れそうである。

 客は真澄だけではないようで、真澄が入った後で、それに続いて別の鉄士も、数人ほど入ってきた。以前鉄士協会の役場でも見かけた、武装した鉄士も一人いた。


「あら? あなた昨日役所で新聞見てた人じゃん? 一人かしら? 階級は?」


 声をかけたのは、大きな錫杖のような杖を持った、袴姿の二十代半ばぐらいの女性鉄士。髪の色は黒く、肌色は黄色。鱗と尻尾以外は、かなり日本人に近い外見だ。

 持っている杖は、錫杖の輪の中に宝玉を埋め込んだような、変わったデザインだ。


『あの姉ちゃんは魔道士か何かか?』

『そうね。この世界には魔法とか普通にあるし。昨日あいつが入ってた風呂も、確か魔道具の温水装置がついてたはずだし』


 その女性鉄士は、やはり真澄の隣にいる小次郎が見えていないようで、彼女を一人だと認識して話しかける。


「ああ、昨日着いたばかりだ。階級は黒鉄、最下級だな……」

「あら奇遇ね! 私も同じ階級よ! ねえもしここにしばらくいる予定ならさ……私と組まない? 実は私、十日ぐらい前に登録したんだけど……何度も狩りに失敗して、いまいち稼げてないのよ……。やっぱり私ごときが、一人で狩りをするのは、無理があるみたいで……」

『おおっ、いいぞ! 女は多くいて困らないしな!』

「いや……悪いが遠慮しておく」


 勢いよく先に引き受けを返答する源一の言葉など、誰も聞くことなく、真澄は少々バツが悪そうに断りの言葉を入れる。それに女性鉄士は、実に残念そうに息を吐いた。


「そう……まあ、もしまた会うときに、気が向いたら言ってちょうだいね」


 それだけ言って、その女性鉄士と真澄は、黙って地下階段を通っていった。






 地下数十メートルはあるだろう、長い階段を下り、鉄士達は狩り場に移動する。

 内部は地下にも関わらずかなり明るい。各所に街灯のような明かりが、壁や柱についているからだ。これが人為的に設置されたものなのかは謎である。

 この広い四角形の地下広間。何故か中央には、大きな溜め池がある。その四方に、別方向に繋がる道がある。溜め池からは水路が延びており、そこから川が流れるように、それらの道を辿って伸びていた。

 水路は道の片方の脇を通っており、道を通るときは水路に沿う形になる。鉄士達は獲物がダブらないよう、各々別の道を選んで通る。

 真澄とあの女性鉄士は、偶然なのか意図的なのか、同じ道を通っていた。まあ入ってきた鉄士は、四人以上いるため、四本の道に一人ずつといかないようだが。


『何か道が分かれてんな? 正解の道とかないのか?』

『どの道を通っても、最終的に行き着くところは同じよ。まあ最終点まで行く奴なんて、そうはいないけどね』


 道を進む一行。壁や床は、鍾乳洞や廃鉱のようなゴツゴツしたものではなく、まるで人が通るために作られたように、綺麗に整備された石の道である。

 幅は水路を除けば、十メートル程。以前誰かに狩られた後なのか、道中で幾つもの動物の骨のようなものが転がっていた。

 水路の側を歩く時に、既に狩りを終えたらしい別の鉄士が、大きな血濡れた袋を持って、向こう側の道から歩いてきた。その彼と、すれ違い様に頭を下げて、先に進む。やがて獲物が現れた。


『あれが無限魔か?』


 現れたのは、数匹の蜥蜴のような生き物。恐竜のように前屈みの体型で二本足で立っており、頭には鮫のヒレのような角が生えている。竜と恐竜を組み合わせたような姿だ。体格は大型犬ぐらいあり、数は二匹。襲われたら普通に危なそうである。


『ようし俺の出番だな! 真澄、俺を使え!』

「ん?」


 真澄の懐の中で、早速源一が拳銃に姿を変える。真澄は感触的に、懐で何が起こったのか気づくが……


「はあっ!」


 真澄はその拳銃を使うことはなかった。腰の刀を抜き、先手必勝でトカゲ達に斬りかかる。トカゲは横に飛んで躱し、そして飛び跳ねてマスミに飛びかかる。そして真澄の腕に噛みついた。


「ちいっ!」


 腕に噛みつかれて一瞬苦悶するが、すぐに刀を振り直し、自分の腕のすぐ目の前にいるトカゲの首を斬り付ける。

 体勢が悪くて力が入らなかったのか、一撃で首を切断とはいかなかった。だが首の皮が切れて、血が吹き出る。昨日と一つ目と違って、血の色は赤い普通の色だ。

 それによって、トカゲの口が真澄の腕から離れる。その隙にもう一太刀。今度は勢いよく振った、渾身の一撃だ。これによってトカゲの首が完全に切断された。

 真澄の身体は大分丈夫なのか、それともトカゲの噛みつきが弱いのか、噛みつかれた腕の傷はさほど深くなく、出血も微量であった。


「くそっ、逃げるな! 当たれ! きゃあっ!?」


 もう片方の女性鉄士の方は、大分苦戦しているようだ。突き出された魔道杖から、何度も小さな火球が放たれている。

 源一にとっては、この世界で初めて見る、魔法の力。だがその力は、あまり強くないようである。連射速度は2秒に一発。銃器と比べるとかなり遅い。発射速度は、ボールを投げるより遅く、トカゲはそれを難なく躱していた。

 このトカゲ、動きはさほど素早いわけではないのだが。壁に当たった火球は、細かく砕けて、無数の火花となって消滅している。あれぐらいの火力なら、防火スーツを着ていれば、普通に防げそうだ。


「うわっ!」

「うわぁあああっ!」


 外した火球が、うっかり真澄に当たりそうになる。そして女性鉄士の間合いまで、トカゲが接近し、彼女に覆い被さった。

 トカゲに押し倒されるように倒れる女性鉄士。トカゲの体重が、一気に彼女の身体にのしかかる。女性鉄士はあまり体力がないのか、その押し倒しに全く動きをとれない。


 ガブッ!


「あいいいっ、痛い痛い!」

「このっ!」


 肩に噛みつかれて悶絶する女性鉄士。即座に真澄が駆けつけ、背後からトカゲを斬り伏せた。背中を三回ぐらい斬り付けて、真澄の身体が返り血で大分汚れたところで、ようやくトカゲは息絶える。


「あうう、ありがとう……」


 トカゲの死体をどけて立ち上がるが、女性鉄士の肩の傷は結構深い。服に赤い染みが、痛々しく広がっている。


「その傷では狩りは無理だな。すぐに引き返せ。……いや私も付き添おう」

「うん……いや自分で立てるから……ていうかそこまでしてくれなくても、ここは狩り場だから死んでも……」

「だが半月はまともに戦えなくなる。それは流石に嫌だろう?」

「そうだけど……うん、ありがとう。あんたってば、えらいお人好しね」


 折角取った獲物をその場に残し、二人は来た道を引き返す。先程手を組もうと言った女性鉄士は、随分と悔しそうな顔で、真澄の後をついていった。


『真澄……俺のこと使ってくれなかった……』

『そりゃあ、そうでしょう? こんな呪われてるみたいな、怪しげなもの、誰が使うかっての……』

『でもさっきの蛇の時は、使ってくれたのに……』

『さあ? 鉄士のプライドでもあるんじゃないの?』


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