第六十話 魔具達の事後処理
さて事が済んで、真澄とルチルが外ヶ浜町の宿へと戻る道中での出来事。
『そういやさ……源一はこれからどうするの? 私はそろそろ、冥界に戻る所だけど……』
『戻る? 俺への監視はどうなった?』
『もう必要ないわ。あなたはもう、ディークの侵攻から、このアマテラス大陸を救ったのよ。まあディークの戦力じゃあ、この大陸の列強国を一つして堕とせなかったとは思うけど。でもその前に、各小国で多大な犠牲が出ていたのは間違いないわ。その件では、あなたの功績はとても大きいわ。そういうわけで、あなたの罪は免罪と、私の裁定で処理することにするわ』
真澄たちには聞こえない、転生魔具と鬼神の会話。それは長らく共に彼女らの傍にいた者達の、別れの言葉であった。
『ええ~~折角ゲームクリアって雰囲気になったら、ここで女の子が一人減るのかよ? だったら少し休んでれば良かった!』
『そうですよ~~。俺はずっと、周りが男だらけの旅で、げんなりしてたのに……。これはちょっと酷いです! でしたら今度は、俺の側に来ませんか? 俺ってば、まだ罪を充分償ってませんし』
何故か隣にいた、犬形態のロビン=湖川までも、話しに入ってくる。これには源一が反論を始めた。
『おいおい……てめえ自分が大して役に立ってないこと逆手にとって、何ふざけたこと要求してんだよ! てめえはずっと、このイケメン司祭と二人旅で結構だろ!』
『何言ってるんですか? 俺と違って、散々女の子と同棲を楽しんでたくせに! 自分が物と思われることをいいことに、セクハラ紛いのこと散々……』
『はいはい、喧嘩しない……。生憎だけど湖川の監視はしないわ。あなた元々、一度として、この世界の冥界の管理下にはなかったし。そもそも罪人でもないし……』
また口げんかを始めそうになったところで、すぐ小次郎が止めに入るが、その言葉には少々引っかかるものがあった。
『罪人じゃない? そういやこいつ、どういう経緯で、こんなになったんだ? カーミラは何も言ってなかったが、俺と同じじゃないのか?』
『そういや沼田さんは、自殺がきっかけで、地獄に送られたんだっけ? 俺は違いますよ。自殺なんかしてないし……』
『じゃあ何で死んだんだよ?』
『いやあ……それがね。事務所クビになった後で、やけ酒を飲みまくって、そのまま運転したら、川に転落して事故死です。そんでしばらくして気がついたら、あのブルーノっていう人がいる傍で、勾玉になって寝てました』
『どっちにしろ、褒められない死に方ね。人様に迷惑よ。どうやら最初に、この世界に迷い込んだ源一を拾って、その後でその関係者の湖川を、カーミラが被験者に選んだようね。ともかく私がここにいる理由はないから、もうじき帰るわね』
明かされる湖川の真実。……まあ大して深みのある過去ではなかったが。
『本当に行っちまうのか? 今までお前も旅を楽しんでる風だったのに。残念だよマジで……』
『まあ楽しんでたのは確かね。今までずっと、冥界で罪人の胸くそ悪い過去を見続けて、げんなりしてたし。これからも適当な理由付けて、現界に降りてくるのもいいかも。こいつらみたいな善い人間の姿も、たまには見ておかないと。でも今は駄目ね。これからしばらくの間、一気に増えた仕事で、凄い忙しくなりそうだし……』
『仕事が?』
『ええ、さっきあんたらが殺した、四十万人のディーク兵よ。あいつらの大部分は、直接手にかけてなくても、他国から搾り取った富で、いい暮らしをしていた大罪人がほとんど。……特に上位の騎士や政治仕官なんかも乗ってたからね。あれを全員裁くのは、相当大変な仕事よ。代理に全部任せてられないわ……』
あの艦隊に乗っていた者は、恐らく殆どが死んだであろう。生き残って、この砂浜に打ち上げられるのは、全体の一%にも満たないのではないであろうか?
恐らく相当な数の重罪人が、地獄に堕とされることとなるであろう。
ルチルが心配していた、多くのディークの信徒が、生きている内に罪を償わずに、地獄行きになる状況。残念ながら、それは防げなかったようだ。
『ああ……まあそうだよな。悪かったな、お前の仕事を増やして……』
『別にいいわよ。どうせあいつら、いずれは死んで地獄行きになる運命だったし。それが早まっただけ……。むしろあいつらが、これ以上罪を重ねて、地獄行きの期間を増やす前に、あんたらが片付けてくれた。そういう意味では私らも、そしてあいつら自身も、案外救われたかもしれないわよ……。じゃあここでお別れね、機会があったら、また会いましょう……』
【そうか、じゃあ私からも、また別れを言おうか?】
『『!!??』』
最後の言葉は、この場にいる者の声ではない。念話か何かだろうか? 何者かが、遠くからこの場に声を届けているのだ。それは霊体専用のようで、霊感のない真澄たちには聞こえていない様子。
『その声は……東海林か?』
【その名で呼ぶな! 私はカーミラだ!】
本名で呼ばれて、少々怒っているその声の主は、この件の始まりを起こした人物の一人である、あのカーミラと名乗る魔道士の声であった。
源一と湖川を、転生魔具の披見体にして、あの万能武器と万能魔獣を生み出し、結果的にこのアマテラスを救った、異世界の魔道士である。
【……ともかく、お前達の働き、実に見事であった。おかげで私の研究に有益なデータが、十分すぎる程得られた上に、多くの国を救うことができたからな。お前達には感謝しても仕切れぬ。誠に勇者と呼ぶに相応しいよ。異界の転生戦士達よ……。お前達を生み出して私も、大魔道士として鼻が高い!】
何だか無理して偉そうな口調で話している風のカーミラ。これに源一が、冷めた様子で問いかける。
『お褒めにお預かり光栄だよ。そんで俺たちはこれからどうなるんだ? 用が済んだから回収されて、廃棄処分か?』
【何を言うか? 私がそのような事をする、冷酷な魔女に見えるか?】
『当人の許可なしで、勝手に人を変な実験に使いますからね。俺だって、中々信用できないですよ……』
湖川も彼女に、少々攻めるような口調。どうやらカーミラは、二人からあまり信用されていないらしい。
【全く力を与えてやったのに、失礼な奴らだ……。まあいい、今回の功績がとても大きかったから、こうして激励に来たまで。別にお前達の実験が、まだ完全に終わったわけではないぞ! 源一、お前にはまだ、二つの変身が残っているからな。そこまで至ったデータが手に入るまでは、まだ研究は続行だ。それが終わったら……そうだな、お前達を生き返らせてやってもいいぞ? 今の私には、それを可能にできる研究も、並行して行っているからな】
『結構だ。俺はこの身体が、結構気に入っているからな。そんで残り二つの変身? 何になるんだ?』
どうやら源一の兵器への変身能力は、まだあるらしい。日本の兵器の最上位と言えば、普通は護衛艦で止まるはずだが、まだ上があるのだろうか?
源一は生き返るのには興味はないが、そっちの方には興味があった。
【それはまだ秘密だ。お前達も、実際に進化してみて、その時に初めて知る方が、楽しいんじゃないのか?】
『進化してみてって……そうは言っても、経験値元の眼妖がもういないんだが?』
万能武器も万能魔獣も、どちらも眼妖のエネルギーを吸い取って進化する。だがこの大陸には、素材となる眼妖がいないし、それをばらまくものもいない。それでは進化などできようもない。
【安心しろ、ゼウス大陸にはまだいる。恐らくだがあのルチルという白魔道士は、しばししたら祖国のディークに向かうはずだ。あの者には、祖国の者達を救いたいと思ってるはずだからな。その時に真澄とお前も一緒に行くがいい。この私のもう一つの研究被験者と協力して、更なる功績を残すことを期待してるぞ!】
『もう一つの研究? あなたまだ、この世界で何かする気?』
次に言葉を発したのは小次郎。カーミラの行為に、良くも悪くも仕事を乱された彼女からすれば、それは見逃せないことであろう。
【まあな。この私は次に、武器ではなく、生きている人間の肉体を使って、転生者を作る実験をしている】
『人間の肉体? それって魔具に魂を入れるより簡単じゃない?』
元が人間の死者の魂を、同類の生物の肉体に入れる。人間を武器やら魔獣やらに転生させるのと比べると、普通に考えれば、それほど大層な事ではないような気がするが……
【ただの人間ではない! 用意する肉体は、春明という緑人のクローン体だ。強大な力と、完全な不老不死の肉体を持つ緑人を、転生者として無限に作れるようにする、実に素晴らしい研究だ! 遺伝子の提供者として、当人からの許可は貰っているから、何の問題もなく実践できる。ある意味で万能武器よりも、大きな成果を残せるかもしれん! ああ、私自身の才能と偉業が、素晴らしすぎて怖いわ……】
『春明? ……ああ、狩り場を作った奴か』
自身の研究計画を、酔いしれた風に語るカーミラの隣で、源一達は出てきた名前に少々悩んだが、すぐに思い出した。
以前真澄の話にあった人物。異界から現れ、あの狩り場という、生きている資源を無限供給してくれるシステムを作ったという、異界の能力者の名前である。
『感心しないわね……他所の世界で、そういった死者蘇生を頻繁に行われると、こっちの面子が潰れるんだけど……』
【ならば、その時が来たら、お前達も報告しよう。何か問題がある内容だったら、色々申し出をしてもいいぞ。私は、他人のどんな意見も寛容に聞いてやれる、心も偉大な大魔道士だからな! なんなりと申していいぞ!】
『あんたね……まあいいわ』
少々疲れた風の小次郎。どうやらカーミラは、この世界での実験を、何を言われてもやめる気はないようだ。
小次郎も彼女のことを、一方的には否定せずに、とりあえずその場でこの話は流す気にしたようだ。
【うむ、この世界の神からの承諾も得られたようだし、ここでしばし別れだが……その前に、お前にやっておくべき事がある。源一、お前の起動を一時停止する。お前には半年ぐらいの間、休眠させてもらう】
『休眠!? おいおい何でだよ……?』
この肉体の創造者からの急な申し出。今まで何も問題なく力を使ってきたのに、あまりに急な話しであった。
【お前自身、実感が湧かないだろうな。まあその無機物の身体では、生きし者の感覚は、構造上読み取りにくいだろうが。お前のその勾玉の身体は今霊力(=MP)を消費しすぎている。それだと、恐らく次に何かあったときに変身しても、拳銃の弾ぐらいならまだしも、それ以上の弾薬は、一切出せなくなるぞ】
『消費? 俺の身体にそんなのあったのか?』
今までの戦いでは、どんなに弾薬を使い続けても、少し時間経てば勝手に補充されていた。てっきり弾薬は、無限生成されるものと思ったが、そうでもないらしい。
【ああ、この短期間で、予想以上に速く進化した上に、弾薬を使いすぎたからな。さっきの護衛艦の武器を使い切った辺りで、そろそろ限界が来たようだ……。悪いが霊力が満タンになるまでに、お前には少し休んで貰うぞ……】
『ああ、そういえば撃ちまくってわね、あんた。私もあの弾薬の補充にかかるエネルギーは、どうなってるのか疑問だったけど……』
どうやら先程の護衛艦での戦いが不味かったらしい。
最初に弘後町付近で変身したときも、かなりの量の弾薬を、試し撃ちしていた。その数日後に、ディーク艦隊相手に、搭載している弾薬の、ほとんどを消費する勢いで撃ちまくっていたのだ。
もしこれがコピーではない、本物の護衛艦だったりした場合、いったい何億分の費用を消費したか判らない。これまで撃ってきた、銃弾や戦車の砲弾とは、比べものにならない出費である。
この源一の変身の場合、新しい弾薬の購入などで、費用を出さなくてすむ強みがあった。だが代償が全くないわけではなかった様子。
『その時までに、真澄たちがまたやばいのに関わったらどうするんだよ?』
【その時はまた、満タンになる前に起こしてやろうぞ。どのみち、いざ変身したときに、何も役に立てないようでは駄目だろう?】
『判ったよ……しばし寝てやるよ。だが何かあったらすぐに起こせよ! 絶対だぞ!』
【大丈夫だ。偉大なる魔道士は、契約を破ったりはせぬよ】
蛇足話:作中で何度か名前が出てきた“春明”という人物は、私が以前書いた別作小説の主人公です。




