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第五十八話 王女拘束

 さて舞台はまた海岸の方に戻る。焼け焦げ砂だらけの死体がどっさり積まれた大地で、悟朗を人質に取ったルシアと、ルチル達が対峙していた。

 しばし両者は無言で睨み合っていた。そして最初にルシアが口を開く。


「おいお前……今から町に行くわよ。そして私にゼウス大陸まで渡れる船を用意しなさい……」


 髪が半分焦げて、泥だらけの顔で、血走った目で、刃を突き立てる悟朗の耳元に、ルシアはそう告げる。

 その死に神のような形相に怯えながら、悟朗はゆっくりと首を縦に振る。そしてルチルの側を通り過ぎようと歩き出すが……


「逃げられると思うんですかルシア。恐らく船に乗りこむ前に、すぐに取り押さえられますよ。多分町の方には、警察の方々が大勢いますし。例え切り抜けられても、その怪我と流した血の量は……」

「黙れ、裏切り者! 私は帰るんだ! 私はこんなところで終わる奴じゃないのよ!」


 最後まで生き残る希望を捨てないのは良いことだが、今の彼女のその姿は、あまり勇猛さは感じられない。ただ陸で無闇に藻掻く魚のように、無意味な抵抗をしているだけにしか見えなかった。


「終わりたくないなら、大人しく降伏してください……このままだと貴方は死にますよ」

「そうですルシア殿下! そのお身体ではもう、命は持ちません! 大人しくこの国の警察に身柄を……」

「うるさい! また私に、蛮族共の汚い牢獄に入れというのか!」


 ルチルとブルーノの説得にも耳を貸さないルシア。正直彼女は、もう正気を保っているとは、とても思えない状態である。


「ルチルさん、どうしてここに!? いや、そいつは!?」

「大変だ! 敵兵がまだ生き残ってるぞ!」

「誰かが捕まっている! 全体構えろ!」


 更にその場に駆け込んでくる警察隊。二百人以上の武装した警官達が、その砂浜に雪崩れ込み、ディーク兵の死体を踏みつけながら、ルシアを包囲する。


「くう……来るな! それ以上近づくと、この男を殺すぞ!」


 そう発破をかけながら、ルシアは悟朗を掴み進み出る。ナイフを持った手が震え、悟朗の首から血が流れ出ている。その状況に、警察隊も渋々彼女に道を開けていった。


「おい、ルチル! 私に回復魔法をかけろ! それと蛮族共、私に血を寄越せ! 輸血だ! ただし蛮族の血は入れるな!」


 すると今度は、かなり無茶苦茶な要求を口にするルシア。あの回復魔法ならともかく、あの状況でどうやって輸血をするというのか?

 しかも今外ヶ浜の病院にある血液は、全て現地の鰐人の血液である。血液の適正は、純人も獣人もほぼ変わらないので、異人が輸血を必要としたときも、普通に鰐人の血が使われる。

 今から異人から血液提供者を募り、献血→輸血の作業をするというのは無理だ。それが終わる前に、恐らく彼女は失血死するだろう。


「ルチルさん……あんな事言ってますけど……?」


 皆がルチルに目を向ける。その彼女の方は、少々疲れた様子で答えた。


「仕方ありません……とりあえず回復魔法の方は私が。血の方は……」

「お~~い! ルチル、ここにいたのか!? 無事か!?」


 そこでまた割り込む者が現れた。警官隊の次に駆け込んできたのは、多勢の鉄士達。その先頭にいるのは、ディーク艦隊と戦っていたはずの真澄であった。


「真澄さん、何故ここに? そういえば海の方に船が一隻も……」


 不思議に思ったルチル達と警官が、海の方を見ると、すぐに納得した。

 海にはあれ程いた船は、敵味方含めてもう一隻もいない。ただ多すぎる残骸が、海を覆い尽くし、波に流れて海岸に近づいている、異様な光景があるのみ。

 戦勝の帰還をした彼らは、町にいるはずのルチルがここにいるのに驚き、更に彼女たちの先にいる人物に注目する。


「父さん? それにそいつ……ルシアか!?」


 皆が囲っている者がルシアだと判ると、真澄は即座に源一変身の拳銃を、そちらに向ける。他の鉄士達も、一斉に武器を構え始めた。


「何だか面白いことになってるな……父さんが人質か? それで要求は何だ?」

「ルシアは自分の治療と、ゼウス大陸行きの船を要求している。どちらも無茶な相談だが……」


 いつの間に警察達の中にいた美夜子が、真澄に返答した。真澄は父親が危機に陥っている状況に、特に動揺せず、ただ呆れかえっている様子だ。


「はあ……確かに無茶な。しかし人質もあんまりな……そいつ後で自殺してもらう約束だし……」

「確かにな。私達も、こいつのために無茶をしてよいものかどうか、少し悩んでいる……」

「!!」


 人質に対する心配の言葉は一切ない。それどころか真澄も警察も、随分無情なことを言っている。酒井悟朗のトンデモ発言は、実は結構な数の人の間で広まっている。

 この状況で、彼に同情をするものはとても少なかった。この状況に、当の悟朗は、声を上げられずとも、目を見開いて焦りに焦りまくっている。


「何をブツブツ言っている! さっさと治療しろ!」


 興奮状態がどんどん上がっているルシア。だがそれに動揺しない。真澄は銃口を向けて、どんどんと彼らに歩み寄る。他の警察達も、彼女を邪魔せずに、静かに道を空けていった。


「おい父さん……随分怖がっているようだけど、もしかして助けてほしいのか?」


 真澄の平然とした口調の問いに、悟朗はこくこくと首を縦に動かす。その動きのせいで、首筋にナイフの刃が更に食いこみ、出血が増える。


「でもお前……助かっても、この後自決する予定だろ? 確か私以外の一族郎党全員とか? それじゃあ今ここで、手間かけて助けてもらう必要もなくないか?」


 真澄の更なる非常の問い。だが悟朗は、それを涙目で、必死に首を横に振っていた。


「何だその首の振りは? まさか死にたくないってのか? ガキの頃から、あんなに散々、何でも誠実な態度で示せ、筋道はしっかり守れ、とかえらそうに説教垂れといて……この状況でその教えを捨てて、命を請うのか?」


 これに悟朗は、首を縦に動かす。肯定の意思表示だ。これに真澄は、呆れから怒りの感情を沸き始めた。


「さて、どうしようか? このままそいつごと、お前を撃ち抜いてやってもいいけど……」


 この状況に、人質にする相手を間違えたことを後悔し、更に焦り出すルシア。

 人質ごと撃とうとする真澄に、今まで呆れながら様子を見ていた周りの鉄士や警官達も、少し同様している。だがそれを、直接止めようとする気配はない。


「いや悩むまでもないな。もう撃っちまおう……」


 引き金に指を入れる真澄。これに周りの者も、目を背け始める。

 誰も彼女を止めようという勇気を見せない中、唯一意義を唱える者が現れた。


「待ってくれ真澄さん! そんなことしちゃいけない! 銃を下ろすんだ!」


 声を上げたのはブルーノであった。突如ルシアとの間に駆け込み、両手を挙げて真澄の前に立ち塞がる。


「何してんだ……こんなことしちゃいけない? そいつを見逃せって言うのか?」

「そうではないが……」


 ドゴッ!


「ぐあっ!?」


 その途端に発せられた声は、何かを叩きつけるような音と、何故かルシアの悲鳴であった。

 皆が振り向くと、そこには砂浜に顔をぶつけて踞るルシア。ナイフから解放されて、へとへとになって、膝をつく悟朗。

 そしてその周りにいるのは、黒ずくめの奇怪な衣装を来た、謎の三人組であった。

 その三人組が、倒れているルシアに組かかり、手を押さえつけている。


「お前らは……確か狩り場で」


 それは以前、狩り場でブルーノを誘拐しようとした、あの王政府の隠密達であった。

 どうやら皆が真澄達に気をとられている間に、背後からルシアの脇腹を一撃し、更に抵抗できないように組み伏せたらしい。


「貴方のおかげで、無事ルシアを再逮捕できた。協力感謝する」

「いや、別にそういう理由で、銃を出したわけじゃないんだけどな……」


 一先ずこれで一件落着。周りで構えていた者達も、安堵して武器を解き始めた。

 手錠をかけられ、完全に動きを封殺されるルシア。だがまだ小さな問題が一つある。彼女の負傷である。


「誰か回復魔法をかけられるものはいないか? こいつの応急処置を頼みたい!」


 美夜子がそう周りに呼びかける。一応敵とはいえ、逮捕者をそのまま死なすわけにはいかない。その応募に、ルチルが名乗り出た。


「では私にやらせてください……」

「そうか判った、頼む」


 手錠をかけられ、両手を隠密達に取り押さえられた状態で、ルチルがルシアに回復魔法をかける。

 掌から放たれる白い輝きが、彼女の破片が突き刺さった背中に、淡く照らされた。そして以前、銃で撃たれた野党の時と同じように、その破片が勝手に傷口から抜けていき、急速に背中の傷が塞がっていった。

 傷が塞がり、これ以上の出血がなくなったことを確認すると、隠密と警官達は、すぐにルシアをその場から連れ出そうとするが……


「待ってください……私に少し話しをさせてください……」


 ルチルの頼みを素直に聞き入れて、隠密達はしばし止まる。そしてルチルは、ルシアの顔の向く、正面と向かい合う。


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