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第五十三話 砲撃戦

「やったぜこれ! 見たか、真澄さんの力を!」

「ははっ、燃えてるぜ! それにひっくり返ってる船までありやがる!」


 あきづきの艦橋では、敵に第一陣に早々に打撃を与えたことに、皆が歓喜の声を上げていた。

 先程の警告通り、そして鉄士達の要望通りに、たった今、真澄は敵艦隊に攻撃命令を下したのである。


「ようしこの調子だ! 海岸攻撃用の二発を残して、残り五発の“大きい矢”をぶっ放せ!」






 護衛艦あきづきの甲板にある武装には、一目で判る主砲以外にも、実に判りにくい所にあった。

 それは四つの大型の鉄筒を、金属の格子で束ねた、竹細工のような謎の物体。四つずつ束ねられたもの、計二つ。合計して八つの謎の鉄筒がある。

 それの名前は、九十式艦対艦誘導弾を搭載した、4連装発射筒である。それは現在、ディーク艦隊のいる方角の海の、斜め上に、筒の先を向けている。


 その発射筒の一つから、筒の蓋を吹き飛ばし、そこから打ち上げ花火のように、誘導弾が発射される。

 竜の炎にも負けない火力のロケット噴射を吹きながら、真澄たちが“多きな矢”と呼んでいるそれが、高速で空へと放たれる。

 その様子は、遠くから見ると、打ち上げ方向をミスった花火にしか見えなかったであろう。だがこの打ち上げ花火は、空を自在に飛べる。

 最初は斜め上に飛んでいた誘導弾は、軌道を変えて下降していく。その飛んでいく先は、ディーク艦隊の前方付近にある、一隻の艦である。






「何が起こったんだ!? いきなり船が爆破したぞ!」

「どういうことだ!? 海底火山でも起きたのか!?」


 艦隊は今の爆発で、当然のごとく大騒ぎ。広い甲板の上を、多勢の水夫や兵士達が、何をすべきか判らず混乱しきっていた。


「海底火山ではありません! 恐らく敵の攻撃です!」

「攻撃だと!? 何を言っている!? 上級の魔道士でも、あれほどの爆裂など起こせるはずが……」

「しかし私は見たんです! 敵艦から、光る矢のようなものが飛んできて、同胞の船の一隻に当たるところを……」


 ある兵士が、困惑する上官に、自分が見たものをありのままに伝える。だが上官は、その言葉を信じられないようであった。


「今のが敵の砲撃だというのか!? 馬鹿をいえ、敵艦と我が艦隊が、どれだけ離れていると思っている! あの距離で砲弾が届くはずが……」

「ああ、来ました!」


 慌てて部下が空を指差し、上官がその方向に振り向く。そこにはついさっきあきづきから放たれた二発目の誘導弾が、空をかけている光景。

 後続には、三発目・四発目の誘導弾が、流れ星のように空を舞っているのが見える。そして二発目の誘導弾が、下降し始め、そしてそれがこちらに向かって、高速で接近していた。


「あれ……この船に飛んできてません?」


 誰かがそれに気づいたときには、もう手遅れだった。隕石のように落下してきた誘導弾が、彼らの乗る大型艦の甲板に直撃した。

 誘導弾は甲板の床を突き破り、船体の高さの半分ぐらいにまで、銃弾のようにめり込み、そして大爆発した。


 ドオオオオーーーーン!


 誘導弾の弾頭の爆発により、その船は内側から木っ端微塵に砕け散った。

 爆発したのは、弾頭の炸薬だけではない。この船に詰め込まれた大量の武器、その中の爆薬にも引火し、本来の誘導弾の威力以上の、大爆発を引き起こしたのだ。


 その爆発の威力や否や、直撃を受けた艦は、原型を何一つ留めずに粉々になり、炎の雨となって周囲に四散した。

 そしてその爆風と、四散した欠片が、周囲の船を巻き込んだ。


 前述したとおりに、この艦隊は召喚の都合上、極度の過密状態にあった。

 そのため、すぐ隣に浮いていた船の爆発に巻き込まれ、直撃を受けていない多数の艦が、一纏めに大損害を受けることになる。


 爆風で同じく木っ端微塵になる艦。

 木っ端微塵とはいかなくとも、大損傷を受けた上に、爆風で転覆してしまった艦。

 熱風と火の付いた欠片を浴びて、大火災を起こす艦。爆風を受けて、船体が海面から動き、隣の同軍の艦と衝突事故を起こした物。


 その損害の程度は、爆発位置との距離や方角の関係で、大小様々。少なくとも今の攻撃で、十隻以上の艦が、戦闘不能になるほどの損傷を受けていた。

 そしてそれはここ一カ所ではない。あきづきから次々と放たれる、同様の誘導弾によって、艦隊の各所で同じ大被害が、連続して起きていた。

 ついさっきまで勝利を確信していた、ディークの大軍勢も、この状況に一気に焦り始めている。


「何だ!? もう飛んでこなくなったぞ!?」

「矢切れか!? ようし撃てえ!」


 六発を撃った段階で、あきづきから誘導弾が飛んでこなくなった。あきづきの本来の性能を考えれば、後二発は残っているはずだが……


「撃てって……あの距離では砲弾が届くはずが……」

「何を言っている!? 向こうの砲が、こっちまで届いたのだぞ! ならばこっちの砲だって、届くはずだろうが!?」

「いえ、どう見ても向こうの砲は、我々が使っているのとは……」

「いいから撃て! さっさとしないと首を刎ねるぞ!」


 各艦で怒号が鳴り響きく。そして艦隊の、あきづきがいる方角の外周にいた艦が、あきづきのいる方角向けて、一斉に砲撃を放つ。


 ドン! ドン! ドン!


 艦隊に搭載されていた、何十ものカノン砲やカルバリン砲が、一斉に火を噴いた。

 十キロメートル先にいる、あきづき目掛けて飛ぶ、数十の砲弾。だがそれは、一発とてあきづきには当たらなかった。それどころか、そこまで弾が届くこともなかった。


 飛んでいった砲弾が、小石のようにボチャボチャと、海面を撃ち抜いて沈んでいく。

 あきづきと艦隊との距離は、約十キロメートル。だが艦隊の兵器で、最も飛距離が長いカルバリン砲ですら、飛距離は五キロ程度しかない。ここから撃っても、届くはずがないのである。






「向こうが反撃を開始しました。ですが一発も、こっちには届きません~~」

「あはははっ! 馬鹿みたい! 自分の武器の威力を知らないのか!?」


 艦橋では、無駄な攻撃を繰り返す敵艦隊を見て、実に楽しげな雰囲気だ。とても戦場に赴いた戦士のものとは思えない。


「大きい矢は予備を残して全部撃ったわ! 次はどうする?」

「もう判ってんだろ? 大砲をぶっ放せ!」


 前部の甲板に、まるで置物のように設置されていた、丸くて砲身が針のように細長い大砲。あきづきに唯一設定されている大砲の、Mk 45 5インチ砲が動き出す。

 砲台そのものが、誰の手も借りずに自動で動き、砲口を艦隊のいる方角に向ける。この巨大な艦に、積んである大砲はこれ一個だけ。しかもこのやけに短い砲身。

 この世界の者が見れば、何とも頼りない装備に見えたであろう。だが異世界の兵器をコピーしたこれには、この世界の常識は通用しない。


 ドン!


 砲台に比べて小さな砲口から、一発の砲弾が、常識では届かない距離にいる艦隊目掛けて、一発発射された。


 ドオオオオオン!


 その見た目は頼りない砲弾は、撃ってみると一発撃っただけで、大層なものであった。

 さっきまであきづきに向かって、砲撃を加えていた艦の一隻に、その砲弾が先程の誘導弾以上の速度で着弾し、大爆発を起こす。

 最初の一発で、船体そのものがへし折れかねないほどの大爆発が、船の側面ど真ん中で起きる。張られていた薄い装甲は紙のように突き破られ、大量の木材の欠片が飛び散る。


 ドオオオオオオオオン!


 そしてその爆発の後、一秒とも経たない内に、二度目の爆発がその艦を襲った。

 船全体が、原型を留めないほどに木っ端微塵になり、その爆発による爆風と飛散した破片が、隣にいる複数の艦に更なる被害を与えた。


「何だ!? またあの矢か!?」

「いえ! どうやら敵の主砲によるもののようです! 先程一発撃ったのが見えました」


 ある艦の船長が、双眼鏡であきづきの様子を見ていた者からの報告を受けて絶句していた。


「馬鹿な!? こっちの砲弾は届かないのに、どうして敵は届くのだ!? このような不公平なことがあってたまるか!」

「ああ、また撃ちました!」

「はあっ!? 今撃ったばか……」


 ドオオオオオオン!


 言葉は最後まで続かず、ちょうど狙い撃ちされたその艦は、船長もろとも焼却解体され、海の生ゴミとなった。

 さらにその爆風と飛散破片が元で、隣にいた艦が多くの損傷を受けて、横側に強制移動。それによって更に隣にいた艦に、側面から衝突事故を起こした。


「うわわわっ、揺れる揺れる!」

「早く離れろ! すぐに体勢を整え……」


 ドオオオオオオオン!


 二つの艦が密着状態になった所を、更にまたあの砲弾が命中する。それによって二つの艦が、一発の砲弾によって、同時に撃沈されることとなった。


 次々と発射されるあきづきの砲弾。その発射速度は、三秒に一発程度。ディーク艦の大砲の、十倍近い速度である。

 射程の長さも、発射速度も、ディーク艦とは格が違いすぎる。しかもこの砲弾、一発も外さずに、ほぼ完全命中している。


 あれだけの艦が、一カ所に纏まっていれば、適当に撃っても命中率は高いだろう。だが今の現状は、それだけでは説明しづらい。

 今当たった艦のように、船同士が衝突・密着したところを、まるでそこを狙ったかのように、次々と砲弾が当たる。

 そのために、一発の砲弾で、複数の艦が潰されるという、実に効率の良い狩りが行われていた。


 大砲の命中率が悪く、一隻で大量の砲を設置し、下手な鉄砲数撃てば当たる、の原理での、この世界の海戦の常識とは、明らかに違う様子であった。



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