表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/62

第五十二話 あきづき

 この外ヶ浜町を脅威に陥れようとしている、異国の大艦隊。町の方でも、この艦隊を見た人々が、大混乱を起こしていた。


『皆さん! 今よりここは戦場になります! 警察隊の指示に従って、すぐに町から退避してください! またウェイド人を名乗っている異人には、決して近づかないでください!』


 町中に響き渡る拡声器による警察の避難勧告。既にこの町の付近には、二千人の警察隊が待機している。この国の警察総員の、半分がここに集まっているのである。

 海の上から敵艦隊が現れたと思ったら、あまりに対応が早い警察の避難勧告。人々は困惑と驚愕で、ざわめいていた。


「ウェイド人が!? どういうことだ!? あいつらが連れてきたっていうのか!? あいつらは友好のために来たんだろ?」

「馬鹿! まだ判らないのか!? 俺たちは皆騙されてたんだよ! そのぐらい見て判れ!」

「警察はこのことを知ってたの!? じゃあ政府が異人を捕らえてたって話しは……」

「大変だ! ルシアはあの艦隊を喚んで、この国を滅ぼす気だ! 俺は見たぞ! あいつがそれを召喚して、ディーク万歳とか蛮族は殺せとか、叫んでるところを!」

「とにかく逃げよう! ここは不味いぞ!」

「馬鹿が! 逃げてたまるか! せめてこの町にいるウェイド人共を、八つ裂きにしてやる!」


 逃げようとする者、戦おうとする者、訳が分からず慌てふためく者。人々の反応は様々である。

 逃げる選択をした者は、放送通りに警察に付いていったり、家の荷物を大慌てで纏めようとしている。

 戦おうとする者は、武器を持って、町にいるウェイド人を名乗っている者を探し出している。


 この町には、海岸でルシアの護衛をしていた者以外に、数千の自称ウェイド人が宿泊していた。

 だが今は、何故か朝方から、ウェイド人の姿が全くない。恐らくは海からこの町に、砲撃を加える前に、町から脱出したのであろう。

 そのせいで、ウェイド人と間違われた、関係のない異人に危害が及んでいる。





 さて海に現れた艦隊は、町に攻め入ろうと、進軍の開始を始めている。

 だが直ぐには艦隊は動かせない。 何故なら現在この艦隊は、行き過ぎなほどの過密状態であるからだ。

 船同士の距離が、極端に短く、ちょっと動けば、すぐに衝突事故を起こしそうな程である。

 あの赤い召喚の門は、あの門自体が、後ろに移動して、物の上に被せた布を捲り上げるような形で、この艦隊をこの空間に移動させていた。その間艦隊の船は、一切動いていない。

 召喚魔法で一定範囲に出現させるために、可能な限り沢山の船を移動させるために、この狭い範囲でギリギリで船を動かすしかなかった。

 そのために、直ぐに全軍出撃という訳にはいかず、まず船同士の距離を開け、艦隊をばらけさせる必要があった。



 さてそんな出撃に時間をとられている最中に、東の方角から、新たな大型艦が、そこに接近していた。

 別に召喚されたわけでもなければ、この艦はディークの船ではない。源一が変身した、日本の兵器の一つである。


 それは全長百五十メートル程もあり、ディークの超大型艦を遙かに凌ぐ巨大さである。

 ディーク艦と違って、砲門はほとんどない。見た範囲で、武器と思われる物は、船体前部の甲板に置物のように設置されている、卵のように丸っこい砲台のみ。そこから伸びる砲身は、鉛筆のように細長い。

 全体的に青みがかかった灰色の機体で、その材質は外観から判らない。ただディーク艦のように、装甲を一部に貼り付けた木造船とは、大きく異なることが判る。

 そしてこの船には、帆や外輪といった、本来船の動力となる物が見受けられない。帆が付いていない代わりに、天辺に奇怪な形の角が生えた、塔のような建物がある。そこはこの船の中心である艦橋がある部位だ。

 帆も外輪もないのに、ディーク艦以上の速度で動いている船。船体の後部の海が、渦潮のように海面が揺れている。現代日本人ならば、これがこの世界にはないスクリューで動いている船であることが、すぐに判るだろうが。


 これまで多勢の眼妖を倒し、更なる進化を遂げた源一。その彼が今変身しているのものは、日本の海上自衛隊の艦艇の一つである、あきづき型護衛艦である。

 今まで変身した、戦車や戦闘機などとは、比較にならないほどの超大型近代兵器が、この魔法を除けば中世レベルの技術しかない世界にて、海の王者のようにその偉大な姿を現したのである。






 護衛艦あきづき(にコピー変身した源一)の、塔のように長い環境の内部。縦一列に格子ががついた窓ガラスが、一帯を見渡せるように、部屋の前方全てに並んでおり、外の様子がよく見える。


 そしてそこには、舵だけでなく、様々な器具が、無数に設置されている。

 その中には時計のようにしか見えない、ただし時刻を刻んでいない謎の円盤。

 壁に設置されている、無数のスイッチが付いた箱。

 そして光る紋様が描かれた、地図のようなものが表示されている映像機。

 などなど、本来この世界の住人が見れば、何が何だか判らないような、器具が山ほどある。そこに真澄はいた。艦長を気取っているのか、艦橋内部の真ん中の、赤い椅子に畏怖堂々と座っている。


 そしてこの護衛艦に乗っているのは、真澄だけではなかった。この艦橋だけでも十人以上、護衛艦全体に百人近くもの人が乗っている。

 それは真澄と共に、ここに搭乗した、警官と鉄士達であった。彼らは産まれて初めて見る、この機械の船に戸惑っていた。

 だがいざ乗ってみて、機体に触れた途端に、真澄同様に頭の中に護衛艦の運用法が流れ込み、実に手早くこの船を出航させて見せたのだ。


「うわぁ……凄い数の船ね……これは眼妖以上に盛大な狩りになりそうね」

「敵艦の数は……ええと全部で二百七十七隻ね。これだけの数の大型船、よく用意できたわね・・・・・・ていうか多すぎだわ・・・・・・。確か前に来た艦隊は、八十隻だったのよね?」

「ええ・・・・・・今回はそれより少し多いぐらいだと思ったけど、ちょっと読みが浅かったわ。この船の弾薬で、全部仕留めきれるかしらね? ・・・・・・まあやるだけやるしかなわいね」


 艦長席から外を眺め、数キロメートル先にある大艦隊を見て、感嘆する真澄。そしてそれに、レーダーを見ていた鉄士が、正確にその数を伝えた。

 その鉄士は、以前共に戦車に乗って戦った、あの春日である。そこに双眼鏡(何故か艦内にあった)別の鉄士が、真澄に問いかけた。


「どうしますか? 今すぐ撃ちますか? というか早く撃たせてください!」

「まあ、待て……無駄だとは判ってるが、とりあえず警告はしよう……」


 皆が早くこの艦の火力で、敵を屠りたくてたまらない気持ち。急かす乗員達にすぐには乗らず、とりあえず艦長としての常識的行動をまずとることにした。






『おい、てめえら! ここは津軽王国の領海だ! 交易船と使節船ならまだしも、軍艦を勝手に入れちゃ駄目だそうだ! 私、法律詳しくないから、よく判らんけど! とりあえず、お前らさっさと帰れ! 帰らなきゃ、この万能武器の船で、お前ら全員ぶっ潰す!』


 通常の海上自衛隊の艦では、不適切な言動で、敵艦に警告を送る真澄。艦のスピーカーから、大音量でその声が、この海域に響き渡る。

 恐らくその声は、間違いなくディーク大艦隊にも届いたはずだ。






「さて後十分待て……相手の出方次第で……」

「長いです。あと一分で攻撃しますよ! いいですね!?」

「うん……まあいいか? じゃあ一分後に、“でかい方の矢”を撃ち込むぞ! 皆準備しろ!」


 乗員達の急かす言葉に、あっさりと了承する真澄。一分どころか、十分あっても、あの数の艦隊が、短時間で引き返すのは不可能だ。彼らは実質、敵を生かすつもりなど、毛頭ないのである。






 さてその光景を眺めていた、海岸でのルシア一行とルチル達。望遠鏡であきづきを見ていたルシアは、おもしろおかしく笑っていた。


「はははははははっ、あれがあなたの切り札なの!? 確かに大きくて凄そうな船だけど、あれ一隻で何ができるというのかしら?」


 表情だけでなく、口調すら聖女の演技をやめたルシア。帆も外輪もない大型船の出現に、最初は少々戸惑っていたルシア。

 だがすぐに、まだ自分の方が、圧倒的優位と考え、ルチルを嘲笑う。


 すると反対側の海岸から、多勢の足音が聞こえてきた。今までルチルと共に、ルシアと向かい合っていたブルーノ。

 だがこれに振り向くと、後方から多勢のディークの兵士が、こちらに進んでいるのが見える。


「あれは……まさか町の方にいたディーク人達!?」


 この海岸でルシアの護衛に回っていなかった、残りの兵士達。味方の砲撃から逃れるために、装備を整えた後で、一足早く外ヶ浜町を出ていたディーク兵士達。それが今、ここに到着したようだ。

 この海岸線で、片側にルシア含めた二千の兵。もう片側に、町から来た三千の兵士達。完全にルチル・ブルーノ・ロビンは、敵の大部隊に囲まれた状況である。


 これにブルーノも、まず勝てないだろうと、ますます絶望的な状況に陥る。だがルチルの方は、こんな時になっても、未だに取り乱さず、平静としていた。


「ブルーノさん、結界魔法の準備を……。真澄さんは、この海岸の兵も撃つつもりです。私がここに来たのは、ブルーノさんを助けるためでもあるんです」

「何?」


 小声で側にいるブルーノに、そう呟くルチル。ブルーノが困惑するのを他所に、ルチルは再度、ルシアに声を上げる。


「一隻でもあの程度の数なら、大丈夫ですよ。もう貴方たちは引き返せません。何万人ものあなたの国の民が、ここで犠牲になります。全ては貴方たちの強欲が招いた悲劇のせいで……」

「あの程度の数? あなたは目がよく見えてないのかしら! このアマテラス全土を制圧するために送られた、六十万の兵力を乗せた、三百隻の戦力を! ゼウス大陸でも最強クラスの艦に、国中からかき集めた、屈強の戦士や魔道士を乗せた、我が国の最高戦力よ! それに対し、あなたの希望は、少し大きな船が一隻だけ! それでよく、そんな自信満々な態度ができますわね!」

「そうとも我が国は、このアマテラス制圧に、全力を注いだのだ! 莫大な借金までして揃えたあの艦隊! もしアマテラス制圧の収益がないと、国が潰れるほどに注いだ力が……」


 ザシュッ!


「ぎゃあっ!?」


 戦力比を事細かく説明するルシアに便乗したのか、ルシアの言葉の次に、細かい御国事情まで話し始めた騎士。

 その彼を、ルシアがナイフで、片目を切り裂いた。以前のように召喚魔法で焼き払ったりはしない。先程の召喚の儀で、MPを使い果たしたのかも知れない。


「やかましいわ。何でも喋ればいいというものでもないでしょう?」


 顔から血を流し悶絶する騎士の頭を、まさに女王様という風格で踏みつけるルシア。

 やはりあれだけの戦力を用意するには、金がかかる。十年前は五十隻の艦を送り込んだというから、恐らく最初の艦隊は先鋒で、アマテラス大陸の一部地域を制圧した後に、ルシアが召喚魔法で本隊を呼び寄せる計画だったのであろう。

 十年前の計画の時点で、三百隻以上の艦隊を既に持っていたのかどうかは、定かではない。だが先鋒の艦隊は壊滅し、時期は大幅に遅れたが、最終的にディークの計画は成功している状況の筈であった。


「どうやらディークも、余裕のない状態のようですね……。よほど他国から嫌われたのですか?」

「ふん……今はどうあれ、いずれ世界の全てが、否応なしにディークを讃える時が……」

「殿下! 何かが飛んで……がっ!?」


 ルチルとの会話に飛び込んできた騎士を、ルシアは邪魔と言わんばかりに、振り向きざまにナイフで喉元を掻き切る。

 首から血を吹き出し倒れる騎士と、返り血で法衣を赤く濡らすルシア。だが今の言葉を思い出し、ルシアは海の方に振り向き直した。


「飛んで……!?」


 ドオオオオオオン!


 彼女が艦隊の方角を見たときに、そこに驚くべき光景が広がっていた。それは大艦隊の、前方部分の一定範囲で、途方もない大爆発が起きているのだ。

 その爆発の熱と爆風が元で、ここから見えるだけでも、十隻近い船が、炎上もしくは転覆しているのが見える。


「何が……」


 先程までの余裕の表情はどこにいったのか? 最強の艦隊の一角が、目の前で潰されている現状に、彼女は信じられない様子で凝視していた。



都合により次回更新、大分遅れるかも知れません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ