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第五話 一つ目の怪異

「くそっ……今日は厄日か!? 化け物に襲われたと思ったら、変なものに取り憑かれた……」


 苛立ちながら町を歩く女性。その不機嫌オーラは、道中すれ違う人々をびびらせるほどだ。

 あれから間もなくして、女性は結局勾玉を手渡すことなく、警察署を出た。あれから色々試したが、この勾玉、途中で手から離れることも何度かあった。だがそれを捨てて逃げようとすると、勝手に飛んできた自分の身体に吸い付くのである。

 この奇怪に付きまとう魔具に、女性は大分苛立っている様子であった。


(とりあえず鉄士協会役所へ行くか……前の狩り場でそれなりに稼いだが、もう少し懐を増やすとしよう……)


 女性は街道を進み、町の中心地へと入る。四方から伸びる街道が交わる場所には、大きな広場があり、そこを中心に人工的な池と、大きな麒麟の石像が有り、その石像の前に噴水があった。

 起動中の噴水は、大量の水の空に撒き散らしている。和風な装いだが、何故かこの噴水だけ西洋的だ。

 多くの人々の憩いの場にもなっているらしい広場に入った後、女性は方向を右手に変え、さっき通ったのとは、別の街道に入る。

 そこを通った先には、先程の警察署と似通った建物に辿り着いた。ただしそこは警察署よりも、人の出入りが多いようであった。


 その建物に入る女性。中にはまるで食堂のように、大勢の人々が座れる椅子と机があり、受付室も広めに取られている。

 受付近くの壁には、何やら掲示板らしき板が張られ、そこに無数の張り紙が貼られていた。


「しかしどうなってんのかね最近……狩り場以外に化け物がでるなんてよ……」

「これってその内、私達もそれを狩りに行かなきゃいけないのかしら?」

「さあ? でも今はまだ警察の仕事だろ?」


 この体育館のように広い広間に、大勢の武装した者達が居座っている。ただし警官のように、統一した制服は着ていない。

 女性と同じ、私服と区別がつかない着物を着ている者もいれば、全身に鎧甲を纏った者もいる。何故か宮司や僧侶のような装いの者もいる。

 また受付とは別方面に、小さな売店が有り、そこに少々の食物と、新聞が販売されている。


(そう言えばあの警官、怪物の事は新聞を読めとか言ってたな……)


 その売店で新聞を買い取る女性。和同開珎のような四角い穴が開いた丸い銭を数枚渡し、新聞を手に取る。

 そして広間の机に行き、その新聞をゆっくりと読み始めた。


(化け物が現れたのは四日前か……そういえばここ数日、狩り場に篭もって、新聞も読んでいなかったな。換金した後で、さっさと村を出てしまったからな……)


 新聞に書かれているのは、ここ最近この地区に、正体不明の魔物が現れたという情報。新聞に掲載されている写真カラーには、牛ほどの大きさがある猪に近い姿の魔物が、警官達に突撃している場面が描かれている。

 その猪は、全身に毛が生えておらず、真っ黒な表皮で全身が覆われている。そして目が一つしかない。

 あの時集団で女性を襲った一つ目達と同じように、顔の中心部に、大きな眼球が埋まった目がついている。形は違うが、これだけであの時の一つ目と、同類であることが判る。


 正体不明のこの怪物は、現在暫定的に眼妖(がんよう)と呼称されているらしい。その眼妖がこの津軽王国の各地に、頻繁に出現して、民間に危害を加えているらしいのだ。

 警察の対応が早かったおかげで、死者・行方不明者は出ていないものの、多数の負傷者、器物破損の被害が続出している。


 そのため今は各地で警戒態勢が敷かれ、被害の大きな地区では、集落ごと避難するところもでている。町を往復するときも、常に警官隊の付き添いをするよう勧められている。

 あの馬車の中で、武装した警官が居座っているのは、そういうことだったのかと納得した。


(やれやれ……たった数日で、世の中がこんなに変わるなんてね。早く誰かがどうにかしてくれればな。……それで化け物以外の記事は? 私みたいに変な石に呪われた奴の記事はいるかな?)


 パラパラと新聞をめくる女性。その内に、とある記事に目をつける。それは眼妖とは、恐らく関係ないであろう記事。とある女性の写真が、小さく載った記事である。

 それはこのアマテラス大陸とは、異なる土地から来たという、とある宣教師の少女のことが書かれていた。


(ふむ……自称聖女様か……この記事からすると、もしかしたら今日辺りにこの町に来ているかな?)






 それから間もなくして、掲示板に貼られた紙を一瞥した後で、鉄士協会を出た女性。彼女はこの町の宿に入った。

 和風建築の宿泊施設。だが日本の旅館と比べると、かなり小さい。入り口の看板がなければ、少し大きめの民家と見分けがつきづらい。しかも老朽化が進んでいるようで、外観が少しぼろい。

 どうやら彼女はこの安宿を、この町の拠点にするつもりであるようだ。入り口の引き戸を開けて、中にいる受付台に座っている店員に話しかける。受付は意外と若く、三十歳ぐらいの女性であった。


「宿泊を頼む……」

「判りました。ではこちらに……」


 女性は帳簿に書き記す。当然その文字は、日本人には読めない文体の漢字であった。そして女性は店員について、部屋を案内されていった。


「もしかしてあなた鉄士かしら? 弘後には狩りに来たのかしら? 刀なんて持ってるし、それに随分と鍛えてる感じじゃないか。女侍なんて、やっぱり格好いいわね」


 何だか馴れ馴れしい口調で、女性に問いかける店員。どうもここで働いているのは、彼女一人のようだ。随分若い店長である。


「まあな。本当なら今日も、少し一狩りする気だったんだが……今日はこの町に来る途中で色々あって疲れたんだ。まだ早いが寝ようと思う」

「ははっ、それはご愁傷様だね。ここ最近物騒だし、旅をするのも大変だしね。あなたも結構強そうだけど、狩り場でも外でも、ちゃんと注意しないとね」

「ご忠告感謝する。私はついさっきまで、その物騒になっている事実を知らなかったからな……。かなり耳が痛い」

「えっと……外で何かあったの? うん、ごめんなさい。 ……まあとにかく、無事に町まで来れて良かったじゃない♫ じゃあ真澄(ますみ)さん、今日はごゆるりと……」


 軽く笑いながら立ち去る店主と、さっさと部屋に上がって、障子の床に倒れ込んで寝る女性=真澄。何気今まで、ずっと女性と表記した人物の名前が、初めて判明したときである。


『私の“審判の目”はお見通しよ。あの宿の女店主……罪持ちね。罪状は詐欺罪。この宿を手に入れるために、当時ここの店主だった余命短い老人に取り入って……』

『そうなのか? いや、別にそれはどうでもいいし。それより今は、鰐人の裸を実際見てどう……』


 真澄が階上に上がるときに、共にこの宿に住む(勿論無賃宿泊)ことになった小次郎が、何か言っていたが、源一はそんなこと気にせずに、風呂の時を待っていた。





 その後真澄は、夕方を過ぎて真っ暗になるまで寝込み、少し遅めの夕食をとる。

 夕食は味噌汁という和風な飲み物の他に、豚肉と思われる肉が、丼のご飯の上に大量に積まれた肉丼(普通は豚丼と呼ぶのだろうが、本当に豚肉なのか不明)という、肉が多めの料理であった。


 その後真澄は、就寝前に風呂に入る。ここの風呂は温泉ではなく沸かし湯のようだ。石造りの一人分の小さな湯がある、浴室に他の客と順番に一人で入る。

 ここは意外と繁盛しているようで、他にも客が五人ほどいた。彼女は食事時が遅かったので、風呂の順番は最後になった。

 ちなみにその風呂、薪を燃やしたりはしていないし、煙なども外から出ていない。どのような原理で、風呂水を温めているのか不明だ。


 そして源一が望んでいた、真澄の入浴シーンに入る。ちなみにこの時に、この純人とは異なる異種族の、鰐人の全身像が露わになっていた。

 彼女の身体は、背中などの後ろ部分が爬虫類の鱗で覆われ、逆にお腹などの前部分が純人と同じような肌となっている。

 ただし人肌の部分に、全くといっていいほど体毛は生えていない。背中に生えている鱗は、鰐人という呼称通りに、鰐のようなヒレがついた鱗であった。それが尻尾と尻から、首の辺りまで生えそろっている。

 手足は上腕部から前腕部までの、純人の場合、本来ならば体毛が生えている部分に、手の甲を含めて鱗で覆われている。これが鰐人の着衣を取り払った全身像である。


(これ……またくっついてきたか……)


 もう怒る気力もない真澄。彼女の手には、あの勾玉がまた引っ付いているのだ。今は彼女の、右手の甲についている。

 一時は彼女の身体から離れたが、入浴に向かった時に、また吸着してきたのである。もう無理に引き剥がす気も沸いてこない。


(まあ、この状態なら身体を洗うのに、不都合もないか? 仕方ないこのまま入るか……)


 そう考えて勾玉をくっつけたまま、入浴する真澄。まさか今すぐ目の前に、覗き魔がいるとは、微塵も思っていないようだが……



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